*** 318 川村のヒャッハーたち ***
ワイズ王国総合商会本店のレストランでは、高原製のウインナーと焼き肉が供されるようになった。
遠方の国から仕入れに来ている隊商たちは、このウインナーセットと焼き肉セットを楽しみにしている。
「お嬢さん、『ういんなーせっと』と『やきにくせっと』を10人前ずつ頼む。
あと、追加でエール中ジョッキも10杯だ」
「ご注文ありがとうございます♪
少々お待ちくださいませ」
「おやっさん、あんな高ぇもんを俺たちもゴチになっていいんですかい?」
「ああ、今回の訪問でも十分な仕入れが出来たからな。
ちっとばかし荷が多くて大変だが、明日からの帰路も頼んだぞ」
「ありがとうございやす。
それにしてもあの『ういんなー』と『やきにく』は旨ぇですからねぇ。
あれを仕入れて国に持ち帰れたら、とんでもねぇ儲けになるでしょうな」
「いくらなんでも7日もかけて帰ぇっているうちに腐っちまうだろう。
それに、国で売ったりしたら俺たちの口に入ぇる分が無くなっちまうぞ」
「それもそうでやすね。
それにしてもうちの商会もデカくなりやしたなぁ」
「はは、国に帰ぇって荷を下ろしたら、2日ほど休んでまたここにとんぼ返りするか。
なにしろ仕入れた荷を売りさばく商会も設立出来たからなぁ」
「おかげで隊商部門の俺たちは、この国に頻繁に仕入れに来られるようになって、そのたびにこんな旨いもんが喰えるわけですな」
「2年前までは小さな馬車1台で細々と行商する商隊だったもんが、ワイズ王国のおかげで大型馬車8台も抱える大商隊に成れたしなぁ」
「まあ、国とこの国の間の街道に盗賊野郎共がまったく出なくなったおかげもありやすかね」
「噂によると、ワイズ王国が商隊を集めるために盗賊共を定期的にやっつけちまってるそうだな」
「すげぇ国ですなぁ」
「まぁ、こんな旨ぇもんまで作れる国だし確かにすげぇ国だな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
川の村に雪が降り始めた。
大地は念のため1の村の村長を伴って大村内を視察していた。
「村長、この地では雪は積もるのか?」
「真冬のさ中に足首ぐらいまでの雪が積もることはありますが、それ以上は見たことはありませぬ。
毎年雪が降ることは降りますが、積もることは稀でございます」
「そうか……」
(なあシス、この村の家は積雪に耐えられると思うか?)
(20センチ程度ならなんとかなるでしょうが、30センチの積雪で家屋の半数以上が倒壊すると思われます。
50センチ以上で全家屋が倒壊するでしょうね)
(やはりそうか。
村の避難小屋に転移させた住民たちは皆自宅に帰っているんだろ)
(はい、避難小屋は元々中村や小村の住民のために用意されたものでして、そのような下賤な場所にいられるかと言って、皆自宅に戻っています)
(ったくとことんアフォ~な連中だな)
(如何致しましょうか。
こっそり家屋を強化しておきますか?)
(いや、強化するのは避難小屋だけでいい。
住民たちの家屋はそのままにしておけ)
(はい)
(だが、家が潰れて死んだ者はリポップ先を避難小屋にしておいてくれ。
大怪我をしたり倒壊した家の中に閉じ込められた者は、治療の上やはり避難小屋に転移させておいてくれ)
(畏まりました)
そのとき、村の東側から10人ほどの男たちがやって来るのが見えた。
皆汚れた衣服を身に着け、何年も洗っていないような体に脂でゴワゴワの長髪姿である。
「あ、あ奴らです!
全く働かずに村人を脅して食料を奪って行く村の乱暴者たちです!
自警団を集めて村から追放していたのに、また舞い戻って来たか!」
先頭を歩いていた大男が声を出した。
「なんだこのデケぇ家は!
いつの間にこんなもん建てやがったんだ!」
「へへ、デブジ親分、ここなら冬の寒さを凌げそうですな」
「よしお前ぇたち、この建物に押し入ってまずは食糧庫を押さえろ!
それから住村人共を何人か痛めつけて、ここはデブジ様の物になったと言って来い!
反抗する奴がいたらぶっ殺してもいいぞ!」
「「「 へい! 」」」
「お、親分、扉が開きやせん!」
「なにぃ! いいからぶっ壊せ!」
がちんがちん。
「や、やたらに頑丈で石をぶつけても傷もつかねえです!」
「な、なんだとぉ!
お、あそこにいるのは村長じゃねぇか。
ちょうどいい。
おい村長。
俺様に村長の座を譲る決心はついたか。
そうすりゃあ俺がデブジ王国を作ってやるぜ。
素直に村長の座を譲るんなら、お前ぇも貴族ぐれぇにはしてやるぞ」
「莫迦を言うな!
誰がお前みたいな怠け者の悪党に村長などさせられるか!」
「なんだとぉ!
はは、自警団もいねぇのに妙に強気なことを言うじゃねぇか。
俺様に逆らうと、まずはお前ぇからぶっ殺すぞ!」
「ひっ……」
(シス、幻覚の魔道具を一旦停止)
(はい)
大地が前に出た。
「あー、お前らが村人から喰いもんを恵んで貰ってる乞食どもか。
なるほど見たことも無ぇほど汚ねぇ連中だな。
乞食に相応しい格好だわ」
「なんだとこの野郎っ!
この川の国の王になるデブジ様に逆らうと痛ぇメに遭わすぞ!」
「あはははは、弱者には無理だな。
お前らボケカス王国の兵が略奪に来るのが怖くって逃げ隠れていたんだろ。
そんな根性無しが王になるとか、笑かしてくれるぜ」
「な、なんだと……」
「しかも、どうやら略奪隊は来なかったようだし、寒くなって喰い物もなくなったから、またのこのこ出て来たんだろうが。
ったくよ。
そんな根性も力も無ぇ能無し共が、喰いもん欲しいんならその場に膝と頭をつけて『喰いもん恵んでくださぁい』とかお願いしたらどおだぁ?
麦粥の1杯ぐれぇなら俺が恵んでやってもいいぞぉ」
「おい、お前ぇたちこいつをぶっ殺せ。
ただすぐに殺すんじゃぁねぇぞ。
腕と脚の骨をぜんぶへし折って、膝と頭を地面につけさせて、俺様に命乞いをさせろ。
もっとも命乞いをしても殺すがな」
「へっへっへ。
お前ぇも莫迦な男よな。
このデブジ親分とデブジ団に逆らうとはよ」
9人の男たちが手にこん棒や石槍を持って大地に近づいて来た。
だが……
バキボキグシャドカビキバクバシ……
「「「 ぐうぎやぁぁぁぁぁぁぁ―――っ 」」」
9人の男たちが四肢の骨を折られてその場に転がった。
大地が指さすと、全員が俯せになって尻を上にあげている。
「よしよし、みんな膝と頭を地につけたか。
それならメシぐらいは喰わせてやってもいいぞ」
「なっ……」
デブジは後ろを向いて逃げ出した。
だがもちろん、念動魔法で10センチほど宙に浮かされて、強制的に前を向かされている。
「あ…… あ…… あ……」
子分たちの悲鳴を聞きつけた互助会兵たちが建物から出て来た。
大地はそれを手で制している。
「この根性無し野郎が……
子分を置いてひとりだけ逃げ出すとはよ。
せめて親分も戦って死ねや」
「ゆ、許してくれっ!
か、川村の王はお前でいい!
そ、その代わり俺様を貴族に……」
「莫迦野郎っ!」
バキッ!
「うぎゃぁぁぁ―――っ!」
デブジの股間がみるみる濡れ始めた。
「たかが腕一本でションベンまで漏らすかこの阿呆が!
お前ぇもチンピラ子分どもと同じになれっ!」
ドキャバキグシャッ!
「ひぃぎゃぁぁぁ―――っ!」
「テミス」
(はい!)
「こいつらの罪状と刑罰は」
(10人のうち、最低でも強盗が30件、強盗傷害が45件、恐喝が62件もありますので全員終身刑になります)
「そうか。シス」
(はい!)
「建物の裏手に檻を10個作ってこいつらを収容せよ。
前面は鉄格子にして建物から中がよく見えるようにし、結界も張って遮音措置も施し、住民に喰い物を強請らせないようにしろ」
(はい!)
「まあ毛布ぐらいは使わせてやれ。
檻内の温度も氷点下にはならないように調節もだ。
死んだらその場にリポップさせろ」
(畏まりました!)
「ストレー、当面の間こいつらの胃の中に最低限の水と食料を転移させろ。
喰いものは、山女の内臓や頭をすり潰したものや野菜くずにビタミン剤を加えたもので十分だ」
(はい!)
「シス、ストレー、テミス。
他の村で同じような寄生虫共が出たら、捕縛して同様な檻に収監せよ」
((( はいっ! )))
「これでこの川の民の地も多少は平和になるだろうな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大地は総督隊のガリルたちを訪ねた。
その場には上級将校たちも30人ほど集まってくれている。
「集まってくれて感謝する。
実は少々厄介ごとがあるんだ」
「どうしたんだ?」
「どうやら今年の冬は非常に寒いらしい。
この中央大陸北部一帯は大寒波に襲われ、特に北部海岸沿いには北の海から流氷が押し寄せて接岸しそうなんだ。
この中央大陸と北大陸では、50年から60年おきにそうした気象災害があるということだ」
「ふむ、だがたぶん北大陸は大丈夫そうだよな。
あの海中城壁があるから氷は接岸せず、食料は確保出来るし、海棲ヒューマノイドたちもダンジョンに避難出来るだろうし」
「そうだ。
だが中央大陸の北部一帯は深刻な打撃を被るだろう。
彼らは食料を海産物に依存しているらしいので、流氷が接岸すれば多くの者が漁が出来ずに餓えてしまう」
「海中城壁は造らないのか?」
「それがこの大陸の北側は海底が深くてな。
どうやら海岸のすぐ傍でも、水深が300メートルから1000メートルもあるんだ。
海中城壁も造れないことはないが、基部の厚さが500メートル近くになってしまう。
そんなものを作ったら魚が全く内部に入って来なくなって、海岸のヒト族はやはり餓えてしまうだろう」
「なるほど、それで北大陸と同じダンジョン内避難にするのか?
それとも救援小屋を作って食料を配るのか?」
「やはり各地に入り口用の小ドームを建てて、いつでもダンジョンに避難出来るようにしてやろうかと思うんだ」
「北大陸と同じだな」
「ただひとつ問題があってな。
どうやら流氷が接岸して漁が出来なくなりそうな地域は東西8000キロほどもあって、その範囲内には大小さまざまな村が8000か所、ヒト族は500万人もいるんだ」
「それはたいへんだな。
食料は足りるのか?」
「まあ冬の間だけならなんとかなるだろう。
海沿いの民の主食は魚と貝らしいんで、漁は無理でも貝は少し獲れるだろうし」
「そうか。
だが、避難勧誘もさすがに8000もの村があったら俺たちだけでは無理だな。
互助会隊も動員するか」
「そうしよう。
だが、彼らは内陸の農村の避難勧誘しか経験が無いんだ。
それもワイズ王国内への避難勧誘だったし。
ワイズ王国の避難民収容所も、さすがに500万人は無理だから、今回はダンジョン内への避難にさせようと思っている。
まあ、大きめの村に1つずつダンジョンへの入り口を作ってやればいいだろう。
それで、総督隊1名につき5名の互助会隊をつけて、まずは200組の勧誘部隊を作りたいと思っている。
互助会隊が慣れて来たら倍の400組にしよう」
「なるほど、そうすれば1組当たり20の村を廻るだけで済むな。
それならなんとかなるだろう。
だが避難を勧誘するだけかい?」
「はは、流石はガリルだ。
実は主な村にはダンジョン商会の支店を作ろうかと考えている。
海の魚だの貝だのって、民は食べたこと無いだろうし、食材としちゃあ最高だからな。
だからガリルたちには、有力村長たちに交易の渡りをつけておいて欲しいんだよ」
「はは、やはりそうか。
それなら任せておいてくれ。
貝っていうものはよく知らんけど、海の魚が売れるのは間違いないだろうな」
「高原の民との交易が始まって羊の肉が大量に仕入れられそうだし、これで海の民と交易を始めたら魚介類も手に入るし、タンパク質はたっぷり供給出来そうだ」
「タンパク質とはヒト族にとっての3大栄養素だったか」
「そうか、そういえばガリルたちも『農業・健康指導員』資格を取ってたか」
「ああ、もう将校は全員取得したよ」
「なあ、その中で新農村の村長や代官になりたい奴っているかな。
春になったら大々的に新農村を増やそうと思ってるんだ」
「うーん、俺たちは今の仕事にけっこう満足してるからなぁ。
それにダンジョン商会の各地の支店長の仕事は人気があるんだ。
まあ、村長希望者がいたら聞いておくよ」
「よろしく頼む。
それじゃあ早速互助会との合同説明会の場を設けるよ。
最初の勧誘には俺も一緒に行こう」




