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*** 375 地球にダンジョン ***

 


 国王陛下の執務室に大型スクリーンの魔道具が出て来て映像が始まった。

 タイトルは『北大陸の今』である。



 海岸線は8メートル近い積雪に覆われていた。

 その雪の上を猛烈なブリザードが吹き荒んでいる。


 だがその風雪の中でも、白熊族たちが命綱をつけ、大きな雪かき用シャベルを使ってダンジョン入り口から海にかけての除雪をしていた。

 除雪は毎日行われているらしく、入り口から海までは確りと道が出来ている。

 その両側は高さ8メートルの雪の壁に覆われているために、白熊族たちにとってはいい風除けになっているようだ。


 その日の除雪作業を終えた白熊族たちが、連れ立ってダンジョンに戻り始めた。

 点呼の後、倉庫にシャベルを戻すとすぐに風呂に向かっている。



「ふぃ~」

「あー、体が解凍されていくようだ……」

「雪かきの後の風呂は最高だの!」


「みなさんお疲れさまでした。

 お風呂上りは冷たいエールにしますか、それともワインのお湯割りにしますか?」


「はは、贅沢な話だな」


「いえいえ、寒い外でみんなのために働いて下さった方々の特権ですよ♪」


「ありがたい話だ……」


「うん、去年の越冬とは比べ物にならんわ」



「俺はもう少し暖まってから冷たいエールを貰おうかな」


「俺はホットワインを頂こう」


「このワインはダンジョン産のブドウで作られたんだろ?」


「ああ、俺たちはワインにして頂いているが、子供たちはブドウのままパクパク食べてるよ」


「果物は栄養豊富だそうだからな。

 子供らの毛艶がみるみる良くなって来ておるの」


「さて、体もすっかり暖まったし、家族と一緒にメシでも喰うか」




 ダンジョン内では今日も広大なフードコートが大賑わいだった。

 年寄りたちの中には魚の生食を好む者も多かったが、子供たちはもうすっかり焼き魚に馴染んでいる。


「さて、穀物粥は頂くとして、『さいどでぃっしゅ』は何にしようかな」


「ぼくホッケ焼きがいい!」


「あたちはあしゃり焼き!」


「はは、好きな物を食べなさい。

 でも料理を持って来過ぎて残したりしないようにね」


「「 はぁーい♪ 」」



「ねえお父ちゃん、明日は月に1度のプリンの日だよね♡」


「そうだな」


「楽しみだなあ♪」


「はは、お父ちゃんも楽しみだ」



 カメラがパンすると、フードコートの周囲の光景が広がった。

 そこでは青々と茂った麦や野菜の広大な畑が広がっており、大勢の海棲ヒューマノイドたちが働いている。




 ブリザードの合間には、海岸沿いに各村の村長と子供たちの姿があった。


「さあみんな、きょうも魚獲り教室を始めるよ。

 みんなで海に入るけど、最初は先生がお手本を見せるからよく見ているようにね」


「「「「 はぁーい! 」」」」



 そのときの天候がいくら良くともブリザードは突然やってくる。

 海岸沿いには警報役が配置されていて、少しでも天気が変わり始めると水中で鐘をガンガン叩いて知らせてくれる体制になっていた。


 また、万が一の際には体中に重りと命綱をつけた白熊救助隊が駆け付けて、子供たちをダンジョンまで抱えて行ってくれるのである。



 天候の悪い日は学校で読み書き計算の授業が行われていた。

 どうやら子供学校と大人学校に分かれて勉強しているようだ。


 子供たちの教室ではみんなで大きな声を出して掛け算九九を暗唱していた。



 授業終了の鐘が鳴ると、大人も子供もぞろぞろと劇場に移動していく。

 ここでもあの紙芝居が大活躍していた。



 最後は幼稚園のお遊戯会の様子だった。


 ペンギン族、アシカ族、トド族、アザラシ族、オットセイ族、白熊族などの小さな子供たちが一生懸命お遊戯をしている映像である。

 お遊戯会場の周囲には各種族の親たちが並んで盛大な拍手を送っていた。



 こうした録画映像を見ているワトラー陛下とバハー首相は、涙をぽろぽろと零していた……




 北大陸の映像が終わると陛下と閣下は大地に向かって深々と頭を下げた。


「さすがはダイチ殿です。

 このような素晴らしい光景を拝見させていただいて、これほど嬉しいこともありません」


「おかげで最近は昔の悪夢を見て魘されることも無くなったわい」


(はは、同じ元ダンジョンマスターでも、サトシーの奴とはエラい違いだな……)



「あの、中央大陸が落ち着いたら、お2人とも北大陸に行かれてみたら如何ですか?」


「それは願っても無いことですが、そのようなことが出来るのですか?」


「わしらはもうダンジョンマスターとその助役ではないからな……」



「実は最近アルス中央大陸の状況もそれなりに改善して来ましてね。

 まあまだまだ改善の余地はたっぷりあるのですけど、それでも中央大陸でも800万の民を保護出来ました。

 それで、その功績ということでわたしは神界からアルスの総督に任ぜられてしまったのですよ」


「それについてはスラークンから報告も受けていました。

 実に喜ばしいことですな」


「畏れ入ります。

 それで、助役は何人でもお願い出来ることになったんです」


「それは……」


「ええ、ちょっと申し上げにくいんですけど、お二方ともわたしの助役になられたら如何でしょうか。

 もちろん何の義務も仕事もありませんが、北大陸に転移出来るようになりますので」



 陛下と首相が身を乗り出して来た。


「是非お願いさせて頂きたい」

「わたしもだ」


「畏まりました。

 それではわたしの地球での任務が終わり次第、アルスにご招待させていただきます」


「ありがとうございます」

「ああ、本当にありがとう」


 国王陛下がお喜びになられているお姿を見て、スラさんも嬉しそうである。



「ところでダイチ殿、今地球での任務と仰られたが……」



「ええ、それでですね、本日お邪魔しましたのは、先日わたしは地球の総督にも任命されてしまったのですよ」


「なんと!」

「神界任命の地球総督だとぉ!」


「まあ、実際に政治に口を出す気はありません。

 今まで通り自然災害の救援もさせていただきますし、食料の買い付けが活動の中心になるでしょう。

 ですがひとつだけ新たな活動も始めさせて頂きたいとも思っているのです」


「なにかご計画されておられるようですな。

 よろしければお聞かせ願えませんでしょうか」


「はい。

 まずは現状の問題点として、わたしがアルスの金を売ったことで、地球の金価格が下落傾向を続けていることがあります」


「確かに直近ピークの1オンス2000ドル台から1600ドル台まで下がっては来ているが、それでも3年前の1300ドル台から見ればまだ相当に高いぞ」


「それにダイチ殿、タイ国民の多くはあのお釈迦さまの刻印付き金塊をお守りや感謝の印として購入しております。

 転売して利鞘を稼ごうなどと思っている者はひとりもおりますまい」


「それはガネーシャ像の刻印のある金塊を買っているインドド国民も同じだな」



「ええ、ですけど、出来ればあまり金価格を下げて地球に迷惑をかけたくなかったんです。

 金は言ってみれば通貨そのものですし、その価値が下がり続けるのは社会・経済の不安要素ですから。

 原油価格や鉄鉱石価格が下がるのとは根本的に違うと思うんです。

 万が一にもそれで世界恐慌とか引き起こしたらたいへんですし。

 ですから、金以外にも何か売れる物がないかと検討してみたんですよ」


「金以外にか……

 食料品を売るのは本末転倒だし、銀は市場が小さいし、木材は検疫の問題があるだろう。

 なにか売れそうなものはあるのかな?」


「ダイチ殿ご自身は何を売るのがよろしいとお考えですか?」



「実はポーションを売ろうと思っているんです」


「「 !!! 」」


「ぽ、ポーションか……」


「それなら間違いなく売れますな……

 それも大変な高額で……」


「もしくは診療所を作ってそこに治癒の魔道具を置いてもいいですね。

 それでその方向で神界にお伺いを立ててみたところ、地球にも本格的なダンジョン分室を作ってはどうかと言われてしまったのです」


「「 !!!!! 」」


「ち、地球にダンジョン……」


「ええ、以前タイの洪水危機の際にはこちらに形式だけのダンジョンの分室を作らせて頂きましたけど、地球上のどこかに本格的なダンジョンを作って、そこに診療所も併設したいと思っているんです。


 需要に応じた数のポーションを作るのは大変ですけど、ダンジョン内診療所で魔道具を使って施療すれば、ランニングコストは魔石と人件費だけになりますからね」


「だが、そうなるとそれなりの情報公開も必要になりますな」


「はい。

 それで神界からかなりの範囲の情報公開も許されました。

 まあ秘匿するのはわたしの個人情報ぐらいになるでしょうね。

 これからもアスラという存在で通したいと思います。


 まだしばらくの間は地球からの食料購入を続けたいですし、その際の目標は、中央大陸の全住民2500万人の5年分、つまり1億2500万石を目標としています。

 それだけあれば、万が一のことがあっても大丈夫でしょうから。

 そのために金に代わる商品を売り出したいと思ったんです」



「それは……

 地球社会に計り知れない影響が出そうですの……」


「ええ、まずはこの計画書をお読み頂けませんでしょうか」



 陛下と首相が真剣な眼差しで計画書を読み始めた。

 ときおりメモも取りながら眼光紙背に徹する勢いで読み進んでいる。

 5ページほどの計画の概要書だったが、1時間ほどもかけて考え込みながら何度も読み返していた。



 陛下が計画書をテーブルに置き、ソファの背にもたれた。

 バハー首相も強張った肩を回しながら緊張をほぐしている。



「それでダイチ殿、この計画を全て神界が承認したと仰られるのですか……」


「ええ、承認して下さったと言うよりも、早く実行して欲しいともお考えの様です。

 地球が神界認定世界になって、銀河の星々との交易が行えるようになるのが1万年は早まるかもしれないとのことでした」


「神界認定世界ですか……」


「単にいくつかの基準によって神界が認定するだけのことなんですが、認定された場合、地球人類が希望すれば銀河連盟に加盟した上で銀河の他の認定世界と交易が出来るようになるそうなんです。


「それは……

 凄まじい技術格差だろうな」


「なにしろ銀河の技術文明には100億年近い歴史があるそうで、交易によって地球の幸福度は跳ね上がるとのことでした」


「なんと……」


「まあ大分先のことになると思いますけど。

 現在の地球の発展が続き、幸運にも恵まれたとしても、あと50万年はかかるということです。

 今日は神界調査部が作成した現時点の地球の成績表もお持ちしましたので、こちらもご覧ください。


 この『知的生命体平均E階梯』と『文明指数』のスコアが両方とも5.0を超えて、あと疾病や暴力による死が根絶され、死因の99%以上が老衰死になると、取り敢えずの認定基準が満たせるそうです。

 また、惑星住民の平均寿命が少なくとも200歳以上になっている必要もあるそうですね」


「200歳か……」

「すごいなそれも……」



 また2人が地球の成績表を真剣に読み始めた。



「これは……」


「自分たちの事ながら酷いなこれは……」


「ツバサさまによれば、産業革命からまだ300年しか経っていませんからまあこんなものだそうですよ。

 平均的な銀河の星々は、産業革命からやはり50万年ほどかけて神界認定世界になっているようですし」


「それにしてもだ。

 通常の科学技術はまあまあ頑張っているにしても、とりわけ薬学は酷いな」


「ええ、現在の地球の製薬会社は利益に走るあまり、病気の宣伝までしてむしろ社会に悪影響を与えている面すらありますから」


「確かに最近目に余りますな。

 医学の進歩と言っても、その多くは薬や機器によるところが大きいわけですが、その研究開発を蔑ろにしておりましょう……」


「そうした基礎研究を疎かにして、対処療法薬しか作っておらんからの。

 彼らは疾病死ゼロなどとは間違っても目標にしてはおらんだろう。

 新種のインフルエンザなど、むしろ彼らが密かに作り出しているのではないかとの疑惑もあるしの。

 アンチウイルスソフトの販売企業が、裏でウイルス開発者に資金援助している疑惑と同じだな」


(さすがは陛下と首相閣下だな……

 よく世の中を見ているよ)



「ということでですね。

 正確には地球に新たなダンジョンを作るのではなく、アルスのダンジョンの分室を作るという形になるのですが、本日は地球にダンジョンを作るに当たりまして、お二方にご相談とお願いがあってお邪魔したのですよ」


「そうか、確かダンジョンのドロップ品は、ダンジョンマスター本人が使用してやる場合以外はそのダンジョンがある世界でしか使用出来ないのでしたな……」


「はい。

 その施設のほとんどはダンジョン内空間を拡張して作りますが、入り口1か所だけはその世界と繋がっている必要があるそうなのです。

 そのダンジョン候補地としては、まず公海上の無人島があるでしょう。

 ですが、出来ればある程度交通の便が良く、民間の宿泊施設が近い場所が適しているのではと考えています。


 これは治療用魔道具やポーションは、ダンジョン内でしか効力を発揮しないようにしようと考えているからです。

 回復した患者も数日はダンジョン外で静養やリハビリを行う場所が必要でしょう」


「治療魔法がダンジョン内でしか効力を発揮しないのは機密保持の観点からですか?」


「いえ、ツバサさまによれば、あの魔法技術は100億年の技術文明史を持つ銀河世界でも先端技術だそうですので、多少解析されたところで複製は不可能だそうです。

 火を覚えたばかりのヒト族にスマホを見せて複製させるのよりも、もっと大きな隔絶が有るそうですね」


「魔法は科学技術だったのですね……」


「ええ、各種ダークマターとダークエネルギーを利用した技術だそうです」


「それはそれは……」





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