*** 56 DQNが畏れ慄く日 ***
お下品注意♪
2週間後。
柔道部主将の須崎は、空手部主将の安藤に呼び止められた。
2人は小学校時代からの友人である。
「なあ須崎、やっぱり柔道部は休部になっちまったのか……」
「ああ、柔道2段以上の教師が赴任して来るまで休部だとよ」
「気の毒に……」
「へへ、でも部活外でみんなで自主練してるんだぜ」
「ほう、どこでやってるんだ?」
「全員であの伴堂MMAジムに入会して、訓練させて貰ってるんだ。
なんてったって、師範代がすげぇからな」
「なぁ、その師範代って、まさかあのポスターの奴か?」
「お、知ってたのか」
「ま、まぁな。
空手はグラウンドファイトが無いだけでMMAとは親戚みたいなもんだからな。
実はあのジムが出したDVDも買ってたんだ」
「そうか、俺たちに鍛錬してくれてる師範代って、あのDVDにも出てるキングコングみたいな大男をKOした男なんだぜ」
「ま、マジか……
な、なあ、お前らの鍛錬、今度俺たちにも見学させて貰えないかな……」
「師範代に頼んでみるけど、たぶん大丈夫だ」
「そ、それじゃあよろしく頼むわ」
「おう」
そして……
伴堂ジムは、またもや新規高校生会員を20人ゲットしたのである……
喜んだ伴堂は、屋外訓練場のスタンド裏に屋根を作ってくれた。
サンドバックなども置かれているし、狭いながらも柔道用の畳を敷いたスペースまである。
話を聞いた静田が関連会社の青嵐建設に働きかけ、密かに建設費の大半を負担してくれたおかげで、立派な施設は格安費用で造られていた。
これで、雨が降っていても、高校生たちは鍛錬が出来るようになったのである。
やがて、青嵐高校柔道部と空手部は合併して『MMA部』となっていく……
どうやらその方が、汗臭そうな柔道部や空手部よりモテそうだという隠された理由もあったらしいのだが……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
或る日のこと。
「ねえタマちゃん。
そう言えば、あの『幻覚魔法』ってさ、魔道具化出来ないかな。
『他人を脅して従わせようとしたとき』っていうのを発動条件にして、
『記憶にある限り最も痛くて恐ろしい体験』の痛覚と幻覚が30分出て来るようにして、
その幻覚の発動中は自動的に『尿道括約筋と肛門括約筋が機能停止』して、
『痛覚5倍増(永久展開)』もトッピングされるような魔法が常時放射されるやつ。
その魔道具の効力範囲から出て行っても、半年ぐらいは効力が続けばなおいいね」
「ツバサさまに頼んでみるにゃ♪
でも多分、有効範囲は魔道具を中心に半径300キロぐらいだにゃあ」
「それじゃあさ、静田さんに頼んで日本全国20か所ぐらいに小さな家か倉庫を買って貰おうよ。
新築じゃあなくって中古の郊外物件や物置程度だったらけっこう安いだろうし。
その中に魔道具をセットしていこう」
「さすがはダイチにゃ。
いーい、アイデアだにゃぁ♪」
こうして青嵐市の都市伝説は全国に広がって行ったのである。
もちろんヤクザ屋さんのお身内だけでなく、日本全国のDQN族が毎日のように『お漏らし』を始めたのだ。
現代のDQN族は、見た目の暴力的雰囲気と粗暴な振舞いを重視し、実際に暴力を振るって警察に逮捕されるリスクを極力減らそうとしている。
そうした『見た目』と『暴力的雰囲気』をウリにしているDQN族において、この『お漏らし』は致命的だった。
いったい誰が、排泄物でズボンの股間を膨らませ、あるいは水分を滴らせているガニ股男たちの脅しに屈するというのだ。
まあその尻を向けて迫って来られたら屈するが。
しかもである。
こうした連中は、幻覚を見て恐怖にのたうち回るだけでなく、とんでもなく『痛がり』なのである。
胸倉を掴もうとした手を払われただけで、信じられぬほどの激痛が走ってさらにのたうち回るのだ。
つまり、彼らはその最終手段である『ケンカ』が出来なくなってしまっていた。
拳で相手を殴っただけで、その拳が粉砕されたかのような痛みを感じて転げ回る者にケンカなど到底無理である。
同時に括約筋が緩んでいるのだからもうサイアクである。
やはり下痢とはつまらないものであって、便秘とはくだらないものなのである。
(作者註:ぜんぜんカンケイ無いが大いに気に入っているフレーズなので使ってみたかった……)
これでチンカスくんも目立たなくなって、学校に復帰出来るかもしれない。
だが……
社会経験の浅い大地は気づかなかったのだ……
現代に於けるDQN族とは、なにも校舎裏や夜の繁華街で肩を怒らせて徘徊している者たちばかりではない。
ある企業舎弟の詐欺専門会社では、『兄貴』たちが盛大にお漏らしをしてその権威を崩壊させた。
舎弟たちは誰も仕事をしようとはしなくなり、事件の件数はみるみる減って行っている。
また、ある新興ブラック企業では、朝礼で社長が社員を恫喝しながら吼えまくるのが日常になっていたが、この社長が毎朝朝礼の最中にお漏らししながらのたうち回るようになった。
朝礼前に女性社員がオフィスの窓を全て開けて回るほどである。
会社の規模が大きくなるにつれて、この『のたうち回り&お漏らし』現象は専務、執行役員、部長、次長、課長と役職を下げながら広がって行く。
もちろん同時に彼らの威厳も崩壊して行く。
オフィス内のあまりの臭さに平社員たちは皆マスクをして仕事をするようになっているそうだ。
塗装作業用の脱臭マスクは、常に売り切れ状態になった。
特に酷かったのは中学校である。
いや別に日本の中学生がみんなDQNだと言っているのではない。
公立高校の入試では『内申書』も重視されているのである。
このため、教師たちは内申書をタテに生徒たちを脅すことを日常としていた。
この教師たちのほとんどが、毎日毎日盛大に『お漏らし』を始めたのである。
特に体育教師は酷かった。
やはり脳筋体育会系は、上下意識が異様に強いせいで常に生徒に対して恫喝によってマウントを取ろうとするからだろう。
故に授業のたびにお漏らしが始まる。
尻から出る方のお漏らしは朝方一巡するとその量は減っていくが、それでもパンツは汚れる。
だが、前から出る方のお漏らしは、常に腎臓くんが働いているためにほとんど流れっぱなしになっていた。
まるで体内から括約筋という括約筋がすべて消失してしまったかのような状態である。
中には巨大なアナルプラグを装着したヘンタイ教師もいたが、そんなものをつけているときは歩行不能である。
また、尿道を塞ぐプラグは存在しない。
そこで尿道カテーテルを突っ込んでみたのだが、これは尿を溜める瓶も大腿部分に着けなければならないのだ。
歩きながらちゃぷちゃぷ音がするのはやはり異様である。
そういえば東京証券取引所では、パンツと消臭剤と大人用おむつのメーカーの株が爆騰しているらしい……
コンビニのレジ横に置かれている商品もパンツやおむつばかりになった。
『このおむつなら多い日でも大丈夫♪』というCMが、毎日テレビで流されている。
逆に便秘薬メーカーの株は急落しているそうだ……
こうした奇現象のニュースは、日本国内だけでなく海外にも広がって行った。
なにしろ日本の大手商社やメーカーの海外法人に於いて、日本から派遣されて来た新任のボスが社内で部下を恫喝するたびに、糞尿を撒き散らしながらのたうち回るのである。
当初は伝染病が疑われ、各国の研究機関に於いて徹底的な調査が行われたが、もとより地球の研究者に魔法の知識は無い。
科学者たちは、自分の理解の及ばないものに関しては無難な説明で逃げようとするため、結局は心因性のものとして片付けられたようだ。
そしてそのころ、折悪しく(良く?)、日本でG20が開催されてしまったのである。
各国の指導者たちには当初何の問題も無かった。
G20は友好と交渉の場であるため、首脳たちが揃っているうちは終始にこやかに会談が行われるからである。
だが、個別会談の場では、時折この『幻覚糞尿症』を発症する者がいた。
また、普段は自国内で威張りくさっているために、会合の場でずっとにこやかな顔を続けることが大変な苦痛だった者も多かった。
政治家にとって、相手の弱みにつけこんだ恫喝や脅迫は、呼吸をするかのように自然なことだったからである。
彼らはホテル内の自室で随行員に当たり散らしてそのストレスを発散したため、やはりこの『幻覚糞尿症』を発症している。
そうした首脳たちの多くが、自国に帰ってから辞任を余儀なくされていた。
なにしろ国会等の場でやっちまったんだから仕方あるまい。
「ねえタマちゃん、なんか世間が騒がしいね」
「にゃ」
因みに、大地は学校とジムとアルスを忙しく移動しているため、日本のニュースを見ている時間はほとんど無い。
「でもまあDQNたちが大人しくなってるみたいだからいいか♪」
「にゃ♪」
「そのうちにもっとおカネを儲けて、あの『魔道具部屋』を全世界に広げられたらいいね♪」
「がんばるにゃ♪」
世界中のあらゆるDQNたちが畏れ慄く日も近い……