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408/410

*** 408 褒賞 ***

 


 ゲマインシャフト王国とゲゼルシャフト王国の主要都市を結ぶ幹線道路網が完成した。

 どちらの国も厚く積雪に覆われていたが、ストレーくんの本体が夜の間に雪を収納し、おなじくシスくんの本体がコツコツと道路を作っていったのである。


 春になって雪が融ければ、あの全国各地にあった避難所の転移の輪は緊急時を除いて使用停止になる。

 代わって大きな街を繋ぐ長距離馬車便網が整備される予定になっていた。

 ダンジョン国の外れに作られた保護結界付きの馬場では、今日も大勢の馬たちによる馬車曳き訓練が行われている。



「ぶひぃ―――ん。ひひん」

(意訳:おーい、午前中の訓練を終えるぞー。

 昼飯を喰ったら、午後は坂道コースの練習だぁ)


「ひひひん」

(意訳:ブラッキーのアニキ、今日の昼飯はなんですかね)


「ひひいん、ひんひん」

(意訳:いつもの穀物とサイレージだな。

 野菜もたっぷりついてるぞ)


「ぶひひん……」

(意訳:あの、デザートは……)


「ひひいん、ひん」

(意訳:たしか今日はリンゴと黒糖だったか)


「「「 ひひーん! 」」」

(意訳:やったぜ!)


「ひひん、ひん……」

(意訳:あの、アニキ、リンゴを厩舎に持ち帰ってもいいですか?

 うちのヨメがいま妊娠してまして……)


「ひん? ぶひんひん」

(意訳:ん? もちろん妊娠中の牝馬には栄養たっぷりの食事が振舞われてるけどな。

 だがまあ好きにしていいぞ。

 後で袋に入れて首から下げてやろう)


「ひひーん!」

(意訳:ありがとうございます!)



「ぶひひひん」

(意訳:それにしてもこの『だんじょんこく』の待遇はいいよなぁ)


「ひひん、ひひん」

(意訳:そうだな、『ですれる』じゃあ道端の草しか喰わせて貰えんかったからな)


「ぶひんひんひん」

(意訳:それにここだと戦に連れていかれて死なずに済むし)


「ぶひひひひ……」

(意訳:俺なんざ、『ぺすとん』とかいう奴のところで、危うく喰われちまうところだったからな……)


「ぶひんひん」

(意訳:それにしてもありがたいことだ)


「ぶひひひん……」

(ヨメや子まで世話になってるし……)


「ぶひひひひ」

(意訳:まあその分一生懸命働くかね)


「「「 ぶひーん! 」」」

(意訳:おう!)





 しばらく経った或る日。



「ひひひん?」

(意訳:なあ、なんかあいつ元気無いけどどうした?)


「ひんひんひん」

(意訳:ああ、昨日厩舎に帰って生まれたばかりの娘にほおずりしようとしたら、ヨメの後ろに逃げられたんだと)


「ぶひひひ! ひひん」

(意訳:はは、牡馬親あるあるだな!

 そんなもんおやつを食べずに持ち帰って食べさせてやれば、すぐに懐いてくれるぞ)


「ぶひいいん」

(意訳:だけど生まれたばかりだろ。

 だからリンゴだのニンジンだのはまだ食べられないんだよ」


「ひひん……」

(意訳:ということは……)


「ひひんひん。ぶひ」

(意訳:そうなんだ。食べられるのはプリンぐらいなんだ。

 だからあいつ、これから当面プリン喰えなくなると思って落ち込んでるんだよ)


「ぶるるるる!」

(意訳:あはははは!)



 翌日。


「ぶひん」

(意訳:なあ、あいつまだ落ち込んでるぞ)


「ぶひひんひん」

(意訳:それがな、娘の前にプリンを置いてやって、娘が食べてる隙にほおずりしようと思ってたらしいんだが、それを察知した娘がプリンの器を咥えてヨメの後ろに逃げってったんだと)


「ぶるるるるるるる!」

(意訳:あはははははは!)




 国営乗合馬車便会社の長距離乗用馬車は、30人乗りの大型が多い。

 だがもちろん、大型ゴムタイヤと重力の魔道具と、シスくんの作った滑らかな道のおかげで平地は2頭立てで進むことが出来た。


 また、路線沿いには各地に馬たちの休息所も作られている。

 春になって正式運行が始まったら、馬たちは2時間ほどの馬車曳きの後は交代して1時間の休息を取れることになっていた。


 また、長い坂道の手前には、大きめの休息所もある。


「ぶひぃ―――ん!」

(意訳:おーい、馬車が来たぞぉ。

 次の担当は誰だぁ)


「「「 ぶひーん、ひひひん! 」」」

(意訳:おいらたち4頭でやす!)



 こうして坂道の上りは、臨時に6頭立てになって馬車を曳いていくのである。

 坂の頂上まで馬車を曳いた補助馬たちは、そのあとてくてくと歩いて坂道下の休息所に戻り、ご褒美のおやつをもらえる制度になっていた。




 そして平野部では。


「なあ、このリンゴの箱に『馬車の燃料、1個石貨2枚』って書いてあるけど、どういう意味なんだ?」


「ああ旦那、それ買って馬にやると馬車の速度が少し上がるんでさ」


「お父ちゃん、お馬さんにリンゴあげてもいい?」


「あ、ああいいぞ、2頭いるからリンゴ2個だな。

 石貨は何枚いるかな?」


「んーとね、んーとね、4枚!」


「よーしよく出来たな♪」


「えへへへ♪」


「ほら、石貨4枚だ」



「はいお馬さん、『ねんりょう』よ♪」


「「 ぶひひひひひ―――ん! 」」

(意訳:お嬢ちゃんありがと―――っ!)


「うおっ!

 ほんとにすげぇ速くなったぞ!」





 ゲゼルシャフト王国、ゲマインシャフト王国に於ける長距離馬車便の運航距離は、1日につきだいたい80キロほどだった。

 夜間運行はまだ行われていないために、夕方になると乗合馬車は宿場町に入り、乗客はそのまま宿屋ギルドが経営する宿に泊まることになる。

 もちろん大浴場つきである。



「ここの宿場はいつも賑わってるな」


「いや、これでも空いてる方だよ。

 収穫期の後は『もはんむら』の連中が王都や旧公爵領都へ遊びに行くのに大型馬車を雇って団体で来るからな」


「そうか、まあそのおかげで俺たちの仕事があるんだがな」


「お客さんは何の仕事をしてるんだい」


「俺たちは、最近その『もはんむら』の収穫を商会の支店に運ぶ運輸ギルドで働き始めたんだ。

 あっちこっち旅が出来る仕事がしてみたかったんだよ」


「そうか。

 それにしても、あれだけの麦を運ぶのは大変だろうな」


「まあ仕事だからな」



「さあ、この宿場町の名物は海鮮料理だ。

 まずは各種の『おさしみ』を楽しんで貰って、そのあとは『ぶいやべーす』か『ぱえーりゃ』か『かいせんなべ』かを選んでくれ」


「なあ、焼き肉や『ういんなー』は無いのかい?」


「肉料理は隣の宿場町だな。

 ジャガイモ料理や『ぴざ』はさらにその隣だ」


「なんでどの宿でも全部出さないんだろうな」


「なんでもあのダイチさまのご提案だそうだ。

 宿場町ごとに名物料理を作ると、旅が楽しくなってまた旅をしたくなるだろうってな。

 それに、あれだけの種類の料理があると宿もたいへんなんだよ。

 だからこうして名物料理があったほうが楽なんだ」


「それもそうだな」


「全種類揃っているのは、王都の商会本店ぐらいだ。

 あの『うなどん』もあそこでしか食べられないし」


「『うなどん』かぁ……

 なにしろ銀貨4枚もするからなぁ。

『ミニうなどん』でも銀貨2枚するし。

 頑張って働いていつかは喰えるようになりたいけど」


「あれは旨いからなぁ」


「おやじさんは『うなどん』を食べたことがあるのかい?」


「ああ、こうやって宿屋の厨房を任されるには、王都の料理学校で『料理人』の資格を取らなきゃなんないんだ。

 その時に講師の料理師さんが作ったものを食べさせてもらったんだよ」


「そいつぁ羨ましい話だ」


「だが他にも旨い物はいっぱいあるだろう。

 昼食用にどの宿場町でも『らあめん』や『ちゃあはん』は食べられるぞ。

 それに、宿場によって『らあめん』は『羊骨らあめん』だったり『みそらあめん』だったり『しょうゆらあめん』だったりするしな。

 小腹が空いたら『たこやき』や『やきそば』や『イカ焼き』も売ってるし」


「どの『らあめん』も旨いし、あの『たこやき』や『やきそば』や『イカ焼き』も旨いよなぁ。

 いつもどれにするかですげぇ迷うんだ」


「どの宿場町の『たこやき』や『やきそば』も、それぞれ『そーす』の味が違うのは知ってるか?

 だから食べ比べてみたら楽しいぞ」


「そうか、それぁ楽しみだ。

 これがあるから運輸ギルドの仕事はやめられないんだよ」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 或る日のダンジョン国幹部会にて。


「みんなのおかげでようやくヒト族もその他種族も助かる目途が立ったよ。

 ありがとう」


「まさか中央大陸の民2500万も大森林の動物たちのほとんども面倒見る事になるとはのう。

 よくぞ食料を用意出来たもんじゃ」


「まあ特別模範村と地球ダンジョンのおかげだよ。

 魔道具やドロップ品が地球であんなに喜ばれるとは思っていなかったけど」


「まあ結果として素晴らしく上手くいったの」



「それでだ。

 俺たちも少しゆっくりさせてもらおうと思うんだが、今回もみんなになにか報奨を渡したいんだよ。

 何がいい?

 また地球にでも行くかい?」


「あのなマスターダイチ、多分無理だとは思うんじゃが、一応神界にお伺いを立ててもらえんかの……」


「何が欲しいんだ?」


「あのな、妾も大きなおっぱいが欲しいんじゃ……」


「!!!!」


「じゃから、この分位体の体をもう少し成長させてはもらえんものかのう……」


「し、神界ならたぶん出来るんじゃないかな。

 それで何歳ぐらいの体がいいんだ?」


「マスターダイチは確かもうすぐ17歳じゃったか。

 ならば16歳ぐらいがいいかの」


「それじゃあタマちゃんからツバサさまに聞いてもらおうか。

 ところでシスは何がいいんだ」


「あの、わたしも16歳ぐらいの姿になりたいです……」


「ストレーとテミスとシェフィーとライブは?」


「僕も16歳ぐらいになりたいです」


「もしよろしければわたくしも」


「わたしも16歳の体がいいです」


「あの、マスターダイチしゃま。

 わたしはこのままの姿でいいでしゅから、今の5倍の胃袋と10倍の消化能力が欲しいんでしゅけど……」


(ライブ……

 おまえはなにを目指しているんだ?)



「わかった。

 それじゃあタマちゃん、ツバサさまに聞いてみてくれるかな。

 あ、ダンジョンポイントはいくらかかっても構わないから」


「にゃ。

 ついでにあちしもワーキャット姿を16歳にしてもらってもいいかにゃ?」


「もちろんいいよ」


「ありがとうにゃ♪」




 神界の神さまたち:


「おお!

 ツバサ経由でダイチから要望が上がって来ておるぞ!」


「なんだなんだ! 今度はなんだ!」


「なになに、配下の者たちに褒賞を与えたいので以下の願いをお聞き届けいただけませんでしょうかだと……」


「なんじゃ……

 自分の褒賞が欲しいのではなく、配下の者に褒賞を与えたいと言うのか」


「あ奴らしいのう……」


「しかも単に分位体やタマの年齢を上げてやって欲しいだけのようじゃ。

 約1名変わった希望もあるが」


「なんじゃそんなんでいいのか……」


「今なら、あ奴が望めば惑星のひとつぐらいはくれてやってもよいのにのう……」


「ほんに欲のない男じゃの……」


「まあ欲が無いからこそあれだけの大成功を収めたのじゃろう……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 タマちゃんや分位体たちの願いは聞き届けられ、全員が16歳の姿になった。


 大地は、新しい姿のお披露目会を兼ねてまた海辺でバーベキューパーティーをしようと思い、みんなに念話を飛ばした。


 そして、全員が浜辺に集まってみると……



「なんでライブ以外全員裸なんだよぉぉぉっ!」


「それは仕方なかろう。

 この16歳の体に合う服なぞ持っておらんからの。

 そんなことよりどうじゃ、妾の16歳の姿は♪

 おっぱいもこんなに大きくなったぞえ♪」


「た、確かに大きいね……」



「お、シスのちんちんも随分と大きくなったのう」


「い、イタイ子ちゃんのおっぱいも大きいね……」


「のじゃ?

 なぜさらにちんちんが大きくなって来ておるのじゃじゃ?」


「な、なんかイタイ子ちゃんを見てたらこうなっちゃった……」


「ほう!

 妾の体を見るとちんちんが大きくなるのか!

 ならばもっと見よ、ほれほれ♡」



(あー、16歳だからなぁ……)



「ダイチダイチ、あたしのワーキャット姿はどお♡」


「う、うん。かっこいいよ……」


(あー、マジですっげぇプロポーションだわ。

 美人になるのは予想出来たけど、これだけの美人さんがマッパワーキャットになると……

 色即是空、空即是色……)



「ダイチさま、わたしの16歳の姿は如何でしょうか……」


「うわっ、お前シェフィーか!

 なんか随分と女らしくなったなぁ……」


「ありがとうございます♡」


(シェフィーも綺麗になったよ。

 本物の妖精みたいだ……

 これ日本で歩いてたらトンデモな騒ぎになるぞ。

 くくっ、そ、そんな子がマッパで微笑んでるなんて……)



「ストレーさん、わたしの16歳の姿はどうですか?」


「う、うん、テミスちゃん。

 すっごく綺麗なんでびっくりした……」


「ストレーさんも逞しくって素敵ですよ♡

 それであの……

 ストレーさんのおちんちんが大きくなって来たのは、わたしの体を見て下さったからですか?」


「う、うん。たぶんそう。

 な、なんかごめんね……」


「いえ、とっても嬉しいです♡

 ありがとうございます♡」



(テミスはストレーに気があったんだな。

 そういえばいつもストレーの倉庫で働いてたか……)



「ライブは……」


(あー、もう自分で焼いてバーベキュー喰い始めてるよ……

 こいつだけ姿が変わってないからほっとするわー)





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