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*** 67 ドワーフの鉱山街 *** 

 


 ドワーフ族の7つの村、3000人ほどの移住が正式に決まると、大地はドワル村長の案内でドワーフの鉱山街に向かった。



(ほう、まあまあ立派な城壁だ。

 高さ8メートル、直径300メートルぐらいのほぼ円筒形か。

 だが、やはり城門が脆いな。

 この世界の軍隊ではこれを落とすのはそれなりに大変だろうけど、木製の門扉じゃあ火をつけられたらひとたまりもないぞ。


 それにドワーフたちの村とヒト族のクニとの間にあるから、村々の防衛のための砦も兼ねているのか……)



「それじゃあ村長さん、約束通り俺たちが城壁を作ろう。

 あの既存の城壁の外側でいいかな」


「もし出来るものならば、今の城壁から30メートルほど外側にしてもらえんかの。

 街も大分手狭になって来ているのじゃ」


「了解。

 それより大きくなっても構わないかい?」


「そ、それはもちろん構わんが」


「わかった。

 それじゃあシスくんも手伝ってくれるか」


(畏まりました)


「まず城壁の材料にするための土を集めよう。

 城壁予定地の外側の土を集めて、その跡地は空堀にするぞ。

 城壁の範囲は直径500メートルにしよう」


(はい。

 それでは土の掘り起こしはお任せくださいませ)



 幅20メートル、深さ10メートルほどの空堀がみるみる出来上がっていった。



「なあシスくん、こんなに大きな土木作業をして、君の魔力は大丈夫なのか?」


(わたくしは魔力を使っておりませんので何の問題もありません)


「?」


(ここは既にダンジョン領域となっています。

 ダンジョン内の構造を変えるのは、すべてダンジョンそのものが行うために、私には何の負担も無いのです。

 まあその分ダンジョンポイントはかかりますが)


「なるほどな。

 純粋な土木工事ほど楽に出来るわけか」


(はい)


「おー、もう堀が出来たか。

 それじゃあ空堀の底部や壁面を圧縮して強度を上げてくれ」



 空堀が少しずつ大きくなり始めた。

 時折みしみしと音も聞こえている。



「今、強度はどれぐらいだ?」


(ほぼ鋼鉄と同じ強度になったところです)


「それならもういいかな。

 それじゃあさ、さっき書いた設計図通りに城壁も作ろうか」



 空堀を作るために掘られ、積まれていた土や岩石が城壁の形を取り始めた。


 基部の厚さは10メートル、高さ20メートル、そして上部の厚さは15メートル。

 つまり台形を上下逆さにしたような断面形状を持つ城壁である。

 必然的に、その壁面はオーバーハングになっていた。



「それじゃあ城壁全体も圧縮して強度を上げてくれ。

 外側の壁面は滑らかにしてな」


(はい)



 城壁がやはりみしみしと音を立てながら縮み始めた。

 約2割ほどその総体積を減らしている。

 外側は顔が映りそうなほどツルツルになっていた。



「次は城壁の上に防塁を作ってくれ。

 弓兵が身を隠せるようなやつだ。

 最後は壁の内側に階段を作ろう。

 兵が大勢登れるような幅の広い奴がいいな」


(畏まりました)


「よし、こんなもんかな」



 大地が後ろを振り返ると、そこには鉱山街の住人であるドワーフたちが茫然と口を開けて立っていた。




 しばらくして、ようやくドワル村長が口を開いた。


「な、なんとまあ……

 わしらが20年かけて造り上げた城壁よりも何倍も大きなものを、こうまで短時間で作ってしまうとは……」


「はは、ここをダンジョン領域として認識させたからな」


「と、ところで城門は……」


「砦や城の弱点は常に城門なんだよ。

 だから、外部との出入りはあの『転移の輪』を使ってくれ。

 もちろん、ドワーフやダンジョン村の住人以外は輪を潜れないように設定してあるし、旧ドワーフ村にも繋いであるぞ」



「凄まじいお力よの……」


「まるで神じゃの……」



「いや俺は神じゃない。

 まあ、神に任命されたダンジョンマスターではあるが、単なるヒト族だ」



「にゃあダイチ」


「なんだいタマちゃん」


「今のダイチの戦闘力は、全ての種族を含めても圧倒的に最強にゃ。

 肉弾戦でも、魔法能力でも。

 それにあちしもいるから、たとえ相手が大陸最強の国でも余裕で勝てるにゃろうね」


「うん」


「それに加えて、ダンジョン内ではモンスターたち戦闘部隊もいるし、こうしてダンジョン魔法を使えるシスくんもいるにゃ。

 ストレーくんの収納力は無限にゃし、判断に困ったらテミスちゃんもいるし」


「そうだね」


「しかも、神さまの加護のおかげで実質不死状態にゃし、ストレー君の中にゃら不老不死にゃし、アルスでの寿命は10倍にゃし。

 つまり大地はダンジョン内に限って言えば、ほとんど神さまと同じ力を持っているということにゃ」


「はは、タマちゃんの言う通りダンジョン内限定だけどね。

 でも、もし俺が勝手に無茶をやったら神界も黙っていないだろうけど」


「そうにゃ。

 でももう少しだけ、自分が神さまと同等の権能を与えられた『神の使徒』にゃっていうふうに考えてもいいんにゃないかにゃあ」


「そうか。

 でもそんな自覚を持つにはまだ時間がかかりそうだよ。

 なんてったって、俺まだ未成年だし」



「だ、ダイチ殿……

 そ、その『みせいねん』というのは……」


「ああドワル村長。

 俺の母国では生まれてから20年経たないと成年と見做されないんだよ。

 でも俺まだ15歳だから、未成年なんだ」



「「「「 ……(絶句)…… 」」」」



「だ、ダイチ殿の母国とは、恐ろしい国なのですの……」


「うんにゃ村長さん。

 地球でもこのダイチは例外中の例外にゃ。

 惑星最高峰の素質に加えて、トンデモな努力でここまで進化して来たんにゃから」


「そ、そうでございましたか……」






 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ダンジョン: ふー、ダンジョン使いの荒いマスターだ……


 だがまあ、500年ぶりにダンジョンがここまでの賑わいを取り戻したのだから、良しとするかの……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 数日後の幹部会にて。


「さて、ドワーフ族の移住も順調に進み始めたようだし、これからは大森林外郭の多種族の村々の救援活動を本格化させよう。


 まずはシスくん、現在把握出来ている大森林周辺の村の数と人口はどれぐらいだ?」



「外部グリッドダンジョンにて確認出来た村の数は約2万、人口はおよそ300万でございます」


「そうか、それでも把握漏れはあるだろうから、移住に同意した村々へのヒアリングをして近隣の村をチェックすれば、その倍はいるかもしれないな」


「はい」


「それでは、勧誘部隊を組織して、まずは大森林北部と南部と西部を優先して回らせようか。

 東部は肉食獣の移動が遅れるだろうから、少々後回しでもいいだろう。

 とすると、少なく見積もって1万の村に150万人か。

 多く見積もってその倍だな。

 イタイ子と淳さんとスラさんは、シスくんと相談しながら取り敢えずその受け入れ計画を策定してください」


「心得た……」

「了解しました」


「でもそこまで人数が多いと、ひとつの街だと混雑して大変だね。

 15個ぐらいの街を作って分散させようか。

 外部ダンジョンにするかい、それとも自然環境付きの内部異次元ダンジョンにするかな?」



「食事処や住居なんかは内部ダンジョンにして、畑なんかは外部ダンジョンにしたらどうですかね。

 それに、マナの噴出が復活して森が元通りになったら、元の村に帰りたがる種族も多いかもしれませんから、計画にはその辺りも含めて考えないと」


「そうだね、移住者さんたちが落ち着いたら、ヒアリングもしてみよう。

 要は一時避難か永住かっていうことか」


「それでは総責任者は淳さんで、スラさんはそのサポートということでお願いします」


(なんといっても淳さんの適職は『内政』だからな。

 俺なんかよりずっと上手くやるだろう)


「わかった」

「わかりました」



「あとは避難して来た村のひとたちのために、炊き出し部隊が必要だな。

 モン村の婦人部隊を中心に、既に避難して来ている村のご婦人たちにも応援を頼もう。

 良子さん、お願い出来ますか」


「わかりました。お任せください」



「大地くん、それなら何件か店を出してもいいかな。

 いつもみんな同じ料理ばかりじゃなくって、種族による好みもあるだろうから、簡単なフードコートみたいなものを作って、好きな食べ物を選べるようにしてやりたいんだ」


「どんな店を考えているんですか?」


「穀物粥の店は定番として、それ以外にはまずラーメン屋かな。

 それからスパゲティ屋とかお好み焼き屋とか。

 でもハンバーガー屋は難しいよね。

 この村では肉はあんまり出さない方針なんだろ」


「ええ、畜産をやっていないうちから肉を出すと、周辺の動物があっという間に絶滅してしまうでしょうからね。

 当面、タンパク質は植物性のものを取って貰うということで」


「それなら大地さん、リザードマンたちから要望が上がってるんですけど、川での魚取りを許可してやって頂けませんでしょうか。

 まあ全員に食べさせるのは無理でしょうけど、少しずつ順番に動物性タンパクも摂取してもらうということで」


「うーん、あっという間に川魚が絶滅しちゃいませんかね」


「やっぱり魚の養殖を先に始めますか……」



「あ……

 シスくん、外部ダンジョンは海までって言ってたよな。

 それって海底もダンジョンに出来るのかな」


「はい、可能です」


「それじゃあ今、南側の端の外部ダンジョンから海の底に5キロばかり海ダンジョンを作ってくれるか?」


「はい、完了致しました」


「そ、それでさ。

 その海ダンジョンを通った魚って捕獲出来るか?」


「もちろん可能です」


「それじゃあさ、1メートルほどの魚を1匹ここに転移させてくれ」


「はい」



 途端にその場に大きな魚が現れ、ビチビチと跳ね始めた。


(あ、これって……

 よし、『鑑定』……)


<タイもどき。地球のタイに酷似。推定年齢10歳。食用可>



「お-、やっぱりタイだこれ」


「すごいね、ダンジョンに居ながら5000キロ離れた海の魚を獲れるのか……」


「ストレー」


「はい」


「このタイを完全時間停止収納庫に入れて置いてくれ。

 あんまり苦しませるのも可哀そうだからな」


「畏まりました」


「良子さん、あんなに大きな魚って捌けますか?」


「そうですね、大柄な種族の奥さんたちに小さな魚で練習して貰ってから、捌いていくことにしましょうか」


「それじゃあシスくん、良子さんと相談していろいろな大きさの包丁を作っておいてくれ」


「畏まりました」



「ところでシスくん、その付近の海の水深はどのぐらいなんだ?」


「もちろん海岸近くは浅いのですが、少し沖に出ると200メートルほどでございますね。

 その深度の海底がかなり続いているようです」


「そうか、やっぱり大陸棚がけっこう広がってるんだ。

 それじゃあそこを半径5キロほどの領域でダンジョンにしてくれ。

 良子さんや淳さんから要望があったら、また魚を転移させるように」


「あの……

 今ダンジョン領域を広げてみたのですが、体長10メートルを超えるような生物もいるようです」


「なんと……

 海の生き物はデカいっていうけど、そんなやつがいるのか。

 どんなやつかわかるか?」


「地球で得たデータによりますと、タコやイカや亀に似た生物がいます。

 あ、それ以外にも『クロノサウルス』に似た生物もいますね」


「うえ…… 白亜紀前期の恐竜かよ。

 それも海のT・レックスと言われるほど獰猛な奴か……」


「地球のクロノサウルスは体長10メートルほどだったそうですが、この固体の体長は優に20メートルを超えています」


「それはヤバすぎだな。

 舟なんかで漁に出たら丸呑みされちゃうか……」


「これがこの大陸に海沿いの村が少ない理由なのかもしれません。

 あっ!」


「どうした?」


「クロノサウルスが陸上に上がって、鰭で移動しながら動物を襲っています!」


「そ、それはさらにヤバいな……

 海沿いに拠点を作るのは当面見合わせよう」


「はい」


「あ、っていうことは、海水もここに転移させられるのか?」


「もちろん可能です」


「タマちゃん、『抽出』や『分離』の魔法って使える?」


「使えるにゃ」


「それじゃあ、海水から塩化マグネシウムだけを取り出すことって出来るかな。

 要はにがり成分を取り除くっていうことなんだけど」


「やったことはにゃいけど、たぶん出来るにゃ」


「そしたらさ、その魔法を妖精族に教えてあげてよ。

 それでシスくんに海水を転移させて貰って、天然塩を作ろうか」


「いい考えだにゃあ。

 塩だけはアルスで自給出来るようになるんにゃね♪

 それにゃら『塩抽出の魔道具』も作るにゃぁ」


「よろしくね。

 ということでスラさん、モン村フードコートには、魚料理の店も作ってやっていただけますか。

 魚好きの種族も多いかもしれませんから。

 それに海の魚でしたらそう簡単に絶滅はしないでしょうし」


「はい」





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