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*** 372 金に代わる商品 ***

 


 ダンジョン国幹部会にて。


「スラさん、地球の様子は如何ですか」


「特に大きな自然災害も無く、平穏無事と言ってもいいでしょう」


「それはなによりですね」


「ですが……

 実は少々困っていることが有りまして、ご相談させて頂きたいと思っていたのです」


「なんでしょうか」


「我々がアルスの金を地球で売っているせいで、地球ではジリジリと金価格が下がり続けているんです。

 1年前はNYMEXで1オンス2000ドル以上の価格で取引されていたものが、最近では1600ドル近辺にまで下がって来ていまして……」


「やはりそうなりましたか……」


「ですがまあ全体的に見ればまだ高いですけどね。

 3年前には1オンス1200ドルでしたから」


「なるほど」


「ですが、大国から小国までほとんどの国が外貨準備の一環として金を保有しています。

 それで数カ国から、あとどれぐらい金を売るつもりなのかと非公式に打診を受けてしまったのですよ。

 どうやら外貨準備のうちの金保有比率を下げることを検討しているようなんです。


 もちろん非難して来るような国はほとんど無く、我々が取引をしていない中華人民共和帝国と朝鮮民主主義人民共和王国が少々文句を言って来るぐらいですけど、さほど強い調子ではありません。

 どの国も大きな自然災害が起きたときには天界の助けをアテにしていますから」


「そうですか……

 この中央大陸の食料生産もだいぶ改善して来ましたんで、あと10年ほどもあれば金を売る必要も無くなるかもしれないんですけど……」


「ですが……」


「そうですよね。

 そうなると今度はウチに穀物を売っている国が困るでしょう」


「ええ、特にウクララライナは、天界向け穀物輸出額がGDPの5%にもなっていますから」


「うわー」


「インドド全体では0.8%ほどですが、デカン高原とその周辺の州ではやはり州GDPの6%に相当していますからね。

 タイ王国の対天界輸出依存度もGDPの2%以上ありますし。


 もちろんアメリカやカナダダなどの大国ではGDP自体が大きいので全体としての影響は小さいですが、それでもGDP比0.5%近い輸出額があります。


 オーストコアラリアは、アスラさまに深い恩義を感じていますのであまり文句は言わないでしょうが、それでもあの人造湖の水を使って中部砂漠地帯を大穀倉地帯にしつつありますので、アルスが食料輸入を削減すると相当に困るでしょう」


「我々の取引も、いつの間にか随分と地球経済に与える影響が大きくなっていたんですねぇ」


「その分、食糧輸出国はここ30年で最高の好景気に沸いているようです」


「うーん、でも金は穀物や鉱工業製品と違って通貨価値に直結していますからねぇ。

 それこそ『神界が大恐慌を引き起こした』とかいうことになったら困りますし」


「仰る通りです。

 ですがこれから継続して金を大量に売ることは難しいというのであれば……」


「金以外で何か売れるものがないかということですか。

 それも継続して売れるようなものが……」


「はい。

 それが最善の策になります。

 金以外の物を売れるようになれば、当面の食料購入を続けられた上でウクララライナやオーストコアラリアやインドドのデカン高原地域には徐々に産業構造の転換を促していけばいいですからね」


「何が売れますかね。

 銀ならいっぱいあるんですけど」


「金の取引量も実は大したことはないんですけど、銀市場はさらに小さいんですよ」


「レアメタルやレアアースはどうですか?

 シスがかなり溜めてくれていますので」


「レアメタルやレアアースは確かに資源枯渇が叫ばれていますが、やはりそれほど高価格ではないんです。

 市場も小さいですし」


「希少木材はどうですか?」


「日本や東南アジアでの需要は大きいですが、それでも金に比べたらその総価値はかなり見劣りするでしょう。

 また、世界各国も金と違って検疫の問題を持ち出すでしょうね」


「同じ理由で水産資源もダメそうですね。

 あのカニ一杯で100倍以上の重さの麦が買えそうですけど」


「ええ、残念ながら……」


「うーん……

 何かいい売り物は無いかなぁ」




 それまで黙って聞いていた淳が口を開いた。


「いや大地くん、とびっきりの売り物があるよ」


「えっ……

 な、何ですかその売り物って」


「ダンジョンのドロップ品だよ」


「えええっ!」



「例えばポーションだね。

 何と言っても僕はポーションのおかげで命が助かったわけだし、髪も生やしてもらえたし」


 スラさんも深く頷いた。


「確かに。

 ポーションのおかげでシリンスーン姫も命が助かって、わたしも髪が生えました……」



「それだけじゃないな。

 ポーションは明らかに肉体を活性化させてヒトを若返らせているだろう」


「そ、それはそうなんですけど、そんなもの売り出したら大騒ぎになりませんか?

 第一医者がみんな失業してしまうでしょうに。

 須藤さんの病院だって……」


「いや、医師、特にほとんどの内科医の仕事は、検査結果を見て診断することと薬を処方することなんだ。

 薬事法によって、処方薬の処方は医師しか出来ないことになっているからね。

 外科医の一部は手術でメシを喰ってるけど。


 つまり、薬屋で売ることの出来ない処方薬を処方する権利を独占していることこそが医師のメシの種なんだよ。


 そんな規制で守られている職業に配慮する必要はそれほど無いんじゃないかな。

 それに、場合によったら『ポーションを処方する処方箋』を書くことで生き延びられるかもしれないしね」


「で、でも、それでは製薬会社が困りませんか?」



 淳は小さくため息をついた。


「実は製薬会社に限らず、製薬に関わる集団は非常に困った連中なんだよ」


「???」


「例えば日本では、市中に流通している薬のうち99.5%は対処療法薬で、根本治療薬はたったの0.5%しか無いんだ」


「えっ……」


「つまり、風邪の諸症状を改善する薬は山ほどあるけど、風邪そのものを治癒させる薬は存在していないっていうことなんだ」


「製薬会社はなんで根本治療薬を研究開発して売ろうとしないんですか?」


「もし風邪の根本治療薬なんかを開発したら、対処療法薬を売って儲けている自分たちが困るからね」


「うっわー」


「仮に風邪とインフルエンザの根本治療薬が開発されたとしたら、日本の製薬会社の半分が潰れるって言われているんだ。

 花粉症の根本治療薬が開発されたら残ったうちのさらに半分も破綻するだろう。


 確かに製薬会社はインフルエンザワクチンを製造して売ってるけどさ。

 あのウイルスは種類も変異も多いから、いくらワクチンを売ってもインフルエンザは無くならないから安心して売ってるんだよ」


「そ、そうだったんですね」


「全てのインフルエンザウイルスに効果のあるワクチンや薬剤なんかは、絶対に開発しようとはしないだろう」


「で、でも例えば大学や研究機関なんかで研究はされていないんですか?」


「そうした研究機関は文部科学省からの助成金で運営されているんだ。

 そして、製薬業界団体からの厚生族議員や厚労省の外郭団体への寄付金額はすごい額だからね。

 製薬業界はそうした金で根本治療薬の研究に助成金を出さないように圧力をかけているんだよ」


「うっわわー」


「まあ直接禁止するっていうより、『その根本治療薬研究が成功する可能性を明示してから助成金を申請してください』って言うんだけど。

 資金が無くって研究もしてないのに、その新薬開発が成功する可能性なんか報告出来るわけ無いのにね。

 その手の先が見えない基礎研究こそ、政府が採算を度外視して50年100年単位で助成しなければならないのに」


「酷い話ですねぇ……」


「おかげでこれだけ科学が発達して来た中でも、薬学のレベルだけは異様に低いんだ。

 治療を薬に頼っている内科医学もね。


 例えば『感染症』って呼ばれる病気には、寄生虫感染症、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、異常プリオン感染症があって、その種類は全部で2000とも5000とも言われているんだ。

 それで、人類が今までに克服したと言われている感染症っていくつあると思う?」


「さ、さあ……」


「それが、たったの1つしか無いんだ」


「えええっ!」


「その1つって天然痘スモール・ポックスっていうウイルス感染症なんだけどさ。

 そのワクチンって、危険性の高いものは1000年も前から、安全性の高いものは約200年も前に実用化されてたんだ。


 でも、それから200年近く経ってるのに、未だに天然痘以外に克服されたウイルス感染症は無いし、それ以外の感染症にも無いんだよ。

 この200年間にこれだけ科学が発達して来たのに。


 しかも天然痘ウイルスって極めて変異種が出来にくい種なんだ。

 変異しても毒性が無くなるとか。

 だからワクチンが良く効いたんだ。


 でも、克服、撲滅って言っても、単にワクチンで患者数をゼロにしただけなんだ。

 おかげで宿主ホストを失った天然痘ウイルスが絶滅したと言われてるだけなんだけどね。

 根本治療薬が開発されたわけじゃあないんだ。

 だから結核みたいにまた再流行し始める可能性は残されているんだよ」


「そうだったんですね。

 感染症ってたった1つしか克服されてなかったんですか。

 しかも根本治療法の開発に至ってはゼロだったんですね……」



「製薬企業の罪はそういう怠慢や妨害だけじゃないんだ。

 最近目に余るのは『病気喧伝』だね」


「『びょうきけんでん』ですか?」


「『昔、製薬会社は病気を治療する薬を売り込んでいたが、今日では彼らは薬に合わせた病気を売り込んでいる』って言われているんだ。

 もしくは『病気商人: いかにして製薬会社はあなたに具合が悪いと感じさせるか』ともね」


「うっわわわー」


「特に酷いのは精神科かな。

 精神疾患は生理学検査が出来ないから、患者の言い分だけで薬が処方出来て売り上げになるから。


 有名な広告だと『鬱病は心の風邪です。お薬で治ります』っていうのがあったよ。

 実際は治るんじゃあなくって、向精神薬でハイな気分にさせてるだけだけど」


「そうだったんですか……」


「それに、よくWebで『以下の問いに対してイエスが〇つ以上あれば、あなたは〇〇精神疾患の可能性があります』っていうサイトがあるだろ。

 〇〇の中に入ってる病名は、アスペルガー症候群、軽度自閉症/ADHD/躁鬱病/パニック障碍/若年性痴呆症/ヒステリー症/強迫神経症とかたくさんあるけど。


 特徴としては最後の文に必ず『まずは医師に相談を』って書いてあるんだけどね。

 それってほぼ全部製薬企業のダミーサイトなんだ」


(註:詳しくは『病気喧伝』でググってWikiをご参照くださいませ。

 酷い実例がいっぱい書いてあってびっくりします)



「確かにヤタラにありますね……」


「しかもさ、そのサイトを見て精神科に行くと、出てくる薬はすべて向精神薬か精神安定剤なんだ。

 それも新しく開発された薬は皆無で、すべて既存の薬か、もしくは麻薬扱いされないように常習性を抑えただけのものだし。

 精神科系の薬は製薬企業にとって利益率がかなり高いから。

 酷いのになると、他の疾患の治療に使われている薬の名前だけ変えて『新しい薬です!』って言ってるし。


 そうやって、既に存在する薬に合わせた病気を喧伝しているんだ。

 もちろん全部対処療法薬で、根本治療薬の研究なんか誰もやっていないし」


「そうだったんですね……」


「ついでに言うと、精神科には反社会的勢力のコワイおじさんやお兄さんが大勢通ってるね」


「なんでですか?

 やっぱりああいうシノギをしてると心の負担が大きいんですかね?」


「いや、鉄砲玉を命じられてコロシをしたり、恐喝で脅し過ぎて傷害致死罪とか受けたとするだろ。

 そういう時に『精神科への通院歴があります』って言うと罪が軽くなるからなんだ。

 無期懲役が懲役5年になったりするし。

 だからなるべく通院しておくよう、顧問弁護士から勧められてるらしいね」


「どっわわわわー」



「それにしても製薬会社は酷いよ。

 きっと1000年後の歴史書では、18世紀から21世紀初頭までの地球は『薬学暗黒時代』だったって書かれるだろう。

 そして、その原因は製薬企業の意図的怠慢と妨害だったとも書かれるだろうね。


 だから僕は、そんな地球の製薬企業や薬事行政は一度ポーションによって滅ぼされてもいいと思うんだ。

 もしくはポーションをやや高額にして、既存の製薬会社は家庭用常備薬に専念するとか」


「そうか……」


「だって大多数の人にとって大事なのは病気が治ることであって、官僚や政治家や製薬会社を儲けさせることじゃあないんだもの」


「なるほど……」





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