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*** 55 ボクササイズコース ***

 


 15分間の休息の後、今度は模擬戦用のナイフを持っての訓練が始まった。

 例の刃の部分がフェルトペンになっているナイフである。


 大地を含む全員が、競技用トランクス1枚になった。


 やはり大地は10人の兵士に取り囲まれている。



 模擬戦闘が始まった。


 大地は縦横無尽に動き回り、そのたびに兵士たちの体に赤い線が描かれて行く。

 ナイフ戦に拘り過ぎていた兵士には、容赦なく大地の蹴りや拳が突き刺さった。



 3分も経つと、兵士たちの体には無数の赤線が入っていた。

 大地には1本も無い。


 5分後、息も絶え絶えになった兵士たちには、ボディだけでなく顔面にも脚部にも無数の赤線が入っている。


 大地はやはり無傷……

 いや上腕部にかすかな赤い線が見える。



『状況終了!

 ゲオルギー軍曹、お見事でした。一撃入れられちゃいましたね』


『ノーサー!

 自分の体は線だらけですので、実戦ではとっくに戦闘不能になっていました!』


『はは、それでもこれはそういう訓練ですから。

 それではまた15分の休憩の後に、サーベル戦を始めましょう』




 全員がフェンシング用の防具をつけ、競技用サーベルを持っての訓練では、さらに一方的な戦いが繰り広げられた。


 5分経っても10分経っても大地はまったく衰えることなく動き回り、疲弊した兵士たちは叩かれまくってさらに疲弊して行く。



『状況終了!』



 大地が宣言すると兵士たちがその場に倒れ込んだ。

 皆、大の字になって大きく呼吸をしている。


 大地は何も言わずにそのままにしていた。


『終了』と言ったのだから、今は自由時間だ。



 まもなく全員が起き上がった。


『き、教官殿に敬礼っ!』



 形だけでなく、心のこもった敬礼が為される。

 もちろん大地も姿勢を正して胸に手を当てて応える。



『みなさん強くなられましたね。

 次からは10人ではなく8人相手でお願いしますよ』



 本来の特殊部隊の訓練では、多対1戦闘訓練は通常2対1で、どんなに多くても4対1である。

 猛者たちは苦笑しながら解散してシャワールームに向かった。



 スタンドにいた大勢のギャラリー(ほぼ女性)からも大きな歓声と拍手が沸き起こっている。




 そして……

 実はこのとき、マイケル・スカラー上級曹長からの報告を受けて、横須賀基地の司令官である少将と、海軍特殊部隊(SEALs)の司令官も見学に来ていたのである。


 現代に於ける戦闘行為は、昔の大規模戦闘から対テロリスト戦を重視したものに変わって来ている。

 つまり、市街地に於ける近接戦闘(CQC)が重んじられるようになっていたのだ。



 彼らは自軍のCQC訓練教官でもある兵士たちの実力を良く知っていた。

 その強力な兵士たちを手玉に取った大地の実力に驚いていたが、次第に会心の笑みを浮かべている。


 兵士の強化は兵装の強化と共に軍の最大の課題だが、これほどまでの強者に訓練して貰う機会は他にない。

 しかも、そのコストは単に交通費と滞在費、加えてジムに払う僅かな会費だけである。

 兵装整備に比べれば圧倒的に安い。


 司令官は、この訓練機会と世界最高の教官を見出したとマイケル・スカラー上級曹長を激賞し、すぐに追加で予算を取って伴堂ジムに正式かつ本格的に兵士を派遣して来る手続きを取った。




 大地はギャラリーに手を振ってから柔道部の面々のところに行った。


「いかがでしたか訓練の様子は。

 参考になりましたか?」


「あ、ああ…… むちゃくちゃ驚いたよ……

 そ、それであの外人さんたちは……」


「ああ、まだ言ってませんでしたね。

 アメリカ海軍特殊部隊の皆さんです」


「「「「「 ………(マジかよ!!!!!)……… 」」」」」



「ところで、本格的な訓練はこれで終了です。

 この後はエクササイズコースのひとたちへのレッスン、というよりは私がお手本を見せるだけのレッスンなんです。

 ですから見学してもあまり面白くないですよ」


「いや……

 出来たら是非見させて貰いたいんだが……」


「そうですか……

 それではジムの中の壁の辺りにいて頂けますでしょうか」


「ああ、わかった。

 会員さんたちの邪魔にならないよう気をつけるよ……」




 エクササイズコースが始まった。

 ボクシングトレーニングを利用したエクササイズ、いわゆるボクササイズである。

 その参加者のほとんどが先ほどスタンドにいた人たちであった。


 40人ほどの会員さんたちのうち38人は女性である。

 それも、平均年齢20代前半の……


 そして……

 彼女たちは下はレギンスの上に競技用トランクスだが、上半身はタンクトップや競技用ブラである。

 もうジムの中はムンムンである。



「きゃー♡ だいちくーん♡」


「ああん、やっぱりカッコいいわぁ♡」


「こ、こんど、個人レッスンも……」



 25人の高校生たちは皆口が開いていた。

 前屈みになっている阿呆までいる。




 ボクササイズコースでは、足をステップさせながら、腕はワンツーを繰り返す動きが基本動作になっていた。

 上級クラスになるとこれにキックが加わる。


 なるべく脂肪を燃焼させ、特に二の腕や大腿部を引き締めるための動きであった。



「それでは、いつもの通りデモを行いまーす。

 よく見ていて下さいね」



 大地がサンドバッグに連続してワンツーを打ち込み始めた。


 ビチュンドバン!

 ビチュンドバン!

 ビチュンドバン!

 ビチュンドバン!

 ビチュンドバン!

 ・

 ・

 ・


 1分経ってもその勢いは変わらない。

 いやむしろまた体が温まってきた分速くなっていた。



「きゃぁぁぁぁー、カッコいいー♡」

「あああん、ステキよ大地師範代……」

「ああ…… パンチの音が子宮に響くわ♡」

「わ、わたしの心がサンドバッグになってる……」

「ああん♡ わたし、これを見るためにジムに来てるの……」



 会員さんたちからフェロモンがしゅわしゅわと立ち上っている。

 高校生たちの前屈み率が増加した。


 どうも女性という種族は、周りが女性ばかりだとやや慎みが無くなるようだ……



 2分経ってようやく大地のデモが終わった。

 多少は呼吸が早くなってはいるが、それでも乱れているというほどではない。



「それじゃあみなさん、音楽に合わせて順番に交代でサンドバッグを叩いてみましょうか。

 順番待ちの方も、シャドーでパンチを出してみましょう」


「「「「 はーい♡ 」」」」


 軽快なBGMが流れ始めた。





(揺れてる……)

(ああ、揺れてるな……)

(あんなに揺れるんだ……)

(大人の女の人ってスゲぇ……)


 さらに前屈み率が増大した。




 時折指導を挟み、50分のレッスンが終わると、大地は笑顔の会員さんたちに取り囲まれた。

 みんな運動して心地よい汗をかき、顔も体も上気している。


 もうムチムチがムンムンであり、一部は大きく呼吸をするたびにフリフリしている。

 見学の男子高校生は皆モンモンである。


 中には大地をうっとり見つめ、太ももを擦り合わせているお姉さんまでいた。

 とうとうモジモジまで加わったのだ。




(先輩…… やっぱり強いとモテるんですね……)

(ああ、そうだな……)

(お、俺も強くなりてぇ……)

(お、俺も!)(俺も!)(俺も!)(俺も!)(俺も!)……




 高校生諸君。

 大地くんの場合は異次元的に強い上に、爽やかで優し気な顔をしているからモテるのだよ。

 そこんとこ大事だから。





 帰り際にジムの正面入り口から出た高校生たちは、ガラス窓に貼られたポスターに気がついて慄然とした。


 来るときには直接裏のグラウンドに行っていたために、ポスターは見ていなかったのである。



「お、おい……

 このポスターに写ってるの……

 よく見れば北斗君だよな……」


「あ…… あ…… あ……

 こ、このKOされてるの、あのキングコングみたいな師範さんだ……」


「「「 ま、マジかっ! 」」」



「お、このポスター、売ってるんだ……」


「DVDもあるって……」


「お、俺、買って帰る!」


「俺明日カネ持って買いに来る!」


「明日ポスターにサインしてもらおう……」


「俺も!」「俺も!」「俺も!」「俺も!」「俺も!」




 どうやら大地は彼らのヒーローになりつつあるようだった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日の昼休み、柔道部では話し合いが持たれていた。

 話し合いが終わり、放課後になると主将がまた大地のところにやって来る。


「なあ北斗君。

 実は今柔道部って活動停止の危機にあるんだよ」


「?」


「あの権田の阿呆が段位詐称してたろ。

 でもウチの高校には、柔道部を指導出来る2段以上の先生がいないんだよ。

 それで新任の体育教師が来るまで休部になるかもしれないんだ……」


「3年生にとっては辛いですね」


「そ、それでさ。

 俺たち全員伴堂ジムに入会希望なんだけど、入会費と月会費って、い、いくらぐらいなのかな」


「そうですね……

 通常であれば入会費1万円で月会費は1万5000円なんですけど……」


「やっぱりけっこう高いんだね……」


「ええ、団体傷害保険料なんかも込みですから」


「ウチの高校、バイト禁止だから無理な奴も出て来るか……」


「それじゃあ値引きしてもらえないか師範に聞いてみますね」


「よ、よろしく頼むよ……」





「いいわよ。

 高校生の屋外特別会員に限り、入会費無料で月会費は5000円にしてあげる♪」


「し、師範…… い、いいんですか?」


「うふふ、その代わり大学生や社会人になったら、ジム内の施設も使える代わりに会費は通常の1万5000円ね♪」


「そ、それならなんとか……」



 こうして伴堂ジムは、高校生の新規特別会員25名をゲットしたのである。





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