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*** 32 モンスターたち ***

 


「さぁて、それじゃあホーンラビットたちは休息してくれ。

 ラビットもスライムもバットも、リポップの後の休息中には菓子パンは好きなだけ食べていいからな」


「「「「「 はいっ♪ 」」」」」



 はは、なんかみんな嬉しそうだな。


 よかったよ。

「こんな痛い訓練に参加するのはもうイヤですっ!」とか言われなくて。


 俺にとってこんな実のある訓練が、菓子パン用意するだけで出来るなんて安いもんだわ。

 まあ一応、ダンジョンモンスターにとってダンジョンで戦うのは本業みたいなもんだから、それほど心配はしてなかったけど。




「それじゃあ次は俺はみんなの攻撃を全て避けずに受けるからな」


「「「「 えっ…… 」」」」


「すぐに死ぬだろうけど遠慮なくかかって来いよ。

 そうだな、俺が50回死ぬまでやるぞ。

 それが終わったらお前たちが10回死ぬまで俺も攻撃するからな」


「「「「 は、はい…… 」」」」



 うっぎゃー、さすがにホーンラビットのツノが体に刺さると痛ったいわー。

 腹なんかに刺さると一撃でHPが半分ぐらい減るし。

 まあ『身体強化』と『防御』かけてるから即死はしないけど。


 でも、痛みに耐えてるだけじゃなくって、こいつらの攻撃もよく見てないと……



 あ、待てよ……

 確か『痛覚耐性』って持ってたよな。


 それ、俺とモンスターたちにかけてみるか……


 MP足りなくなったらMPポーション飲めばいいし……




 大地は、死ぬとすぐに時間停止収納庫のベッドの上にリポップした。


 そこでしばらく横になった後は、なにかしら食べてエネルギーを補給する。


 それから30分ほどの食休みの後に戦闘に復帰した。



 だが……


 スライムやケイブバット、それからホーンラビットたちからすれば、大地は死んだ後もすぐにリポップして戦いに復帰しているように見えたのだ。



「よし、これで50回死んだか。

 次は俺も攻撃するからな。

 お前たちのうち、誰かが死んだらすぐに次の奴が加わってくれ」


「「「「 はい! 」」」」




 大地がモンスターと戦っている周囲では、順番待ちのモンスターたちがその姿をじっと見ていた。



「なあ、スライムの。今度のダンジョンマスターをどう思う?」


(うん。すごい人だね。それにものすごく強いや)


「そうだよな。

 俺たちがいくら本気で攻撃しても、全部躱されるか弾かれるもんな」


「ところでマスターはなんでわざと攻撃を受けて死ぬんだ?」


(それはボクたちのレベルを上げるためだよ。

 ボクなんかマスターに何十回も攻撃を当てさせてもらったおかげで、ずいぶん体が大きくなって速く動けるようになったもん)


「そうだったのか……」


「あんなにダンジョンポイントを使ったと思ったら、こうやって俺たちを鍛えてもくれてるんだ……」


「こんな鍛え方もあったんだな……」


「それに俺たちただ殺されるだけじゃあなくって、リポップするたびにこんなに美味しいもの食べさせてもらえるなんてな」


「うん、死ぬときはちょっと怖いけど、でも強くなれて美味しいもの食べられるからいいよね」


(それにしても、なんか攻撃されたときの痛さが大分少なくなったような気がする……)


「どうやらマスターが、俺たちの痛みが少なくなるような魔法をかけてくれてるようだわ」


(そんなことも出来るなんてすごいね)


「おっといけねぇ、また1人死んだわ。次は俺の番だ……」




「よーし、みんな12回死んだか。


 今日の戦闘訓練はこれで終わりだ。


 ダンジョン前広場に行ってみんなと合流するぞー」


「「「「 はい! 」」」」




「おおー、木の処理も随分進んだみたいだな。

 シス君、今日は何本ぐらい根を落として枝を払えたんだ?」


(120本でございます)


「ええっと、5メートル四方の広さに木が1本生えてたとして、600平方メートル分の空き地が出来たか」


(目標は250,000平方メートルの果樹園でございますので、おおよそ1.2%の進捗率でございますね。

 まだまだ先は長いです)


「まあゆっくりやろうや。

 そのうちみんな慣れて来て作業も捗るようになるだろうし」


(はい)


「そうそう、果樹園予定地の土をそこの段ボールに半分ぐらい転移させておいてくれるか。

 収納くん、その土を預かっておいてくれ」


(畏まりました)




「みんな、川に行って体を洗って来たらどうだ?

 汗もかいただろうし。

 その間に俺は料理を始めよう」



 5時のチャイムが聞こえた。


 ダンジョンから各種族の奥さんたちと子供たちがぞろぞろと出て来る。



「それじゃあみんな、料理を始めよう。

 まずは寸胴の中に朝方切った野菜を入れるぞ。

 それからこの熱の魔道具のここに触ってスイッチを入れるんだ。

 なあ『料理スキル』、この寸胴でこの量だと煮るのは何分だ?」


(30分程度でよろしいかと)


「それじゃあシスくん、30分経ったらみんなに言って、また熱の魔道具に触れてスイッチを切っておいてくれ。


 それから体の大きな種族のみんな、寸胴の中身が煮立ってきたら具材の上に泡が出て来るんだけど、これをアクと言うんだ。

 これをそこにあるオタマで掬って捨ててくれ」



「呼んだかにゃ?」


「い、いやタマちゃんじゃあなくって、この『オタマ』のことだってば」


「にゃんだ」



「そ、それから、調味料はこのボウルに入れておくぞ。

 入れるタイミングは塩が最初で、後は熱の魔道具を止める直前だ。

 シスくん、分量を量っておいて、明日以降はみんなに指示してやってくれ」


(はい)



「あの…… マスターさま」


「おお、コボルト族か。どうした?」


「あの、体の大きな種族の方には仕事があるんですけど……

 わたしたちのような体が小さくて力も弱い種族にも、なにか仕事を頂けませんでしょうか……」


「わしらも足としっぽの力と噛む力はあるけんど、手は……」


 ラプトルが自分の小さな手を悲しそうに見つめている。


「なんだそんなことか。

 よしみんなもよく聞いてくれ。


 これから俺はみんなにいろんな仕事を頼むことになると思う。

 それは、力を使ったり手先を使って細かいことをしたりする仕事だ。


 君たちはその仕事を全てする必要は無い。

 自分が得意だと思えることをやってくれ」


「「「「「 はい 」」」」」


「例えばだ。この穀物粥が出来たら、ここにある食器に入れてみんなに配らなきゃならないんだ。

 食べ終わったら食器は回収しなきゃならないし。


 体が小さいけど器用な種族には、そういう仕事をしてもらいたい。


 特にこれからは果樹園も作るし、どの種族にも必ず働く機会は出来るはずだ。

 そのときに頑張ってくれればいいんだぞ」


「「「「「 はい! 」」」」」




「お、そろそろ薄暗くなって来たか。

 ねえタマちゃん、光魔法で光球って出して浮かべられるのかな?」


「ダイチはもう『物理系光魔法Lv5』が使えるから出来るにゃ」


「それじゃあもう少し暗くなったら出してみるよ。

 俺ももっと魔法使って練習しなきゃ」


「うにゃ」


「あ、みんな川から帰って来始めたか。

 ねえ、タオルってあったっけか?」


「コーノスケはタオルじゃなくって『温風の魔道具』を使ってたにゃぁ。

 その方がすぐに乾くし体の毛もふわふわになるにゃよ。

 収納部屋に5つ置いてあったと思うにゃ」


「それじゃあ収納くん、『温風の魔道具』をここに出してくれ」


(畏まりました)




「みんな体を洗って来たかい。

 それじゃあこの温風の魔道具を動かすから、この前に立って体を乾かしてくれ。

 みんなで順番に使うように」



「おおおお―――っ!」


「こ、これは心地よい風だ……」


「見る間に毛が乾いていく……」


「川の水で冷えた体が温まっていくのう」



「シスくん、川の水の温度は何度ぐらいだ?」


(すみません、『温度』を定義して頂けませんでしょうか)


「そうだな、水が凍って氷になる温度が0度で、熱したときに沸騰する温度が100度だ」


(それでしたら川の水の温度は15度ほどでございます)


「けっこう低いな……

 そういえば今の季節はいつで、今日は何月何日なんだ?」


(あの、その季節や何月何日という言葉も定義して頂けませんでしょうか……)


「そうか。

 まずはアルスが太陽の周りをちょうど1周するのが1年だ。

 それで、太陽が大森林から上に出て明るくなって昼になり、反対側の大森林に沈んでからは夜になる。

 この昼と夜の組み合わせが1日になって、1年は360日だ。

 ついでに太陽の位置が最も高くなるのが昼の12時だ。

 ここまではわかるか?」


(あの…… 

 夜から昼になる瞬間と昼から夜になる瞬間も定義して頂けませんでしょうか……)


「太陽の上端が森から出た瞬間が日の出と言って夜から昼に変わったときだ。

 昼から夜に変わる日没も、同様に太陽の上端が森に隠れたときだな」


(ありがとうございます)


「それから1年360日を12で割ってそれぞれを『月』と呼ぶぞ。

 つまり1月から12月までだ。

 さらに1年は360日だから、この『月』は30日からなっていることになる」


(はい)


「この昼の長さと夜の長さは毎日変化する。

 まあ両方足すと常に24時間だが。

 そうして、昼が最も長い日を夏至と言って6月22日と定義しよう。

 それだと今は何月何日になる?」


(あの……

 まだこの場がダンジョンになって間もないので、もうしばらくお時間を頂戴出来ませんでしょうか。

 毎日太陽と昼の長さを観察していきたいと思います)


「よろしく。

 ついでに、3月から5月を春、6月から8月を夏、9月から11月を秋、12月から2月を冬と定義するぞ」


(畏まりました)


「そういえばだな、今シスくんが『この広場がダンジョンになって間もない』って言ったんで気になったんだが……

 森の中にも野獣や野良モンスターっているんだよな。

 こんなところに女性や子供たちがいて、そいつらが襲ってこないかな?」


(それは問題がないかと存じます)


「なんでだ?」


(まずはここ2年ほど、マナが無くなったのを補うために、トロルやオーガ、フォレストスパイダーやラプトルなどの強力な戦士たちが広範囲に渡って木の実などを採取しておりました。

 その際に尿などで匂い付けをしてテリトリーを主張したために、ほとんどの野獣や野良モンスターたちはここには近づいて来ないでしょう)


「なるほど」


(加えてここがダンジョン化されたために、万が一野獣などが侵入して来ても、わたくしが転移で遠くに飛ばせるようになりましたし)


「そうか、それならさ、ここを中心に半径5キロぐらいの範囲も地表ダンジョンにしておいてくれ。

 そうすればもっと安全になるだろうからな」


(畏まりました)




「ところで、奥さんたちも手の空いてるひとは子供を連れて川に行って、体を洗って来たらどうだ?」


「「「「 はい 」」」」


「気をつけるんだぞ。

 うっかり子供を川に流さないようにな」


「あたしらがよく見て注意しておきます」


「おおリザードマン族か。泳ぎが上手そうだよなぁ」


「はい♪」


「それじゃあ川べりと、川までの道に光球を浮かべておこう」


「あ、ありがとうございます……

 こんなことのために、貴重な魔力を使って頂けるとは……」


「いやまあ俺の訓練も兼ねてるから気にするな」





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