*** 374 ライブちゃん登場 ***
大地は感慨深げに地球の成績表を見ていた。
「しっかしこの成績表、よく見ると興味深いですねえ。
科学は全般に頑張ってるみたいですけど、やはり医学の内の内科医療と薬学が低いんですか。
あ、この自然死率ってなんなんですか?」
「銀河の先進世界では、疾病による死亡がほぼ無いのよ。
これも神界認定世界になる基準のひとつね」
「えっ……」
「もちろん事故も極めて少ないし、つまり死因の99%以上が自然死である『老衰』なの。
銀河連盟に加盟すれば必要な魔道具も供与されるから、自然災害による死者もゼロになるでしょうね」
「す、すごい……」
「もちろん痴呆症も治療出来るから、みんな老衰で亡くなるまで頭脳は明晰で普通に暮らしているわ。
神界認定世界のヒト族の平均寿命は300歳に迫っているし。
それに比べて、地球では死因のほとんどが疾病によるものですからね。
酷いときには紛争による直接暴力が死因になっているとか」
「確かに。
地政学スコアなんか酷いマイナスですもんねぇ」
「何と言っても国が多すぎるわ。
地球の規模でしたら、国や国家連合の数はせいぜい20までで、出来れば10ぐらいが望ましいのに249もあるんですもの。
以前のソ連邦みたいなものは論外ですけど、それでもEUみたいな共同体が出来て少しは期待していたの。
でもUK(United Kingdom of Great Bribritain and Northern Ireland)がEU内の主要な役職に就かせて貰えないってダダ捏ねて、離脱しちゃったのにはがっかりしたわ。
資金拠出もほとんどしてないのに、EU大統領の椅子を寄越せとかECB総裁をイギリス人にさせろとか、大昔の大英帝国のつもりで我儘言い放題だったもの。
イタタリア危機のときなんか、ドドイツ連銀はイタタリア中銀に3000憶ユーロもおカネ貸してあげて助けてあげてたのにね」
「そうだったんですね……」
「その分旧イギリス連邦(Commonwealth of Nations)を強化改称してグレートブリブリテン連邦王国機構とかいうものを作ってお山の大将に成ろうとしているし」
<グレートブリブリテン連邦王国機構:
United Nations of Kingdom Organization of Great Bribritain.
略称:UNKO-GB>
註:何故か日本でだけは略称をそのまま発音する者がおらず、わざわざ『ユーエヌケーオー』と呼ばれている。
ガキンチョは『グレートブリブリウ〇コ』と言っているが……
註:このお話はフィクションです。
「それでいて、地球の通信・娯楽のスコアは2.5もあるんですね……」
「そうね、これだけソーシャル・ネットワークなんかが発達している世界って銀河でも珍しいわ。
神界未認定世界では最高峰かしら。
ねえダイチさん。
どうして地球のヒト族って、匿名だとあんなに露出したがるのかしら?」
「いやそれわたしにもよくわからないんですけどね。
コミュ障のヒトでも他人と触れ合える唯一の手段だからっていう説もありますけど。
あとみんな自分がブサイクだって劣等感持ってますけど、それでも顔も名前も隠してオトモダチがたくさん作れて、有名になれるチャンスがあるからとか」
「ふーん、そうなんですか……」
「それにしても、地球って肝心な政治や環境や疾病撲滅なんかは疎かにしている一方で、ヤタラにお喋りが発展している世界っていうことですか。
なんか勉強せずにムダ話ばっかりしている小学生や中学生みたいですね……」
「まあ文明成熟度から言えば、地球人類は7歳児程度ですから仕方が無いのかもしれませんね♡」
「ははは」
「それではダイチさんの行動を楽しみにしているわね♪」
「ツバサさま、どうもありがとうございました。
これで地球にあまり迷惑をかけることなく食料輸入も続けられそうです。
まあ医学や薬学関係には迷惑でしょうけど」
「いいのよ。
不慮の病死が激減するなら、差し引きで地球ヒト族にとっては幸福の方が遥かに大きいでしょうから♡」
「ただ、どこにダンジョン分室を作るのかとか、入場者をどう制限するかといったことは、これから検討しなければなりませんし。
その企画書が出来ましたら、また見てやって頂けませんでしょうか」
「楽しみにしているわ♪」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大地はまたみんなと時間停止倉庫に籠ってブレーンストーミングを行い、『地球ダンジョン計画書』を作り上げた。
そして、計画書が出来上がると、まずはツバサさまに了解を求めたのである。
「さすがはダイチさんね、実に面白い計画だわ。
特にこの特定目的ごとにポーションを作るというアイデアは秀逸ね」
「シスやテミスによれば、そういったポーションを作ることは可能だそうなんですけど、実際に作る場合にはどこで魔法式を見つければいいのでしょうか」
「わかりました。
いちおう神さまたちにもこの計画書を届けますけど、ご了承を頂いたらわたしが魔法式のライブラリーを用意します」
「ライブラリー……
そんなものがあるんですか」
「ええもちろん。
わたしが天使大学で魔法医学を専攻していたときに使っていたものもありますし。
通常のポーションや治癒魔法にはレベルに応じて多くの魔法式が入ってますけど、この特定目的治癒魔法なら、その目的が限られている分だけ中身がシンプルになるわね。
ライブラリーを妖精族に見せたらすぐに作ってくれるわよ。
そうそう、スキルスクロールについては取得可能な総合レベルの設定も変えられますから。
どのスキルもレベル1のヒトでも使えるようになるわ♪」
「どうもありがとうございます。
それでは妖精族も大勢召還しておいた方がよさそうですね」
「いえ、『複製の魔道具』を差し上げるからその必要は無いわよ。
妖精族にライブラリーを見せてひとつ作らせれば、あとはその魔道具で複製出来るわ。
多少魔石の燃費が悪いのだけれども、ダイチさんの配下には魔石に魔力を充填出来るひとが大勢いるようだから大丈夫じゃないかしら」
「そんなものまであるんですか……」
「それに、このダンジョン内病院のアイデアならば、ポーションだけじゃあなくって治癒の魔道具も使えるわ。
魔道具なら最初に疾病に合わせて各種類作っておけば、複製した後は魔石が必要になるだけだから、ポーションはそんなに要らないでしょうね」
「なるほど」
「うふふふ、それにしても興味深いアイデアね。
運用結果が楽しみだわ」
神界の神さまたちからの承認はわずか半日で出た。
最近大地の提案があまりにも素通しなので、大地自身はやや困惑している。
(ひょっとして、神さまたちって、ヒト族の心理を読んだりその欲を理解したりすることが苦手なのかもしれないな。
それで500年前にはアルスで大失敗したんだし。
だからヒト族のことはヒト族である俺に任せてしまえっていうことか。
まあ、そうした鷹揚なところも神さまだっていうことだな……)
ツバサさまはすぐに魔法式のライブラリーを持って来てくれた。
単なる医療用の魔術式だけでなく、各種スキルの魔法式も含まれている汎用的なものである。
その魔法式の種類だけで数億もある百科事典的なものだった。
どうやら神さまたちからの予算支援もあり、最新最大のライブラリーを購入してくれたらしい。
しかもこのライブラリーはAIに制御されたものであり、大地が要望を言うとそれに合った魔法式を検索してくれるスグレモノであった。
分位体も作れるというので、大地は早速分位体を用意してやり、ライブちゃんと名付けている。
(どうやら女性型分位体を選択したようだ)
ライブちゃんの分位体の見た目はやはり5歳ぐらいの優し気な少女だった。
「ダイチしゃま、このような素晴らしい分位体の体を授けてくだしゃいまして、どうもありがとうございましゅ」
「これから俺の故郷である地球という世界にダンジョンを作る予定なんだ。
そこではたくさんのドロップ品が必要になると思うんだよ。
だからライブは妖精族を指揮してドロップ品や魔道具の品揃えと複製体制を整えてくれるかな」
「畏まりましゅた。お任せくだしゃいましぇ」
ライブちゃんの分位体の勤務時間ももちろん1日8時間までに制限されている。
妖精族との打ち合わせもドロップ品・魔道具製造工房もシスくんの時間停止倉庫内に作られてはいたが、それでも体感時間で1日のうち仕事は8時間までと決められていた。
そして……
ライブちゃんは、仕事と睡眠以外の時間は常にフードコートにいた。
あの地球の各種料理にド嵌りしてしまったのである。
分位体の体はヒト族と変らない。
毎日4食3人前を幸せそうに食べていたライブちゃんは、すぐにぷくぷくと太り始めた。
だが、自分たちで作った『痩身の魔道具』を使って思う存分食べ続けることが出来たのである。
この魔道具は、発動させるとBMIで普通体重の範囲にまで体重を落としてくれるものだった。
もちろん無理なダイエットを強いているわけではないし、体調も最高の状態に保たれている。
それも1回の発動で10分後には適正体重になっているというスグレモノであった。
(すげえなこの『痩身の魔道具』
製作者自らがここまで愛用しているとは。
これなら信頼性は抜群だな……)
大地はイタイ子に指示して、各モンスター種族を大量に召喚させた。
今の人数では、地球で本格的にダンジョンを運営した際に、モンスターたちが超過労働になってしまうと思ったからである。
特に、スライム族からゴブリン族までの初級者用モンスターは多めに召喚して、各種族の指導員により対人戦闘訓練を始めるようにも指示していた。
一方で大地と淳は『医学スキルレベル5』を駆使して、本格的に個別疾病用ポーションと魔道具を作っていった。
それに加えて、美容用、身体改造用、身体欠損回復用も。
(身体欠損回復には歯の再生まで含まれている)
その種類は実に約5000種類にも及んだのである。
尚、その際には魔道具もポーションもダンジョン内でなければ効力を発揮しないという条件も加えていた。
ダンジョンの外に出すと魔道具はタダの箱になり、ポーションは水になってしまうのである。
因みに『痩身』と『美肌』のポーションの実験台になった良子は、20歳近く若返って見えるようになった。
その日はスキップしながら地球に帰り、旦那の須藤医師の腰を抜かせたそうである……
すぐに須藤医師と佐伯弁護士と静田社長からもお伺いが来た。
大地が地球に出向き、奥さんたちも助役に任命して守秘義務もお願いした上でポーションを使わせてやったところ、エラい騒ぎになったらしい……
まあアラ還やアラ古希がアラフォーやアラフィフに見えるようになったのだから当然だろう。
全員が適正体重まで痩せたおかげで服を全て買い替えることになったが、まあみんなお金持ちなので気にしていないようだ。
それどころか大喜びしながら若作りな服を買いまくっていたらしい。
大地がこのポーションはいくらなら売れますかと聞いたところ、1つ100万ドルでも飛ぶように売れるだろうという答えが帰って来た。
大地は10万ドルで売り出そうかと思っていたので、ちょっとびっくりしている。
また、『鑑定の魔道具』も疾病鑑定機能が強化されて鑑定対象者の前でスイッチに触れるだけで病名が表示されるようになった。
おかげで最適な魔道具のある診療室に仕分け出来るようになったのである。
ポーションと魔道具の在庫がある程度溜まり、準備が終わったとした大地は、スラさんを通じてラーム10世タイ国王とインドド共和国マハーラーシュトラ州のバハー首相とのアポイントメントを取り付けたのである。
そして2日後、タイ王宮の国王執務室には、ラーム10世、バハー首相、大地とスラさんの姿があった。
「ラーム10世国王陛下、バハー首相閣下。
急なご連絡にも関わらず、会談をご了承くださいまして誠にありがとうございます」
「お久しぶりですダイチ殿。
おかげさまで、タイ王国のGDPは天界との取引によって急拡大しております。
深く御礼申し上げます」
「インドドのデカン高原も同じだ。
3つの州とその周辺4つの州の経済はここ30年で最高の成長を見せている。
わたしも深く感謝している。ありがとう」
「こちらこそお世話になっております」
「はは、ダイチ殿。
この部屋にはダンジョンマスターとその助役、それから元ダンジョンマスターと元助役しかいません。
ですからどうかお気軽にお話しください」
「うむ、その通りだな。ここではフランクに行こうか」
「ご配慮ありがとうございます。
それではお言葉に甘えまして。
まずはお二方が以前働いておられた北大陸の最近の様子を撮影したものがあります。
ご覧いただけますか?」
「それは是非見せていただきたいな……」




