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*** 319 海の民 ***

 


 総督隊と互助会隊への説明会の後、さっそく海の民たちへの避難勧誘を始めることになった。



 大地とガリルと互助会隊幹部のメルカーフ中尉、オルランド曹長、ギルジ曹長の5人は、シスくんの誘導で海辺の大きな村へ飛んだ。



 ほう、随分と大きな湾だ。

 東と西に円弧状の岬が突き出ていて、その内側が比較的波が穏やかな湾になっているのか。

 岬もけっこう標高が有りそうなんで小川もたくさんあるな。

 あの小川の近くに村があるんだろう。



 ん? まてよ、岬の形状が妙に整ってるじゃないか。

 そうか、これおそらく太古の昔に出来た隕石落下によるクレーターだな。

 その外輪山が岬になっているんだ。

 はは、まるで北米のメキシコ湾西部みたいだな。


 よく見れば南側にもそれらしき丘があるが、小川も幾筋か見えるか。

 その川が持って来た堆積物が溜まってこの小さな平野になったんだな。

 湾の出口は波に侵食されて出来たんだろう。


 それにしても大きなクレーター跡だな。

 こりゃ直径300キロはあんぞ。

 岬の上の山地も標高300メートルぐらいあるし。



「シス、この湾の中にシャチとか大型で危険な魚っているかな」


(ざっと見ただけですが、大型のものはいないようです。

 僅かに小型のシャチが数頭いるだけのようですね。

 あの東側の岬と西側の岬の間の水道は、水深がかなり浅いようでして、大きな魚は敬遠して中に入って来ないのでしょう)


「そうか、だが念のため湾内をスキャンしてシャチにロックオンしておいてくれ」


(畏まりました)



 一行は斜面を降りて行き、大地はちょうど通りかかった男に声をかけた。


「やあ、俺たちはダンジョン国という国から来た者だ。

 この村の村長さんはいるかな」


「んあ? あんまり聞かねえ国だの。

 その国の兵隊さんかの?」


「俺はその国の代表をしている大地という者だ」


「ふえっ! す、少し待っててけろ!」



 しばらくして、屈強な男たちを5人ほど従えた大男が現れた。

 男たちは警戒心も露わに近づいて来たが、大地たちが武装をしていないのを見て目に見えてほっとしている。


(村長のE階梯は3.2か……

 その他の男たちも最低でも2.1か。

 さすがに農業をしていないとE階梯も高いんだな)



「それで……

 だんじょん国とやらの王が、こんな田舎村に何の用だ?」


「あんたたちは流氷が近づいて来ているのに気づいているか?」


「あ、ああ。

 この辺りには海氷うみごおりは滅多に近づいちゃあ来ないが、一応警戒はしている。

 この季節になると3日おきに物見の者を丘に登らせているからな。

 今年はいつもの年に比べて寒くなるのが早いし、海の彼方に氷が浮かんでいるのも見えている」


「どうやら55年前には海氷が海岸にまで押し寄せて漁が出来なくなり、海の民は相当に餓えて苦しんだそうだな」


「それも長老たちから口伝で伝わっている。

 そのために我らは今冬の食料を用意するために大忙しなのだ。

 用件があるなら手短に言ってもらいたい」


 浜の近くの岩場では大勢の男たちや女たちが魚を捌いて干していた。

 それを狙った海鳥が集まって来ているが、何十人もの男女が棒を振り回して鳥追いをしている。



「わかった。

 俺は、海氷の接岸に備えて、あんたたちに避難所と食料の提供を申し出るために来た」


「なんだと……」


「その避難所に入れば厳しい寒さも凌げるし、何より人数分の食料も保証する」


「……見返りはなんだ……」


「我らと交易をして貰いたい」


「交易だと……」


「そうだ、俺は麦や薪や衣服を大量に持っている。

 それと海の魚や貝を交換して欲しい」


「だが、魚も貝も保存は効かんぞ。

 そのだんじょん国とやらがどこにあるかは知らんが、2日以上かかる場所なら生魚を持って行くのは無理だ。

 俺たちは今干し魚を作っているが、あれは見ての通り大変な作業だからな」


「問題ない。

 俺たちは『収納』という魔法が使える。

 その収納の中に入れておけば喰い物が腐ることはない。

 また、『転移』という魔法もあるので、ここから4000キロ離れた俺の国へも一瞬で行くことが出来る」


「魔法だと……」


「だから、今ここで魚を買ったとして、俺の国の民はすぐにそれを焼いて喰うことが出来る」


「そ、それは本当か!」


「本当だ。

 俺たちはついさっきまでここから3000キロ以上離れた別の場所にいた。

 ここにはその『転移』の魔法で飛んで来たんだ」


「…………」


「試しに見てみるか?」


「あ、ああ、見せてくれるのか」


「あそこに見える小高い丘にこれから『転移』してみよう。

 よく見ていてくれ」



 大地が消えた。

 すぐに丘の上で手を振っている大地の姿が見える。

 しばらくすると、大地がその場に戻って来た。

 男たちは皆口を開けてフリーズしている。


「これが『転移』の魔法だ」


「あ、ああ、すごいな……」


「ついでに『収納』の魔法も見せようか」


「ああ……」


 大地は自分の収納から麦の2斗入り袋を取り出した。


「「「 !!!! 」」」


「とまあこうした魔法が使えるんで、俺たちはどんなに遠いところとでも交易が出来るんだ」


「そ、そうか……」


「それであんたたちが欲しいのは、氷雪を凌げる場所と食料だけか?」


「先ほど薪を持っていると言ったな。

 出来れば薪も魚と交換して欲しいんだが……」


「あの南の丘を越えたところに森は無いのか?」


「丘の向こうには森の民が住んでいるからな。

 我らは日頃、森の民たちに塩を渡し、代わりに薪を受け取っていたのだが、その森の民たちが、もうあまり塩は要らないと言い出したのだ。

 おかげで我らが使える薪は、僅かな塩や魚と交換した物だけになってしまったのだよ」


「なあ、森の民はなんで塩が要らなくなったんだ?」


「彼らは我らから手に入れた塩をさらに南にいる森の民に売って、食料と交換していたそうだ。

 その塩を買った者たちも南の草原の民にそれを売り、そうして草原の民はその塩を持って遠い南の国に行商に行っていたそうなのだがな。

 まあそうやって大勢の手を経たせいで、遥か南の国では塩は1キロ銀貨20枚以上もの高値になっていたそうだが」


「…………」


「ところが、或る南の国で大量の塩が安く売り出されたそうなんだ。

 なんでも1キロ銀貨8枚でいくらでも買えるらしい。

 それで、塩を銀貨20枚で仕入れていた国が、その8枚で売り出した国に戦を仕掛けたらしいんだが、返り討ちにされて滅んでしまったんだ」


(あー、それヒグリーズ王国だな……

 っていうことは全て俺のせいか。

 ってぇことは、少しはこいつらに恩恵を与えてやらなきゃならんか……)



「おかげで森の民や平原の民が必要とする以上の塩が売れなくなってしまったのだ。

 もちろん我らも薪が買えずに困っている」


「なあ、あんた方は森の民に塩をいくらで売っていたんだ?」


「塩1キロで銅貨10枚、もしくは薪10キロだ」


「そんなに安かったのか」


「この海沿いの地ならば塩を得るのはさほどの苦労はないからな。

 岩の窪みに海の水を入れておけば、太陽が水を減らしてくれる。

 我らは底に溜まった塩を取り出して別の岩場で乾かすだけだ」


(天日塩田か……)


「それを内陸の国に運ぶ方が遥かに大変だろう。

 まあ、いくらなんでも銀貨20枚は高すぎると思うが」


「そうか、実は内陸の国で塩を1キロ銀貨8枚で売り出したのは俺たちなんだ」


「な、なんだと……

 ということは、銀貨20枚で仕入れていた国が攻め込んで来たのを返り討ちにしたのも!」


「そうだ、俺たちだ。

 もっとも、連中の軍勢は数が少なくて大したことはなかったけどな」


「いったいどれほどの兵がいたんだ?」


「たった2万2000だったぞ」


「にま……

 ま、まさかこの海の民の地にも攻め込んで来るのか!」


「いや、俺の国は攻め込まれたときには容赦なくその国を亡ぼすが、自ら他国に攻め入ることはしない。絶対にだ」


「…………」



「さて、それじゃあ俺が提供する越冬用の避難所を見てくれ。

 この村には何人ぐらいのヒトがいるんだ?」


「およそ500人だ……」


「そうか。

 あそこの丘に避難所の入り口を造ってもいいか?」


「あ、ああ……」


(シス、あの丘の中腹に直径20メートルほどの入り口用ドームを。

 ドームの奥を避難用ダンジョンに繋いでくれ)


(はい)



 丘の中腹が整地され、土魔法でドームが出来ていった。

 入り口には頑丈そうな扉もついており、その上には大きな屋根もあった。


「「「 !!!! 」」」


「それじゃあ中を見て貰おうか」


「あ、ああ……」



 ドームに入ったすぐのスペースには、等身大のスクリーンが設置されていた。

 どうやらここでチュートリアルを行うらしい。

 スクリーンの横の大きなドアを通ると、そこには2万平方メートルほどのスペースが広がっていた。

 上空には青空も見えている。


 周囲には3階建てのアパートがぎっしりと並び、中央部には厨房、食堂、倉庫群、水場、大浴場、公衆トイレなどが集まっている。



「な、なんだこの場所はっ!

 あの丘の反対側にはこんな場所は無いぞっ!」


「さっきドームの奥のドアを潜っただろう。

 あのドアはダンジョンと言う別の空間に繋がっている」


「『だんじょん』……

 ということは、ここは貴殿の国か!」


「まあそうだな」


「ここは暖かいな……」


「いつもだいたいこの気温にしてある。

 ここなら雪も降らないぞ。

 ただ、空は広がっているように見えるが、ここは実際には150メートル四方ほどの空間だ。

 あの住居の向こうに行くことは出来ないが、その辺りは許してくれ」


「そうか……

 だが、ここなら外がどんなに吹雪いても暖かく過ごせるな……」


「中の建物を見てみるか?」


「頼む」



「まずはここが転移施設だ。

 これから造る全ての越冬施設とハブと呼ばれる中央施設を繋いでいるものだ。

 そこには俺が派遣する駐在員が常駐することになる。

 なにか相談事があったら、この転移のドアを潜ってハブに行ってくれ。

 また、ハブには診療所も作る」


「しんりょうじょ?」


「怪我や病気になった者を癒す場所だな。

 怪我をした者や病気になった者がいたら、この担架に乗せてハブの診療所に運んでくれ。

 朝でも夜中でも構わん。

 特に産気づいた妊婦がいたら必ず連れて来るように。

 出産時は事故が多いが、診療所で子を生めば母子共に必ず助かる」


「わ、わかった」


「また、ハブには集会所も作っておくので、村長たちが集まって会合を開いてもいいだろう」


「そ、そうか……」


「メルカーフ中尉、ハブの相談所と診療所には交代で隊員を配置してくれるか」


「心得た。

 出産施設には俺たちの妻をよこそう」


「そうだな、夫人部隊も用意するか。

 ご婦人方の俸給は日に銅貨20枚でいいか?」


「もちろんだ。

 自分の小遣いが出来てみんな喜ぶだろう」



「さて、それでは案内を続けよう。

 ここが厨房だ。

 すぐ外には竈を20個ほど用意してある。

 道具倉庫の中に土で作った鍋やその他料理道具が置いてあるんで、自由に使ってくれ。

 薪も積んでおいたぞ」


「き、貴重な薪がこんなにたくさん……」


「こちらは食糧倉庫だ。

 村人が500人だったら、春までに必要な穀物は200石でいいかな」


「充分だ……」


(ストレー、食糧倉庫に麦100石と穀物粥の素100石を出してくれ)


(はい)


 食糧倉庫に麦と穀物の入った2斗袋が2000個積み重なった。


「こ、これが全部穀物か。

 とんでもない財産だ……」


「それでは住居を見てみよう」



「ここは4人部屋だ。

 家族3~4人で暮らすか、独身者は4人一緒に住んでくれ」


「なんとまあ、寝台まであるのか」


「土で作ったものだがな。

 マットは無いので草や藁でも敷いてくれ。

 あと、トイレや水場は共同になっているぞ」


「建物の中に便所や水場があるのか。

 充分だ」


「どうだい村長、海氷の接岸に備えてこの場所を提供するから、俺たちと交易をして貰えるかな」


「それはもちろんだが……

 果たして我らが獲っている魚や貝が売り物になるかどうか……」


「まあ後で見せてくれ」


「わかった。

 そ、それで、ひとつ聞きたいのだが、貴殿らはこれからも海沿いの村を廻られるのか」


「そのつもりだ」


「実はこの村は『親村』と言ってな、周囲の海岸沿いには『子村』や『孫村』があるのだ」


「ほう、村を分けているのか。

 なんでそんなことをしているんだ?」


「一か所に大勢が集まっていると、海岸の貝をすぐに取り尽くしてしまうからだ。

 漁場が重ならないように村を分けている」


「そうか、それで子村と孫村を合わせると何人ぐらい村人がいるんだ?」


「それが…… 全部で3000人もいるのだよ」


「ここは500人用の越冬場だが、同じものをあと5つ作った方がいいか?

 それとも3000人用をひとつ用意した方がいいか?」


「その…… 出来れば3000人用の方が……

 子村や孫村と言っても、どの村の村人も全員が親戚のようなものだからな」


「そうか」


(なるほど川の民のように階級意識は無いんだな。

 シス、3000人用の越冬場は造ってあるか?)


(すぐに造りますので少々お待ちください。

 そうですね、いったんチュートリアル部屋に戻って頂いて、また転移の輪を潜って頂けますでしょうか。

 その間に準備しておきます)


(すまんな)


(いえいえ。

 大型の施設を造る方が、小さいものをたくさん作るより楽ですので。

 もちろんこの場所も他の民のために使えますし)


(よろしく)


(はい)





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