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*** 47 サル由来行動原理 ***

 


 大地とモンスターたちの戦闘訓練は続いていた。


 今やモン村の20種族、200体のモンスターたちを集めたモンスターハウスでの戦闘になっている。


 また、モンスターたちのレベルも上がり、続々と進化する者も現れているため、新たにレベル1の個体も召喚し始めた。

 このため、モンスターハウスに集めるモンスターたちの数も、遠からず300体になりそうである。


 もちろん大地のレベルも上がって来ているため、スキルも魔法もレベル7まで取得出来ており、モンスターが何体いようとも一撃か多くても二撃で全滅させられるようになっていた。


 日々稼ぐダンジョンポイントも飛躍的に増えている。

 何と言ってもアルスでは時間停止のダンジョンが使えるために、いくらでも鍛錬が出来たのである。


 そんな生活を続けて体感時間で2年近く、大地のレベルは48にまで上がった。

 目標の50まであと少しである



(もちろん魔法込みの強さだけど、これで伴堂師範みたいなレベル18のヒト族最強が相手でも、一度に10億人までなら勝てるっていうことか……

 これだけレベル上げたら、アルスでも少しは何とかなりそうだな……)




 いやいやいやいや……

 ちょっとやりすぎじゃないかね大地くん!





 中学校の卒業式の前には地球に戻ったが、数日前にやはり卒業式のために地球に戻っていた淳が大地を待っていた。



「じ、実はさ。

 卒業式の後にサークルに顔を出したんだけど……

 そ、そこで後輩たちがボクの髪の毛見てとっても驚いてたんだよ。

 中でも来季副部長になる奴は、実は若ハゲ仲間だったんだ……

 そ、それで……」


「須藤病院でAGA治療するって言って、こっそりポーション使ったらどうですかね?

 それなら問題ないでしょう」


「い、いいのかい?」


「ええ、いいですよ。

 やっぱり学生時代から若ハゲとか気の毒ですし。

 何故か女の子にもウケが悪いみたいですからね」


「そうなんだよ。

 僕も髪が生えて来た途端に、同級生の女の子や看護師さんたちから飲み会に誘われることがすごく増えたんだ。

 それで却って女性不信になっちゃったんだ……」


「ははは。

 まあ淳さんは女性から見れば超優良物件ですから」


「彼女たちにとっては『物件』ではあっても『ひと』じゃあないんだけどね……


 それで彼は、タイ王国からの留学生なんだけどさ。

 日本のラノベに惚れ込んで留学先に日本を選んだっていうぐらいの異世界狂なんだ。

 日本語も必死で勉強してペラペラになってるし。


 最初は東京の大学に留学してたんだけど、関東の大学が集まって開催した『異世界コン』で、ウチの研究に惚れ込んで大学を移籍して来たっていうほどの奴なんだ」


「へぇ、すごいですね」


「僕と同じ26歳で、タイには婚約者もいるそうなんだ。

 その婚約者はとっても優しい娘さんだそうなんだけど、半年前に一時帰国したとき、ふとそいつの頭見てため息漏らしたんだって。

 それで……」


「ははは、だったらポーション使いましょうよ。

 それにしても、26歳で日本に留学してるんですか。

 よっぽどいいところの人なんでしょうね」


「彼のお祖母さんは先代国王の妹でね。

 つまりまあ王族っていうことになるんだ。

 留学を終えたらそのままタイ王国の日本大使館で働くんだって。

 それにしても、どうもありがとう」


「いえいえ」


(タイ王国の王族か…… タイって確か……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地は、アルスでは時間停止収納庫のおかげで充分に鍛錬が出来ていたが、実際にはジムでの仕事などのために、けっこう頻繁に地球には帰っていた。



「それじゃあみんな、俺はまたちょっと地球に戻るけど、淳さんの仕事の方もよろしく頼んだぞ」


「「「「「「 はいっ! 」」」」」」



 最近では、淳は潤沢な材を得て、製材所や木材の加工場まで作っている。

 地球から木工の入門書や道具も持って来ていて、どうやら家具作りも目指しているようだ。


 さらには端材や枝の部分を使った炭焼きも初めている。

 地球から持ち込んだ各種の粘土をシスくんに見せて、地表ダンジョンから同じような粘土を取り寄せて炭焼窯も作っていた。


 しかも、ついに珪藻土らしきものも見つけたらしい。

 これで簡単な耐火煉瓦も作れると大喜びしていた。


 もちろん果樹園の隣には小麦や野菜の畑も作られ始めている。

 ここでは、力は強くないが手先の器用な種族が活躍していた。



 こうしてダンジョンのモンスターたちに仕事を与える一方で、淳は各種の娯楽も用意した。


 各種族の奥さんたちを集めてのお菓子作り。

 シスくんに土魔法でパン焼き窯を作ってもらってのパン作り。

 もちろん、山ブドウから得たアルス産の酵母を利用している。



 さらには異世界モノ定番のリバーシや、子供用に木で作った積み木。

 また、ダンジョン内にシーソーやブランコなどの遊具を作っての公園も作り始めている。


 まあ、木の滑り台は滑りを良くするためにかなりの急角度になっていたせいで、大柄な種族のための滑り台は小柄な種族にとっては絶叫マシンになっていたが。



 淳の次の目標は、学校を作ることだそうだ。

 午前中は読み書きを教え、午後はクラブ活動をするらしい。

 年齢別、体の大きさ別のサッカーチームをたくさん作ってリーグ戦も始めるつもりでいるようだ。


 運動が得意でない者や好きでない者のためには、合唱団や合奏団を作るとも言っていた。


 そのうちに、モンスターたちによる演芸会も開かれることだろう……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地が地球に帰って来た翌日は、県立青嵐高校の入学式である。

 制服その他は静田たちが用意してくれていた。



 因みに、入学式の数日前には臨時でPTAの会長選挙が行われている。

 これは、2月の会長選挙で次期PTA会長に決まっていた市議会議員が収賄の疑いで逮捕されたことによるもので、立候補者も少なく皆困惑していた。


 そうした中で、佐伯弁護士が立候補したのである。

 新1年生の保護者がPTA会長になるのは極めて異例だったが、なにしろ職業が弁護士である上に市の弁護士会の会長でもある。

 他の立候補者も次々に立候補を取り下げ、無投票で佐伯のPTA会長就任が決まっていた。


 佐伯にしてみれば、もちろん大地の高校生活をサポートするための行動である。




 また、入試で首席だったせいで、大地は入学式では『新入生代表挨拶』するように学校側から依頼されていた。


 佐伯が3日もかけて推敲を重ねた原稿を用意してくれていたが、すでに『暗記Lv7』を使って、2分ほどのスピーチは完全に覚えている。



(まずは床屋に行ってまたソフトモヒカンにして気合を入れるか。

 その後はネットでも見て時間を潰そう……)




 ネットには時節柄の情報が溢れていた。


『中学・高校・大学生活とは』


『無難な中学・高校・大学デビューをこなすために』


『新生活で友達をたくさん作る方法』


『部活の選び方』


 さらには、


『中学・高校3年間のクラス内ヒエラルキーは、最初の3日間で決まる!』


『ぼっちにならないための7か条』


 などという記事まであった。




 そうなんだよなぁ……


 類人猿400万年の遺伝子のせいで、ヒトってどんな環境でもヒエラルキーを求めるんだよ。

 サル社会って序列社会だもんな。


 だから、中学や高校の入学直後って、新しい環境でみんなが序列を作ろうとして必死になるんだわ。

 誰も彼も他人に対してマウント取ろうとするし。

 上位のサルなんか、下位のサルが無礼なマネとかすると、そいつを地面に押し付けてリアル・マウント取るからな。



 だからヒト族も、これはもう一生モノの本能行動なんだろう。


 社会人のマナーとかも、全部類人猿由来のマナーみたいだし。

 上司と1対1で話をするときには相手の目を直接見てはいけないとか、上司が歩いてる前を遮ってはいけないとか……


 以前静田さんの会社を見学させて貰ったときも、課長代理、課長、次長、部長って序列が上がるたびに机も椅子も大きくなって行ってたもんな。

 静田さんの机なんか卓球台並みに広かったし……


 まあ、静田さん、『部下が用意してくれたんで、仕方なく使ってるんです』って言って苦笑してたけど……


 サルの群れって、通常は体の大きなサルが上位のサルになるけど、ヒトは出世しても体が大きくなるわけ無いから、せめて机や椅子を大きくして代償行動にしているんだよな。


 みんな当たり前のことだと思ってて、理由には気づいてないみたいだけど。



 それに、65歳過ぎて地元の老人会に入っても、新人、世話役補佐、世話役、幹事補佐、幹事代行、幹事、幹事長、副会長補佐、副会長、会長、相談役とか、無数に階級があるそうだし。


 その階級の中の出世競争で同期に後れを取ると、すぐに別の老人会とか作って会長に収まろうとするみたいだし。

 まるでボスザルに反発した上位のサルが、群れを離れて別の群れを作ろうとする行動だわ。


 そういえば、やたらに子会社をいっぱい作る企業があるけど、あれも上位のサルたちの不満を逸らしてやるための『群れ分け』だよ。

 子会社とはいえ社長ボスになれれば、上位のサルも満足するだろうから。


 たぶん本人たちは大まじめにやっていて、それが全部類人猿由来の本能行動だとは気づいてないんだろう。



 だからまあ、中学や高校の新入生たちが、サル由来の本能でクラス内のヒエラルキーを一歩でも上がろうとして、マウント取り合おうとするのは仕方無いんだろうな。


 それを見て醜いと思ったり、うかうかしてる間にマウント取りまくられた奴がぼっちやパシリになって行くんだろうけど。


 まあ俺には金輪際関係無い話だが……




 高校の入学式も、大地の挨拶も無事終わった。


 もっとも、大地が挨拶をしている間中、いかにもなDQNたちから睨まれ続けてはいたが。


 まあ、幸いなことに、あのポスターやDVDでは大地が未成年者だということで目の周りがボカされていて、あれが大地だとは誰も気づかなかったらしい。




 入学式の後は、各クラスに分かれてオリエンテーションが行われた。

 この日は午前中で学校は終了のため、その後は早速雑談という名のクラス内マウント取り合い合戦が始まっている。



(さて、ジムでの兵士さんたちとの訓練は3時からだから、それまでどうやって時間を潰すかな……

 いったんアルスに帰ってもいいけど、せっかくだから本屋にでも行ってみるか……

 久しぶりにジャンクフードも食べたいし)





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