*** 406 改革 ***
大地はスラさんに依頼して国連で記者会見を開いてもらった。
その内容は、
『現在の地球の技術力から見て、核分裂を利用した発電、いわゆる原子力発電はあまりに原始的で危険極まりないものである。
幼児の火遊びに等しい』
『少なくとも核融合発電が実用化されるまでは、核分裂発電は封印されるべきであると神界は勧告する』
『また、火力発電についても環境への配慮が全く足りない。
銀河の先進惑星で火力発電を行っている世界は皆無であり、それだけで原始惑星と見做される』
『このため、神界は『水の魔道具』と『転移の魔道具』を使用した揚水式発電所の設置を支援する用意がある』
『ダム建設適地が無い場合には、人工丘陵の設置や山脈の内部などに地下式ダムを設置することも可能である』
この発表も世界を震撼させた。
地球の技術力は銀河先進世界から見れば児戯に等しかったのである。
もちろん原子炉を製造する重電メーカー幹部たちや原発プラント企業の者は皆白目になっていたが。
この結果、世界75カ国で320か所の揚水発電所が造られることになった。
この発電所用のダムについては現地水源を使用する必要が無く、すべて水の魔道具で賄えたために、新たな農地も大幅に拡大されることになっている。
山地が無い場所でも、ゴビ砂漠の砂を固めて標高差200メートルほどの2つのダム湖が造られていた。
この施策により、世界のほとんどの原子力発電所や火力発電所建設計画は凍結されることになった。
なにしろ同じ発電量で建設コストが1000分の1以下で済み、ほとんど発電機のコストしかかからないのだ。
それも水量が無制限のために発電機はいくらでも設置出来るのである。
ランニングコストに至っては人件費以外ほとんどゼロであり、もちろん環境汚染もゼロである。
また、水力発電所が火力発電所に比して不利な点は、その設置条件によって電力大量消費地からの距離が遠くなってしまうことである。
このために、大地は直径30センチほどの電力ケーブル専用転移の輪の設置も許可してやった。
これにより送電線設置の必要も送電ロスも無くなり、発電所から大都市近郊の変電所までの電路も確保されたのである。
この事態を見て、多くの砂漠を抱えて水不足と農地不足と電力不足に悩むイスラム諸国はまたもスーパーぐぬぬ状態になっていた。
また、別の記者会見では神界より以下の内容が発表された。
『弾道ミサイル発射実験と地下核実験は、全て人類に対する脅迫と見做し、これを排除する』
『この勧告に反した国家の原始的な核兵器用核分裂物質は、全て神界が没収する』
というものである。
多くの核保有独裁国家はこれを「やれるものならやってみろ」と鼻で笑った。
そして、またも朝鮮民主主義人民共和王国が太平洋に向けて弾道ミサイル発射実験を行ったのである。
もちろん発射時の赤外線はアメリカ、ロリシア、中国などの偵察衛星によって探知されていた。
北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)は、サンタの映像と同様にこの飛翔体の追跡映像をリアルタイムで配信している。
だが、弾道ミサイルは朝鮮王国の領海を出た地点で忽然と消え失せたのだ。
朝鮮王国は神界に対し猛然と抗議した。
『あれは弾道ミサイルではなく、我が国の誇る最新型人工衛星を打ち上げるための宇宙ロケットである!
貴重な人工衛星が失われた責任は全て神界にあり、神界は我が朝鮮王国に直ちに謝罪の上賠償金を支払え!』
というものだった。
これに応えて、神界は『収納』していた弾道弾ロケットと人工衛星を公開した。
もちろん、宇宙ロケットの燃料容積は全く足りず、衛星軌道には届かないものだった。
そして……
最新型人工衛星と称する物の中身は、朝鮮民主主義人民共和王国の国歌を延々とリピートしている旧式のラジカセだったのである。
大地は最新のCDプレーヤーを買ってリボンで飾り、クリスマスに神界名で国王陛下の枕元に置いてあげていたらしい。
地下500メートルに建造されていた対核兵器シェルター宮殿内の寝室に置かれたプレゼントは、国王陛下をいたく狼狽させたそうだ。
もちろん北朝鮮王国が数十億ドルもかけて濃縮していた核分裂物質は全て没収され、砂漠の砂とすり替えられている。
また、弾道兵器の実験・使用禁止措置を受けてロリシア連邦共和帝国の兵器開発部門は色めき立った。
これで開発中の『超長距離核魚雷』が実戦配備出来れば、世界中で大陸間核攻撃能力を持つのは我がロリシア帝国だけになるだろう!
この核魚雷とは、精密誘導装置を搭載し、世界最高の潜航深度を誇る無人潜水艦であった。
ハイドロジェット推進方式を採用したことにより極めて高い静粛性をも持つ原子力潜水艦であり、その航続距離も優に地球を何周も出来るほどのものである。
ウラジジオストックからサンフラフランシスコやロロサンゼルス、ヌーヨークを狙って攻撃可能な恐るべき兵器であった。
だが、プーチンチン大統領はこの開発計画の全面廃止を決定したのである。
クレムリン宮殿の屋上に鎮座し、『暴発注意』と書かれた垂れ幕の下がる核魚雷の姿が目に浮かんだらしい……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中華帝国貿易省と財務省は、皇宮府からの助言に基づいて『貿易均衡法』を施行した。
これは、まず国家全体の貿易黒字を当初GDPの1%以内にすることを目指し、5年後にはゼロにすることを目標とするものである。
具体的には輸出額が輸入額を大幅に上回る大企業に対し、懲罰的追加法人税を課すものであった。
(除く神界への輸出額)
その追加法人税収によって、貿易省が直接に海外からの輸入を行うのである。
輸出企業は戦慄した。
愚かな経営者は今までの庇護者であった貴族に賄賂を渡してこの懲罰法人税を逃れようとしたが、もちろんいくら貴族家に賄賂を渡しても元老になってしまっている貴族たちは全く無力である。
冷静な企業経営者たちは、社内で新たに輸入部門を立ち上げて輸入品の販売を行った場合と、懲罰法人税を支払うことの比較分析を行わせた。
その結果、貿易黒字額と同額の輸入品を購入して販売した場合、購入額の35%の赤字がおおよその損益分岐点だったようだ。
これにより、中華帝国国内ではあっという間に大量の輸入品販売子会社が設立されて行ったのである。
むろん関税率は最低額が適用されている。
折から所得が倍増していた農村部に於いて、これら輸入高級品は好調な売れ行きを見せたために、こうした輸入企業もギリギリ赤字は出さずに済んでいるらしい。
この中華帝国の革新的貿易政策を見て最も狼狽したのは、同じ貿易黒字国日本である。
もしも同様な法を導入したとしたら、輸出企業からの政治献金も経産省外郭団体への寄付金もゼロになってしまうではないか!
このために、経産省に対して密かに貿易統計の改竄が指示されたが、これが内部告発によってリークされたために大騒ぎになっていた。
(実はシスくんの仕業♪)
すぐに国会で証人喚問が行われたが、このときはもちろん首相も経産大臣も経産省次官も貿易局長も、この改竄指示疑惑を完全否定した。
だが……
証人喚問が終了した直後、日本国内の全てのマスコミに、赤坂の料亭に於いて首相と経産大臣が事務次官と貿易局長に統計改竄を命じていたシーンの映像が送り付けられて来たのである。
(もちろんこれもシスくんの仕業♪)
首相が『国民もマスコミも阿呆だからの。経産省の発表した数字ならば盲目的に信じるであろうて』と言って高笑いしたシーンもバッチリ映っていた。
首相は国会に於ける偽証罪や弾劾に問われることを怖れ、すぐに内閣総辞職の意向を発表してこれを逃れようとした。
しかし、偽証罪も弾劾訴追も逃れられなかったために、とうとうヤケクソになって衆院解散も宣言したのである。
おかげでさらに日本中が大騒ぎになっていた。
日本では不祥事などによる衆院解散に名称がつくことが多いが、この時の解散は『お前も阿呆解散』と呼ばれて歴史に残った。
中華帝国ではもちろん知的財産保護法も強化された。
これにより、あの『adios』、『bunhill』、『HELMOS』などの偽ブランド品も全て姿を消したのである。
こうした偽ブランド品などの製造販売企業は、そのほとんどが貴族の庇護下にあって上納金を払っていたのであるが、そうしたブラック企業の経営者たちは巨額の罰金の支払いを命じられた上に、次々に逮捕収監されてしまったのであった。
おかげで貴族家の収入はさらに細る事態になっている。
ただでさえ賄賂収入や横領機会が無くなっていたために、貴族家子弟の小遣いなどは真っ先に減らされていた。
このために貴族たちは、大挙して今まで利益誘導を図ってやっていた企業に小遣いをせびりに行ったのである。
「いえいえ、元老家の方々にご資金をお渡ししたりしたら、贈賄禁止法違反で私共が逮捕されてしまいますので出来かねます」
「そ、そんなものお前たちも余も黙っていれば済むことであろうに!」
「ですがあなたさまは、いったん資金を受け取れば、それをネタに私共を脅迫されようとお考えですよね」
「な、なぜそれがわかったぁっ!」
「お引き取りくださいませ……」
「余がその方らの会社の特別顧問となってやろう。
報酬は月当り50万元で構わんのでありがたく思え」
回答1:
「ただいま顧問は間に合っております」
「なんだと! 貴様余を侮辱するか!
不敬罪で手打ちに致すぞ!」
「あの、不敬罪は司法省と内務省により廃止されました。
もし平民を手打ちなどにされたら、刑法犯として牢獄に最低でも15年、その理由如何では一生入れられることになりますよ?」
「な……」
「もちろん強制収容所行を命じることも出来ません。
政府広報をお読みになっていらっしゃらなかったのですか?」
「な、なななな、なんだと!」
回答2:
「それでは入社試験を受けて頂けますでしょうか」
「何を言う!
余は北京大学貴族学部を第3席で卒業したのだぞ!」
「弊社の採用に当たりましては、すべての皆さまに採用試験を受けて頂くことになっておりますので……」
そして採用試験会場では。
「な、なんだここは!
なぜこのように大勢の貴族がおるのだ!
どう見ても300名はおるだろう!」
「皆さま弊社の入社試験を受けられる方々ですね」
「な……
それで採用人数は!」
「弊社の合格基準を満たされた方のうち、最高得点の方1名様です」
「な……」
そしてもちろん、合格基準を満たせた者はひとりもいなかったのである。
半数以上の者たちがたった3時間の試験時間に耐えられずに退出し、残りの半数も設問への解答の代わりに親の爵位や前職しか記入していなかったそうだ。
ついにその日の食費にも事欠くようになった貴族家子弟は、とうとう身分を隠したまま試験の無い肉体労働職にも就くようになった。
だがここでも1時間以上の労働には耐えられず、半日で馘になっていったそうだ。
仕方なしに皇宮府は労働省に助言して職業訓練校を作ってやった。
そこでは軍から派遣された新兵訓練軍曹の指揮により、まずは基礎体力作りから授業が始まるのだが、貴族たちはそれにもついて行けずに半数以上が脱落しているという……
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中華帝国人民解放軍部隊は、係争地となっていた中印国境地帯からの撤退を始めた。
サッカー観戦の際に皇帝から既にこの報告を受けていた大地は、万が一に備えてライブちゃんに指示し、その対応の準備を終えていたのである。
そして、最近の中華帝国陸海軍部隊の相次いでの壊滅と、国境地帯からの撤退を見たインドド共和国の軍部が、ついに頭に乗って暴走を始めてしまったのだ。
インドド軍は内閣や国会の制止も振り切って、中印国境地域に大量の人員機材を投入し、大きく中国側に侵入して行った。
実効支配領域を拡大しようという試みである。
「やはりこうなったか。
シス、マーカーをつけたインドド軍侵攻部隊に対し、撃滅作戦フェーズ1を発動せよ」
(はっ!)
その日そのとき。
中印国境地帯に於いてライブちゃん謹製の新型魔道具が発動すると、インドド軍中国侵攻部隊の将兵5万5000人の肛門括約筋と尿道括約筋が機能を停止した。
単に機能停止させるだけでなく、ストレーくんの倉庫から定期的に各人の小腸と大腸に下剤が転移させられる機能までついている。
このために、インドド軍侵攻部隊は凄まじい臭気に包まれてしまったのであった。
実効支配をアピールするために持ち込んだ仮設住宅のトイレはたちまち満員御礼になったが、もちろんトイレの数は足りず、駐屯地周辺はインドド軍将兵の落し物で溢れかえっている。
また、現地は岩稜地帯であって碌に水もない。
この為にインドド将兵は体を洗うことも出来ず、その爆臭は体に沁み込んで行った。
僅かに流れている小川の水も、すぐに茶色くなっている。
インドド将兵は、自分が1本の消化管の周囲に肉がついているだけの生物だということを思い知らされたのである。
現地で奇病が流行し始めたという理由で派遣軍人たちの交代が試みられたのだが、恐ろしいことにこのときフェーズ2も発動されてしまったのだ。
そう……
ニューデデリーにあるインドド軍大本営でも、この恐怖の魔道具が起動してしまったのである。
大本営もたちまち凄まじい臭気に包まれた。
ニューデデリーの周辺住民たちが避難を始めたほどである。
実はナニかを臭いと感じたときには、その原因物質の分子が鼻の中のレセプターサイトに付着することでその匂いを認識しているのである。
つまり、臭いと思ったときにはその臭いモノが既に体内の粘膜に付着しているのであり、故に避難は当然のことだった。
他人のンコから発散された分子が自分の粘膜に触れるなどというのはトンデモないことである。
鼻クソが臭いのも当然のことだったのだ。
こうしてインドド軍大本営の将兵2万は軍病院に搬送されて隔離され、インドド共和国の軍司令部は爆臭のうちにその機能を停止したのであった。
特に侵攻を命令した大本営の上級将軍たちはこの奇病が全く治らず、その全員が任務復帰は不可能だとのことである。
神界ダンジョンは『武装占拠教唆罪』での服役と引き換えに治療を容認したが、インドド政府が服役者は軍籍剥奪にすると表明したこともあり、希望者はほとんどいなかったそうだ。
おかげで軍病院は、その臭気から『巨大肥溜め』という不名誉な呼ばれ方をするようになったという……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中華帝国の改革が進むにつれ、帝国経済は空前の大活況を呈するようになった。
今までの一部企業による輸出に頼る経済構造に代わり、所得が倍増した農民たちの消費と難民施設用の各種設備大量購入によって、内需型の経済が大きく拡大したためである。
加えて貴族たちから没収した莫大な国家資金を原資にした公共事業も始まった。
これに際し、皇宮府は経済省に対して今までのように共産党政治局に指示された数字の通りに虚偽経済指標を発表することを止め、代わって真実の数字を発表するよう『助言』したのである。
共産党政治局は、それまで『党の政策は無謬であり、従って党が目標とした8%成長以外は許されない』として、8%以外の数字を発表しようとする担当者は全員ウイグル送りとなっていたのだ。
だが、経済省は皇宮府から真実の数字を公表するよう『助言』されてしまった。
その結果、今まで集計などしたことが無かった経済省は一時大混乱に陥ったが、それでもなんとか経済統計数字を発表することが出来た。
そのGDPは、共産党公式発表の+8.0%から大きくかけ離れた▲5.5%だったのである。
もちろん輸出関税による大不況が反映された結果であった。
だが、皇帝陛下直属の皇宮府の活躍により、中華帝国経済は急速な立ち直りを見せており、すぐに成長率は+5%に向けてV字回復して行ったのだ。
このとき、皇帝陛下より初めての勅令が発せられた。
経済が過熱した場合には、適正成長率に戻すために成長率が5%を超えた分だけ法人税と個人所得税を増税するというものである。
これには世界も驚いた。
実に合理的だがこれほど導入するのが困難な政策を、たったの勅令ひとつで実行してしまうとは……
ことここに至って、世界の人々の間では、衆愚政治に陥っている自国の政府より、優秀かつ公正な独裁者が治めてくれる方が国民は幸せなのではないかと思う者が増え始めたのである……
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あのインドドで使用された恐怖の魔道具は、その後幻覚の魔道具とコラボされたバージョンも開発された。
大地は、この魔道具を外部ダンジョン化の終わった中東とアフリカ全域で発動させたのである。
これは、武装勢力の指揮官が他の勢力に対して攻撃を命じると、その場で体の中身を全て噴出しながらのたうち回るようになってしまうというシロモノだった。
(初期の幻覚の魔道具と効果は似ているが、こちらは下剤付きな上に効果範囲がアフリカ全土や中東全域と遥かに広い)
その結果、部族の長や武装勢力指揮官、独裁大統領などの権威やカリスマ性が崩壊し、失脚が相次いだ。
もちろん、末端兵士と雖もンコ垂れやションベン垂れの命令には従いたくなかったからである。
もちろんこれを好機と見て支配層の後継者になろうとする者も出て来たが、攻撃命令を出した途端に前任者と同じ運命を辿るのである。
こうして中東とアフリカでは、武装ヒャッハーたちの活動は爆臭を伴いながら自然消滅していくことになった。
おかげで地域内の移動も安全になり、中華帝国への移住者はますます増えていったのである。
因みにだが……
これら世界各地で使用された新型魔道具は、その効果の程度と効果範囲、効果時間が大幅にマイルドになったものがアルスで民生用に使用されるようになった。
その魔道具と便器が設置された『美容ルーム』は、お通じに悩む奥様方に大好評を博しているそうである……
長らくご愛読いただきましたこのお話も、後4話で完結となる予定であります。
どうぞ最後までお楽しみくださいませ……




