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*** 62 報奨 *** 

 


 大地たちとハムス村長は隣の鼠人族の村を訪れた。


(うおおおおおっ!

 こ、こっちはロボロフスキーハムスターかっ!

 ほぼ3頭身の体形が、なんて可愛らしいんだ!)



 さらには。


(こ、こっちの村はキャンベルハムスターか!

 うーんうーん、この種族たちを見たら、淳さんやスラさんも喜んでくれるだろうなぁ……)




 訪れた2つの村も、相当に飢えに苦しんでいたようだ。

 そうして転移の輪越にラビタ村での食事風景を見て、すぐに避難に同意してくれたのである。



 また、やはり村長たちを伴って訪れた鶏人族ワーチキンの村も同様だった。



(おおおお……

 に、鶏が直立2足歩行してる……

 ん? そ、そうか、鶏は元々2足歩行だったか。

 しまったしまった。


 あ、でも羽の内側から小さな手が出てるんだ……

 そりゃまあ手が無いと不便だろうしな。


 この鶏人族たちの平均E階梯は2.7かよ。

 ん?

 っていうことはだ。

 ひょっとして、弱い種族ほどE階梯が高いのかも。


 それにしても、こういう種族が大森林の周りにたくさんいるということはだ。

 それでも中央大陸のヒューマノイドの平均E階梯が0.3しかないのは、ヒト族のE階梯はよっぽど低いんだろうなぁ。

 マイナスの鬼畜野郎ばっかりだっていうことか……


 あ、あそこやっぱり子供たちが固まって寝てる。

 あー、子供たちの毛はやっぱり黄色なんだー。

 なんかぴよぴよ言ってて可愛いわー)



 やはり飢えていた鶏人族も、ラビタ村の光景を見てすぐに避難に同意した。


 こうして大地は、8つの村から総勢約900人を受け入れることになったのである。




(なあイタイ子、聞こえるか?)


(なんじゃマスター・ダイチか。聞こえているとも)


(ダンジョン村の様子はどうなってる?)


(今女衆たちが総出で穀物粥を作っておるところじゃ。

 なんぞダンジョン村の住民がたいそう増えるということらしいからの)


(とりあえず900人近く増えるだろうね)


(その連中がここに来るということは、日々のダンジョンポイント収入が大幅に増えるということなのかえ?)


(そうだ。体が小さい分、少し少ないかもしれないけど、ポイント収入は確実に増えるだろう)


(それはなによりじゃの♪)



 イタイ子、ダンジョンポイントが無かったころのトラウマが相当に酷いんだな……



(ということは、食べ物ももっと用意せねばならんということじゃの)


(そうだな、まるで食べ物をダンジョンポイントと交換しているようなもんだ。

 それに明日からは西側の集落も回るつもりだから、村人はもっともっと増えるだろうね)


(それではジュンたちにもっと地球で食物を買って来て貰わねばのう)


(でも、こっちの兎人族にも鼠人族にも鶏人族にも畑の仕事を手伝ってもらうから、半年も経てば彼らの分ぐらいは自給出来るようになるだろうね)


(はは、さすればダンジョンポイントもまた勝手にどんどん貯まっていくということか。

 それでは頑張るとするかの)




(淳さん、聞こえますか)


(ああ大地くん、良く聞こえるよ)


(しばらくしたら、身長140センチほどの兎人族ワーラビット180人と、身長80センチほどの鼠人族ワーラットを400人ほど、それから鶏人族ワーチキンも300人ばかり連れて帰りますんで、受け入れ準備をお願い出来ますか)


(了解。

 ダンジョン空間は、シスくんが大きな自然環境型のやつを5つ用意してくれたよ)


(それじゃあ、そのうちの1つに兎人族を割り当てましょうか。

 とりあえず大きな家を2つ用意してやってください。

 鼠人族も空間はひとつでいいでしょう。家は3つで。

 鶏人族ワーチキンの村も同様にお願いします。

 どれにも広い炊事場を作ってやってください)


(寝具はいつもの葉っぱ入りマットレスと地球産毛布でいいかな)


(ええ、受け入れ環境は淳さんとスラさんにお任せしたいと思いますんで、足りないものがあったら地球に戻って静田さんに注文して来て頂けますか。

 あと例の配合飼料や調理器具なんかも追加で大量に)


(わかった。任せて)




 それからしばらくして。


 ダンジョン前広場に設置された転移の輪から、兎人族と鼠人族と鶏人族が現れた。

 中でもその子供たちを見た淳とスラくんは、そのあまりの可愛らしさにやはりフリーズしている。

 代わって彼らの世話をしたのはやはりモン村婦人会の面々だった。



 そうして、避難民たちは婦人会総出で作った穀物粥を旨い旨いと食べ、ビタミン補給のために果物ジュースを大量に飲んだのである。


 鼠人族の子供たちはもちろん、大人たちも頬袋をいっぱいに膨らませている。

 食事にありつけたときには出来るだけ溜めておくという習性なのだろう。

 おかげで全員の顔が横に広がって、まるで笑っているかのようだった……



 本当に久しぶりにお腹いっぱいになった子供たちは、すぐにその場で寝入ってしまったが、オーク族やミノタウロス族などの大柄な種族の御婦人方がその子たちをぽいぽいと籠に入れて行く。

 そうしてその籠を軽々と持って、新しい兎人村と鼠人村と鶏人村に運んでやっていた。


 可愛らしい子供たちを見る御婦人方の顔もほころんでいる。

 やはり彼女たちも、つい半年前までは飢えに苦しんでいただけあって、避難民の辛さには十分な理解があったのだ。


 そうして……

 すべてのモンスターや避難民が、大地への感謝の気持ちを新たにしていたのである……




「にゃあダイチ」


「なあにタマちゃん」


「それにしてもにゃ。

 肉食獣やティックに襲われていた兎人族はともかくとして、鼠人族や鶏人族はいくら食べもにょに困ってたとしても、なんでこんなにすぐに避難に応じたのかにゃ」


「ああそうか、タマちゃんはずっと南大陸で働いてたからか。

 あそこはオアシスに出来た村がほとんどだから、避難とか移住とか出来ないもんね」


「にゃ」


「でも、ここは水場が豊富だろ。

 だからこの辺りの種族って、村の周りの森の恵みが減ると村ごと移住するんだろうね。

 そうだな、例えば川に沿って2年に1回とか。

 それで家なんかも木の枝と草で出来てて分解して運びやすいようになっているんだよ」


「にゃるほど」


「農業をしてなくて採集に頼ってる種族にとっては、それが当たり前らしいよ」


「だから村ごと引越しするのにもそんなに抵抗がにゃいんだにゃ」


「そういうこと。

 いつも食べ物が豊富で安全な場所を探しているんだろうね」





 その日の夜。


 幹部一同を集めた大地は会合を開いていた。


「皆、今日はお疲れさんだったな。

 でもおかげで兎人族も鼠人族も鶏人族もみんな笑顔になっていたよ」


「それはなによりじゃの」


「特にシスくんと収納くんは大活躍だった。

 野獣たちの撃退も避難民の受け入れも、2人がいなかったらもっともっと苦労していたことだろう」


「そ、そのようなこと……

 すべてはダイチさまのご指示通りにしたまでのことでございます」


(シスさまにおなじでございます。

 単なる『収納』でありますわたくしがお役に立てて、これに勝る喜びはございません)


「それでな、これからも頼りにすると思うんで、2人にはなにか褒美を与えてやりたいんだ。

 なにがいいかな」


「そ、そそそ、そんな……

 わたくしは既にこの分位体を頂戴しておりますので、それで十分でございます」


「でもシスくん、たとえば君のバージョンアップセットとかは無いのかい?」


「じ、実はございます……」


「ほう、どんなものなんだ?」


「メモリもCPUも全ての機能が拡張されて、大幅なマルチタスクが可能になるものなのですが……」


「おお、それいいじゃないか。

 それ、金で買えるのか、それともダンジョンポイントで買うのか?」


「だ、ダンジョンポイントで贖えるものなのですが……

 な、なにしろ10万ポイントもする高級品でございまして……」


「なんだ10万か。

 じゃあ俺のカードから払って、バージョンアップしておいてくれ」


「!!!」


「はは、まあ仕事の褒美が更なる仕事を任せるためのバージョンアップっていうのもなんだけどな。

 そうそう、ついでにボーナスとして君に10万ポイントをあげよう。

 好きなものを買っていいぞ」


「!!!!!」


「それから収納くん。

 そういえば君の分位体って作れないのかな」


(か、可能かと言われれば可能なのでございますが……

 な、なにしろやはり10万ポイントもするものでございまして……)


「よし、それ買おう。

 ついでに君にも追加でボーナス10万ポイントを渡すから、好きなものを買っていいぞ」


(あ、あああ、ありがとうございます……

 うううううっ……)


「はは、泣くな泣くな。

 君はそれだけの働きをしてるんだ。


 ところでイタイ子はなんか欲しいものはあるのか?

 これからダンジョン運営も大変になるだろうから今のうちに言っておいてくれ」



「妾は今のままで充分じゃ……

 ダンジョンポイントも食料も十分にあり、もはや誰も飢えることはないであろう……」


「そうなのか?

 たとえば家具とか服とか欲しくないか?」


「そ、そそそ、そうじゃな……

 も、もう少しだけ柔らかいベッドと、着替えが少々あれば……」


「はは、了解。

 淳さん、地球でベッドと服を買って来てやっていただけますか」


「わかった、母さんに頼んでおこう」


「あ、あのな……

 前から思っていたのじゃが……

 わ、妾も初代様の出身地である地球にその……」


「そうか、イタイ子は地球に行ってみたかったのか。

 ジャッジくん」


(はい)


「イタイ子やシスくんや収納くんの分位体を地球に連れて行っても構わないかな」


(みなさん分位体であれば問題ございません)


「じゃあそうしよう。

 分位体の調達が終わったらみんなで地球ツアーだ。

 あ、そういえばジャッジくんの分位体って作れるのか?」


(は、はい、可能であります……)


「それじゃあ君にも分位体とボーナス10万ポイントのプレゼントだ」


(あ、あああ、ありがとうございます……)



「淳さんとスラさんにもなにか報奨をと思うんですけど、ご希望はありますか?」



 淳が微笑んだ。


「僕の夢は異世界で暮らすことだったんだよ。

 絶対に叶うことはないって諦めてた夢だけど。

 でも大地くんのおかげでその夢が叶ったんだ。

 魔法まで使えるようになったしね。

 これ以上の報奨は考えられないな」


「わたしもまったくおなじでございますよ。

 これほどまでに楽しい毎日が送れるのもすべて大地さんのおかげです」


「でもなにか希望があったら言ってくださいね」



(まあこのひとたち、かたや県内最大の総合病院の跡取り息子で、かたやタイ王国の王族だもんな。

 金には困ってないだろう……)





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