表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/410

*** 58 兎人族の村 *** 

 


「にゃ?」


「どしたのタマちゃん?」


「なんかこっちの林の奥に生命反応が固まってるにゃ」


「さすがだね。

 俺にはなんにも感じられないや」


「そりゃああちしは『生命感知Lv8』を持ってるからにゃぁ」


「俺もまだまだだってことか」


「『敵性反応』にゃらダイチにもわかったろうけど、これは敵じゃにゃいからわからないんにゃろうね」


「そうか、それじゃあちょっと『隠蔽』かけて様子を見に行こうか」


「うにゃ」




(これ…… なんか村っぽいな……)


(にゃあ、兎人ワーラビットたちがいるにゃあ)


(さすがにこれぐらい近づけば俺にもわかるな。

 だいたい100人ちょっとぐらいか。

 でもさ、なんかみんなあんまり元気が無いような……)




 村は粗末な塀に囲まれていた。

 塀と言っても、拾ってきた木の枝を草や蔓で縛った本当に簡素なものだった。


 それもところどころ途切れていて、塀の役割を果たしていない。



 この村の兎人族ワーラビットは、ウサギの特徴を多く残していた。

 手足はそれなりに長いものの、胴体のほとんどは毛に覆われている。

 顔はややヒト族寄りだった。



(ちょっとヒアリングしてみよう)


(うにゃ)


(シスくん、この村を周囲100メートルを含めてダンジョン化しておいてくれ)


(畏まりました)




 塀の間の入り口らしきところには、棒を持った若いワーラビットが座っていた。

 大地は『隠蔽』を解いてゆっくり歩いて近寄って行く。


「だ、誰だ!」


「いや怪しい者じゃないんだ。

 ちょっと話をさせて貰えないかと思って……」


「ぜ、税ならもう払ったはずだ!

 ヒト族がなんのために来た!」


(ヒト族のクニが、こんな小さな村にまで税を要求しているのか……)



「いや税なんか取るつもりはないし、本当に少し話を聞かせて貰いたいだけなんだよ」



(タマちゃん。

 なんかこいつ、随分痩せてるね。ちょっとふらふらしてるし)


(うにゃ、HPも残り5しか無いにゃぁ)



「あ、御礼もするからさ。食べ物でいいかい?」


「た、食べ物だと!」


「うん、話を聞かせて貰えるなら少し分けてあげてもいいよ」



 そのころには同じような若い兎人ワーラビットたちがわらわらと近づいて来ていた。

 増援のつもりなのだろう。

 だがやはりみんな痩せている。



(収納くん、焼き立てパンの備蓄があったよね)


(はい、たくさんございます)


(それじゃあ木のテーブルと、パンを30斤ほど出してくれるかな)


(畏まりました)



 その場にテーブルと山盛りになった焼き立てパンが現れた。

 香ばしい匂いが辺りに立ち込める。



「な、なにをした!」


「ん? お礼用の食料を出しただけだぞ」


「ま、まさかその食料の代わりに、女や子供を奴隷として差し出せっていうんじゃなかろうな!」


「はは、そんなことはしないさ。

 その代わりにこの村のことを少し教えてくれ」


「おい、村長を呼んで来い!」


「はいっ!」




 若い兎人ワーラビットが村長を呼びに行く間に、大地は村を見渡した。


(あ、村人のE階梯が平均で2.2もある。

 地球のヒト族より上かよ。

 中央大陸ヒューマノイドの平均値が0.3なのに、なんだこの異様な高さは……


 それにしても、木の枝を立てかけて草を葺いた家か。

 これじゃあ冬は寒いだろうに……

 お、あそこに穴が掘ってある。

 そうか、冬はあの穴の中で過ごすんだろうな……)




 年老いた兎人ワーラビットが近づいて来た。


「どちらさまかな……」


「ただの通りすがりの旅人なんだ。

 それでちょっと話を聞かせて貰いたいんだが、その代わりにこちらのパンを進呈しよう」


「話を聞くだけでこれほどの食料を出すというのか……」


「ああそうだ」


「後で奴隷をよこせというのではないか?」


「はは、それならまずこのパンを全員で食べてしまったらどうだ?

 その後なら俺が何を言い出そうが問題は無いだろう」



 村長はしばらく考え込んでいた。


「警備隊」


「「「 はっ! 」」」


「すぐに村の周囲を探索して来てくれ。

 そうだな、3キロほど離れたところまで頼む」



(ほほう、伏兵がいないかどうか確認するのか。

 さすがは村長だな……)




「あっ! ダイチ! た、たいへんにゃよ!」


「どうしたタマちゃん!」


「あそこの小さな子たちが死にかけてるにゃっ!

 もうHPがほとんど残ってないにゃ!」


「なんだって!」



「村長! あそこの子供が死にかけているぞ!」


「あ、ああ……

 昨日生まれたばかりの子たちなのだが……

 どうやら母親の乳が出ないようなのだ。

 他に乳を出せるような者もおらん……

 皆で食べ物を我慢して母親に食べさせたが、それでも足りんようだ……」


「なんだと……」


「草の実をすり潰したものも与えてみたが、吐き出してしまった。

 あの子たちはもう……」


「諦めるな! まだ生きている!」


「だ、だが……」



 強化されている大地の目には、ポロポロ涙を零している母親と、その腕の中でぐったりしている2人の赤子が見えた。



「シスっ!」


(はいっ!)


「ダンジョンに授乳中のホーンラビット族の母親は何人いる!」


(2人おります!)


「その2人を緊急呼集っ!

 それ以外にも、直ちにホーンラビット族を全員招集してこの場に転移させよっ!

 護衛と世話役だ!」


(はいっ!)



 すぐにその場に白い渦が現れ、まもなくそこからホーンラビット族の族長を先頭に2人の母親が現れた。

 母親たちはそれぞれ2人の乳児を抱えている。



「げぇっ!」


「ほ、ホーンラビット族だっ!」



 族長は大地に走り寄り、その場に片膝をついた。


「マスター殿!

 ホーンラビット族全員、お召しにより参上いたしましたっ!」


 その後も白い渦からは続々とホーンラビットの戦士たちが現れている。

 その後には女性たちと子供たちが続き、族長の後ろに並んで膝をついた」


 その様子を茫然とした表情の兎人族たちが見ていた。

 こんな痩身の少年に、なぜ逞しいホーンラビットたちがここまで恭しく接しているのか理解出来ないようだ。



「ご苦労! 緊急事態に付き虚礼廃止だ。

 すまないが、母親たちはあそこの子供たちに乳を分けてやってくれ!」


「「 はいっ、マスターさまっ! 」」


「族長は母親たちの護衛!

 それ以外の戦士たちは、念のため村の周囲を警戒せよ!」


「「「「 御意っ! 」」」」



 ホーンラビットたちが村人たちの傍らを通り、村の外に向けて走って行くのを見た村の兎人族たちは、さらに固まっている。


 普通の兎人族の身長はほとんどが140センチほどなのに対して、ホーンラビット族の身長は通常形態で160センチ、ホーンラビットコマンダーに進化している族長は180センチを超えていた。

 しかも全員が頭部に巨大な角を有しているのだから無理もない。




「さあ、その子供たちを少し貸してくれるかね。

 わたしのお乳をあげてみよう」


 付き添いの女性が乳児を預かり、2人のおっかさんは兎人族の赤子たちを受け取った。


 赤子はもうほとんど意識も無かったが、おっかさんがその巨大な乳房を絞って口元に母乳を出すと、ひくひくと鼻をうごかしている。


 まだ目も空いていない子らはまもなく乳首に吸い付いたが、乳を吸い込む力もほとんど残っていないようだ。

 おっかさんたちは乳房を握って少しずつ母乳を出してやっている。


 まもなく赤子たちは弱々しくはあるものの、確実に乳を吸い始めた。



「「 ううーっ! 」」


「はは、お前たち、いくらおっかさんのおっぱいを取られたからっていっても、そんなに怒るもんじゃないよ。

 もうお前たちはお腹がいっぱいなんだから、少しは分けてあげなさいな」


「「 きゅーん…… 」」



 赤子たちが乳を吸い始めたのを見て、兎人族の母親は地に額を擦りつけて号泣し、お礼を言い始めた。



「よかったねぇ。

 あたしら乳が有り余ってるからさ。

 まああんまり気にしなさんな」


 それでも母親は大泣きしながら礼を言い続けている。



「実はね、うちの子たちが生まれたときも、あたしらは食べ物が無くって乳の出が悪かったんだ。

 父ちゃんたちが森の中を走り回って木の実を集めて来てくれてたけど、それでも足りなかったんだよ。


 でもさ、あちらにいるダイチさまが来なすって、びっくりするほどたくさんの食べ物を下さって……

 それで乳もたくさん出るようになって、この子たちも助かったんだ。

 だからお礼を言うなら後でダイチさまに言いなよ」



 集落にいる兎人族の女たちは、乳を飲み始めた赤子を見て皆泣いていた。


 男たちは恐る恐るホーンラビットたちを見ていたが、そのホーンラビットの戦士たちは皆柵の外に出て周辺を警戒し、村には背を向けている。




「収納くん」


(はっ!)


「ここに穀物粥の入った寸胴を10個出してくれ。

 あと菓子パンも120個ほど」


(ははっ!)


「ホーンラビット族の女性たちは、兎人族たちに食事を振舞う準備を」


「「「「 はいっ! 」」」」


「シス」


(はいっ!)


「念のためダンジョンの全ての戦士たちの作業を中断させて、待機させておいてくれ」


(畏まりました!)



 間もなく集落には食べ物の匂いが漂い始めた。

 兎人族たちが全員ふらふらと集まって来ている。



「それじゃあ子供たちから順番に食事を受け取ってくれ。

 食料はいくらでもあるから慌てなくていいぞ」



 すぐに子供たちが菓子パンを頬張り始めたが、みんなあまりの旨さに目を真ん丸にしている。


 皆が菓子パンを食べ終わると、次は穀物粥が配られ始めた。



「旨い……」


「こ、これは塩を使っているのか!」


「そ、そんな貴重なものを……」


「暖かい粥など久しぶりだ……」


「ああ、貴重な薪までこんなにたくさん……」



 村の周囲に哨戒に出ていた兎人族の警備兵が戻り始めた。

 最初は村を囲むホーンラビットの戦士たちを見てフリーズしていたが、すぐに村長に説明されて村に入って来て、皆と一緒に粥を食べ始めている。




(ダイチさま)


(おおシスくんか。どうかしたか?)


(こちらの村を地表ダンジョンにしたために、僅かながら村人たちからダンジョンポイントが入り始めました)


(そうか。1日だとどれぐらいのポイントになる割合だ?)


(おおよそ100ポイントになろうかと思われます)


(はは、挑戦者がダンジョン内で過ごしたときと同じか。

 やはりそうなったな)


(はい)


(それにしても、ダンジョンポイントのタダ取りは良くないな……)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ