*** 68 盗賊の襲撃 ***
イタイ子がもじもじしながら上目遣いに聞いて来た。
「のうマスターダイチや。
妾はなにをすればよいかのう……」
「イタイ子には避難・移住の勧誘団を組織してもらいたいんだ。
今ほとんどすべての種類の種族が集まって来ているだろうから、その村の村長さんや長老さんたちに声をかけて集まってもらってくれ。
勧誘団は、基本的には同じ種族が当たり、その護衛にはモンスター戦士たちをつければいいだろう」
「マスターダイチよ。
それ以外にも、護衛には大森林の中でも強者と言われる種族をつけた方が良いと思うぞ。
例えば、獅子人族や狼人族、豹人族などじゃな」
「そうか。
そんな強者ですら避難しているっていういい宣伝になるか」
「うむ。
そうして、その勧誘団が多くの者たちを避難させればさせるほど、ますますダンジョンポイントが増えるのじゃな。
よし! 全力を尽くそうぞ!」
「はは、あまり無理するなよ。
その際にシスくんは転移の輪のサポートを、ストレーくんは食料などのサポートを頼む。
もちろん勧誘団のみんなも、夜になったらここダンジョン村に帰って来ればいいだろう」
「忙しくなりそうだね」
「ええ淳さん。
ですから助役さんもあと2人増やしたいですね。
スラさんもいい候補者がいたら紹介をお願いします」
「わかりました。心掛けておきます」
「のう、マスターダイチはどうするのかえ?」
「俺は大森林沿いのヒト族の国に行ってみるよ。
たぶん農業生産が落ち込んでて、戦争が増え始めてるかもしれないから。
だが、なにか問題があったらすぐに連絡してくれ。
それじゃあみんな、よろしく頼んだぞ」
「「「 畏まりました 」」」
「「「 了解 」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようやくヒト族の居住地を視察に行けるねタマちゃん」
「にゃ、取り敢えずダンジョンの村はみんなに任せておけば大丈夫にゃろうね。
にゃにかあればシスくんがすぐに連絡してくれるにゃろうし」
「うん、まあ大森林の種族があれだけ飢饉に苦しんでいたんだから、ヒト族も困ってるかもしれないし。
それにしても、相変わらず歩きにくい道だねぇ。
やっぱり飛んで行こうか」
「うにゃ」
「にゃ?」
「あ、今度は俺にもわかったよ。
この街道の先5キロほどに敵性反応があるね」
「これは獣じゃなさそうにゃね」
「うん、どうやらヒューマノイドみたいだ。5人か」
「盗賊かもしれないにゃあ」
「テミス」
(はい)
「もし盗賊だったとして、どう処罰したらいい?」
(武器を向けて財物を略取するために脅して来たとすればもちろん強盗罪です。
また、『鑑定』により、もし戦場以外での殺人が確認された場合には、強盗殺人罪として、全財産没収の上殺人数に応じて懲役が科されます。
最高刑は終身刑です)
「実際に襲って来たとして、反撃は許されるの?」
(正当防衛は当然認められます)
「過剰防衛になる範囲は?」
(例えば敵が害意を持って襲って来た場合に、反撃して暴力を振るうことは認められます。
もし殺意を持って襲って来た場合には殺しても止むを得ません。
ですがここは既にダンジョン領域になっている場所ですから、殺すこともありえません。
つまり過剰防衛になるケースは、相手を無力化した後にさらに暴力を振るう行為のみとなります)
「俺に対して随分と緩いルールに聞こえるんだけど……」
(そもそも地球に於ける過剰防衛という概念は、立法者や司法者の保身のために作られた概念ですので。
神界のルールでは、他者の人権を脅かそうとしている際には、加害者にも人権は認められないのです)
「了解。ありがとう」
(どういたしまして)
「それじゃあアルスのヒト族とのファーストコンタクトと行きますか」
「うにゃ♪」
(おー、林の中からぞろぞろ出て来たわ。
前に3人、後ろに1人、木の上に弓を持って隠れている奴が1人か……
うっわー、E階梯は全員がマイナスかよー。
最低でマイナス2.5か。
だから盗賊なんかやってるんだな……
はは、E階梯に合わせた適職に就いているわけか……)
「久しぶりに獲物が来やがったぜ」
「おお、領主の旗も持ってねぇな」
「いやー、ノルマがどうなることかと思ってたが、これで少しは稼ぎになりそうだな」
(あーあ、小汚ねぇ連中だわ。いかにもな盗賊だ。
それにしても、リーダー格でもレベルはたったの5かよ。
こんなんでよく盗賊なんてやってられるわ……
それに戦場以外での殺人数は全員が2ケタと……)
「おいガキ、ここは関所だ。
通行税として持ち物全部置いていけ」
「げへへへ、素直に置いていけば痛い目に遭わせるのは勘弁してやるぜ」
「断わる。邪魔だからどけ」
「な、なんだとこの野郎っ!」
「決めた…… お前ぇは嬲り殺しだ」
「どうでもいいがお前ら臭いな。
すぐに俺から離れろ」
「おい…… 今すぐこいつをぶち殺せ。
ああ、売値が落ちるから服は傷つけるな。
頭を狙え」
「「「 へいっ! 」」」
ひゅん。
「ぎゃぁっ!!」
どさっ。
大地が無言で放ったウインドカッターが、木の上に隠れていた男の腕を切り落とした。
最初は弓と腕、続けて男の体が落ちて来る。
「こ、こここ、この野郎っ!」
「な、何をしやがったっ!」
「いいこと教えてやるよ。
誰かに矢を向けたら、それは自分が殺されてもいいよって宣言したことになるんだ。
腕の一本で済んだことを俺に感謝しろ」
「こ、殺せぇぇぇぇっ!」
前3人が木刀を、後ろの1人が石槍を構えた。
リーダー格以外の3人が突っ込んで来る。
(はは、正当防衛成立だな……)
大地は軽く縮地で横に移動したが、盗賊たちは完全に大地を見失った。
(なんかこいつら臭すぎて蹴ったり殴ったりするのもイヤだわ。
まあストーンバレットでいいか……)
ドドドド。
大口径銃弾を上回り、機関砲弾に匹敵する大きさの石礫が、これも機関砲を上回る速度で盗賊たちの手に当たった。
ただの石でも、その速度によっては音速突破の衝撃波も伴って甚大な破壊力を齎す。
木刀や石槍ごと盗賊たちの肘から先が爆散した。
「「「「「 うっぎゃぁぁぁぁ―――っ! 」」」」」
「おいおい、たかが腕が千切れただけじゃないか。
そこまで大袈裟に騒ぐなよ」
「て、手前ぇ何者だ……」
「盗賊野郎に名乗るような名は無いな」
「お、俺たちにこんなことしてタダで済むと思うなよ……」
「ほう、どうなるっていうんだ?」
「俺らは領主に上納金も収めてる正規の盗賊だ……
手前ぇは領主軍に処刑される運命よ」
(正規の盗賊だと…… ってぇことは親玉は領主っていうことか。
あー、世も末だね)
「お前何か勘違いしてないか?」
「な、なんだと!」
「お前たちはこれからみんないなくなるんだよ。
いったい誰が領主に訴え出るんだい?」
「な、ななな……」
(ウインドカッター……)
ひゅん。
ぼと。
「ぎゃぁぁぁぁぁ―――っ!」
「だから腕一本落ちたぐらいで大袈裟に騒ぐなって」
(治癒系光魔法Lv3、死なないように血止めだけしてやろう。
ストレー)
(はいマスター)
(こいつらをいったん収納しておいてくれ)
(はい)
(シス)
(はっ!)
(ダンジョン内に牢屋を作ってくれ。
そうだな、100メートル四方の自然環境ダンジョンの周囲に、2メートル四方の個室を5階建てで1000個ほど。
水場とトイレ付きで。
日に2回ほど個室から出してやって30分ずつの運動と、2回の食事だ。
準備が出来次第、ストレーの中から転移させて収用してくれ)
(畏まりました)
「にゃあダイチ、ここから3キロほど森に入ったところに2人ほどいるにゃ」
「きっとそこがアジトだね。
念のため確認しに行こうか」
「うにゃ」
「おい、誰かいるか」
「だ、誰だお前ぇは!」
「ここは盗賊たちのアジトでいいんだな」
「な、なんだと」
(ストレー、さっきの親玉の腕と武器を出してくれ)
(はい)
「ほら、これがさっき俺を襲って来た奴らの頭の武器と腕だが、見覚えはあるか?」
「こ、この野郎…… 親っさんをよくも……」
「それじゃあここは、領主公認とかいうフザケた盗賊のアジトで確定だな」
「おい、コイツをぶち殺せっ!」
(もう面倒臭いからウインドカッターでいいな……)
ひゅんひゅん。
ぼとぼと。
「「 うっぎゃーっ! 」」
(それじゃあストレー、またこいつらを収納しておいてくれ)
(はい)
(しっかしボロい小屋だね。それにやっぱり臭いし。
なあテミス、この小屋にあるモノの所有権は?)
(盗賊たちはマスターを殺害してその財物を奪おうとしました。
ですから盗賊たちの財物の所有権はマスターに移行しています)
(了解。
よし、『クリーンLv5』
ストレー、この小屋の中の物を収納)
(はい)
(どんなものがあった?)
(粗末な食料が少々と、貨幣が銀貨換算で10枚ほど。
あとは古着が5着ほどでございますね)
(大したものは無いとは思ってたけど酷いな……
やっぱり久しぶりの獲物だって言ってただけのことはあるか。
それにしても、たったの7人でよく盗賊なんかやってるよ……)
大地とタマちゃんがまた20キロほど移動すると。
(今度は8人にゃ)
(またかよ)
「おい、持ち物と有り金全部置いていけ」
「痛い目に遭いたくなかったら……」
盗賊たちが大地に武器を向けた。
「痛い目ってこういうのか?」
ひゅんひゅんひゅんひゅん。
ぼとぼとぼとぼと。
「「「 ぎゃぁぁぁぁ―――っ! 」」」
(アジトはこっちに2キロにゃ♪)
「「 ぎゃぁぁぁぁ―――っ! 」」
「こっちは銀貨20枚相当に衣服8枚か。
ねえタマちゃん。
これって、規模の小さなグループほど街から遠いところに縄張りがあるっていうことだよね」
「うにゃ」
「それにしても酷いわ。
交易で儲けるよりも、手っ取り早く強盗で儲けようっていうことだな。
為政者のレベルの低さが伺えるよ」
「にゃから街道の整備もする気なんかにゃっかったんにゃね」