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*** 340 商会本店の設計 ***

 


 大地は旧デスレル属国群の農民43万が読み書き計算を学んでいる学校群を視察し、総校長を任せている総督隊の士官から話を聞いた。


「不真面目な者を排除した結果、残った者は皆それなりに真面目に勉強していたのですが、最近では非常に熱心に学ぶようになりました」


「なんでだ?」


「あの草刈りの賃仕事をしたことがきっかけだったようですね。

 草を刈る場所はワイズ王国の農村部だったために、そこの裕福な暮らしを見て衝撃を受けたようです。

 冬も近いというのに畑には麦が育っていますし。

 それになにしろ、村人たちは皆綺麗な服を着て、中には馬車で王都のレストランなどに食事に行く者たちもおりましたので」


「そうか、そう言えば多くの村が麦を売ったカネでダンジョン商会から馬車を買っていたな。

 それを共同で使っているのか」


「そうして賃金を貰って学校街のダンジョン商会に行ってみれば、そこにはあの綺麗な服が売られていたわけですからね。

 それで、自分たちも新農村に入植すれば、あのように裕福な暮らしが出来るかもしれないと気付いたわけです」


「なるほどな。

 賃仕事をやらせた上で裕福な村の暮らしを見せてやれば、モチベーションが上がるのか。

 このやり方は今後も使えそうだな」


「それに彼らはまだ村人のいない外周部の村の草も刈っていました。

 まだ誰も入植していない村も見たわけです。

 そうして、中級検定に合格するとあのような新農村に入植出来て、冬でも作物が作れるようになると理解しました。

 それで検定合格の熱意がさらに高まったようです」


「勉強することで何が得られるかという実利を見て、熱意が出たということか」


「はい」


「今中級検定に合格している者は何人いるんだ?」


「はっ、約2000人ほどおります」


「シス、例えば500人規模の新農村を4つ作り、その全てを結界で覆って冬の間暖かいままにしておくことは大変な負担になるか?」


(結界の魔道具と熱の魔道具がありますので、わたくしの負担は村を造ることだけです。

 それももうマクロ化してありますので、負担はほとんどありません。

 単にダンジョンポイントが消費されるだけです)


「だが、魔道具用の魔石の消費が大きくなるな」


(それについては魔力UPの練習と小遣い稼ぎも兼ねて、総督隊や互助会隊の方々が毎日魔力注入をして下さっています。

 既に中級魔石に換算して2万個の在庫がありますので、問題は無いでしょう)


 総督隊の将校が微笑んだ。



「まあ、結界による気候制御は今年だけでいいから大丈夫か。

 本来はもう2月ほど早く麦やジャガイモの作付けをしていたはずだから。


 それじゃあ500人規模の村を魔道具つきで4つ作り、これを小規模行政単位とする。

 場所は旧シノーペル王国がいいだろう」

 

(はい)


「村は1辺2キロ四方として、畑以外の場所には栗や柿などの木を植える。

 畑は500反でいいか。

 4つの村を田の字型に配置して、中央に溜池を作ろう。


 これら4つの村を円形に6か所配置して、中規模行政区にする。

 この行政区をさらに円形に6か所配置して大規模行政区にし、中央部に代官屋敷とダンジョン商会の支店も造ろう」


(ということは、村の数は全部で144個、就業者人口は7万2000ということですね)


「そうなるな。

 そのうちの20の村に中級検定合格者を100人ずつ入植させる。

 村長は『農業・健康指導員』に限定するから、当初は互助会隊のメンバーになるか。


 そこに初級検定合格者400人ずつを研修生として派遣しよう。

 研修生は週3日農村で働き、あと3日は学校で学び、1日は休みだ。

 研修生が中級検定に合格したら、また別の村に正規村民として入植させてやろう。


 こうした大行政区を6つ作れば旧デスレル属国群の農民たちを全員入植させられるな。

 10年後、100年後の人口増加と村の拡張も考えて、各行政区の間隔は広めにしておいてくれ」



「ダイチさま、そうなるともはや大国と言っていい国が6つ出来ることになりますな」


「そうだな。

 そのうちに大陸各地から人を集めて、国を増やすことにもなるだろう。

 シス、デスレル平原にこうした国は最大いくつ作れる?」


(推定で、最低でも400、最大で500作れます)


「そんなに作れるか」


(はい、デスレル平原は広いですから)


「ということは、最大で人口3600万の大農業国集団になるということだな。

 それ、中央大陸の人口を遥かに上回ってるぞ」


(将来の人口増加を考えれば、それぐらいの大穀倉地帯があってもいいのではないでしょうか)


「そうだな、それじゃあデスレル旧皇都北部の学校施設も少し拡張しておいてくれ」


(畏まりました)


「ところで、総督隊の皆はそれらの国で代官をやってみないか?」


「あの、ダイチさま。

 我ら総督隊は、もともとガリルさまの商隊の護衛兼商人でした。

 ですから、出来れば政や農に携わるのではなく、その国のダンジョン商会の支店長にして頂けませんでしょうか……」


「もちろん構わんぞ。

 商人として一国一城の主になるということか」


「ありがとうございます。

 夢のようなことでございます……」


「それでは代官は互助会隊の連中に任せようか」


「はは、代官と言うよりはもはや『王』ですな……」




 大地は互助会隊本部にやってきた。


「旧デスレル属国群の農民たちが真面目に読み書き計算を学ぶようになって、中級検定に合格し始めているんだ。

 そこで、合格した者は新農村を作って入植させてやりたいんだよ」


 大地は各村の配置と小中大の行政区の説明を行った。


「ということで、当初は大行政区が6つ出来て、最終的には約43万人を収容することになる。

 そこで代官というか王と言い換えてもいいんだが、6人の統治者とその補佐たちを互助会隊に任せたいんだ」


「お、俺たちが代官や代官補佐になるというのか!」


「そうだ」


 互助会隊の厳つい男たちが号泣し始めた。

 お互いの肩を叩き合って喜んでいる。


(こんなに喜ぶとは……

 まあ、つい1年前までは病と空腹で死を覚悟していた傷痍退役軍人だったんだもんな。

 それを考えれば当然か……)



「あー、そうした新農村4つを集めた最小行政区の村長も、互助会隊の内『農業・健康指導員』に任せたい。

 入植してから3年間は税免除とするが、4年目からは税は反当たり2斗だ。

 これは統治のための費用に使ってくれ。

 当初3年間の統治費用や皆の給料は俺が出す」


 メルカーフ中尉が感慨深げに言った。


「夢のような国だな。

 農民たちはさぞかし豊かな暮らしが出来るだろう」


「そのうちダンジョン商会が飲食店も出すようにしようか。

 余った作物を売ったカネで、農民たちは旨い物も喰えるようになるぞ」


「そ、それはあの海の村で食べた魚や貝やカニか!」


「そうだ。

 それ以外にもたくさんあるぞ」


「素晴らしいな……

 これこそがダイチ殿がよく言う民の幸福か……」


「ところでダイチ殿、その6つの『だいぎょうせいく』なのですが、もはや大国と言っていい国だと思うのですが、名前はつけられないのですか?」


 大地は微笑んだ。


「ギルジ曹長、あんたが代官になるなら、『ギルジ国』にしてもいいぞ。

 ただし『ギルジ帝国』にするのはヤメてくれな」


「そ、そそそ、そのようなこと、とんでもございませんっ!」



「だがダイチ殿、次の代官は初代代官の子孫が引き継ぐわけではないのだろう」


「そうだ、世襲制こそは諸悪の根源のひとつだからな。

 代官の仕事は行政統治だが、後継者育成も含まれる。

 故に代官見習いの中には数人の若い者も入れておいた方がいいかもしれん」


 メルカーフ中尉は考え込んでいた。


「なあ、その代官や代官見習いの任命権なんだが、全てダイチ殿に渡してもいいだろうか。

 最初は問題無いだろうが、そのうちに後継者争いが起きるかもしらん」


「わかった、1国につき代官1人と副代官3人、代官見習い12人とその補佐たちの推薦名簿を作ってくれ。

 その名簿に基づいて俺が正式に任命する。

 国の名前も同じく提案してくれ」


「安心したよ」


「ダイチ殿、『だいぎょうせいく』は144の村の集合体になるとのことですが、その『だいぎょうせいく』の配置はどうなさるのですか?

 これも円形に6か所にされるのでしょうか」


「大行政区は多少離れていても構わない。

 旧国家6カ国に作ってもいいだろう。

 ただし、デスレル平原北部にはあまり作らないでくれ。

 あの北の森の民たちのために中規模行政区を作ってやりたいんだ」


「畏まりました」




 数日後、大地は互助会隊本部が推薦して来た人事案をそのまま了承した。

 やはり代官や副代官たちには、旧各国の互助会隊指揮官たちが名を連ねている。


 だが……


(なんだよこの国名……)


 そこには、『第1ホクト恩寵国』から『第6ホクト恩寵国』と国名が書いてあったのである。


 大地は異議を唱えようとしたのだが、互助会隊全員のワクテカ顔を見て諦めたようだった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地はまた時間停止倉庫に籠り、シスくんと共にゲゼルシャフト王国とゲマインシャフト王国の王都に建設する商会本店の設計に取り掛かった。


「基本的にはワイズ総合商会と同じような作りでいいだろう。

 商業施設と飲食店街のあるショッピングモールみたいなもんだな。

 それに診療所と劇場と入浴施設とホテルを併設しようか。

 従業員用宿舎も作ろう。

 行商隊用の施設は当面必要無いが、場所だけは確保しておこうか」


「敷地面積はどれほどにいたしましょうか」


「そうだな、王都に近い山林に作るから少し大きめにしよう。

 2キロ四方ぐらいでいいだろう。

 ショッピングモールは3階建てにしようか。

 その方がみんな驚いてくれそうだ。

 建設適地はありそうか?」


「どちらの国も、王都から南方向に1.5キロから2キロほど離れた場所に小高い丘や森があります。

 木に覆われているために農地は無いので、あそこがよろしいかと」


「2キロか。

 歩けば30分ほどだが、年寄りや子供のために王都から送迎用の乗合馬車も出すようにしてやろう」


「あの、建築の際には、南海岸で『抽出』した鉄やその他鉱物を使ってH形鋼や鉄筋を作ってもいいですか?」


「もちろん構わんぞ」


「それでしたら、ショッピングモールの屋上に塔か観覧車は如何でしょうか」


「はは、それも面白そうだな。

 観覧車は時計も兼ねるようにして、王都の方を向けてやろうか。

 元公爵領都のような大きな街にもやや規模の小さなモールを作るが、そちらは塔と展望台でいいだろう」


「はい♪」


「それじゃあ完成予想の模型を作っておいてくれ。

 モールそのものの模型は1000分の1にして、2メートル四方で頼む。

 それとは別に1万分の1の地形模型も作って、王都との位置関係も分かるようにしようか。

 あ、観覧車は模型には付けなくていいぞ。

 完成したものを見て驚いてもらおう。

 その模型を両国の国王と大将軍閣下たちに見て貰って了承を得ようか」


「はい」


「それから、冬の間に各地の街を結ぶ幹線道路網を作りたいと思っているんだ。

 街の場所や地形を考えて、どこに作ればいいか配置の選定をしておいてくれるか。

 将来のことを考えて道幅は12メートルにしよう。

 片側2車線の4車線道路だな。


 途中の河川には橋を架け、小さな丘は削って切通しにする。

 長距離の定期馬車便も造りたいんで、なるべく斜度の小さな道にして欲しい。

 どうしても大きな山地がある場合にはトンネルも作ろうか」


「両国ともさほどに大きな山地は無いので、トンネルの数は少なくて済みそうです」


「そうか、それはよかった。

 それにしても、アルスって人口密度が低いよな。

 ワイズ王国もゲゼルシャフト王国もゲマインシャフト王国も、1平方キロ当たり人口は4.2人ほどだろ。

 これ、東京都の1200分の1だし、日本全体の居住可能地に比べても30分の1だもんなあ」


「中央大陸は南側にはワニのいる河があり、中央部には大森林があるせいでヒューマノイド居住可能地は約2500万平方キロになってしまっていますけど、その中で人口は2500万人ですから」


「そもそもの人口密度は1平方キロ当たり1人だったっていうことか。

 それだけ森が濃くて農業が出来ない場所が多いということだな」


「加えて生活用水や農業用水を河川に頼っていますからね。

 どの国でも街や農村は河沿いにしかありませんので」


「そうか、今後の人口増加に向けての都市計画では水の確保が重要と言うことか。

 南大陸では、じいちゃんは大規模水道網を造ったけど、この中央大陸では『水の魔道具』があるから、そこまでの水道は要らないな。

 だが、どこかに大規模な貯水池を作っておいた方がいいかもしれん。

 そこから各地の村へ『水の魔道具』で水を転移させればいいだろう」


「それでは中西部山岳地帯の山中をくり抜いて、大規模貯水場を造っておきましょうか」


「そうだな、そんなに急がんでもいいから、30億立方メートルクラスのものを5つほど頼む。

 そこに溜める水は、今ストレーの中にあるものに加えて、塩やにがりを作るついでに海水からゆっくりと『抽出』していけばいいだろう」


「畏まりました。

 ところで、両国の商会本店モールの完成予想模型が出来上がりましたが、ご検分いただけますか?」


「早いな!」


「お話しさせて頂いている間にマルチタスクで作っていました。

 それであの……

 ショッピングモールの屋上に造る観覧車の設計は、わたくしにお任せいただけませんでしょうか……」


「もちろんいいぞ。

 なんせ造るのはシスだからな」


「ありがとうございます♪」


(なんかシスが嬉しそうだぞ……

 でもまあ楽しんで仕事が出来るならそれでいいか……)




 翌日、ゲマインシャフト王国とゲゼルシャフト王国の首脳は、転移の輪にてワイズ王国の迎賓館に集合した。

 尚、ワイズ国王や宰相閣下、アイス王太子やエルメリア姫も同席している。


「こ、これは……」

「このように巨大な商業施設を造られるというのですか」

「もはや王都と大きさが変わらないのですね……」


「まあ国営商会の本店ですからね。

 これぐらいの規模があってもいいのではないでしょうか。

 それから、この模型にはつけてありませんが、旧公爵領都や旧侯爵領都の支店の屋上には塔が、王都本店の上には観覧車が造られます」


「塔はまだわかるが、『かんらんしゃ』とは?」


「そうですね、この迎賓館のエレベーターが大きく円を描いて回るようなものです。

 遠くの景色が見えてみんな喜ぶと思いますよ」


「ほう、それは楽しそうだ」


「そういう名物になるようなものがあると、みんな1度は見に来てくれますから。

 そうすれば、商会本店の各種商品や料理なども知ることになるでしょう」


「なるほどのう。

 王都からでも見えるような建造物があれば、皆一度は見に行ってみようということになるか」


「そういうことです」





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