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*** 61 魅惑の鼠人族 *** 

 


「あちらが鼠人族の村でございます」



(な、なんだと!

 鼠人族ワーラットって言うからにはネズミを想像してたんだが……

 こ、これ同じ齧歯目でもハムスターじゃないかっ!

 そ、それもあの背中の黒い縦縞はジャンガリアンハムスターっ!


 お、俺の飼いたかったペット堂々第1位のジャンガリアン!


 そうなんだよなあ。

 じいちゃんが休みのたびに旅行に連れてってくれたから、ペットって飼えなかったんだよなぁ……


 い、いかんいかん!

 彼らはペットじゃあなくってヒューマノイドなんだからな!

 しかし、こりゃもうワーラットっていうよりワーハムスターだよなぁ……)



「おーい、どなたか村長さんを呼んできてくれないか」


「おお、これはこれは兎人族のラビタ村長さんにラビル村長さん。

 少々お待ち下され。

 今村長を呼んできます」



(うううううっ……

 は、ハムスターが直立二足歩行してる……

 身長も80センチぐらいで小っちゃくて可愛い……

 し、しかも見た目はハムスター8割でヒト2割……

 少し手足が長くって顔のマズルも小さいけど、まぎれもなくハムスターだ!)



「痛っ!

 た、タマちゃん頭の上で爪立てないでよ!

 ど、どうしたの。

 また肉食獣でも近づいて来てるの?」


「うううううっ……

 ほ、本能が…… あちしの猫族としての本能が……」


「あっ!

 鼠見て本能が疼いちゃったのか!

 だ、ダメだよ!

 絶対に飛び掛かったりしたらダメだからね!」


「うに゛ゃぁぁぁぁ―――っ……」





「おお、これはこれはラビタ村長さんにラビル村長さん。

 ようこそおいで下さった。

 こんなところではなんですので、どうぞわしの家においでください」


「ハムス村長さん、お久しぶりですじゃ」


(は、ハムス村長だって……

 や、やっぱりハムスターなんだ……


 ベージュと茶色の毛並み、下膨れの体形、やや短い手足、くっきりとした背中の黒い線、そして円らな黒い瞳……


 指もあるし、顔は少しヒトっぽいけどやっぱり……



 お、なんか木の枝と草で作った小さな家が並んでる。

 うわっ!

 あ、あそこ、草で編んだ籠の中で子供たちが固まって寝てる!


 うっわー、子供は身長30センチぐらいでよりハムスターに近い姿なんだ……

 背中の縦縞もまだ薄いし……

 な、ななな、なんてラブリー&キュートなんだ……


 あ、子供たちの中からひとり出て来た。

 目をくしくししながらとことこ歩いてる……)



「お母ちゃん、お腹空いた……」


「も、もう少し待っててね。

 今お父ちゃんたちが草の実を拾いに行ってるから……」


「はーい」



(ああ、母親が涙目になってるよ……

 やっぱり相当に食べ物に困っているんだろうな……)





「せっかく来て頂いたのに誠に申し訳ないんじゃが……

 もう白湯しかお出しするものがございませんのじゃ」


「いえいえどうかおかまいなく」


「ところでそちらのヒト族のお方は?

 ま、まさかまた追加で税を払えと言うのかね!」


「いやいや。

 こちらはダイチさまと仰っての。

 わしらの村の赤子たちをお助け下さった上に、襲ってきたウルフを追い払って下さったのじゃ。

 おまけに森の奥から現れたグリズリーまで退治してくださったし」


「な、なんと!

 そ、そのように恐ろしい獣たちが……」


「うちの村は少し前からフォレスト・ティックが大発生していましての。

 ダイチさまはそれを追い払ってくださったばかりか、ティックに喰われてボロボロになっていた肌も治してくださったのじゃ」


「げっ! フレスト・ティックですと!」


「いや、ハムス村長、安心してくれ。

 この辺り一帯のティックは今取り除いているところだ。

 もっとも、10日もすればあいつらもまた来るだろうけどな」


「そうでしたか……

 ということは遠からずこの村も……」


「まあ森の奥も食料が足りなくなって、獣たちが森の外に出て来ようとしているからな。

 フレスト・ティックもそれを追って外に出ようとしているんだろう」


「…………」



「ダイチさまはそうして村を助けてくださっただけでなく、たいへんな量の食料まで分けてくださって、今うちの村の皆が食事をさせていただいているところなのじゃよ」


「う、羨ましいお話ですじゃ……」



「ハムス村長。

 やはりこの辺りでも森の恵みが少なくなって来ているんだよな」


「はぁ、少なくなったというよりは激減しておりますじゃ。

 木も草も実を落とさず、困り果てております……」



(やっぱりダンジョンが500年もマナを溢れさせていたんで、もうそれに合わせた生態系が出来上がっちゃってたんだ……

 それがストップしてたせいで、こんなに遠くまで影響が出てたのか……)



「わしらの村の周りも全くおなじじゃて」


「それでの。このダイチさまが、森の恵みが元通りになるまで、我らにダイチさまたちの村に避難したらどうかと仰って下さるのじゃ」


「えっ……」


「わしらの村とラビルの村は、お言葉に甘えて避難させて貰おうと思っている。

 それで、鼠人族のみなさんにも避難を勧めようと思ってここまで来ましたのじゃよ」


「そ、それは皆さんがダイチさまの村の奴隷になるということですかの!」


「いや違うぞ村長。

 うちの村は奴隷制度を固く禁じている。

 まあ、畑なんかで仕事はしてもらうが、その代わりに十分な食事は保証しよう。

 みんなの住居も今作っているところだ」



「あ、あの……

 ひとつお伺いしてもよろしいですかの……」


「もちろん」


「な、なぜそのようなありがたい思し召しを下されるのでしょうか……」



(うーん、マナやダンジョンポイントの話をしてもすぐには理解してもらえないか……)



「うちの村には食料が十分にある。

 それに加えて畑も果樹園もあるし、しかもそれらは大豊作になりつつあるんだ」


「すみませぬ。

 その『はたけ』や『かじゅえん』というのはなんなのでしょうか……)



(ああそうか、彼らはまだ採集しかやってなくって、『農業』の概念が無いんだな……)



「例えばだ。

 食べられる実をつける草があったとするだろ」


「わしらがいつも拾って来て食べているようなものですかの」


「そうだ。

 そして、その実を食べずに土に埋めて『肥料』というものと水をやると、そこから実をつける草が生えて来るんだ」


「なんと……」


「そうして、だいたい1粒の実を土に埋めると、昼と夜を120回ぐらい繰り返したあとに、50粒ぐらいの実をつける草が生えて来るんだ。

 そしてその50粒の内49粒を食べて、1粒はまた土に埋めて実をつけてもらうんだ

 これを農業って言うんだよ」


「「「 !!! 」」」



「そ、それは森の外でヒト族がやっていることとおなじものなのですな」


「まあ連中がやってる農業より、俺たちがやってる農業の方が遥かに高度だけどな。


 それでな、うちの村にはそうした農業が出来る広い場所があるんだ。

 それから昼と夜を120回繰り返す間に食べる食料も。


 でも、足りないのが、そうした作物の種を撒いたり水をやったりする人手なんだ。

 だから安全な住みかと食事を提供する代わりに、そうした人手を集めているところなんだわ」



「そ、そうだったのですか……」


「それでさ、まあ兎人族さんもそうなんだけど、いちど俺たちの村に来てみたらどうかな。

 それで住まいや食べ物や仕事が気に入らなかったら、またここに帰って来ればいいし。



「そ、その作物の世話というのは、我らにも出来るものなのですかの……」


「そんなに難しいもんじゃない。

 疲れることはあるだろうけど、仕事の仕方は教えてあげられるよ」


「実を探して歩き回るのも疲れますからの……

 も、もしわれらなどの手でよろしければ、お世話になってもよろしいでしょうか……」


「もちろん歓迎するぞ」



「実は我らは相当に飢えておりましてのぅ……

 このままではどう考えても冬は越せますまい。

 もはや、どこか豊かな地の種族さんにお頼みして、我らの内の何人かを奴隷として差し出す代わりに食べ物を貰う以外には無いかと、皆と話し合っていたところだったのですじゃ……」


(あー、周りを取り巻いてる村人たちがみんな項垂れてるよ……)


「だが村長。

 もうこの辺りには食べ物の豊かな場所はどこにもないんだ。

 森の奥にいた野生動物たちも飢えていて、この辺りにまで移動してきているぐらいだからな」


「やはりそうでしたか……

 ですが、ダイチさまの村は実りが豊かだと仰るのですな」


「まあいろいろな方法で食べ物を集められるからな。

 だからゆっくり考えてくれ」


「ありがとうございます……」


「そうそう、みんなで考えている間に食事でも振舞おうか。

 今うちの村の連中がラビタ村に来て料理を作っているところなんだ」


「『りょうり』ですかの?」


「木や草の実を潰したり茹でたりして食べやすくすることを『料理』って言うんだ。

 だからこの村のみんなもラビタ村に来て『料理』を食べないか?」


「で、ですがラビタ村まではかなりの距離がありますじゃ。

 子供もたくさんおりますので……」


「それじゃあ、こことラビタ村の間にゲートを繋げよう。

 シスくん、エフェクト無しの転移の輪を頼む」


(はい)


「い、今頭の中に聞こえて来たお声はどなたですかの?」


「俺の仲間だ。

 彼が遠くに居ても、こうして話が出来るんだよ」


「素晴らしいお力ですなぁ……」


「ほらハムス村長さん。

 そこに輪が出て来たろ。

 その輪の向こうに見えるのがラビタ村だ」


「おおおおおお……

 なんと便利な……

 そ、それに、なんとたくさんの種族がいらっしゃることか……

 それに皆さん実に強そうですのぅ」


「今は森の外から中にかけて風が吹いているだろ。

 だからわざとラビタ村で料理をして、食べ物の匂いを森に送り込んでるんだ。

 そうすれば森の中から出て来た獣がラビタ村に集中して、ラビル村やこの村なんかに来ないように出来るだろうからな。

 そうやって、匂いに釣られてきた獣から村のみんなを守るために、俺たちの村の戦士たちに守らせているんだよ」


「そうだったのですか……」


「それじゃあラビタ村長さん。

 すまないがこの村のみんなをラビタ村に連れて行ってやってくれないか」


「はい」



(おおおおおお……

 母親たちが子供たちをだっこして、てしてし歩いてる……

 な、なんて可愛いんだ……)


(うに゛ゃぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!)


(い、痛い痛い痛いっ!

 タマちゃん爪立てないでってば!)





「ふう、それじゃあハムス村長さん、ここには何人か残して食料集めに行ってる人たちが帰って来たら説明するとして、村長さんは俺と一緒に他の村に説得に行ってくれないか」


「畏まりましたですじゃ」


「収納くん、ここに菓子パンを30個ほど出してくれ」


(はい)


「村に残るひとや村長さんもお腹が空いているだろう。

 これを喰ってくれ」



「こ、これは……」


「なんといい匂いがする食べ物だ……」


「う、旨いっ!」


「ああああ、なんだか力が湧き出て来るようだ……」



(やっぱり地球産の『甘い食べ物』って、少しポーションみたいな効果があるんだな……)





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