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*** 373 成績表 ***



 淳の指摘は続いていた。



「それにポーションの効用は重篤な病気を治すだけじゃあないよね。

 僕やスラさんみたいに髪を生やすことも出来るし、肥満や高血圧なんかも治せるだろうから。


 もしもそんな生活習慣病や癌も治すポーションが流通したら、日本の医療予算は12兆円も使ってるのが3分の1になるんじゃないか。

 国民負担を含めればもっとだね。

 それだけ節約出来るなら、その分の金額を消費や投資や減税に回せるから景気も良くなるだろうし、今の製薬会社が半分潰れても十分元は取れると思うよ。


 献金や寄付が減って政治家や官僚は怒ると思うけど。

 官僚は直接寄付金を受け取れないけど、企業からの寄付金で外郭団体を作って自分たちの天下り先にして、それで間接的に高額の所得を得ているからね」


「そうだったんですね……」


「欧米では日本と違って財団が資金を出してる研究所もあるけどさ。

 それでもその財団には大手製薬会社も資金を提供していたりするもんだから、根本治療方の研究なんかほとんど行われてないんだよ」


「な、なるほど……」



「それにドロップ品にはもっと他にいい物もあるよ。

 例えば『言語理解』だ。

 僕は常々思っていたんだけど、国語や英語だけは他の科目に比べて異質だろ」


「???」


「言語ってある程度読み書き会話が出来れば十分じゃないか。

 英語で論文が書けたり海外と取引が出来ればそれでいいわけだ。

 あと1000年経っても国語学や英語なんかの外国語学の教育内容ってほとんど進化していないだろう。


 でも、物理学や化学なんかの科学は違うんだ。あと数学も。

 ここ20年でも、あの『フェルマーの最終定理』も『リーマン予想』も証明されちゃったぐらいだから。

 数学も含めた科学は、1000年未来には果てしなく進化してるんじゃないかな。

 数学にはフィールズ賞があるし科学にはノーベル賞があるけど、語学には無いしね」


「言われてみればそうですね……」


「だからさ、世界中の学生は『異言語理解』でまず母国語や外国語をマスターすればいいと思うんだ。

 そんなものを身に着けるために無駄な努力をしてるヒマがあったら、もっと他にするべき学問がたくさんあるだろう。

 例えば医学や薬学でもいいだろうね。

 もしくはダークマター&ダークエネルギー物理学とか魔法医学とか」


「な、なるほど……」


「もちろん弊害はあるよ。

 世界中の語学学校が潰れるとか、非英語圏の英語教師や通訳が失業するとか。

 でもさ、中学高校大学で10年も努力しても碌に英語を喋れないなら、そんな不毛なものは『言語理解スキル』に任せて、空いた時間を他の物への努力に向けた方がよっぽど生産的だと思うんだよ」


「一部に痛みはあっても全体の幸福度の上昇の方が遥かに大きいっていうことですか……」


「特に海外展開している企業にとっては、現地従業員に英語が話せる人が少ないことが悩みの種なんだ。

 そんな彼らがスキルスクロールで『言語理解』を取得したら、雇用機会が何倍にもなるんじゃないかな。

 世界の失業率はかなり下がるだろう」


「なるほど……」



「それからあの『転移の輪』。

 あれを売ったら影響はとんでもないものになるだろうね」


「航空産業や造船・海運が壊滅的な打撃を被りますけど……」


「だから最初は政府使用に限定すればいいんじゃないかな。

 世界各国の首相官邸や大統領府と国連本部を繋いでヒトの移動だけに限るとか。

 そういった使用に限定したとしても、各国政府は5000万ドルやそこらは払うと思うよ。


 しかもそうすることで外交の意思決定も早くなるだろうし、紛争も減るだろう。

 なにより言語理解で意思疎通がすぐに出来る上に、数分で国連本部に集まって膝を突き合わせて交渉が出来るんだもの」


「代金が払えない国には大国が援助してやればいいですかね。

 国連総会やG20に自宅から日帰りで参加出来るのか……」


「他には国際宇宙ステーションと地上の施設を転移の輪でつないでやってもいいかな。

 あのステーションでの研究は確かに有望だけど、1トンの荷物を持って行くのに2000万ドルかかっているから」


「ステーションの宇宙飛行士は、運動も食事も地上で出来るようになるんですね」


「という具合にね。

 地球のみんなが喜んで大金を払ってくれるものってダンジョンのドロップ品だと思うんだ」


「問題は神界がそれを許してくれるかどうかということですか……

 なあテミス、お前はどう思う」


「あの、実は地球に於いてもかつてダンジョンを創る計画が為されたことがあります」


「ほう!」


「ですが、地球はそこまで困窮していませんでした。

 資源も豊富ですし気象条件も安定していましたし。

 それで今後必要となった場合には再検討するということで、計画は白紙に戻されたんです。


 それに、この銀河宇宙では知的生命体居住世界の約0.5%にはダンジョンがございます。

 普遍的とは言えませんが、それでもそこまで珍しいものではありません」


「そうだったのか……

 それじゃあもう少し考えを煮つめてから、ツバサさまに相談に行こうかな……

 淳さん、スラさん、みんな、ご協力お願いします」


「もちろんだよ」

「畏まりました」




 ツバサさま:


「そうね、確かに地球でドロップ品を売ればいくらでも食料が買えそうね。

 それに、その方が地球も良い方向に進み始めるかもしれないわ♪

 ダイチさんからお伺いが来たら、また神界にお願いしてみようかしら……」



 神さまたち:


「ふむ、地球でドロップ品を売るというのか」


「ということは、あの地球に作ったダンジョン分室を利用するのだな」


「神界法的にも制度的にも特に問題は無さそうだの」


「ただ、誰がダンジョン内でモンスターと戦い、そのドロップ品を誰が買い取って誰に売るのかという問題はあるの」


「その辺りはダイチがまた良き提言をするのではないか?

 なにしろあ奴の提言を全て容れた結果、800万人もの民が飢餓から救われておるしのう。

 これはダンジョン史どころか神界の歴史にも残る大快挙であろうて」


「ダイチのおかげでダンジョン制度が機能しておると評判になっておるからの」


「思えば銀河系にダンジョン制度が導入されて2万年、そのうちの多くがまあまあワークしておるのを見て、この第28象限でも500年前に導入してみたが……

 単にダンジョンを作ってドロップ品を用意しただけだったこともあって、結果は大失敗だったからのう……」


「単に箱モノとモノを用意してやるだけでは不十分だったのじゃの……」


「ダイチのような優秀な者が、ダンジョンマスターとして精一杯努力して初めてダンジョン制度がワークしたということなのじゃろう。

 奴のおかげで我らの大失敗が改善されつつあるからの」


「あのダイチの要請で創った『誰も死なない』ダンジョンと外部ダンジョンがそれだけ画期的だったということか」


「どうやら神界では『ダイチ型ダンジョン』と呼ばれ始めておるようだ」


「ふふふ、神の計画をも超える画期的な制度を創りおったのだな」


「そのダイチが任務のためにダンジョンを利用したいのならば、我らも応援してやらねばのう」


「南大陸では中央大陸との食料交易によって農地が大拡大し、失業率が8%から僅か1.5%にまで減りおった。

 もはや完全雇用状態と言ってよかろう。

 民は皆笑顔で働いておる。

 これも奴の功績じゃの」


「今更わしらがとやかく言わんでも、あ奴に任せておけば大丈夫そうじゃ」


「地球でのドロップ品販売申請が上がって来た場合は、ついでにダイチを地球総督にも任命してみようかの」


「それはよい考えじゃ」



「それでは、念のため申請内容は確認するにしても、今回もダイチの要望は全て認め、奴に任せるということにしようか。

 まあテミスがついておるから大丈夫ではあろう」


「「「 異議なし 」」」



「これで地球にも良い変化が起きるかもしれんの。

 地球が進歩して神界認定惑星になるのが1万年は早まるかもだ」


「その変化を見守るのも興味深いのう。

 後世のためにもよく記録しておくとしよう……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地は、タマちゃん、淳、スラさん、チャマニーさん、シスくん、ストレーくん、テミスちゃんらと共に時間停止倉庫に籠った。


 皆がブラック労働に陥らないよう気をつけながらも、体感時間で1月ほどを費やして、『地球に於けるダンジョンドロップ品販売申請書』を書き上げたのである。



「にゃあダイチ、あちしはこの申請書を持って神界のツバサさまのところに行って来るにゃ。

 それで目を通してもらってから、大地が説明に行けばいいと思うにゃ」


「そうだね、それじゃあタマちゃんよろしく」


「はいにゃ♪」


(タマちゃん、最近しっぽハゲが治ったんで機嫌がいいな……

 よかったよかった……)




 翌日、タマちゃんはツバサさまと一緒に帰って来た。


「あ、ツバサさま、来てくださったんですか」


「ええ、あの申請書は神界の神さまたちにも送っておいたわよ。

 それでね、わたしはもちろんのこと、神さま方からもご了解を頂いたわ♪」


「えっ!

 も、もうですか!」


「でも、大地さんは知らなかったみたいだけど、ダンジョンドロップ品はそのダンジョンがある世界でしか使えないの。

 銀河の産業が混乱しないように、恒星間売買は禁止されているのよ。

 例外はダンジョンマスターが自分の母世界で直接使うことだけね。

 タマちゃんは知ってたはずよ」


「にゃっ!

 そういえばそうだったにゃぁ~」


「そうだったんですか……」


「でもやりようはあるわ。

 タイの洪水危機のときにバンコクに作ったアルスダンジョンの分室を拡張して使えるようにすればいいのよ。

 そうすれば地球にも分室とはいえダンジョンがあるんですから、ドロップ品も使えるようになるわ。


 要はアルスと地球のダンジョンを姉妹ダンジョンとしてひとりのマスターが統轄するものにしてしまうということね。

 神界にはその方向でご了解を頂いたわ」


「なるほど」


「もちろんそのダンジョンのダンジョンマスターはダイチさんで、思う通りにしていいそうよ♪」


「はい、ありがとうございます」


「ついでにダイチさんは地球総督も兼務ですって♪」


「えええええええええええええ―――っ!」


「うふふ、地球社会がどう変わるか楽しみだわ♡」


 ツバサさまのおっぱいが嬉し気にふりふりと揺れている。

 大地は必死にそれから目を反らそうとしていたが、眼球だけは揺れに合わせて左右に動いていた。

 まるでウインブルブルドンのセンターコートの観客のようである。


 もちろんツバサさまはそれに気づいていてさらに上機嫌になっている。



「あ、ありがとうございます……

 ですが我々が作った申請書は、あくまでダンジョンドロップ品の地球での販売についてでありました。


 ダンジョン分室がなければドロップ品が使えないのであれば、もちろんダンジョン分室を利用させて頂きたいんですけど、これから地球に於けるダンジョン分室の運用についての企画書を作ります。

 それが出来ましたらまたチェックをお願い出来ませんでしょうか」


「もちろんですよ。

 そうそう、ついでに神界や銀河の神界認定世界についても公開していいそうです♪」


「い、いいんですか?」


「害にはならないでしょうしね。

 それに、その方が地球の皆さんも目標が出来ていいんじゃないかしら。

 それからダイチさんはもう地球総督ですから、地球の成績表も見ておいた方がいいわね♪

 どれも10点満点評価で書かれているわ」



 その場に1枚の書類が出て来た。



【成績表:地球】


 主要種族 : ヒト族


 知的生命体平均E階梯 : 1.81


 文明指数 : 0.71


 内訳

 科学技術

 物理学 : 0.7

 化 学 : 0.6

 天文学 : 0.5

 工 学 : 0.9

 生物学 : 0.9

 通信・娯楽 : 2.5


 医学

 外 科 : 0.8

 内 科 : 0.2

 産婦人科: 1.0

 その他科: 0.8

 薬 学 : 0.1

 予防医療 : 0.2


 政治

 内 政 : 0.2

 外 交 : 0.1


 経 済 : 0.3


 環 境 : ▲0.5


 教 育 : 0.2


 地政学 : ▲2.2


 自然死率 : 0.1




「あの、この平均E階梯と文明指数って……」


「それは神界認定世界になれるかどうかの基準ね。

 どちらも5.0を超えると神界認定世界候補になれて、その他いくつかの基準を満たせば銀河連盟にも加盟出来るようになるわ」


「うーん、これを見るととんでもなく先の話ですねぇ」


「そうね、このまま順調に地球のヒト族が努力を重ねて、惑星規模の自然災害も無く、幸運に恵まれたとしても、あと50万年ぐらいはかかるかもしれないわね」


「50万年ですか……」


「それでも多くの文明がそこまで辿り着けずに滅んだのよ。

 滅びないまでも低レベルのまま延々と停滞している世界もあるし」


「そうなんですね……」


「でも、仮に地球文明が滅んだり神界認定世界になれなくても、地球は大いなる成果を上げたわ」


「??? どんな成果ですか?」


「それはダイチさん、あなたよ♪」


「えっ……」


「ダンジョンの力を借りたとしても、2年も経たないうちに800万ものヒューマノイドを救いつつあるんですもの。

 これは銀河の歴史でも稀に見る快挙だわ。


 そのおかげで自身のE階梯もみるみる上げたし、その功績で天使威を授かる資格まで得ているし、感激した神界から5000年の寿命も授かったし。

 あなたという存在が生まれたことだけで、地球は既に充分な功績を残したと見做されているのよ♪」


「げげげげげげ……」



「それに、50万年なんてすぐよ。

 なにしろ神界の知性付与プロジェクトからたった5万年で産業革命に至ったのはそれだけで優秀な種族である証だし、その産業革命からもまだ300年しか経っていないんですもの。

 認定世界や銀河連盟加盟への道のりはまだ始まったばかりだわ。

 これでも地球はよくやっている方ね」


「はあ……」




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