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*** 64 試される大地 *** 

 


 また或る獅子人族の村では……


「委細承知した。

 村の周りの獲物が激減して飢えていた我らには願ってもない話」


「それじゃあ避難して来てくれるのかい?」


「その前にひとつだけお願いがあり申す」


「なにかな?」


「その村の最強強者と我を戦わせて頂きたい」


(出たよ脳筋族!)



「我らは常に強者に従う。

 貴殿の村のしきたりを守らせるためにも、是非我を打倒して欲しいのだ」


「わかった。

 それでは俺が相手をしよう」


「貴殿自らがか……」


「ああ、俺は一応村長みたいな者なんでな」


「了解した。

 むろんこれは試合なので、命までは取らないルールにしよう」


「いや村長、この場にはある魔法をかけている。

 死んでもすぐに生き返るから、『試合』ではなく『死合』にしよう」


「なんと…… そのような魔法まで使えるのか……」


「それじゃあ始めようか」




 村人たちが見守る中、大地と村長は10メートルほど離れて対峙した。


「始め」の合図がかかっても、村長は動かなかった。


(はは、様子見をしているのか、それとも弱者から先に手を出せということなのか……)


「それじゃあ行くぞ」


「うむ!」



『縮地』で一気に駆け抜けた大地は、獅子人族の族長の水月に本気の正拳をぶち込んだ。


「が、がはぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!」


 勢い余った大地の拳は村長の腹を破って背中まで貫通している。


 それでも村長は、最後の力を振り絞って両手の爪で大地を引き裂こうとした。


「ふんっ!」


 己の身に『身体強化』を施している大地は、腕を族長の腹に突き刺したまま持ち上げ、そのまま激しく地面に叩きつけた。

 頭部が潰れ脳漿を撒き散らした村長の体は痙攣している。


 村人たちは大口を開けたまま硬直していた。



 間もなく村長の体は光に包まれ、その場にリポップした。




「さすがよの……

 思った通り貴殿は想像を絶する強者であったわ……」


(ふうん、この村長、負けを覚悟で挑んで来てたか。

 これだけ強そうなら、相手の強さが分からないわけないもんな。

 そうして村人たち全員の前で負けることで、移住を円滑にしようと思ったのか。

 さすがは一村を束ねる村長だわ……)



「獅子人族よ!」


「「「「 おう! 」」」」


「我らはこの絶対強者に従うものとする!

 異論のある者は前に出よ!」


 誰も動かなかった。


「それでは強者殿、我ら獅子人族をよろしくお頼み申す」


「ああ、それじゃあまずはメシでも喰おうか。

 それから他の獅子人族の村も紹介してくれ。



(ほう、元が肉食獣から進化した種族でも、肉ばっかり喰うわけじゃないんだな。

 ヒューマノイド部分もかなり多いっていうことか。


 あー子供たちがみゃーみゃー言いながら旨そうにネコ缶を食べてるよ。

 さすがはネコ科だわ……

 それにしても、やっぱり子供はどんな種族でも可愛いわ……)




 狼人族や獅子人族をダンジョン村に連れていったときには、兎人族や鼠人族が恐々と見ていた。


 だが、どうやらこうした強い種族ほど群れの長の命令は絶対らしい。


 それでも大地は最初のオリエンテーションで皆に伝えた。


「あー、このダンジョン村では村人同志での闘争を禁じているのはもちろん、相手を脅して従わせようとする行為も禁止している。

 これを破った場合には相応の罰が下されるだろう」



 そう、大地はあの日本のDQN族を震撼させた魔道具を、ダンジョン村にも設置していたのである。


 長の命に従う種族ではあっても、子供や少年たちは時として考えなしに動くこともある。


 だがそのたびにあの恐怖の魔法が発動してしまうのだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!」


 じょびじょばばばばばばば……


 プリプリプリプリ……



 時折叫び声とともに村に悪臭が漂うこともあったが、それも数週間で収まっていったのである。




 こうして大地は大森林の周囲を回り、多くの村の村人をダンジョンに避難させて行った。



 意外なことに、これを最も喜んだのはイタイ子だった。



「ふははははは!

 今日もダンジョンへの挑戦者が300人もおったわ!

 しかもダンジョン内で暮らしておる者が3000名!

 併せて収入は5000ポイント超え!

 笑いが止まらんっ!」


 守銭奴ならぬ守ポイント奴になりつつあるイタイ子だった……




 だが、大地たちが説得しても避難を断って来た種族もいた。

 熊人族と鹿人族を筆頭に、計10の種族である。


「確かに我らは食物が激減して苦しんでおる。

 そうした中でのお誘いはありがたいのだが、もう少し自分たちで努力してみたいと思うのだ」


「わかった。

 いちおうこの村の声は俺たちに届くようにしておくから、もしどうしてもというときには大きな声で助けを呼んでくれ」


「ご配慮痛み入る」




 だが、こうした村々も、数週間から数か月で次々に救援を求めて来た。


「た、助けてくれっ!

 む、村がフォレスト・ティックとフレアの大群に襲われて……」



(フレアもか……)


「了解した。今から救援に向かう」


「あ、ありがとう……」




 熊人族と鹿人族の村からティックやフレアを取り除いて村人たちを治療した大地は、すぐに近隣の村々にも救援に向かった。


 そうして、馬人族、牛人族、猿人族、猪人族、豹人族、狐人族、羊人族、山羊人族もダンジョンに避難させることになったのである。


 飢えていた上にこうした害虫に襲われていた村々は、深く大地に感謝した。



 その中でも特に感謝の気持ちが強かったのが狐人族だった。

 彼らは特に毛並みに気を使う種族だったのである。

 因みに、毛並みと言っても日本で使われているような『生まれ』や『育ち』という意味ではない。

 実際の自分たちの体毛、特にしっぽの毛の艶だった。


 それがティックやフレアに集られた痒みに耐えかねて掻き毟ったものだから、皆ボロボロになってしまっていたのである。

 特に年頃の娘さんなどは、自分の変わり果てたしっぽを見ながら毎日泣いていたそうだ。



 だが、ストレーくんがティックもフレアも全て収納し、大地がレベル8の治癒系光魔法を大盤振る舞いすると、以前よりも遥かに美しい毛がみるみる生えて来たのである。


 おかげで大地は、うれし涙を流す娘さんたちに抱き着かれ、集られてしまったのだ。

 もちろん彼女たちも、他の多くの種族とおなじく胸部は丸出しである。

 しかも、顔は皆かなり可愛い。


 大地は危うく前屈みになるところであった……



(こ、こここ、これはなんという試練なのだ……

 同年代に見えるキツネ耳の美少女たちが、おっぱい剥き出して抱き着いてくるとは!


 ま、まるで俺の忍耐力と精神力が試されているかのようだ!


 こ、これがほんとの『試される大地』か!)



(ダイチ……

 なんかまたおバカなこと考えてるにゃ……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ところでタマちゃん」


「にゃ?」


「こうしてティックやフレアに集られてるひとたちがいるっていうことは、各種の寄生虫症のひともいるかもしれないよね。

 薪は貴重品だから、川魚をよく焼かないで食べたりして感染しているかも」


「そうだにゃあ」


「それって、治癒系光魔法やクリーンの魔法で治せるのかな」


「コーノスケがいろいろ試してたんにゃけど、その両方の魔法を同時にレベル8以上でかけると治ってたにゃよ」


「そうか、さすがはじいちゃんだ。

 そしたらさ、『治癒系光魔法Lv8』と『クリーンLv8』の複合魔道具を妖精族に作ってもらおうか。

 それで、今ダンジョン村に避難して来ているひとたち全員と、これから避難して来るひとたちには、その魔道具を置いた治療室で魔法を浴びてもらおうよ」


「そのレベルの魔法を使う魔道具にゃと、中型魔石でも1週間ぐらいしかもたないかもにゃ」


「それじゃあイタイ子に言って空の中型魔石を1000個ぐらい作ってもらおうか。

 俺が時間停止収納庫に籠って魔力を入れればいいよね。

 魔法の鍛錬にもなるし、ちょうどいいよ」


「にゃるほど、いーいアイデアだにゃあ」


「この移住・避難の勧誘が一段落して、みんなに任せられるようになったら、さっそく準備しよう」


「にゃ」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 こうして隣り合った村々を紹介して貰いながら廻っていた大地は、或る日とうとうドワーフ族の村に辿り着いたのである。



(お、この村の周りにはなんか薬品が撒いてあるな。

 よし、『分析アナライズ


 なるほど、毒草を茹でて抽出した毒を撒いて、ティックやフレアが入って来ないようにしているのか。

 さすがはドワーフだな。




 大地はドワーフの族長や長老たちと会見を行った。



「うむ、お主の言いたいことはよくわかった。

 確かに森の恵みが激減し、農作物も大不作に陥った今、我らは危機を迎えている」


(やっぱりさすがはドワーフだ。

 農業もやってるんだな……)



「そうじゃ、もはや我らドワーフの尊厳の危機と言ってよい」


「それはどういう意味なんだい?」


「酒じゃ……」


「酒?」


「畑の収穫すら半分以下になった我らには、もはや酒を造るだけの穀物が無くなってしもうた……」


「さすがに女衆や子供たちに食べさせる穀物まで酒にしてしまうわけにはいかん。

 じゃが、酒を飲めないドワーフなぞ、生きている価値は無い……」


「お前さんの村では酒は造っておるのかの?」



「今は作ってはいないが、作る技術は持っているし、少しなら在庫もある」


「試しにその酒を少し飲ませて貰えまいか」


「わかった。

 すまんが3日ほど日をもらえるか。

 3日後にまたここに持って来よう」


「うむ、楽しみにしておる」


「あー、ところであんたたちが飲んでる酒を少し飲ませて貰えるか。

 俺の持っている酒と比べてみたいんだ。

 なるべく強い酒を頼む」


「それではこれが最も強い酒じゃ。

 もう小樽ひとつしか残っておらんが……」


「そんなには要らないぞ。

 試し呑みだからカップに半分で充分だ」



 もちろん大地は『状態異常耐性』持ちなので酒に酔うことはない。



(『分析アナライズ』……

 ほう、これはいわゆるエールっていうやつだな……

 プルーフはたったの6か……

 まあ、この世界の醸造技術だとこんなもんなんだろう)


(註:プルーフ=アルコール濃度のこと。

 濃度1%につきプルーフは2。つまりプルーフ6のエールはアルコール濃度3%の酒だということになる)



 ドワーフの村を辞去した大地は、すぐにダンジョン村に戻って淳に来て貰った。


「淳さん、お忙しいところ恐縮なんですけど、地球に戻って酒を買って来て頂けませんでしょうか。

 今ドワーフ族に避難を勧めているんですけど、どうやら酒が必要なんですよ」


「了解、どんな酒がいいかな」


「そうですね、500ミリリットル以上で、ひと瓶1000円以下で、ついでにプルーフは75以上のものがいいですね。

 あとショットグラスも」


「それなら角瓶かバーボンだね。

 何本ぐらい要るかな」


「取敢えず200本ほど。

 あとで大量に買ってダンジョン村でも振舞おうとも考えていますんで、静田さんに言って流通経路も確保しておいていただけるとありがたいんですが」


「静田物産の子会社の静田食品に頼めばいくらでも確保してくれると思うよ」


「それじゃあ急ぎませんので、追加で両方1万リットル分ほどの注文もお願いします」


「了解」





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