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*** 43 やっぱり夏至だった…… ***

 


 果樹園予定地の樹木が全て取り払われた。



「そういえばシスくん、君はこの果樹園予定地を土魔法で耕すことは出来るのか?」


(わたくしが耕すというよりは、ダンジョンに作業をさせることになります。

 ですので……)


「そうか、ダンジョンポイントが必要になるのか。

 いくらぐらいだ?」


(100メートル四方当たり5ダンジョンポイントになります)


「外部の土地をダンジョンと認識するときと同じコストか」


(はい)


「それじゃあ肥料を撒き終わったら、土と肥料が良く混ざるように耕しておいてくれ」


(畏まりました)



 その後、淳が大勢のモンスターたちにやり方を教え、500メートル四方の土地に樹木用肥料を撒かせた。

 シスくんがダンジョンに指示して表層土をかき混ぜ、縦横に水路を作り、それを川に面した水門に繋げる。


 その後は穴掘りの得意(好き)なフォレスト・ウルフなどの種族が、木の大きさに合わせて3メートルから10メートルおきに穴を掘って行った。


 そうして、その果樹園には、3週間かけて15種類もの果樹1万本が植えられたのである。



 少しでもダンジョンポイントを節約するために、果樹は収納庫から果樹園まではモンスターたちの手で移送された。

 シスくんが重力魔法で浮かせた木にロープをつけ、みんなで引っ張って行ったのだ。

 もちろん川には大きな橋が土魔法で造られている。




 穴の中に置かれたミカンの木やモモの木などの低木は、まずミノタウロスなどの大柄な種族が支える。


「それじゃあみんな、木の周りに4人立って、真っすぐ立ってるかどうか見てくれー」


 淳の指示で皆が動き始めた。



「ミノ太郎さん、おいらから見て少し右に傾いてます」


「これでどうだ?」


「あと少しだけ…… あーストップ」


「今度はあたしから見て少し左に傾いてるわ」


「よしゴブ美、このぐらいか?」


「あ、そこで止めて!」


「おーい、みんな。真っすぐ立ってるか?」


「「「「 OK! 」」」」



 木の周囲にいた者が答えると、何人かの子供たちが周囲に積んであった土を穴に落とし始めた。


「おーい、隙間が出来ないように少しずつ土を落とすんだぞー。」


「「「「 はーい♪ 」」」」


「よーし、だいたい土を入れ終わったかな。

 それじゃあまず子供たちが木の周りの土を踏んでくれ。


 そうそう、ゆっくりでいいから。

 地面が凹んだらまた少し土を追加して。


 うん、こんなカンジでいいかな。

 次は大人たちが踏んで。

 よーし、水撒き部隊出動!」


「「「 はーい♪ 」」」


 桶から柄杓で水を掬い、みんなで木の周りに水を撒いていく。


「それじゃあ、この調子で次の木も植えるぞー」


「「「 は――――い♪ 」」」




 クリなどの大きな木は、戦闘形態になった大柄なラプトルがしっぽを巻き付けて支えていた。


「ラッピーさん、私から見て少しだけ右に傾いてます」


「これでどうだ?」


 大きな木がゆさゆさと動く。


「わー、すっごい力だなぁ」


「さすがはラッピーさんだ♪」



 周囲のモンスターたちに褒められてラプトルも嬉しそうである。

 ちょっと頬が赤くなっている。

 爬虫類なのに……



 こうして果樹の移植作業は順調に進んで行ったのである。


 この果樹園には、常にマナが満ち溢れているように簡易結界まで施されていた。




「ところで淳さん……」


「なんだい大地くん」


「あの…… モン村の全員に名前をつけたんですか?」


「うん、みんながすっごく喜んでくれるもんでね」


「よく見分けがつきますね……」


「はは、最初は『鑑定』を使って名前を見てから呼んでたけどね。

 今ではもう見ただけで誰だか分かるようになってるよ」


(さ、さすがの異世界愛だ……)




「ダイチさま」


「おおシスくん、どうかしたのか?」


「昼の長さの観測を続けていたのですが、一昨日ピークをつけて昨日から短くなり始めました」


「やっぱり……

 それじゃあ一昨日を6月22日の夏至と定義して、今日は6月24日だな」


「はい」


「それなら秋にはこの果樹のうち何本かは実をつけてくれるかもしれないぞ。

 みんな頑張ってくれたんだから、なるべくたくさんの実が生って欲しいもんだ。

 あ、淳さんの獲得したゴールドにはまだ余裕があったよな」


「はい」


「それじゃあ淳さんに『植物学理解』のスキルも取っておいてもらおうか。

 どうせなら自分でゲットしたものの方がいいだろうから、今度淳さんがモンスターたちと戦ったときには『植物学理解』のスキルスクロールがポップするようにしておいてくれ」


「畏まりました」





 それから1か月ほど経った或る日。


 いつものように、淳がスライムたちを頭の上に乗せたりポケットに入れたりして歩いていたが、下の方のポケットにいる5体のスライムの頭は少し凹んでいて、そこには小さなスライムが2体ずつ収まっていた。


 どうやら無事みんなカップルになっていたらしい。



(ねえパパぁ、ボクもっと上の方がいいなぁ)


(あたちは頭の上がいい♪)


(うーん、それはママに頼んでね……)


(どうしてママたちは頭の上や上のポケットにいて、パパたちは下のポケットなの?)


(それはね……

 ジュンさんの国には『馬鹿とケムリは高いところに上りたがる』っていう言い回しが……)



 パシ―――ン!


(いてっ!)


(子供たちにヘンなこと教えないでよ!)


(へいへい。

 いいかい子供たち、世の中には序列というものがあってだね……)


(( 『じょれちゅ』ってなぁに? ))


(きっと大人になったらわかるようになるよ……)


(( ふぅ~ん…… ))





(ねえタマちゃん……)


(にゃ?)


(なんかスライムも人間もおなじだね……)


(にゃ♪)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 或る日、ダイチが収納空間で魔法訓練をしていたときのこと、シスくんから思念通話が入って来た。


(た、助けてくださいダイチさまっ!)


(どうしたシスくんっ!)


(モンスター村の西側にある倉庫の付近で…… あぐっ!)


(今行くっ!)




 大地はタマちゃんと共に転移でモンスター村に飛んだ。


 だがシスくんの姿が見当たらない。

 大地がシスくんを探す間にも、シスくんは思念でその場の実況を伝えて来ていた。



「おらおら、早く『ぷりん』を出さねぇから痛い目に遭うんだよ!」


「ついでに『かしぱん』も出せや!

 お前とイタイ子が扉を閉めてる収納庫にあるんだろ!」


「だ、だめじゃ!

 あれはモン村の皆が楽しみにしている『おやつ』なのじゃ!」


「なにいってやがるんだこの馬鹿野郎っ!

 5個や10個無くなったって誰も気づくわけないだろう!」


「ついでにダンジョンポイント使って、もっと出せや!

 俺たちの隠れ家に仕舞っておいてやるからよ」


「だめじゃだめじゃ!

 もう2度と皆が飢えぬように、ダンジョンポイントは大切に使うのじゃ!」


「なんだと! お前らそんなにぶん殴られたいのかぁっ!」




 大地はようやく倉庫の裏でシスくんとイタイ子を見つけた。


 10歳ほどの6人の子に囲まれていて、そのうちのリーダーらしき大きな子がシスくんの胸倉を掴んでいる。

 シスくんはそれでも両手を広げて、後ろにいるイタイ子を庇っていた。



「そこまでだっ!」


 大地は大きな声で叫ぶと同時に、シスくんとイタイ子を囲んでいた少年たちを念動力で持ち上げた。


「「「「 うわっ! 」」」」



「だ、ダイチさまっ!」



 タマちゃんがワーキャット姿になってシスくんとイタイ子のところに行った。


「よくがんばったわね。もうだいじょうぶよ」



 イタイ子がタマちゃんにしがみついて泣き始めた。

 きっと安堵のあまり気が緩んだのだろう。


 シスくんも安心したのか泣き始めている。



「話は全部聞かせてもらった。

 お前ら、こともあろうにダンジョンコアと管理システムの分位体から食料を脅し取ろうとしていたのか……」


 同時に空中にいる6人のDQNガキ共に向けて『威圧』を放つ。



 リーダーらしきオークの少年が叫んだ。


「な、なんで命令したのが悪いんだよっ!

 俺は族長の息子で次期族長候補でもあるんだぞ!

 それにすぐに戦士になるし、今のモンスター村少年団でも一番強いんだ!」



「それがどうした」


(E階梯は0.8か…… やっぱりな……)



「な、なんだと!

 お、俺より弱いガキは俺に従って当然だろうにっ!

 俺の命令を無視して『ぷりん』や『かしぱん』を差し出さなかったこいつらが悪いんだっ!」



 ようやくイタイ子もシスくんも落ち着いたらしく、タマちゃんが大地の横に来た。

 タマちゃんが体長5メートルの戦闘形態になる。


「ふしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」


 全身から火も噴出し始めると、宙に浮いたガキたちの股間から液体が迸った。



「おいお前、それは本気で言っているのか?」


 底冷えのするような声で大地が問うた。



「あ、当たり前だ!

 強い奴が族長になって、種族のみんながそれに従うんだ!

 だから強い俺の言うことに弱い奴らが従うのは当然だ!

 お前だって同じじゃねぇかっ!」


「あんだと……」



「お、お前だって、お前だってそこの化け猫に命令して俺たちを脅したじゃねぇか!

 それでみんなに命令してみんなを働かせてるじゃねぇか!

 俺とお前のどこが違うって言うんだよ!」



「ふう、やっぱり莫迦は始末におえんわ……

 お前には、俺のやってることと自分がやったことの違いがわからないんだな」



「だからおんなじだって言ってんじゃねぇか!

 それにお前なんかほんとは弱っちいくせに、子分に俺たちを脅させやがって!

 やい! すぐにここから降ろせ!

 お前なんかこの俺様がボコボコにしてやるっ!」



「仕方ない……

 いまからオーク族の族長のところに行くとしよう」



「はっ! 父ちゃんに言いつけるって言うんか!

 弱虫の考えそうなこったな!

 でもいつまでも逃げられると思うなよ!

 大人のいないところでお前を見つけてボコってやるからな!」



 大地たちは、宙に浮かせたままのDQNガキ共を引き連れて、モン村のオーク族のいる場所へ向かった。


 彼らからはずっと罵り声が聞こえて来ている。




 そうか、うっかりしてたよ。

 これがE階梯1.0以下の連中の発想だったんだな……


 これこそがこの中央大陸に蔓延している思想だったよ。

 はは、モンスターもヒト族も変わらなかったか。



 そういえば地球のヒト族もおんなじだったんだろう。


 日本だって、大昔からこうしたヒャッハー族やDQN族が集まってクニを作って来たんだもんな。


 日本では遥かな昔に国津神の大国主命おおくにぬしのみことが天津神である天照大神あまてらすおおみかみにクニを献上したっていうけどさ。

 要は土着の神さまが天から来た神さまに、戦いと話し合いの末にクニを譲ったっていうことなんだけどさ。


 どう考えても、それ侵略されて武力で脅された結果だろうに。

 神威を畏れてクニを譲ったとか、それ勝者の自己正当化だろうに。


 しかも、クニを譲った後の大国主命おおくにぬしのみことは、幽冥界の主になったっていうんだぜ。

 幽冥界って死後の世界だからな。

 つまり、せっかくクニの支配権を譲ってやったのに、やっぱり殺されちゃったんだ。


 それでその天から来た神さまである天照大神あまてらすおおみかみの子孫が初代天皇である神武天皇だって言うわけだ。

 だから、日本の皇室は神の子孫だってみんなが教え込まれてたんだよ。

 1500年間も。

 天照大神あまてらすおおみかみは日本人の総氏神だそうだし。



 もうさ、自分や祖先を神だって言い出してるところから、どうかしてるよな。


 中世ヨーロッパの『王権神授説』も酷かったが、日本の『天孫降臨』はもっと酷いわ。

 現人神あらひとがみとか人間宣言とか、近代世界史上でも他に類を見ない異常行動だったよなぁ。

 その「ウチの王は神なのである!」っていう思想って、古代エジプト文明や古代マヤ文明のものだぞ。

 現代では、僅かにネパールのカトマンズで幼女をクマリとして認定して現人神として扱うけど、あれ別に国家元首じゃないからな。

 そんな原始的な宗教を、つい75年前まで信じきってたんだもんなぁ。

 本人たちやその取り巻き達やそれを信じて熱狂してた日本国民は恥ずかしくなかったんかね?


 それで、『神であらせられる天皇陛下のご宸襟を安んじ奉るためにも、五族共和の王道楽土を打ち立てるのだ!』って主張して、周囲の国に侵略して行ったんだもんな。


 天皇の人間宣言から75年も経ったから、ありがたいことに当時そういう教育を直接受けた連中は死に絶えつつあるけどさ。

 でも、今の50歳以上の世代って、『我が国は世界でも唯一の神の国なので清く正しい国なのだ!』っていうことを信じていた世代の教師に教育を受けてたんだよ。


 だいたいだな、火薬が発明されて1000年経つけどさ。

 その火薬を用いて自殺的突撃を敢行した軍はたくさんいたけどさ。

 自爆を前提にした攻撃を組織的にしたのって、中東の宗教狂信者と旧日本軍だけだぞ。

 しかも、どっちも自分たちの神の名を讃えながら爆死していったんだ。

 『○○アクバル!』とか『○○陛下万歳!』とか叫びながらな。

 あのナチス・ドイツですらそこまではしなかったのに。


 そんな世界史上最悪の狂信者だらけだった国が、たった75年で『自衛しかしませーん♪』『交戦権は放棄してまーす♪』とか言っても誰も信じないのは当たり前だよな。

 だって、俺たちの祖父や曾祖父の世代は、今の中東の武装勢力並みの宗教狂信者だったんだもの。


 俺たち日本人は、自分たちがそういう史上最凶の狂信者たちの子孫だっていうことを忘れるべきじゃないわ。

 特に、そうした世代がジジババになってまだ生き延びてたり、現人神だった人物を祀った神社が正月の初詣数日本一になってるうちは……




 そう……

 大量殺戮によってクニを作ったヒャッハーやDQNたちって、みんな神の名を借りて、もしくは神を騙って自分たちを正当化したがるんだよ。

 下克上で主君や親兄弟殺しまくって成り上がった戦国大名だって、朝廷にカネ払って役職貰って喜んでたし。

「俺は神に認められたんだから、正しいのだ!」って……


 本物の神界がそんなこと認めるわけないのに。


 きっと血塗られた自分の手を見て怖くなったんだよ。

 だから『殺された者たちは、神が認めたかもしくは神自身である自分に従わなかったから、殺されて当然だったのだ』って思い込みたかったんだろう。



 日本では1500年ほど前、最も侵略好きなヒャッハーが『朝廷』とか『天皇制』とか言うもんを作って、周囲の民を暴力で脅すか殺すかして服従と尊敬を押し付けて。


 ただそれに従わない、自分たちを尊敬しないっていうだけの理由で『征伐』とか『征夷』とか称して殺しまくって……


 物部氏が滅ぼされたのも、源氏と平氏が争ったのも、みんなおんなじヒャッハー野郎たちの武力支配主義によるものだわ。


 因みに歴史の教科書なんかには、よく『○○が××を滅ぼした』っていう表現があるけどさ。

 あれってつまり、乳幼児から子供から大人まで全員虐殺したっていうことだかんな。

 婉曲表現に騙されないように。



 戦国時代だって下克上だって、ヒャッハー族が暴力で他人を支配するのが当たり前だと思って行動していたに過ぎないんだ。


 中世の欧州暗黒時代も近世にかけての植民地主義も2度にわたる世界大戦も、元を正せばこうしたヒャッハーたちの思想と欲望から出たもんなんだよ。


 よく、「私ども〇〇家は、旧華族の家柄ですのよ、おほほほほ」とか言ってるおばはんがいるけどさ。

 それって、自分が大量殺戮ヒャッハーの子孫だって言ってるに等しいんだけどな。

 そんなことにも気づかないほどアフォ~なんか。



 地球人類クロマニョン5万年の歴史のうち、『民主主義』やら『人権』だのが広まったのはついここ100年ほどだったよ。


 それまではずっとヒャッハー族による武力至上主義だったわけだ……


 ということは、ここでこいつらを矯正するのって、これからのアルスをどうするのかっていう試金石になるのか……


 よし、真剣にやるぞ!






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