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330/410

*** 330 幼児爆弾 ***

 


 大陸各地の避難状況は順調だった。


 各地に派遣している総督隊や互助会隊の隊員は、1日の業務が終わるとその日の成果や問題点などをシスくんに念話で報告する。

 その中で判断に困る問題があればシスくんが大地に報告するが、その問題も全く無い。

 また、海の民の避難は約50%が終わっており、海氷接岸までには十分な余裕をもって全ての民の避難が終わりそうだという。



 海岸に近い北部森の民の避難勧誘も順調だった。

 農業を兼業している地では相変わらずトラブルはあったが、互助会隊隊員たちはその手のことに関してはベテランである。

 村長やその一族、近隣の国の王や貴族を含めて、次々に犯罪者を収監しながら避難勧誘を広げて行っていた。



 また、デスレル平原北部の森の民への勧誘はさらに順調だった。

 なにしろ、勧誘に訪れたその場で村人たち全員の骨曲がり病が治ってしまうのである。

 しかも、村ひとつにつき麦が200石も供与されるのだ。


 最初の村のグロリアス狩長や同行した互助会隊の皆が、これは全てダイチさまのご恩によるものだと説明したため、大地の神格化はますます拡大している。

 まあ実際に神界の使徒なのだから特に問題は無いだろう。



 各村の避難施設への入居は順調に進み、共同棟の巨大な教場では読み書き計算の授業も始まっていた。


「よいか皆の者!

 この読み書き計算の学習とは、大恩あるダイチさまが下された我らの仕事である!

 粉骨砕身努力して初級中級試験に合格の上、春になったら全員が農場で働けるようになろうではないか!」


「「「 おおおおう! 」」」



 合計50か所もある300人教室では、毎日交代で読み書き計算の授業が行われている。

 講師は『農業・健康指導員』資格を取得の上、教員資格も得た互助会隊の隊員たちだった。



 大地は教員たちにヒアリングをしてみた。


「森の民たちの授業態度はどうだった?」


「あれほどまでに熱心な生徒は初めてであります」


 皆が頷いている。


「そうなのか?」


「なにしろ授業中にパアン!とかドガッ!とかいう音が聞こえて来るのであります。

 何事かと思って聞いてみると、眠くなってしまったことをダイチさまに対する不忠と思い、仲間に頼んで殴ってもらったり自分で自分の頬を叩いて目を覚ましているんだそうです」


「そ、そうか……」


「あの様子なら、春までに全員が中級資格を取得していることでございましょう」



 因みに読み書き計算検定の水準だが、初級は地球で言う7歳児程度の能力、中級は10歳児程度の能力である。

 まあ、それほどの苦労はしないだろう。



 大地はデスレル平原北部に『模範農村』も一つ作ってやった。

 塀で囲まれた300人用の村であり、300反の畑もついていて、避難施設の中央棟とは転移の輪で繋がれている。

 春になったら、こうした村を50か所作ってやる予定となっていた。


 現在では、この村は結界に覆われていて雪は積もらないようになっており、まずは狩り部隊のメンバーによる、広場恐怖症アゴラフォビア日光恐怖症ヘリオフォビアの治療訓練が行われている。



 グロリアス狩長は、各村から集まった計50名の混成狩り部隊員たちを前に訓示を行っていた。


「よいか!

 ダイチさまよりの第2のご指示、それは我らが春までに木の極めて少ない平原で、それも太陽の日の光の下でも働けるようになることである!

 これより訓練を行う!」


「「「 お、おう…… 」」」



「ぎゃ―――っ!」

「な、なんだここは!」

「木が無い木が無い木が無い……」

「た、たたた、太陽の光が眩しくて怖い……」


「なんだ貴様ら、狩り部隊の者たちがなんたるザマだ!

 よし、俺が見本を見せてやる。

 よく見ておれ!」


 グロリアス狩長は陽光の下へ飛び出した。

 そこで固く目を閉じ、プルプル震えながらも立っていたが、そのうち転移の輪が設置されているドームにダッシュで帰って来た。


「すげぇ……」

「さすがはグロリアス狩長殿だ!」

「こんなに広くて明るいところに10秒近く立ってたぞぉ!」


「はぁはぁはぁ。

 よ、よし、お前たちも交代で外に出てみろ。

 少しずつ体と心を慣らしていくのだ」


「「「 は、はい…… 」」」



(なあシス、こいつら大丈夫かね?)


(ま、まあ熱意はあることですし、今後の努力に期待いたしましょう……)





 大地は海岸に近い森のマルジ村に行ってみることにした。

 そろそろ自然薯が集まったころだと思い、大好物の『麦とろ』が食べたくなったからである。



「やあムルジ殿、マルジ村長殿はいらっしゃるかな」


「これはこれはダイチさま、ようこそお越しくださいました。

 申し訳ございませんが、マルジは海のソンチョ村に出かけておりまして、帰りは夕刻になるかと思われます。

 もしお急ぎでしたら、すぐに呼びに参りますが」


「いや、特にマルジ殿に用があったわけではないんだ。

 もしよければ自然薯を何本か買わせてもらえないかと思ってな」


「そんな、もちろん差し上げますのに……」


「いや、こういうことはきちんと金銭を介した方がいいんだよ」


「それでは今お持ちしますので少々お待ちくださいませ」



 家に帰って来たモルジくんが大きな声を出した。


「あ、ダイチ兄ちゃん!

 あれから雌鶏たちが固い殻の卵を生んで暖め始めたんだ!

 25羽全部が!

 見に来てよ!」


「そうか、それじゃあ行こうか」


「うん!」


「ムルジ殿、ちょっと養鶏場に行ってくるので、その間に売ってもいい自然薯を用意しておいてくれるかな」


「畏まりました」




 モルジくんは雌鶏たちが卵を暖め始めたのがよほどに嬉しいらしく、饒舌だった。


「雌鶏が卵を温めてるから、あの卵からひよこが孵るんでしょ?」


「そうだな。だいたい21日ぐらい経つと生まれるな」


「楽しみだなぁ。きっと可愛いだろうなぁ。

 それにね、雌鶏たちは、卵を暖め始めてからも毎日卵を生むんだ。

 でもそれは雛が入ってない『むせいらん』らしくって、おいらが拾っても雌鶏たちは怒らないんだ。

 それにその卵の殻ってすっごい固いんだぜ!

 母ちゃんが石で叩かないと割れないって言ってた!」


(そんなに固いのかよ……)


「これも全部ダイチ兄ちゃんがくれたエサのおかげだね!」



 鶏舎の中では6人の子供たちが鶏の世話をしていた。

 雌鶏たちは屋根のある場所に巣を作り、卵を温めている。

 時折エサを食べに行ったり水を飲みに行ったりしているが、すぐに帰って来てまた暖めているようだ。

 どの雌鶏も足で卵を動かして、ちゃんと転卵もしていた。

 その脇にいくつか卵が転がっていたが、モルジくんが拾っても見向きもしない。


「それにしても不思議だね。

 同じ卵なのに、どうして雛が入ってる卵と入ってない卵があるんだろ?」


「モルジくんは雄鶏が雌鶏の上に乗ってるのを見たことがあるかい?」


「うん、羽をバタバタさせながら乗ってることがある。

 でも雌鶏は逃げないんだよね」


「そうやって雄鶏が雌鶏に乗った後に生まれた卵には、雛が入ってるんだよ」


「そうだったんだ!」



 大地は無精卵を3つ貰って収納に仕舞った。

 代金として銅貨3枚をモルジくんに渡す。


「ダイチ兄ちゃんありがとう!」



 大地たちが村に帰ると、村長宅の前に筵が敷かれ、そこに10本の自然薯が並べられていた。

 どれも1メートル超えの立派なものである。


「おお、大きな自然薯だなぁ。

 これは旨そうだ」


 大地は礼を言うと、ムルジくんに銀貨1枚を渡して帰っていった。




 その日のマルジ村長宅の夕餉の時間。


 村長宅でも夕飯に自然薯を刻んだものが出されていた。

 因みに、この森の地でも日本と同様『自然薯は精がつく』と言われている。

 アルセイスちゃんに離乳食を食べさせているナーイアスさんは、今晩のことを思って少し頬を赤らめていた。


(今日は3回ぐらいになるかも♡)



 マルジ村長宅では、夕食時に各人がその日の出来事を皆に報告する習慣があった。


 村長から始まって、村長夫人、ムルジくん、ナーイアスさんと報告が進んで行く。

 モルジくんの番になった。


「あのねあのね、今日ダイチ兄ちゃんに養鶏場を見て貰ったんだ!

 それで、雛が生まれない卵を3つ買ってもらえたんだよ!

 銅貨はムルジ兄ちゃんに渡したよ!」


「そうかそうか」


「それでダイチ兄ちゃんに教えてもらったんだ。

 あのね、雄鶏が雌鶏の上に乗った後に生まれた卵には雛が入ってるんだって!」


 食卓にびみょーな空気が流れた。

 ナーイアスさんの顔はさらに赤くなっている。


「っていうことはさー。

 ムルジ兄ちゃんは、アルセイスちゃんが生まれる前にナーイアス姉ちゃんの上に乗ったのか?」


「「「 ぶふぉぉぉぉ―――っ! 」」」

「だぁーっ♪」


 自分の名を呼ばれたことがわかったアルセイスちゃんだけがご機嫌だったという……




 その日の夜遅く、アルセイスちゃんが寝入った後。


「なぁナーイアス、上に乗ってもいいか?」


 バチーン! 「いてっ!」


 ムルジくんのムードぶち壊しの発言に、ナーイアスさんはぷんすこだったらしい……




 ということで、幼児や子供の爆弾発言はいつ炸裂するか全く予測がつかないのである。



 昔聞いた話なのだが、夫婦と4歳の男の子3人家族が暮らす家に、友人である夫婦が遊びに来たそうだ。

 まだ若い夫婦たちの会話は、少し酒が入っていたこともあって盛り上がっていた。

 クルマの話、旅行の話などなど。

 4歳の男の子は話に入りたくてたまらないのだが、クルマや旅行のことなどわからずに、まったく割り込む糸口を見つけられていなかった。


 話題が食べ物のことになった。

 あれが美味しかっただのまた食べに行きたいだのとやはり盛り上がっている。


 そこで遂に4歳児が話題に参加したのだ!






「あのねあのね! 昨日の夜、ママがパパのちんちん食べてたんだよ♪」









 ことほど左様に幼児爆弾は危険なのである……

 いったい誰がこの恐ろしい被害を予想出来ようか……




 また、友人が住む大規模マンションでは、6月下旬になると大きな七夕の笹が飾られるそうだ。

 マンションに住む子供たちが、その笹に願い事を書いた短冊を下げるのだという。

 もちろん自分の名前も書いてある。


 友人は、最近の子供たちの願いごととはどんなものなのかと、興味深くそれを読んでいたそうな。


 そして……

 その中の1枚には、小さな子供の字で、






『ママがきれいになりますように。 (名前)』








 と書いてあったそうだ……


 友人はその子もその子の母親も知っていたという……



 まっこと幼児爆弾の警戒は怠れないのであるっ!




(この子に予想されるシチュエーション……)


「ねぇママぁ、夕ごはんまだぁ? あたしお腹空いたぁ」

「ふぅふぅ、も、もう少しで終わるから待ってなさい!」

「ねぇ、なんでそんなヘンな運動してるのー?」

「ママが綺麗になるためよ!」


(そっかぁ、ママがきれいになったら晩ごはんが早くなるんだー♪)



 そう、幼児の思い込みとは恐ろしいものなのであるっ!



 この短冊を見たママが般若になるのが目に浮かぶ……





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