*** 52 生まれる時代を間違えたDQNたち ***
大地の高校生活2日目。
あの千田粕とかいうDQNは、学校を休んだそうだ。
(まあ、たぶんずっと不登校だろうなぁ。
もしくは編入試験を受けて、違う高校に行くとか……
あれは黒歴史どころか、全ての幸せな想い出を吸い込んで消滅させるブラックホール級の暗黒歴史だっただろうから……)
そして放課後。
今度は2年生と思われるDQNが、ずかずかと大地の教室に入り込んで来た。
「おい! 北斗とかいう野郎はどいつだっ!」
「は、はひ、あ、あいつでひゅ……」
見れば後ろの方に昨日のおバター犬がいた。
少し顔が腫れているのは殴られでもしたのだろう。
「おい北斗っ! ちょっと面ぁ貸せっ!」
「いえ、今日はこれから用事がありますからお断りします。
明日なら少しは時間を取ってあげられますよ♪」
「なんだとこの野郎っ!
ナメた口きいてんじゃねぇっ!
いいからついて来いっ!」
大地の腕を掴もうとして手が伸びて来た。
大地はその手首を押さえる。
みしっ…… ぺきっ……
「ぐあっ!」
「どうかしましたか?」
「こ、こここ、この野郎っ!
おいお前たち! こいつを校舎裏まで連れて行けっ!
ヘッドにヤキを入れて貰うんだ!」
「「 へいっ! 」」
みしっ…… ぺきぺき…… みし……
「「 ぐああああっ! 」」
「あー、きみたち、ちょっとカルシウムが足りないかもね♪
ところでそんなに校舎裏まで来て欲しいのかい。
それなら10分ぐらいなら時間を取ってあげるよ♪」
「こ、こここ、この野郎……
い、いいから来いっ!」
「やれやれ……」
(それじゃあ『光魔法Lv3』と……)
それにしても、こいつら21世紀になってもこんなこと続けてるんか……
これじゃあまるで1980年代の学園漫画じゃねぇか……
いや、違うな……
ヒト族はずっとこんなことを続けて来てたんだ。
こいつらDQNも生まれる時代を間違えたんだな。
もう500年か1000年前に生まれてたら、徒党を組んで人を殺しまくって戦国武将に成り上がれてたかもしれないのに。
1500年前だったら皇族や貴族になれてたかもしれなかったのに。
そうして、朝廷やら武士やら士農工商とか言って、自分は偉いんだから尊敬しろとかほざいてたかもしれなかったのに……
いや、そうなる前に雑兵や足軽として戦に狩り出されて、あっけなく戦場で死んでいたか……
貴族や武将に成り上がれたヤツなんか万人に1人もいなかっただろうから……
ということは、日本史や世界史の教科書の内、現代史の一部を除く99%は、『ヒャッハー族やDQN族の歴史』だったってぇことだな……
文化を語る箇所でも、江戸後期までの文化の担い手は全てヒャッハーやDQNの子孫である皇族、貴族、武士たちだったもんな。
なんか歴史の勉強が虚しくなって来るわ……
なんで俺たちはそんな奴らの残した足跡なんかを一生懸命覚えなきゃなんないんだ?
そんなもん人類の黒歴史そのものだろうに。
これからは、教科書の表紙には『日本黒歴史』『世界黒歴史』って書けよな。
だいたい、日本最古の歴史書って『古事記』だって言われてるけど、それ違うだろうに。
あれは歴史について書かれたもんじゃなくって、平和に暮らしていた民を殺しまくって支配下においた天皇一族を正当化するための『日本最古のプロパガンダ書』だろうに。
強盗殺人の罪の意識を免れるために、『俺様は神の子孫であり神なんだから俺に逆らった奴の方が悪いんだ!』っていう自己弁護の書だろうに。
そういう意味で、太安万侶は究極のヨイショ野郎だよな。
なんか昭和初期に周囲の国を侵略しまくったころの日本の支配者層のプロパガンダとそっくりだわ。
進歩の無ぇ国民だぜ。
でも待てよ……
ということは、日本史、世界史の中に於いて、今の時代こそが唯一暴力や殺戮者の子孫か否かで支配者と被支配民が決まる時代じゃないっていうことか……
そういう意味で、ヒト族が5万年もかけてようやく辿り着いた進化の先にある新しい時代なのかも。
まあ、まだ進化出来てない原始時代そのままみたいなDQN国家も多いけど。
原始人に近代兵器持たせたみたいなヤバい国になっちゃってるけど。
そうか、これがE階梯の進化でもあったんだ。
E階梯の高い奴は、暴力で支配的地位についたり尊敬を強要したり戦争という名の武装強盗をするなんて発想すらしないし。
だから神界もE階梯を重視するんだな。
なるほど……
ということはだ。
地球ではこれからヒャッハー族もDQN族もどんどん減っていくんだろうが、同時に減らす努力もして行くべきだな。
もちろんアルスでも。
そうか、神界が俺に与えた任務とは、要はアルスのヒャッハーやDQNを減らしていけっていうことなのか……
なるべく殺さないように。
殺しまくったりしたら、俺が最悪のヒャッハー支配者になっちまうから。
そのためのツールがダンジョンだったんだ……
それじゃあ今後のために、今から身近なDQN族で実践練習させて貰うとするか……
校舎裏には12人ほどのDQNたちがいた。
ベンチにひとりの男が座り、後の11人は立ったままだ。
「やぁ、やっぱり剛さんじゃないですか♪」
「げぇぇぇっ!
お、おおお、お前は大地っ!」
「剛さん、高校ではこんな寒い連中とツルんでたんですね♪」
「な、なんだとこのガキぃっ!」
「剛さん、知り合いみたいですけど、はやくこの生意気なガキをぶっ〆てやってくださいよ!」
「ふーん、剛さん、〆てみますぅ?」
「い、いや……」
「ところで剛さん、僕、昨日あなたの子分らしきひとにカツアゲされそうになったんですよ」
「!!!」
「それに僕の家を溜まり場として提供しろって脅されたんです。
それってよもや剛さんの指図じゃないですよね?」
「お、お前ら……
よりによってこの大地からカツアゲしようとしたのか……」
「あれ?
じゃあ他の生徒からはカツアゲさせてるんですか?」
「い、いや、そ、そそそ、そんなことは言っていないっ!
お、お前らなんでカツアゲなんかしてるんだっ!
ま、まさか……」
「いや、至誠会の本郷さんがケツモチしてくれるって言うもんで……」
「それで上納金が要るようになったんスけど、これがけっこう高いんスよ」
「ば、馬鹿野郎っ! ヤクザなんかにケツモチ頼みやがってっ!」
「えー、だって西高の奴らもバックに至誠会がついたっていうんで……」
「そ、それで仕方なく……」
「あの……
みなさん、なんで皆さん自身でおカネ払わないんですか?
バイトでもなんでもして自分たちで稼いで払えばいいのに」
「なんだとこのガキぃっ!」
「俺たちが西高や他の奴らから守ってやってるんだからよ!
守られてる奴らがカネ払うのは当然だろうがよっ!」
(ああ、他の勢力に対抗するためにカネやらなんやら提供して、もっと強い勢力にヘコヘコしてその庇護下に入るって…… 戦国時代とおんなじだわ……
いや、朝廷にカネ払って名ばかりの役職名を貰って周囲を威圧するのも、守ってやってるんだって言い張ってそのカネを農民から巻き上げるのも……
大和時代から昭和初期まで、武士や貴族なんかの支配階級ヒャッハーたちがずっとやってたことか……
しかも守ってやってるって言いながら、カネ払わねぇとか無礼者とか言って平気で殺すしな。
もはや日本の麗しき伝統だったな……
まったく酷ぇ国だわ……)
「ということは、カツアゲは剛さんの指図じゃなかったんですか?」
「ち、ちちち、違うっ!
お、俺はそんなことは命じてねぇっ!」
(や、やべぇ…… 大地の奴かなり怒ってる……)
「よかったです。
もし剛さんがそんなことしてたら、僕、次の剛さんとのスパーリングで、つい本気出ちゃったかもしれません……」
「!!!!」
「それじゃあ剛さん。
こいつらにこれからは絶対にカツアゲなんかするなって命じて頂けませんか?」
「お、お前ら、か、カツアゲだけは絶対にするなっ!」
「どうしたっていうんですかい剛さん……」
「こんなガキ相手にビビるなんて、MMAの県大会に出ようかっていう剛さんらしくもありやせんぜ」
「そうか。
剛さんが言っても、こいつら言うこと聞きそうにありませんね。
剛さんに言わずにヤー公にカネ払ってたぐらいですから」
「………………」
「それじゃあ仕方が無いですね。
この馬鹿どもは、少し痛い目に遭わないと言うことは聞かないでしょう。
ねぇキミタチ。
ここだと騒ぎになるから、もっと人気のないところに行こうよ。
そうだな、神宮橋の下なんかどうだい?」
「な、ななな、なんだとこの野郎っ!」
「お前ぇ…… ひとりでこの人数を相手にするって言うんか……」
「ええもちろん♪
あ、剛さんはどうしますぅ?
参加されますかぁ?」
「お、俺は遠慮するっ!」
「そうですかぁ、それじゃあみなさん、少し待っててあげますから、もっと人数集めたらいかがです?
その方がいっぺんで済みますし。
剛さんがいないんで、戦力は半減以下になっちゃいましたもんね♪
なんなら、その至誠会とかいうところのヤー公も呼んで差し上げたらいかがでしょうか。
それから別にステゴロじゃあなくっても構いません。
エモノの使用も許可してあげますよぉ♪」
「「「「 な………… 」」」」
「それじゃあ神宮橋の下でお待ちしてますね♪」
「て、手前ぇっ!
そ、そんなこと言って逃げるかサツ呼ぶつもりだなっ!」
「ヤだなぁ。そんなことしませんよ。
自分の基準でばっかり物事を考えないでくださいねぇ。
世の中にはあなたの想像を絶する強者もいるんですってば」
「な…… なんだと……」
「それじゃあ何人かの皆さんと、仲良く一緒に行きましょうかぁ♪」
「「「「 ……………… 」」」」
(さてと、この実践練習はどうやってカタをつけるかな……
それにしてもだ。
ざっと見てみたけど、現代のDQNたちってなんでこんなに総合レベルが低いんだ?
そうか、暴力的言辞を弄することと、徒党を組むことではったりをかましているだけか。
せめて努力して少しは強くなろうとすればいいのに……)
(ダイチ…… かなり怒ってるにゃぁ……
目つきがオークの子のときと一緒だにゃ……)
3人ほどが恐る恐る大地に付いて来た。
後の7人が仲間を呼びに走って行っている。
剛の傍にはもうひとり3年生が残っていた。
中学校からずっと一緒だった友人である。
「な、なあ剛、あいつってそんなに強いんか?」
「ああ……」
「で、でも10人以上を相手にするなんていくらなんでも……」
「お前、俺の親父知ってるよな……」
「お、おう。
元米軍の白兵戦指導教官で、MMAジムの師範だろ。
以前は修斗のヘビー級日本チャンプもKOしたっていう……」
「その親父がな。
先月ガチのスパーリングでボコボコにされて、失神KOの末に3週間も入院させられたんだよ」
「そ、そんなことが出来るバケモンがいたんか……
お、おい! ま、まさかそれって!」
「そうだ、親父はあの大地に一発も入れられずにKOされたんだ……」
「そ、それってあのポスターの……」
「それでそれ以来、あの大地はウチのジムで師範代をやっているんだ……」
「………………」
「それからな、今アメリカ海軍の現役白兵戦教官たちが毎日10人ほど来て、あいつの指導を受けてるんだけどよ。
あの野郎、10人のプロの兵士に囲まれても、全員KOしちまうんだ。
親父の現役時代でもそんなことは絶対に不可能だったそうだ……
親父に言わせれば、格闘戦じゃあ人類史上最速にして断トツの最強だとよ」
「げぇっ!」
「そんな超バケモンが、たかが高校生の10人や20人程度にビビると思うか?
たとえ100人引き連れて行っても、俺じゃあ全く歯が立たねぇだろうよ……」
「…………………………」