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*** 325 麦とろ ***

 


 大地はまた森の村の村長に質問した。


「それからだ、今は林で『むかご』を採っているのか」


「ええ、あまり旨くもなく腹の足しにもならんのですが、冬の食料とするために50人ほどの村人が林に入っております」


「そうか。

 ストレー、オーガとシャベルを出してくれ」


(はい)


「これは?」


「これはシャベルといって穴を掘る道具だ」


「ま、まさかこれも土で作ったものですかの」


「そうだ、これも土魔法で作ったものだ。

 これを貸してやるが、穴を掘ること以外には絶対に使わないこと。

 万が一武器にでもしようものなら取り上げるからな」


「は、はい」


「ちょっとその隅に行って使い方を説明しようか」



「さて、ここに自然薯が生えているとしよう。

 その周囲30センチほど離れた場所にまず穴を掘るんだ。

 こうやって」


「「「 おおーっ! 」」」


 さすがに大地がシャベルを使うと、すぐに深さ30センチほどの穴が掘られていった。


「こうやってある程度シャベルで穴を掘ったら、このハンドオーガを差し込んで、ハンドルを回すんだ。

 この作業は2人でやった方がいいかもしれないな」


「す、すごい道具ですな。

 みるみる深い穴が掘られて行く……」


「こうやって周囲3か所ほどに穴を掘ったら、後は慎重に自然薯の周りの土を掘っていけばいい。

 そうすればかなり深くまで埋まっている芋も採ることが出来るぞ」


「あ、ありがとうございます……」


「村の皆は、自然薯を探すときツルやむかごを目印に探しているんだろ」


「はい、むかごとそっくりな実もあるのですが、それは芋の無い毒の実ですので、必ず少し穴を掘らせて芋があるかどうか確認させていますのです」


(あ、それグロリオサだな……)


「自然薯も最近ではあまり採れなくなってきております。

 ですが、野生の麦と小さく切った自然薯を合わせ、これにアマヅルの蔦から取った汁を入れて粥にしたものは、年に1度のご馳走として皆で少量ずつ食べておるのですよ」


(芥川の『芋粥』かよ……

 まさか俺が五位じゃないよな)



「それでな村長殿、自然薯を採った穴は埋め戻しているだろ」


「ええ、林を歩く者が足を落として怪我をしないように埋めておりますが」


「そのときに、その土の上に自然薯のツルの付いた上部分を切り取って浅く埋めておくと、翌年も自然薯が生えるぞ。

 もしくはむかごを数粒置いておけばいい」


「えっ……」


「これからはそうしておけば自然薯が減って行くことも無くなるな」


「あ、ありがとうございます」


「これから森の村を廻るときは、そうしたことも教えてやってくれ」


「はい…… 必ずや……」



「シス、内径20センチ角ほどの箱を土魔法で30個作ってここに出してくれるか?」


(はい)


「それから、村人が採って来たむかごを俺に売って欲しい。

 この箱一杯のむかごを、銅貨20枚で買おうか。

 まあ麦2升分だ」


「そ、そんなに……」


「それならむかごをそのまま食べるより腹は膨れるだろう」


「ありがとうございます。

 早速もっと多くの村人を林に向かわせましょう。

 今ある分は売らせて頂いてもよろしいでしょうか」


「もちろん」


「おい、蔵からむかごを取って来てくれ」


「はい!」



 草で編んだ袋に入っていたむかごは箱10杯分あり、大地は銀貨2枚を取り出した。


「銀貨でいいか、それとも小麦に換えるか?」


「こ、小麦ですか。

 ライ麦や燕麦ではないのですな」


「ん? ライ麦の方がいいのか?」


「いえいえとんでもない!

 小麦の方が遥かに希少でまた味もよろしいですからの。

 本当にこの銀貨を小麦に換えていただけますのでしょうか……」


「ストレー、小麦の2斗袋を出してくれ」


(はい)


「この袋には小麦が2斗入っている。確認してくれ」


「ま、まさしく小麦でございます……」


「これでいいか?」


「もちろんでございますとも!」


「それでは明日から周辺の村の勧誘も始めてもらおうか。

 ここにいる男たちかその部下たちが明日転移して来るので同行してやって欲しい」


「「「 はい! 」」」




 マルジ村の村人たちは、さきほど越冬場を見学した者たちに連れられて交代で見学に行くそうだ。


 ソンチョ村長と一行は、そのままマルジ村の村長と今後のことについて打ち合わせがあるらしい。

 大地は夕餉の誘いを謝辞し、土産に30センチほどのところで切られた自然薯と鶏卵をひとつもらって、ガリルたちとワイズ王国に帰って行った。



 暫くすると、海の村と森の村の話し合いの席に、ナーイアスとムルジ夫妻が駆け込んで来た。

 アルセイスちゃんは旦那のムルジくんが抱えている。


「お、義父さま、お父さま!」


「どうしたナーイアス、そのように慌てて」


「あの! 今越冬場を見学していたのですが、『転移の扉』も潜って、『はぶ』という場所にも行ってみたのです。

 その『はぶ』の『しんりょうじょ』にあった箱、あれは間違いなくあの『ダイチさまの箱』でございました!」


「なんと!

 同じ名だとは思っていたが、やはりそうだったのか!」


「ナーイアス、どういうことだ?」


「お父さま、ご存じの通りわたしは今年の春にこの子を生んだのですが、その後はなかなか体調が元に戻らなかったのです。

 乳の出も悪く、この子も元気がありませんでした。

 他に乳の出るご婦人もおらず、この子が死んでしまうのではないかと毎日泣いて心配していたのです。

 すみませんお父さま、ご心配をおかけしてはいけないと連絡もせずに……」


「そうだったのか……」


「ところが或る日、わたしとこの子は見知らぬ場所にいました。

 そこでは大勢のご婦人たちが赤子を抱えて暮らし、わたしたち赤子の母親に食事を用意してくださっていたのです。


 そして、わたくしは『ダイチさまの箱』から出る光で癒され、他の大勢のご婦人方がこの子に乳を分けて下さいました。

 その不思議な場所のご婦人方が仰るには、ここは天の御使い様であらせられるダイチさまが用意下された場所だというのです。

 産後の肥立ちが悪かったり乳が出ない母子を助けるための場所であると。


 そして、体調が良くなって乳も出るようになったら、元の時の元の場所に戻して下さるとも……

 おかげでわたしとアルセイスは助かったのです。


 そして、あの『はぶ』の『しんりょうじょ』にあった箱は、わたしを癒してくださった『ダイチさまの箱』とまったく同じものだったのです……」



「そうか……

 これでようやくすべて納得出来た……

 あのダイチ殿は、やはり天の御使いさまだったのだな。

 そしてあの魔法はその御使い様の為す奇跡であり、海岸に海氷が押し寄せるという大いなる危機に際して、我ら海の民をお救い下さるためにご降臨下さったのか……」


「ソンチョ殿、これで海の民も我ら森の民も救われますな」


「マルジ殿、天の御使いさまは我らに命をくださった。

 この上はこれより周囲の村々に参って、懸命に避難勧誘をせねばならん」


「仰る通りだ。

 手分けして森と海岸を廻るとしましょう……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地はその日の夕方、時間停止空間の自宅前に淳や良子、分位体たちを集めた。


「今日中央大陸の北部海岸で海の幸を見つけたんで持って来たんだ。

 みんなでバーベキューして試食してみてくれないか」


「「「 わぁ~い♪ 」」」


「特にシェフィーは確り味を確かめてくれな」


「はい」



「だ、大地くん、こ、これひょっとしてホッケかい?」


「ええ淳さん、中央大陸北部海岸産のホッケの一夜干しです」


「大きいねぇ、これ80センチはあるだろう」


「このアルスの生き物って地球に比べて大きなものが多いですけど、その中でも特に海産物は大きいようですね。

 ほら、これアワビです」


「!!!

 こ、これ30センチ超えてるよ。

 日本で買ったらいくらになるんだろう……」


「このウニもカキもアサリも大きいでしょ」


「うっわー」


「カニなんかこれですよ」


「な、なんか怪獣みたいだね……

 お店の看板に括り付けて動かしても違和感無いよ。

 美味しいのかな」


「現地で食べてみたんですけど、十分に美味しかったです」


「そ、そうか……」


「それでシェフィー、これらの海産物を現地のダンジョン商会支店で買い取ろうと思ってるんだ。

 それでこれが俺が考えた買い取り価格表なんだけど、目を通して意見を言ってくれないか。

 その間に俺はこれらの海産物を焼き始めておくから」


「はい」



「大地くんの手際は見事だね」


「はは、シェフィーほどではないですけど、俺も料理レベルは10ですからね」


「僕も今度ダンジョンに籠って料理スキルを取っておこうかな……」


「それがいいかもしれませんね」



 淳も良子も分位体たちも実に美味しそうに海産物を頂いていた。


「あの、ダイチさま」


「おおシェフィー、海産物の味はどうだった?」


「どれも特上の品だと思いました。

 輸送と保存のために冷凍しない海産物はやはり美味しいですね。

 ですがあの……」


「どうした?」


「この買い取り価格は少々安すぎませんでしょうか。

 これで海の民たちは果たして海産物を売ってくれるのかと……」


「やはりシェフィーから見ても安かったか。

 だが、彼らには網で囲った魚干場や舟や炊事場や風呂も作ってやったし、カニ漁のための籠やアワビ漁のためのダイビングマスクやフィンも用意してやったんだ。

 加えて越冬場には1200石の穀物も置いて来たし、その穀物の代金も次の海氷接岸までの54年無利子ローンにしたし。

 そしたら来年は漁獲の半分をタダで渡すって言ったんだけど、まあカネは払うことにしたんだよ」


「まあ、そうだったんですね……」


「それにもっと高く買い取っても良かったんだけどさ。

 シスのおかげで銀貨なんか有り余ってるからな。


 でもそうすると、これらの食材を使った料理を内陸の街で売り出すのに高くなり過ぎちゃうだろ。

 だからこんなもんかと思ったんだ」


「そのような事情も知らず、失礼いたしました」


「いやまったく構わん。

 そういう指摘は貴重だ。

 これからも遠慮することなくどんどん指摘してくれ」


「はい!」


「ところで、この自然薯も試食してみないか」



 シェフィーちゃんは自然薯の皮を剥き、千切りにして鰹節と醤油をかけた。


「うん、極上の自然薯だ! 旨いなこれ!」


「確かに美味しいですね」


「それでこの自然薯のむかごも買って来たんだ。

 ダンジョン国に自然薯畑を作ろうか。

 自然薯を摺って、白味噌と出汁を加えて麦飯にかけた麦とろは旨いぞ。

 俺の大好物でもある」


「それじゃあさっそく畑に植えようか」


「いえ淳さん、その前に準備があるんです。

 シス」


「はい」


「内径15センチ、長さ1.5メートルほどのパイプを土魔法で作ってくれ。

 周りにはいくつか穴を開けてな」


「はい」


「それで淳さん、まずは畑の土を1.5メートル掘り下げます。

 そこにシスが作ってくれるパイプを縦に置いて、その周りにも中にも土を入れるんですよ。

 そうして、パイプの土の上にこのむかごを軽く埋めるんです。


 自然薯って地面の中に1メートル以上も潜って育つんで、パイプを使わないと掘り出して収穫するのがたいへんなんですよ。

 でもパイプに入れて栽培すれば掘り出すのが楽ですし、後は川に1時間ほど漬けておけば、すぐにパイプの中から自然薯を取り出せるでしょう。

 いやあ、来年の秋が楽しみです」


「なるほどねぇ、自然薯はそうやって栽培してるんだ」


「日本では塩ビパイプを使って重機で掘り出してるようですけどね。

 それで、これからももっとむかごは買えそうなんで、畑は少し広めに用意しておいていただけますか。

 麦料理なんで、アルスの民たちにも違和感は無いでしょうから」


「了解した」



「そうそうシェフィー、森の村では養鶏が行われていてな。

 ちょっと大きい卵なんだけどひとつ貰って来たんだ。

 これも見てやってくれ」


「えっ……

 こ、これ本当に鶏の卵なんですか!

 まるで小さいダチョウの卵みたいです……」


「まあなんせ体高が80センチ近くある鶏だったからな。

 今は鶏たちの栄養が足りないんでこの卵もさほど旨くはないだろうけど、エサをたっぷりやって来たんで、5日もすれば栄養豊富な卵が手に入るだろう。

 養鶏場の鶏は大いに繁殖させるつもりだから、そのうちアルスで鶏卵も自給出来るようになるかもだ」


「そうなるとプリンがたくさん作れてみんな喜ぶでしょうね♪」


「はは、そうだな。

 やはり機械類はどうしても輸入に頼らなければならないけど、食品ぐらいはこうしてアルスの自給率を上げて行きたいからな」


「さすがですダイチさま……」





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