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*** 42 ツンデレスライム ***

 


 淳は、大地に連れられて膨大な量の物資と共にアルスにやってきた。


 ダンジョン前広場では全てのモンスターが並んで出迎えている。



「お、おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――!」


 いきなり淳が膝をついて泣き出した。


 モンスターたちを見渡し、ダンジョン周囲の大森林を見渡し、その泣き声は止まらない。



「み、みんな。

 こ、このひとは地球で俺の兄貴分だった淳さんだ。

 アルスでダンジョンマスターの仕事を補助するために来て貰ったんだ。

 よろしく頼むぞ」


 モンスターたちが一斉に頭を下げた。


 スライム族は頭らしき部分を盛り上げて、それを下げている。



「種族会代表のゴーレム族族長、ちょっとこっちに来て挨拶して貰えるか?」


「御意」



 ゴーレムが淳の前に来た。


「ご、ごごごご、ゴーレムっ!」


「ああすまん、淳さんはまだ『異世界言語理解』のスキルを取得していないんで、君たちと会話が出来ないんだ。

 でも戦闘訓練を始めたらすぐにスキルも得られるだろうから、そのときはここのダンジョンのことをいろいろ教えてやってくれ」


「御意のままに……

 ジュンさまと仰られるか。

 これからよろしくお願い申す」



 ゴーレムが手を差し出した。



「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――!」


 淳が相変わらず大泣きしながらその手を握る。



(のうマスターダイチよ。この御仁は大丈夫なのかえ?)


(ああイタイ子、ちょっと異世界が好きすぎて初めて来た今は取り乱してるけど、有能でいいひとだよ)


(そうかえ……)


(でもまあ3日ぐらいは役に立たないかもね……)


(………………)





 淳は本当に3日間役に立たなかった。


 だが……


 その後は時間停止収納部屋内に設けられた特設ダンジョンで、猛然と訓練を開始したのである。


 最初は1体のスライム・ソルジャーにボコボコにされて死んだ。


 顔面にスライムアタックが入り、自分の鼻血を見て気が遠くなったところに連続アタックを受けて10秒で死んでしまったのである。

 その日は立て続けに10回も殺されてしまっていた。



(ねえタマちゃん、スライムたちって俺との訓練で全員が進化しちゃってて、最低でもLv8のスライム・ソルジャーになっちゃってるからさ。

 新しくLv1のスライムを召喚しようと思うんだけどどうかな?)


(うにゃ、そうしないと殺されてばっかりで、いつまで経ってもジュンのレベルが上がらないにゃ)


(シスくん、イタイ子に言って、Lv1のスライムを10体ほど召喚してくれるか)


(畏まりました)




 淳とレベル1のスライムはけっこういい戦いをした。

 戦績はほぼ五分五分である。


 ただ、淳は戦いの最中になにやらぶつぶつ呟いていたのである。

 不思議に思った大地は『聴覚強化』でその呟きを聞いてみた。


「こ、これは血じゃない、ただの赤い汗なんだ……」


 淳は繰り返しそう言っていた。


 それからまもなくして、淳は血へのトラウマを克服したようだ。

 どうやら異世界愛がトラウマに勝ったらしい。



 そうした戦いを続けているうちに、淳もスライムたちも徐々にレベルが上がって行った。

 そして、体感時間で3か月後、遂に淳はレベル8に届いたのである。


 大地はイタイ子に頼んで、既に『異世界言語理解』のレベル1からレベル3までのスキルスクロールをドロップさせてもらっていた。



「淳さん、おめでとうございます。

 遂にレベル8になったんで、『異世界言語理解Lv1~3』が使えるようになりましたよ。

 これでもうモンスターたちとも会話出来ますね♪」


「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!」




 淳はもちろん戦闘訓練は続けたが、それ以外の時間は常にダンジョンにいた。

 そうして大地に次々とモンスターたちの生活改善を提案して来たのである。

 もちろん製材作業も大幅に捗っていた。



「モン村ではみんな広場で雑魚寝してるんだ。

 だからダンジョンに小部屋をたくさん作ってあげて、種族ごとの部屋とか家族のいるひとには個室を作ってあげたいんだけど……」


「承認します。

 シスくんと相談してすぐに作ってあげてください」




「そういえばモン村ではみんな地面に木の枝や草を敷いて寝てるんだ。

 せめて子供たちにはマットレスを配ってあげたいんだけど……」


「よく気づいてくれました。

 地球でマットレスを買って持って来ますか?」


「いや、いきなりそんな文明の利器を持ち込むより、丈夫な布で箱型になった袋を買って来てそこに草を詰めてやろうかと思うんだ。

 ちょうど製材作業で払った葉っぱがたくさんあるし」


「虫がついてたりすぐに汚れちゃったりしませんかね?」


「だから『クリーンの魔道具』を置いた洗濯部屋も作ってあげたいんだけど……」


「承認します」




「あの……

 川沿いの空き地にお風呂を作ってあげたいんだ……

 川の水が冷たくって、寒さに弱い種族の子供たちの唇が紫色になってるのが可哀そうで……」


「もちろん構いませんけど、熱の魔道具だけでお湯が沸かせますかね?

 それから体を洗う場所は?」


「水は川から水路を引いて来るつもりだけど、湯沸かしについては熱の魔道具と併用して、ケイブバット族に火魔法で火球を出して貰おうと思ってるんだ。

 もうみんな結構レベルが上がってて5人ぐらいは出せるようになってるから」


「なるほど。

 それじゃあケイブバットたちには湯を沸かしたら菓子パン食べ放題って伝えてください」


「ありがとう。

 それから洗い場については、みんな湯につかる前に『クリーンの魔道具』を置いた部屋に入って体を綺麗にして貰えばいいんじゃないかな。

 それから出来れば『温風の魔道具』を置いた乾燥小屋も作りたいんだけど……」


「だったら排水もあんまり汚れないですね。

 承認します。

 あの辺りは既にダンジョンになってますから、シスくんに言って作って下さい。

 魔道具が足りなければ妖精族に依頼して下さい」


「ありがと」




 そうした提言や視察を行う淳の傍らには常に10体のスライムがいた。

 頭の上に1体、肩の上に2体、ポケットに2体、後は足元にいる。


 どうやらレベル1で召喚されて淳と戦い、一緒にレベルを上げているうちにマブダチになったらしい……



(おーいスラ太、そろそろスラリンと交代だぞー)


 淳の頭の上のスライムが跳ねた。


(ええ―――っ! もう?)


(ああ、1時間経ったからな)


(スラ太、早くどきなさいよ!)


(わ、わかったよスラリン……

 とほほ、これであと5時間は地面の上か……)


(そうね、あたしの次はスラミで、その次はスライルで……

 みんな待ってたんですもの)


(はいはい……)




「あ、あの…… 淳さん……

 スライムたちに名前をつけてやったんですか?」


「うん、みんな個性的でいいやつらだよ♪」


(み、見分けがつかねぇ……)




 淳が物資調達のために地球に戻り、帰って来たときにはやたらに大きなポケットがたくさんついた服を着ていた。


 そうして、そのポケットには全てスライムたちが入っていたのである。


 だが、やはり頭の上が一番人気だそうだ……



 また、淳がモン村に現れると、菓子パン目当てに子供たちが集まって来てもみくちゃにされている。


 淳の顔は恍惚としていた。



(ちょっとうらやましい……)



 大地の頭の上のタマちゃんが、しっぽで大地の肩をぽんぽんと叩いた。


(大地にはあちしがいるにゃあ……)


(うんそうだね、ありがとタマちゃん……)


(うにゃ)



(ところでタマさん)


(にゃ?)


(頭の上というものはそれほどまでに居心地がいいものなのですか?)


(もちろんにゃ。

 眺めがいい上に自分の足で歩かにゃくてもいいからにゃあ♪)


(さいでっか……)





 数日後、淳が言って来た。


「そう言えばそろそろ夏至かもしれないね」


「なんでわかるんですか?」


「スライムたちがなんかそわそわしてるんで、どうしたのか聞いてみたんだよ。

 そうしたら、昼が一番長くなる日の前後がスライムの恋の季節だって言うんだ」


(スライムの恋の季節……)



「どうやら女の子が男の子に一緒に子作りしてくれるように頼むらしいんだけど、それで声をかけて貰えるかどうかって、男の子たちが戦々恐々としてるんだ」


(バレンタインデーの男子生徒みたいなもんか……)



「特に今年は召喚されてすぐの若い独身スライムたちがいるからね。

 既に子供のいるスライムはそうでもないんだけど、若い連中は相当にナーバスになってるんだよ」


(独身と妻帯者の区別もあるのか……)


「だから今は6月中旬ぐらいなんじゃないかな。

 今のうちに果樹園に果樹を移植しておけば、秋には少し実が生るかもね」





 また数日後、満月が綺麗だったので大地が外に出てみると、岩山の中腹に一体のスライムがいた。


 別の一体がぽよぽよと近づいていく。



(どうしたのスラ太、こんなところにひとりでいて)


(あ、ああスラリンか……

 ちょっと落ち込んでたんだ……)


(なにかあったの?)


(だって…… だって、どの子もボクに声をかけてくれないんだもん……

 もうみんな子作りの相手も決まっちゃってるみたいだし……)



 ……それ…… みんなが2番目に強いあたしに遠慮してるからだって気づかなかったのね……

 相変わらずニブイ子だわ……

 同じ時期に召喚された仲間の中では1番強いっていうのに……


 そ、それに、あたしが恥ずかしくって躊躇ってたせいでスラ太を落ち込ませてたなんて、ぜ、絶対言えないわね……



(なんか言った?)


(い、いえ、なんにも言ってないわよ!)


(そう……

 そ、それにさ……

 前からダンジョンにいるお姉さんたちは、ボクのことなんか見向きもしてくれないし…… 

 うっ、うううううっ……)


(なに泣いてるのよ、男のくせに)


(だって…… だってだって……)


(し、ししし、仕方ないわね。

 す、スラ太が、か、かかか、可哀そうだから、あ、あああ、あたしが相手になってあげてもい、いいわよ……)


(えっ……)


(か、勘違いしないでよっ!

 スラ太が可哀そうだから言ってるんだからね!

 そ、その代わり子育てはちゃんと手伝うのよっ!)


(う、うわぁぁぁぁぁ―――ん!

 スラリンありがとぉ――――っ!)


(ち、ちょっとちょっと!

 いきなり抱き着いて来ないでよ!)


(うぇぇぇぇぇぇ―――ん!)


(しょうがない子ねぇ…… よしよし♡)



 そのあと、月を見ながら寄り添って、ハート形になっている2体のスライムの姿があったらしい……





(ねえタマちゃん……)


(にゃ?)


(スライムにもツンデレっているんだね……)


(にゃ♪)





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