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*** 290 新型草刈り機 ***

 


 小学校ではやはりダンジョン国で使われている『文字カルタ』が大活躍していた。


 最初は教師が言ったアルファベット文字を並べた札の中から抜き取るというものだったが、これは次第に単語や文章を並べるという作業になっていく。

 もちろん見学の攬把たちの前にも机と文字カルタが並べられ、いい歳をしたおじさんやおじいさんたちも、うんうん唸りながら子供たちと同じようにカルタを並べている。


((( 文字が読めるようになれば、『かみしばい』を買って孫たちが来たときに上演してやれるかもしれん…… )))


 こうして、攬把たちもますます熱心に学校を視察(?)するようになっていったのである。

 そのうちに『文章並べ選手権大会』も行われる予定らしい。



 また、たくさんの遊具も持ち込まれた。

 縄跳び、独楽、リバーシなどである。


 大地が小学校を視察したとき、たまたま大勢の子供たちが校庭で縄跳びをして遊んでいた。

 大地は微笑みながら1本の縄跳びを借り、その場で3重飛び、4重飛びを披露していき、8重飛びまで見せたのである。

(レベル60になって垂直飛びも腕力も超々人の域に達している大地にはたやすいことである)


 最後に連続で5回ほど後方伸身2回宙返りをしながらの5重飛びを続けたときには、校庭中の皆の口が開いていた。

(含む攬把たち)


 やろうと思えば垂直飛びは30メートルを超え、30重飛びぐらいは出来ただろうが、流石にUMAと思われてもイヤなのでそれは自粛したらしい。

 念動魔法で宙に浮きながらの100重飛びも。


 因みに浮きながら多重飛びを続けると、その反動で自然に体もくるくると回り始めるそうだ。

 まさしく人外魔境の光景である。

 作者的にはやらせてみたかった気もするが……




 淳が地球で調達してくれた草刈道具が届き始めた。

 鎌を使うときに足の甲から脛までを覆うレッグガードや耐切創手袋、粉塵用マスク、ゴーグルに加えて各種の人力草刈り機や不整地用リヤカーなどである。

 ご丁寧に全ての商品に淳の解説がついていた。


 このうち、日本製の草刈り機は造りも堅牢で刃も鋭く、確かに使いでは良さそうだったのだが、いかんせん小さくまた高価だった。

 ゴルフ場などで使われているものは大型だったが、全てが動力式である。

 そこで淳と静田がシスくんの分位体と共にアメリカに転移して、静田物産アメリカ支社の案内で農具メーカーのショールームを廻ってくれたらしい。


 さすがは広大なアメリカで、草刈り機などはやはりほとんどが大型のエンジンやモーターを搭載したものだったが、中には完全人力のものもあったのである。

 どうやら無動力農業という趣味のジャンルがあるそうで、一部のマニアには人気の品らしい。


 1つめの品は、馬、ロバ、もしくはヒトが曳く荷車タイプのもので、草刈り機の後ろには刈った牧草を溜めておくための大きな箱が連結されていた。

 これは車軸からチェーンで繋がったコンベアにより、刈られた草を箱に送り込む機構がついた優れものだった。

(多少の積み残しはあるらしい)

 曳くのに力がいる分、草刈り機の幅も広く1.5メートルもある。


 2つめの品には草刈り機の上に自転車のようなものがついていた。

 これに跨ってペダルを漕ぐと、草刈り機が前に進みながら草を刈って行くというシロモノである。


 ペダルを1回転させると円筒形の刃が1回転するが、車輪は4分の1回転しかせず、これによって刈り残しが少なくなるらしい。

 セールス文句は『ダイエットしながら静かに草刈り♪』だそうだ。

 これにはアタッチメントとして大きな塵取りのようなものを後ろに着け、刈った草を集めることも出来た。


 3つめの品は2つめの自転車型草刈り機の刃が、丈の高い草用に作られたものである。

 ペダルを漕ぐと前面に着いた鋏のような歯がじょきじょきと動き、まるでコンバインが稲を刈り取るように草を刈って行くものだった。

 もちろん刈られた草を溜めておく箱もついている。

 オプションとして、刈られた長い草を短く切る人力シュレッダーのような機械もあるそうだ。


(さすがはアメリカでなんともまあ珍品ぞろいだわ。

 でも、こんなんで草刈りしたら楽しそうだな……

 子供たちも喜びそうだ)



(あの、ダイチさま……)


「ん? どうしたシス」


(その草刈り機なのですが、やはりアメリカ製だけあって作りが雑で、軸受けが歪んでいたり、刃が鈍っていたり、溶接の甘い場所も多々あります。

 わたくしが補強させて頂いてもよろしいでしょうか……)


「おお! さすがはシスだ!

 それじゃあよろしく頼んだわ」


(はい♪)




 翌日。


(すげえなこの草刈り機……

 刃がタングステンガーバイド鋼になっとる……

 鋼鉄の2倍の剛性……


 丈高草刈り取り用の奴なんか、万が一にもヒトや羊の足を挟んだりしないようにブレーキに連動した生体センサーまでついとるし……

 しかもブレーキもディスクブレーキになってるし、ギアも5段変速になってるし……

 あ、ボディもアルミ合金になっとる!)



「さ、さすがシスだな……」


(よろしければ太陽光発電パネルをつけてモーター走行式にも出来ますが)


「そ、それだとオーパーツになっちゃうから次の機会にしようか……」


(はい……)




「ミヤンダルさん、これは牧草を鎌で刈るときに足を怪我しないように靴の上から着けるレッグガードっていうものなんだ。

 それからこれは、同じく手を切らないように手に嵌めるミトンなんだけど。

 これって、羊の革で同じようなものは作れないかな」


「この『れっぐがーど』はブーツの後ろが空いている形なんですね。

 それからこの『みとん』は冬用の革手袋と同じですから、羊の革さえあればすぐに作れると思います」


「それじゃあ革はドルジン殿に頼んで調達するから、とりあえず大人用と子供用を10個ずつ作っておいてくれないかな。

 その後は俺が買った羊の革で作ろう。

 最終的にはもっと作ることになるだろうけど、よろしく頼むよ」


「あの。

 多分ですけど大人たちは皆自分の冬用ブーツや手袋を持っていますから、子供たちの分だけで大丈夫だと思います」


「そうか、それじゃあ子供用をまず20セットお願いするよ」


「畏まりました」


「それが揃ったら試しに草刈りを始めてみようか……」




 予想通り自転車機構付き草刈り機は子供たちの間で大人気となった。

 まだ2台しか無かったが、皆が列を作って交代で乗っている。

 いや、その列の中には視察の攬把たちも混ざっていた。

 皆が歓声を上げながら全力で自転車部分を漕いでいたのである。


 念のため、防具をつけて鎌を使って手作業で丈高の牧草を刈り取る作業も行われていた。

 特に麦芽病で実が黒く変色した燕麦やライムギを見つけると、その周囲の草は手作業で入念に刈り取られ、ストレーくんの特別倉庫で焼却処分されるのである。



 だが……


「ねえあんたたち、どうしてあたしたち女の子に先に草を刈らせて、男の子は後からついて来てるのよ!」


「「「 ………… 」」」


「あっ! ま、まさか!」


「そうか!

 あんたたち、真っすぐ立ちなさい!」


「「「 えっ…… 」」」


「いいからすぐに真っすぐ立ちなさいってば!」


「「「 う、うん…… 」」」


「なんで手で前を隠してるのよ!」


「あー、ズボンの前にゲル張っちゃってまぁ」


「やっぱりあたしたちのおしりを見てたのね!」


「まったくそういう知恵だけは廻るんだから!」


「「「 ご、ごめんなさ~い…… 」」」


「そんなにおしりが見たかったら、将来お嫁さんを貰ってからいくらでも見せてもらいなさい!」


「そんなことばっかりしてると、お嫁さんになってあげないからね!」


「もちろんあんたたちの子も生んであげないんだから!」


「「「 ええぇぇ~っ!!! 」」」



 が、がんばれ男の子たち……




 こうした実験の結果、自転車式草刈り機は、手作業で草を刈るのに比べて20倍以上の効率で牧草を集められることがわかったのである。


 その草刈り風景は、噂が噂を呼んで見学の攬把たちも雪だるま式に増えて行ったようだ。

 大地は、この牧草をストレーくんの時間加速倉庫に収納し、高原製のヨーグルトを少し水で薄めたものと混ぜ合わせ、密閉空間の中で4週間ほどの時間を経過させてみた。

 牧草は見事に発酵してサイレージになっていたのであるが、これを充分に換気した後に試しに羊に与えてみたのである。


 羊たちは最初見慣れぬ色をした牧草をやや警戒していた。

 だが、そのうちに春に生まれた小さな幼羊たちがサイレージに向かって駆け出していったのである。

 どうやらヨーグルトの乳の匂いが残っていたのがよかったらしい。

 彼らにとっては格好の離乳食のようだった。


 これを見た大人の羊たちもサイレージに向かい、一山ほどのサイレージはあっという間に喰い尽くされてしまったのである。


 念のために短い草(センチピードグラス、白クローバー)と長い草(燕麦、ライムギ、チモシー、オーチャードグラス、フェスキュー)の2種類の牧草でサイレージを作っていたのだが、どちらも問題なく食べていた。

 どうも長い草も短く切っていたのがお気に召したらしい。


 大地は早速淳に連絡を取り、2種類の自転車式草刈り機を300台ずつ注文した。

 その品が届いてシスくんが魔改造を終えるまでは、当初の3台と手作業によって牧草刈りが続けられる予定である。



 大地は草刈り作業の監督を総督隊の将校に任せ、本部で越冬者の受け入れ作業に奔走していた。


 越冬地にやってきた遊牧民たちは、初めて見る石造りの巨大構造物を見て驚愕に立ち尽くす。

 そして、門前で待ち受けていた大攬把たちに歓迎され、攬把配下の男たちによって越冬場内の宿泊施設に案内されていったのである。

 東西南北4つの越冬場には12の氏族の内3氏族ずつが入居した。



「さてみなさん、宿泊施設の使い方はお分かりいただけましたでしょうか」


「あ、ああ……

 それにしても、本当にこんなに凄い場所で越冬させてもらえるのかい?」


「なにしろ総攬把殿と大攬把殿たちがお決めになられたことですからね」


「そうか……」


「もしよろしければ、中央棟の建物もご案内させてください」


「よろしく頼むよ」



「ここが氏族の連絡所です。

 我らダワー氏族の担当者の誰かはいつもここに待機していますので、なにかご相談がお有りになれば遠慮なく来てください。

 それからこちらは診療所です。

 夜中も開いていますので、どなたか具合が悪くなったらすぐに連れて来てください」


「あ、あの祈っている人たちはなんなんだ?」


「ほとんどの方が、この診療所の魔法で命を助けられた方やその家族の方々です。

 皆さんあのようにお祈りに来られたり掃除をしに来てくださってます」


「…………」


「ここは洗濯場です。

 洗濯物はこちらで綺麗にしてください。

 それからこちらは大浴場です。

 両方とも使い方は中にいる者が説明します。

 ここは相撲場と催事場ですね。

 冬になったら相撲大会も開かれます」


「す、すごい……」


「次は本部棟をご案内しましょう」



「こちらが普段総攬把殿や大攬把殿たちがいらっしゃる政務庁です。

 その東側の建物が『高原商会』でして、13歳以上の羊を買い取って銀貨を支払ってくれる場所になるんですが、13歳以上の羊はお持ちですか?」


「いや、まだ独立して6年なんで持っていないんだ」


「銀貨があれば、あちらの東側にある商会で麦やパンが買えるんですが……

 それでしたら、しばらく高原商会で働いてみられたらいかがでしょうか。

 4日働くと給料として銀貨1枚が支払われます」


「ど、どんな仕事なんだい?」


「今募集しているのは、冬に備えて牧草を刈り取る仕事ですね」


「それなら出来そうだな。

 羊を潰して食料にせずに麦を買えるんならその方がいいよ」


「それでは明日の朝、氏族の詰め所まで来てください」


「わかった。どうもありがとう……」




「あ、あなたは右手が……

 やはりデスレルとの戦争ででしょうか」


「ああ、デスレルの兵に切られてしまったんだ。

 だが、そいつはすぐに仲間たちに滅多刺しにされて即死してたよ。

 随分と痛かったけど生き延びられてよかったわ」


「そうでしたか……

 それでしたら、明日の日没ごろに中央棟の診療所まで来てください。

 魔法でまた手を生やしてもらえますよ」


「えっ…… ほ、ほんとかい!」


「ええ、もう20人以上の方の手脚を治していますし」


「それはありがたいことだ……」



 こうして、神殿(実は単なる診療所)は、また信徒を増やして行ったのである……





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