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*** 44 オーク族長との死闘 ***

 


 オーク族たちの集落に近づくと、知らせを聞いたのか族長と乳飲み子を抱えた奥さんが走り出て来て地に膝をついた。


 そのまま額を地面に押し付けている。


 大地を先頭にした面々と宙に浮かされた子供たちを見て、なにが起きたかだいたいのところは察したのだろう。


(E階梯は3.2か。

 さすがはオーク族を束ねる族長だな。

 それにしても、E階梯は遺伝しないのか……)


「族長、ちょっと話があるんだ……」


「ははぁっ!」


 大地の低い声を聞いて、族長は更に頭を地面に押し付けた。

 奥さんは震えながら泣いている。



「すまないが、これから俺と戦闘スペースに行って、サシで戦ってもらいたい。


 その際には一切の遠慮と手加減を禁じる。

 もちろん完全な戦闘形態になって貰うし武器の使用も認めよう。

 俺とアンタの純粋な殺し合いだ。

 ま、ダンジョン内では当たり前のことだがな」


「はっ!」



「そうそう、特別に後ろに浮いてるガキ共も見学させることにするぞ」


「御意!」



「イタイ子、すまないがサキュバス族も呼んでくれるか……」


「こ、心得た……」


「それからシスくん」


「は、はい……」


「誰かがダンジョン内で死んだとき、リポップされるのは死んでから10分後に、このモンスター村の広場という設定にしてくれるか」


「か、畏まりました……」



(ダイチ…… 相当怒ってるにゃぁ……

 怒れば怒るほど静かな喋り方になるんにゃな……)




 モンスター村の子供たちは、通常ダンジョンの戦闘スペースに入ることは無い。

 族長が一人前と認めて戦闘訓練を重ねた後でなければ『戦う者』とは見做されないからである。

 召喚されたモンスターはすぐにダンジョン内で戦うことが出来るが、それは彼らが既に成体になっているからだった。


 従って、このDQNガキ共がダンジョンの戦闘スペースに入るのも戦いを見るのも、これが初めてということになるだろう。





 ダンジョンの大部屋で、大地はオーク族族長と対峙した。



(ふーん、レベル33か。

 今の俺より少し下か……


 だが俺には戦闘技術もあるしな。


 それからエモノは棍棒か。

 けっこう長くて固そうだわ……)




 部屋の隅にはタマちゃんやシスくんとイタイ子、それから呼ばれたサキュバス族たちがいた。

 反対側の隅にはDQNガキ共が6人いる。



 ダンジョン内のモンスターとの遭遇戦では開始の合図などは無い。

 出会った時が戦いの始まりである。



 オーク族の族長は既に戦闘形態のオーク・ソルジャーになっている。


 身長は約2メートル50センチ、体重約230キロ。

 その巨躯が闘争のオーラを撒き散らしながら大地を睨みつけていた。



「父ちゃ――ん! そんなひ弱なガキ、ぶっ殺しちまえーっ」



 ガキ大将が喚いたが誰も一顧だにしない。


 それほどまでに族長の闘争オーラは強烈だった。




 棍棒を構えた族長が、雄叫びを上げながら突っ込んで来た。


(ふむ、振り上げた位置と腕の筋肉の緊張具合から見て、軌道は左上から斜め下か……)



 大地はなんなく第一撃を左に避けた。


 同時に族長の脇腹にストレートをぶちかます。



 拳から、助軟骨と繋がっていない第12肋骨が折れる感触が伝わって来た。


 だが、族長はまるで気にする素振りもなく、地面を叩いていた棍棒を大地に向けて切り返した。


 その攻撃も縮地によって回避した大地は棍棒を掴んで引き、同時に敵の軸足を払う。


 バランスを崩し、前屈みになってたたらを踏む族長の水月に、大地の右足のブーツの先がぶち込まれた。


 今度は肋骨の剣状突起がヘシ折れる感触が伝わって来ている。


「ぐふぅ~っ」



 堪らずに数歩下がった族長だが、すぐに棍棒を構えなおす。



(さすがだな、上下方向の振り降ろしや振り上げだと躱されると思って、今度は水平方向に振るつもりか……

 だが……)



 思った通り、踏み込みとともに水平に振られた棍棒を後方への縮地で躱すと、大地はすぐにまた前方に飛んで、族長の脇腹に手を当てた。


(『火魔法Lv3』火球……)


 大地の放った火球が族長の分厚い皮膚と脂肪層を貫いて腎臓に達した。



「ぐぶおぉぉぉぉぉ――――っ」


 族長は棍棒を取り落として右手で脇腹を押さえたが、その隙間から火炎とともに焼けた腎臓の破片が噴き出して来ている。



 大地は地に落ちた棍棒を拾い上げて、くの字になった族長を滅多打ちにした。


 肩、背中、馘、頭部。次いでに脊椎や膝の裏も。



 族長はその場からごろごろと転がって、大地の攻撃圏から離脱しようとした。


 大地は即座に縮地で追いかけて、右足のつま先を肋骨に叩き込む。

 骨を砕いて内部の胃も粉砕した感触が伝わって来る。



「ぐぅげぇぇぇぇぇぇぇ~っ!」



 族長は必死に両手で大地の足を掴まえようとした。


(『火魔法Lv3』火球……)


 大地が放った火球が今度は族長の顔に着弾する。



「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!」



 顔面を掻き毟って火を消そうとする族長。

 だが魔法の火はそんなことでは消えない。


 大地は暴れる族長へのストンピングを続け、全ての肋骨を砕いていく。

 族長の悲鳴と共に口から赤い泡が噴出し始めた。



 そのとき……


「ヤメロこの野郎―――っ!

 父ちゃんになんてことするんだぁ―――っ!」



 族長の息子、DQNのリーダーが飛び出して来た。

 拳を固めて大地を殴ろうとしている。


 大地はすかさず5メートルほどの距離を縮地で縮めた。

 同時に体をやや横にズラして、カウンターの上段蹴りを放つ。



「えっ……」


 メキャッ!



 大地のブーツの先は見事にオークの少年の顔面中央を捉えた。

 感触からして頭蓋骨前面が粉砕されているだろう。


 そのまま少年は後方に倒れ込んだ。


「あぅ…… あぅ……」



(ほう、まだ生きているのか…… さすがに頑丈だな)



 大地は瀕死の少年の頭部を軽く蹴った。

 少年の目が父である族長の方向に向く。



 ようやく顔面の火が消えた族長も、こちらを見ていた。

 息子ではなく大地を見て微笑んでいるように見える。



 大地はゆっくりと族長の方に戻り、起き上がろうとしている族長の頸部に回し蹴りを入れた。


 ズギャっ!

 ゴキン!


 明らかに頚椎が折れた音と共に、族長の首が真横に曲がる。


 ズギャっ! ズギャっ! ズギャっ!



 続けて3発左右から蹴った衝撃で頭部が千切れかかっている。

 胴体はびくびくと痙攣を始めた。



 大地は火魔法Lv5、火炎放射で頸部の腱を焼くと同時に頭部を蹴り飛ばした。


 族長の首が少年の目の前に転がって行く。


「と…… と…… う…… ちゃ……」




 大地が涙を流す少年の横に戻って来た。


 少年を極寒の目つきで見下ろしながら無言で足を上げる大地。


「や…… やめ…… て……」



 大地はブーツを少年の顔に乗せ、そのまま頭蓋骨を踏み潰した。


 潰れた脳が耳の穴から水鉄砲のように噴き出している。


 少年が最後に見たものは大地のブーツ裏のビブラムソールだった……




 10分後、モンスター村の広場には全員の姿があった。


 DQNガキたちはまた宙に吊るされ、歯をガチガチと鳴らしている。


 大地の前には平伏したオーク族族長とその妻がいた。



「ダンジョンマスター殿……

 誠にありがとうござい申した……」



「なぜ礼を言う。

 俺はお前とその息子を殺したんだぞ」



 族長はそのおもてを上げた。


「ダンジョンコア殿を脅し、管理システム殿に手を掛けたとあっては、愚息は死罪になって当然。

 いや、親子ともどもダンジョンからの追放か消滅刑となったはずでございます……

 にもかかわらず、愚息に矯正の機会をお与え下さったことに対する御礼でございます……」


「そ、そんな……」


 息子の震えが激しくなっている。



 大地は少年に向き直った。



「ダンジョン内での戦闘は、戦意を見せたときに始まり、必ずどちらかが死ぬまで行われる。

 故にお前がダンジョンコア分位体を脅した時や、システム分位体を殴ったときには戦闘は始まっていたのだ。

 なぜ2人を殺さなかった……」



「あ、あの……

 お、脅せば言うことを聞くと……」


「だから脅した瞬間に相手を殺すための戦闘が始まったと言っただろうに。

 それがダンジョンの掟だ。

 お前は、敵を殺さなかったことでダンジョンの掟をも破ったのだ」


「そ、そこまでは……」


「今後は誰かを威嚇した、つまり戦闘を始めた場合には相手を殺せ。

 そうしてお前が逆に殺されずに生き延びたら、俺がまたお前を殺す。

 生き返っても何度でも殺す」


「あぅ……」



「そして、もしお前たちがコアやシステムの分位体を殺したとしたら……

 俺はオーク族全員を追放する

 お前の父も母も妹もだ。


 このダンジョンにオーク族は不要だと判断し、別の種族を召喚するだろう。

 モンスター同士の争いを禁じた俺の命令に反した種族など要らん」


「あぅあぅ……」



「これからは、誰かを脅して戦闘開始を宣言するならば、そのことを覚悟して始めるように」


「ひぃぃぃぃ―っ!」





「サキュバス族はついて来てくれ」


「「「「 は、はい! 」」」」



「君たちに頼みたいことがある。

 さっきの戦闘は見ていたろう」


 全員がこくこく首を振っている。


「あの戦闘の様子を6人のオーク族の子らの夢の中でリプレイさせることって出来るか」


「は、はい……」


「それじゃあこれから30日間、あいつらが寝たら一晩に一回必ずその『悪夢』を見させてくれ。

 今日のことは2度と忘れないようにさせよう」


「か、畏まりました……」


「あ、そういえば君たちもあんまり戦闘って見たことが無かったはずだよな。

 これ、君らもこれから辛くなるのかな?」


「いえ、大丈夫だと思います」


「私たち、『心の平穏』という魔法を使えるんです」


「それさえかければ、恐ろしかったことや辛かった記憶がどんどん薄れていくんです」


「これから全員で全員にかけあいますのでご心配なく……」


「おー、それいい能力だな。

 トラウマやPTSDを排除出来るのか。


 それじゃあみんなそれで対処してくれ。

 あ、MPが足りなくなったら菓子パン食べていいからな」


「「「「 はい、ありがとうございます…… 」」」」





「ねえタマちゃん、あの『心の平穏』っていう魔法、今度ツバサさまに頼んで俺も使えるようにしようか。

 あと『悪夢』も。


 そうそう、それからさ、『痛覚低減』っていうスキルがあったよね。

 あれの逆で『痛覚上昇』っていうスキルもあると便利だと思うんだ」


「うにゃ、明日天界に出張に行ってツバサさまに頼んでくるにゃ」





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