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332/410

*** 332 料理学校設立 ***

 


 大地はワイズ王国、ゲゼルシャフト王国、ゲマインシャフト王国の首脳陣と個別に会談を行った。

 ワイズ王国では先日各種料理の試食会を行ったが、今回会談を行う国々では新作料理の試食会に加えて政策助言も兼ねている。



 ワイズ王国の会談出席者は、国王陛下、宰相閣下、アイシリアス王太子、そして来年から宰相補佐になって国政を学び始める予定のエルメリア姫だった。



「宰相閣下、国政は順調かな?」


「はい、おかげさまで極めて順調です。

 我が国を訪れる商隊の数も、周辺国の盗賊を全て捕縛して頂いたおかげで、500ほどに増えていますし。

 中には片道1か月近くもかけて、遠方から来ている商隊もおるようです」


「それはたいへんだ。

 だがまあそれだけワイズ総合商会が認知されているということか」


「はい。

 それでひとつご相談があるのですが」


「なにかな」


「いくつかの商会から、ワイズ王国内に商会本店を作らせて欲しいとの要望が上がって来ておるのです。

 どうやら彼らの母国では、冥加金が高すぎて苦労しているとのことで。

 また、あのデスレルを滅ぼしたほどの国であれば、他国に攻め滅ぼされることもないという安心感もあるようです。

 実際には、商会の長がこの地に住んで、毎日ワイズ商会の料理を食べたいというのが本音のようですが」


「はははは、俺たちの料理が思わぬところで役に立ったか」


 メリア姫が嬉しそうに微笑んでいる。

 最近では、ワイズ商会のレストランで供される料理は、姫と一緒に料理を学んだ元王城料理人たちが作っていた。



「それで、どのように対応すればよろしいでしょうか」


「陛下はどう思われているのかな」


「うむ、我が国は既に周辺国の難民を大量に受け入れている。

 いまさら移住を断ることもなかろうて」


「ならば受け入れればいいんじゃないかな」


「それで、それら商会の冥加金はいかがいたしましょうか」


「連中は今母国ではどれぐらいの冥加金を国に取られているんだ?」


「王都内や領都内での店舗面積に応じて地代という名目で払っておるようですが、大手商会では年に金貨50枚ほど、中小商会でも金貨10枚から20枚ほど払っているようですね。

 それ以外にも、途中の国や貴族領を通過するたびに関所税を取られているようでして。

 ですから、ワイズ商会から仕入れた品を母国で売る際には、仕入れ値の何倍もする値で売らねば利益が出ないそうです」


「そうか、それでは商会本部をワイズ王国に移した際には、冥加金は年当たり一律金貨1枚にしようか」


「よ、よろしいのですか?

 ワイズ総合商会を構成する国内15の商会に対する冥加金は、純利益の5割となっておりますが……」


「そもそもワイズ総合商会は俺が格安で卸した品を売る商会だ。

 純利益の捕捉も容易だしな。

 各国の商隊が本拠地をここワイズ王国に移した場合、彼らはそのワイズ商会の商品を大量に買って各地に行商に行ってくれることになる。

 その際にはワイズ商会へ落とす利益という形で十分に冥加金を払っているわけだ。

 まあ、冥加金をゼロにするのもなんだから、金貨1枚にするだけだ」


「なるほどのう……

 彼らはワイズ商会を通じて既に冥加金を払ってくれているということか……」


「そのとおりだな陛下。

 これほど確実に支払ってもらえる冥加金もあるまい」



(本当にこのお方はすごい方だ。

 私では思いもつかない考え方だな。

 それに、冥加金を金貨1枚などという格安にしてやれば、各商会は利益を出し放題になるのでますます行商に力を入れるのか。

 本当にこのお方の考えの深さは底が見えぬ……)



 アイスくんまたもや買いかぶり過ぎ♪



「それで、移住を希望した商会の本部や倉庫はどこに置いてやりましょうか」


「陛下、総合商会本店の南にある雑木林を拓いて商会専用の街を作ってやっていいかな」


「もちろんだ」


「そこに1000ほどの邸宅や従業員宿舎や倉庫を作ってやって、それらは格安でワイズ商会に卸そうか。

 それを倍の値段で商会に売ってやればまたワイズ商会が儲かるな。

 商会で家具を売るようにすればさらに儲かるし。

 各商会のワイズ王国への引っ越しも有料でワイズ商会に引き受けさせるか。

 いったん資材や人員をストレーの倉庫に転移させて、それをワイズ王国の商会街にまた出してやればいいだろう」


「「「 な、なるほど 」」」



「それにしてもだ。

 周辺各国や貴族領が関所税と称して勝手に通行料を取っているのはけしからんな。

 自分たちは何の努力もしていないくせに。

 その国で商品を売る際に僅かな税を取るならともかく、単に通過するだけで税を要求するとは。

 シス」


(はい)


「このワイズ王国を中心とする縦横2000キロほどずつの広域地図を用意してくれ。

 地形情報は戦に利用されるかもしらんから、国名と領名と街道だけ記したものだ。

 それをワイズ商会を訪れている商会の連中に見せて、主にどこで商売をしているのかヒアリングさせよう。

 宰相殿、ワイズ商会本店の店長にそのように指示して欲しい」


「畏まりました」


「そうだな、協力してくれた商会には、ひとり1杯ドワーフエールの大ジョッキを配ることにしようか」


「それは……

 全ての商隊が協力してくれそうですな……」


「そうして、商会たちの行商範囲がある程度掴めたらだ。

 シス、彼らの行動範囲をおおよそ網羅する行商専用転移網を作ろう。

 彼らにマーキングの魔道具を持たせて転移先を特定し、商会はそこから行商をすればいい」


(はい)


「な、なるほど」


「そうすれば途中の国に関所税を払わずに済むし、今まで本店のあった国に冥加金を払う必要も無くなるだろう。

 この国に造る商会街の設計についてはすべてシスに任せる」


(はい♪)



 実はシスくんは自転車動力の機械も好きだったが、道路網や街建設などの都市計画はもっと好きであった。

 数多の避難施設を造ったときも、ストレーくんの時間停止倉庫に貰った自宅で、何日もかけてあーでもないこーでもないと楽しく設計を行っていたのである。


 その設計も建築技術も、ダンジョン国も含めれば既に100万人以上が暮らす街を作り続けて来たために、完全にプロの域に達している。

 しかも、シスくんの場合は本体が神界の誇る最先端超AIであるために、たいていの作業はマクロ化されて記録されているのであった。


 彼は、高原で道を造り、北部海岸で道路網を整備しているうちに、環境に合わせて一品ものを建設するという更なる楽しみに目覚めてしまっていたのである。




 アイシリアス王太子が口を開いた。


「ダイチ殿、ひとつ教えて頂けませんでしょうか」


「なんだいアイス」


「ダイチ殿は各地にダンジョン商会やワイズ商会の支店を作る代わりに、なぜ商隊たちにそこまでしてやるのでしょうか」


「いい点に気が付いたな。

 それは、もしそうすると500もの商隊が失業してしまうからなんだ。

 もしくは各地に作った支店から細々と物資を運んで売りさばく零細業者になってしまう。

 商隊が500あるということは、それぞれの従業員は最低でも10人はいるだろう。

 つまりは全体で5000人だ。

 その家族を入れれば2万人の民がいることになる」


「は、はい」


「彼らを全員失業させれば、その家族たち2万人が不幸になってしまうんだ。

 これは俺の任務を著しく後退させる。

 それに、商隊たちは各本拠地周辺での商品販売に習熟しているだろう。

 支店を作って従業員を派遣したとしても、所詮その従業員は余所者でありその地域の情勢には疎い。


 だが、こうして行商を営む商隊を優遇してやれば、俺たちは地域の販売に詳しい従業員を5000人雇ったことと同じ効果を得られるんだよ。

 その賃金を考えれば商会街など安いものだな」


「なるほど……」


「それに、彼らには人集めもしてもらおうと思っているんだ」


「?」


「陛下、現在ワイズ王国には300人用の村を800用意してある。

 そのうち122の村には既に農民が入植しているが、まだ678もの村が無人で残されているんだ。

 つまり村ひとつに300人の入植者を入れるとして、約20万人のヒトが必要になる。

 南の埋め立て地に畑を作ったとすればさらに6万人が必要だ。


 だが、実際には、入植予定者は周辺4か国からの避難民約8万しかいない。

 故に、これからは周辺の広範な範囲から避難民を集めたいと思っているんだ。

 各国の苛烈な徴税と不作で飢えている農民たちが対象だが、まずは子供たちかな。

 彼らを教育した上で、新たな農村に入植させたいんだよ。

 陛下、構わないかな」


「もちろん構わんとも。

 最終的には1000の村に農民30万人が暮らす国になるのだな」


「そうだ。その全ての村が年間最大4000石の食料を産するようになるだろうから、この国の石高は数年後には400万石になっているだろう。

 実際には休耕地も作るからもう少し少なくなるが」


「そ、それでも凄まじい石高ですの……」


「俺がガリルたちと旧カルマフィリア王国の農村を行商して廻ったときの経験だが、各地の農民たちは相当に疲弊している。

 頭を下げて食料の掛け売りを頼んで来たり、中には村人を奴隷として差し出すので、食料と交換してくれなどと言う奴らもいた。

 俺は、そういう農民たちにダンジョン国への出稼ぎを提案したんだ」


「『でかせぎ』ですかの?」


「冬の間ダンジョン国で働いたら、各人に銀貨50枚を払ってやると言ったんだ。

 春になったらもちろん元の村に帰してやるとも言ったんだが、全員がそのままダンジョン国で暮らすことを選んだよ」


「そ、それはまあそうでしょうな」


「それでカルマフィリア王国には農民がいなくなっちゃったんだ。

 おかげで残った強欲貴族たちがいくら無茶をやっても、民に迷惑は掛からなかったな。

 侵攻して来た周辺国も、得るものが何も無かったんで相当に疲弊したし」


「「「 ………… 」」」


「ガリルたちの総督隊は、その手の出稼ぎ勧誘に相当に習熟してるから、護衛も兼ねて商隊に1人ずつ同行させてやってもいいだろう。

 互助会隊も何人かつけてやって勧誘を学ばせようか。

 そうすれば、苛斂誅求を行ってる国は税を納める農民がいなくなって相当に困窮するだろう。

 それで他国に侵略しようとしたら、『幻覚の魔道具』や『変化の魔道具』の餌食になって、過去の罪状で捕縛されるだろうし」


「ダイチ殿がデスレルを滅ぼした手法と似ていますね」


「そうだな。

 この農民避難と懲罰用魔道具の組み合わせが、ロクでもない国を無血で亡ぼす最適な手段かもしらん」


(なんと恐ろしい手段だろうか……

 王族や貴族が知らぬうちに農民が逃散し、同時に事実上国が滅んでいるとは……

 まさしく国とは、王や貴族がいるから存続しているのではなく、民がいるからこそ『在る』のだな……)



「ところでダイチ殿。

 旧デスレル帝国の属国群や、サウルス平原の農民たちは如何為されるおつもりなのかの」


「それぞれの地域に国を造ってやろうと思っているんだ。

 まあ、国の代表や代官たちは、総督隊や互助会隊から派遣してやればそう変な国にはならんだろう。

 もし50年後100年後に彼らの後継者が暴走を始めたら、また俺が滅ぼすし」


「「「 ………… 」」」



「ところで俺からお願いがあるんだが」


「なんなりと仰ってくだされ」


「ゲマインシャフト王国とゲゼルシャフト王国では、これからそれぞれ12の模範村を作っていく。

 そこで働いて給金を得た連中のために、各地に食堂を作ってやって旨い物を喰わせてやりたいんだ。

 今はまだ避難中だけど、北の海の民やサウルスの川の民たちにも。


 だけど、どの国にもまともな料理人がいないんだよ。

 だから料理留学生をこの国に連れて来て、交代で料理を教えてやりたいんだ。

 構わないかな」


「もちろん構わんですとも。

 先日頂いたような美味な料理が、我が国だけではなく、他の国でも食べられるようになるのですな……」


「それからもうひとつ、……をお願い出来ないだろうか」


「これは失礼いたしました!

 そのようなことはわたくしたちから申し出ることでしたのに……

 もちろん、明日にもそうさせて頂きます!」


「ありがとう陛下」





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