*** 33 妖精族の魔法 ***
「ダイチ、妖精族が『乾燥の魔道具』が出来たんにゃけど、見てやってもらえるかにゃ。
テストの結果はカンペキだったにゃ」
タマちゃんの後ろには、身長30センチほどの妖精族たちが浮かんでいた。
その容姿は見るからに『妖精』であり、見とれるほどの美人さんや少女たちである。
どうやら魔法生物である妖精族に男性はいないらしい。
彼女たちもご多分に漏れずマッパだったが、さすがに体が小さすぎてエロスは全く無い。
「お疲れさん、もう出来たんだ。
それじゃあ見せて貰おうか」
「この箱を乾燥部屋に置いてこの石に触れると、部屋の中の物が1時間で含水率20%になるにゃ。
吸い取った水分は箱の中に溜まるから、この栓を開けて水を棄てるにゃよ」
「ん?
こ、この木の箱……
つなぎ目がほとんどわからないんだけど……
いったいどうやって作ったんだ?
ま、まさか木をくりぬいて作ったのか!」
「い、いえ、わたしたちは『錬成』と『念動』の魔法が使えるんです」
「ですから頂いた木を『錬成』で柔らかくしたあとに、『念動』で箱型にして、もういちど『錬成』で元通りの固さにして作りました」
「す、すごいなそれ……
あ、っていうことは、ひょっとして……
転移させて来た木の根を落としたり、枝を払ったりも出来るのかな?」
「す、すみません」
「わたしたち、魔力が足りなくって、そこまでの力は無いんです……」
「その箱も全員で作ったんですけど、魔力がほとんど無くなってもうなにも出来ません……」
「そうか…… 魔力ポーションは使わないのかい?」
妖精たちが悲しそうな顔をした。
「わ、わたしたちが作れる魔力ポーションは、川べりに生えている草を使うんで、すごく苦いんです……
ですからアレを飲むと却って苦しくなって……」
「そうか、そう言えばみんなちょっと顔色が悪いのは、魔力が無くなっちゃってるからか。
それじゃあ、この魔力ポーションを試してみてくれるかな。
これはぜんぜん苦くないから」
「「「「 は、はい…… 」」」」
「えっ……」
「なにこの味……」
「お、おいしい……」
「昨日いただいた『かしぱん』の味と似てる……」
「はは、それは『甘い』っていう味なんだ」
「昨日の『かしぱん』でも、このポーションとおなじぐらい元気が出ました!」
「そうか、それじゃあやっぱり甘いものには魔力ポーションと同じような力があるのかな。
よし! 君たちには魔力を使って仕事をしてもらったあとは、菓子パンは食べ放題にしようか」
「「「「 !!! 」」」」
「それからね、魔力って使っていくと気分が悪くなってくるだろ」
「「「「 は、はい…… 」」」」
「そうして完全に魔力を使い果たすと気絶しちゃうよね」
「あの…… 怖くってそこまでしたことはないんですけど……」
「こんど試しに気絶してみてくれないかな。
魔力が残り1になった時はすっごく気分が悪くなるけど、完全に0になって気絶するときは、ぜんぜん苦しくないんだ。
そうして、気絶するまで魔力を使うと、目が覚めたときに魔力量が上がってることがあるんだよ」
「「「「 !! 」」」」
「実は俺はここに来る前に3000回ぐらい気絶して、それで魔力量を10から80まで上げたんだ」
「「「「 !!!! 」」」」
「魔法の鍛錬で気絶した後も菓子パンやお菓子は食べ放題にするから、なんとか頑張ってみてもらえないだろうか」
「あ、あの…… わたしたち……」
「「「「 がんばりますっ! 」」」」
「あの、ダンジョンマスターさま……」
「ダイチでいいぞ」
「それではダイチさま、『こくもつがゆ』というものが出来上がりました。
こちらをどうぞ」
「ありがとう。
みんなには、食べた後の食器は竈のところに置いてある『クリーンの魔道具』に入れるように言ってくれ。
箱の蓋を閉めて白い石に触れると食器が綺麗になるからまた使えるぞ」
「はい」
「それじゃあイタイ子も呼んで、タマちゃん一緒に食べようか」
「うにゃ」
「いただきます。
そういえば、シスくんは食べなくていいのか?」
(わ、わたくしには分位体がありませんので……)
「ん? シスくんの分位体も作れるのか?」
(は、はい。ですが10万ダンジョンポイントもかかってしまうのです……)
「なんだ早く言ってくれよ。それぐらいなら全然かまわんぞ」
(えっ……)
「好きな形態の分位体を作っていいぞ。
君はそれだけの仕事はしてるだろうに」
(あ、あああ、ありがとうございます……)
しばらくするとその場に6歳ぐらいに見える男の子が現れた。
「心より御礼申し上げますダンジョンマスターさま」
「おお、君がシスくんの分位体か」
「はい」
「それじゃあこれからもよろしくな。
メシは喰えるんだよな」
「はい……
あ、あの、はな「その名で呼ぶでないっ!」」
「ご、ごめんねイタイ子ちゃん……
よかったら一緒にご飯食べようよ」
「ふ、ふん、ま、まあ食べてやってもよいぞ……」
(へー、シスくん、イタイ子に気があったんだー。
こいつ絶対感情回路あるよなー。
それにしてもイタイ子にも他の名前があったらしいけど、その名では呼ばれたくないのか……
まあ事情はそのうち教えてくれるだろう……)
ダンジョン前広場では、モンスターたちが穀物粥を食べ始めている。
「こ、これも旨い……」
「昨日の『かしぱん』や『くだもの』も旨かったが、これもまた実に旨いのう……」
「ああ、働いて疲れた体に浸み入るようだ……」
「我らはマナさえあれば生きて行けるが、こうした『こくもつ』というものを食すのも実にいいの」
「時々でいいから食べさせてもらいたいものだ」
「はは、そのような贅沢を言ってマスター殿を困らせてはいかんぞ」
「いやお前たち、これからは毎日1食こうした料理を作ろうと思っているんだが」
「なんと!」
「毎日ですと!」
「そうだ、毎日木を切ったり俺と戦ったりしてもらう礼だ」
「マスター殿、心より御礼申す……」
「仕事があって、食事も出来るというのは実に嬉しいことですの……」
「まあ、その代わりにこれからもよろしく頼むわ」
「「「「「 こちらこそよろしくお願いいたします! 」」」」」
「ごちそうさまでした」
(ふー、こんどお茶も飲めるように準備しようかな……)
「あ、あのダイチさま、その『ごちそうさまでした』というのはどういう意味なのでしょうか。
それにさきほどは『いただきます』と仰られていましたが……」
「ああシスくん、これは俺の国の習慣でな。
食べものというのは植物にしろ動物にしろ、他の生き物の命を食べさせてもらうっていうことだろ。
それから料理を作ってくれたひとへの感謝も含めて、『いただきます』って挨拶するんだよ。
食べ終わったあとも、感謝の意味を込めて『ごちそうさまでした』って言うんだ」
「感謝…… でございますか……」
「ところでシスくんは睡眠の必要はあるのかな?」
「は、はい。この分位体は生体ですので睡眠を必要と致しますが、本体は必要ございません」
「それじゃあ、夜の間に追加で10キロごとに東西と南北に幅1メートルの地域をダンジョンにしておいてくれ」
「あの…… それですと、南北方向に約2500本、東西方向に同じく1000本の細長い地域をダンジョンにすることになりまして、それだけで2500万ダンジョンポイントが必要になりますが……」
「構わん」
「な、なんじゃと! 2500万ダンジョンポイントじゃと!」
「ん? それぐらいなら安いもんだろ?」
「………………」
「まあ10キロ四方の範囲を幅1メートルのダンジョンが囲むだけだからスカスカだけどさ。
これで大陸全体の大まかな地図も描けるだろうし、ヒューマノイドたちのことも少しはわかるだろう。
なにより俺が外に出て視察するときに必要だしな」
「…………………………」
「にゃあシスくん」
(はいタマさま)
「今日1日でダンジョンポイントはいくら稼げたのかにゃ?」
(はい、まずは300体以上のモンスターたちがダンジョン内で仕事という努力を致しましたことにより、500ポイントほどの収入がございました。
また、ダイチさまが戦闘により死亡されたことにより1000ポイント弱の収入、それからおなじくモンスターたちを同時に複数倒したことにより、2000ポイント弱の収入がございました)
「ふーん、まだ少にゃいけど、これからダイチやみんなのレベルが上がって行けば、そのうちもっとダンジョンポイントが稼げるようになるにゃよ。
それに、今日の戦闘でダイチのゴールドポイントもそれなりに増えてるから、これもダンジョンポイントに変換出来るからにゃあ。
今は1日3500ポイントぐらいにゃけど、そのうち日に10万ポイントは稼げるようになるにゃ。
にゃから、2500万ダンジョンポイントって言っても、1年もしないうちに稼いじゃうんにゃよ」
「………………」
「これからはにゃんにゃん稼いで、必要なことにもにゃんにゃん使うにゃ♪」
(タマちゃん……
その『にゃんにゃん』っていうのは『じゃんじゃん』っていう意味だよね……
まあ、可愛いから許す……)