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*** 404 地球模範村 ***

 


 世界各国の搬送体制が整うにつれ、地球ダンジョンに運び込まれる患者や、『言語理解』、『若返り』などを求めてダンジョンにやって来る人々が激増し、大地は多くの対策を取らなければならなくなった。


 まずはダンジョン内で患者や施療希望者の世話をする人員の確保である。


 今までは患者の付き添い看護師や臨時に手伝ってくれていたダンジョンチャレンジャーが世話をしてくれていたが、いつまでもこのままではたいへんだろう。


 このために大地はタイ王国軍に依頼して志願者を募集することにし、タイ王国全軍約30万の軍人は10回ほどに分けてスラさんから説明を受けたのである。



「みなさま初めまして。

 スラークン・イムチャンロンと申します」



 軍人たちはあの神界とのパイプ役である超重要人物イムチャンロン閣下が何を言い出すか興味津々であった。



「みなさまご存じの通り、世界中からダンジョンを訪れる人々が急増してきています。

 そこで今回、みなさまの中からダンジョン内での案内やお世話をして頂く方を募らせて頂きたいと思いました。

 週7日の内、2日は休日で軍務は2日、残りの3日間をこの案内任務に充てて頂きたいと考えております。

 もちろんこれはタイ王国政府と国軍総司令部のご了解を頂戴した任務となりますので、通常の給料が支払われます」



 ボランティアではないと分かって軍人たちはやや安堵している。



「メデックの方以外はみなさまあまり馴染みのないご任務になりますが、どうか志願の上ご参加をお願いしたく思います。

 ダンジョンの疾病治療室におみえになられる方々は、身体の障碍をお持ちになられる方や、重篤な疾病に罹患されておられる方々もいらっしゃいます。

 どうか優しくお世話をしてあげてください。

 また、神界によりますと、こうした任務を真摯に行われた場合にはみなさまにもメリットが存在致します」


((( ??? )))


「それはこうした行動により、ダンジョンチャレンジに必要なE階梯が上がりやすくなるというものなのです」


「「「 !!! 」」」


「こちらにいらっしゃる方々は、そのほとんどがE階梯2.5未満の方だと思われます。

 ですからこの御任務でみなさまもダンジョンチャレンジャーになれるかもしれません」



 軍人たちが俄然やる気になった。

 ダンジョンチャレンジャーになれれば大金が稼げるだけでなく、寿命も延びてあのトンデモな身体能力が得られるのである。

 自分たちもあらゆるスポーツ界で活躍出来るかもしれない!



 こうして、ほとんどの軍人がダンジョン内世話係に志願して研修が始まることになった。


 彼らは実に熱心で、もちろん患者に対しても最高に丁寧に接してあげたのであり、おかげでダンジョンチャレンジャーも急増して行ったのだ。




 ダンジョンの受け入れ態勢が整うにつれて来訪者の数はさらに増えていった。

 今や日に100万人近くが訪れるようになっている。


 この100万人が平均1人5万ドルずつ払うと、1日当りの売り上げは500億ドルになる。

 月収ならば1兆5000億ドルであり、日本の国家予算の約1.6倍に相当する。


 これは、小麦ならば2億トン、13億石に相当し(アメリカ産ハード・レッド・ウインター)、小麦より高い米でも5億石を購入出来る金額であった。


 しかもそのコストはほとんどかかっていないのだ。

 魔道具の製造はアルスにてライブちゃんと妖精族が行ってくれており、その魔道具に必要な魔石についても魔力の充填は総督隊や互助会隊のメンバーが小遣い稼ぎにせっせと行ってくれている。

 売り上げ=ほとんど純利益だったのである。



 大地はタイ王国に対して軍人の給与の半額を負担すると申し入れた。


「と、とんでもございません!

 これだけの恩寵を頂戴しておりますアスラさまより、ご資金まで頂くわけには参りません!」




「困ったなぁシス、ストレー。

 地球ダンジョンがここまで人気になるとは思わなかったよ」


(地球と雖も、それだけ疾病治療が遅れていたということなのでしょうね)


「これで少しは医学界や薬学界が反省してくれるといいんだがな」


(そうですねぇ)


「それにしてもこの資金どうするかね?

 これ、年間で日本の国家予算の20倍近い金額になるぞ。

 世界の大企業300社の合計純利益全部足したものより遥かに多いぞ」


(そ、それもすごいですね……)


「それで全部麦なんか買ったら年間24億トンだからな。

 いくらなんでもそんなに要らないし、そんなに買ったら世界中で食料価格が高騰しちゃうし」


(おカネのまま貯めておいてはダメなんですか?)


「まあ最後はそうするしかないんだけどさ。

 でもあんまり溜め込むと、マネーサプライが減って地球全体がデフレになっちゃうんだよ」


(それではそのおカネを地球のために遣ってあげるとか)


「何に使うのがいいかな?」


(地球人である淳さんやスラさんや良子さん、あとは静田さんや須藤さんや佐伯さんに相談してみられたら如何でしょうか)


「そうだな、そうするか……」



 大地は助役たちに集まってもらって検討会を開いた。


 当初は全員が地球ダンジョンの利益を聞いて硬直していたが、そのうち皆真剣に考えてくれたのである。



「みなさんありがとうございました。

 それではまず難民支援のためにカネを使ってみたいと思います」





 中華帝国皇宮府はアスラさまの『助言』と資金を含む全面的な協力表明を受けて『難民受け入れ』を発表した。

 これは全世界の中華帝国大使館や領事館に於いて、政治難民とされる人々や経済難民を受け入れるものである。

(これらの大使館や領事館には『特別転移門』が設置されて中華帝国と繋げられた)


 もちろんこうした難民たちには犯罪経歴のチェックも行われている。

 ただし、その多くは窃盗などの軽犯罪であり、神界刑務所に数か月程度の服役をした後には農業法人への受け入れが認められるのであった。

 強盗傷害など重罪犯も、刑務所内では十分な食事が保証されていると聞いて収監に応じたのである。



 これにより、中東、アジア、アフリカなどからの避難難民が大挙して押し寄せて来た。

 特に難民認定を受けていなくとも、本人の意思が確認されれば難民として受け入れられる。

 身よりのいない乳幼児には国連が仮認定を出してくれた。


 これにより、国連UNHCRの活動が、難民支援から各地の移住希望者を中華帝国大使館に移送することになったほどである。

 大地はこの活動のためにバスを5万台ほど購入し、その燃料代も寄付していた。

 国連食糧計画(WFP)の職員らが横領を摘発されて弁済の上解雇された事態を見たこともあり、UNHCRではそうした不祥事は全く見られなかったようだ。



 この難民受け入れは、初年度だけで5000万人に及んだ。

 経済難民の一部として各国からの出稼ぎ希望者も受け入れることになったために、その総数は数年後には3億人に達し、その多くが最終的に移住すると予想されている。

 もちろん、彼らが生産する農産物がいくら余っても、全て神界が買い上げるので問題は無い。



 難民たちはまずダンジョンで疾病などの治療を受け、その後は療養施設にて1か月の休養期間が与えられる。

 休養後は各地の農業法人にて農業研修を受け、新たに地球にも造られるようになった結界付きの『特別模範村』に入植して行く予定だった。

 子供たちについては、18歳未満は学校施設に割り振られている。



 『特別模範村』建設予定地は世界第4位の広さを持つゴビ砂漠の中華帝国領内(約90万平方キロ)になった。

 これは優に日本の面積の2倍を超える。

 居住可能地面積の比較なら10倍近いことになる。

 それでも足りなければ、将来はウイグル共和国からタクラマカン砂漠(32万平方キロ)やモンモンゴル国のゴビ砂漠(残り45万平方キロ)を購入することもあるだろう。



 これらの地は極度の内陸性気候であり、夏は40度、冬はマイナス40度にもなる。

 だが、標準的温帯模範村内は結界のおかげで夏は30度以下、冬でも10度以上に保たれていた。


 もちろん農産物の多様性のために、年間平均気温が30度近い『熱帯模範村』や『亜熱帯模範村』、『温帯模範村』、『亜寒帯模範村』も造られている。

 加えて山岳地帯に『ウィンターリゾート村』や、直径20キロに及ぶ人造湖を擁する『マリンリゾート村』まで造られていたのである。


 このウインターリゾート村のスキー・スノボコースの総延長は100キロを超えており、旅行者の収容人数も200万人を誇っていた。

 すぐに各競技のワールドカップが開催されるようになり、14年後にはこの地で冬季オリンピックも開催されて、全世界から来たアスリートや観戦者を驚かせることになる。


 なにしろジャンプ競技会場なども結界で覆われているために、完全無風状態の下で公平な競技が出来るのであった。

 シスくんの魔法により、雪温マイナス6℃、気温15℃などという最高の環境も整えられている。




 こうした模範村の畑のために、中華帝国全土ではサイアムの支店や共産党支部を通じて森林腐葉土などの買付けも始まっていた。

 ゴビ砂漠の岩や砂についてはストレーくんの中に収納され、シスくんが『錬成』して畑の基盤材や建設資材として使用している。


 シスくんにとって岩石が予め細かく粉砕された砂などは、少ない労力で膨大な資源を得られる宝の山だったのである。



 この砂漠の砂地部分は平均で200メートル、厚いところで1000メートル以上もの深さがあった。

 そして、これらの砂の中には有用鉱物資源もまた豊富に存在していたのである。

 隣国モンモンゴル国も中華帝国も特にレアアース資源の豊富さで知られているが、砂そのものや砂の下の岩石からはこれらの資源が超豊富に得られたのであった。


 もちろんこれら資源は中華帝国に帰属する。

 おかげで中華帝国は5000万人の難民に対して当初払う給料の200年分を得られたのであった。


 余った普通の砂は直径3センチほどの石粒にして模範村以外の地表を覆うようにしていた。

 そのために中華帝国国内や韓国、日本で悪名高きあの黄砂も激減して行くことになったのである。



 通常、砂漠の緑化という事業は非常な困難を伴う。

 莫大な資金を投下して緑地を作っても、すぐに風によって砂漠に侵食されてしまうからである。

 ならば砂漠の全域・・の砂を取り除いてやればよい。

 レベル12にもなっているストレーくんにとっては実に簡単なことだった。


 モンモンゴル国に対しても、表層砂漠砂の固化が提案されて実行されている。




 中華帝国内モンモンゴル自治区の旧ゴビ砂漠内には岩石を固めた丘陵が12か所作られた。

 それぞれの丘陵には揚水発電用と灌漑用に巨大ダムが2か所ずつ造られてもいる。

 その上部のダムには、ストレーくんが海洋水から『抽出』した真水を収納して溜めてくれていた。



 この地球模範村も小規模行政区、中規模行政区、大規模行政区という構成になっている。

 各行政区内は、基本的に地表は歩行者のみ、自動車や自転車、バイクは全て半地下式の専用道を通行することになっていた。

 むろん全ての自動車は電気自動車であり、中華帝国内の企業に対しては効率的な電気自動車(主に農業用軽トラ)、電動バイク、電動コンバインや電動トラクターの開発と製造が『助言』されている。

 

 このためには膨大なリチウム資源の確保が必要となるが、元々リチウムは地球上では25番目に多く存在する元素であり、中華帝国はチリチリ共和国、オーストコアラリアに続く世界第3位のリチウム生産量を維持していた。

 加えて、アルスでの海洋や海砂から金属資源を抽出する際にも、リチウムは大量に溜め込まれていたのである。



 

 難民用に作られた特別模範村では、その主要消費エネルギーは魔力を除いてほとんどが極めてコストの低い電力になっていたため、大規模行政区間同士を結ぶのも完全電化された高速鉄道網になる。

 線路などインフラは神界が設置し、電車は国内企業に発注されていた。

 シスくんはまた大いに楽しみながら都市計画を練っている。


 さらに、まずは5000万人、1000万世帯用の家具と家電製品が中華帝国経済省の紹介で国内企業に発注されたのである。

 総数は今後5年間で6000万世帯分に上った。

 費用はすべて神界の負担であり、国内企業にとっては超特需となる最高の公共事業である。




 これら難民の中にはもちろん犯罪性向の強い者も多かった。

 だが、全ての避難民施設と特別模範村にはあの『幻覚の魔道具』も配備されていたために、強盗や暴力行為などはすぐに終息していったのである。

(ついでに窃盗行為も発動条件に加えられたらしい)



 これらの模範村入植者たちは、最初の2年間は研修生として住居、衣服、食事に加えて給与が支給されることになっている。

 その分給与水準はあまり高くなかったが、なにしろ真面目に働いていれば2年後にはひとり当たり30反もの畑と広い住宅を得ることが出来るのだ。


 このことは、日本や中東に出稼ぎに出ている外国人たちにすぐに広まった。

 彼らは元々ほとんどが小作農や失業者であり、いつか農地を買って自作農になることを夢見て6畳一間のアパートで4人も暮らすような生活に耐え、日本の工場などで働いていたのである。

 確かに日本の給与水準は高かったがその分物価も高く、彼らは相当に節制した暮らしをしていたのであった。


 中華帝国の模範村の様子が口コミで伝わるにつれ、中東、中米、南米、フィリピンピン、アフリカ諸国からの出稼ぎ労働者が家族を伴って中華帝国に大量に移住して行った。


 日本の自動車部品製造企業などでは、従業員が9割以上も移住してしまい、操業不能になってしまった会社も出てきているそうだ。





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