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*** 288 開店大サービス ***

 


 大地は北大陸のダンジョンマスターに連絡を取った。


「やあミンナさん、ご無沙汰してます。

 いつも昆布をありがとうございます

 今よろしいですか」


(あ、ダイチさん、もちろん大丈夫ですよ。

 こちらこそいつも小麦や砂糖をありがとうございます)


「それで、今日連絡させて頂いたのは、今年の冬についてなんですよ。

 こちらの住民の観測によると、今年は55年ぶりの大寒波が襲来しそうなんです。

 ツバサさまによれば、そのときには中央大陸の北部海岸にまで流氷が押し寄せたそうでして、念のためご連絡をと思いまして」


(そうでしたか……

 ですが、おかげさまで皆ダンジョンに避難出来るでしょうし、あの海中城壁のおかげで流氷も接岸しないでしょう。

 北大陸は大丈夫だと思います)


「それはよかった」


(それに、海岸沿いの魚の数が倍ぐらいに増えているそうなんです)


「ほう、なんでですかね?」


(どうやら、あの海中城壁に無数に空いている穴が格好の漁礁になっているようですね。

 それにシャチもいなくなったので魚が増えたんでしょう。

 みんな寒さには強い種族ですし、こちらは大丈夫だと思います)


「それを聞いて安心しました。

 ですが、なにか困ったことが起きたらすぐにご連絡ください」


(ありがとうございます……)





「なあシス(の本体)、中央大陸北部海岸沿いの流氷接岸予想地域って、どれぐらいのヒト族が住んでいるんだ?」


(おおよそ8000か所の村に500万人が暮らしている模様です)


「そうか、けっこう多いな。

 やはり海の幸のおかげか。

 日本の縄文時代でも貝は主食に近かったそうだしな。

 なあシス、高原と海岸沿いの対策って、どんなものがいいと思う?」


(高原ではあの越冬地をあと3つ作られたら如何でしょうか。

 それから海岸沿いでは北大陸方式がよろしいのでは)


「やはりそうか。

 ところで、北部海岸沿いについてなんだが、1人当たり面積は同じとして、村ごとに自然ダンジョンを造ってやるのと、大きなダンジョンを造ってそこに100か所ぐらいの村の連中を集めるのとでは、ダンジョンポイントコストはどれぐらい違うんだ?」


(1人当り面積が同じならばコストも同じです)


「そうか、それなら村ごとに造ってやるかな。

 多くの村を1か所に押し込めて争いが起きても面倒だし」


(1人当り面積はどのぐらいにしましょうか)


「そうだな、トイレや食堂や厨房なんかの共用部分も含めて、1人当り50平米ぐらいでいいんじゃないか?」


(ということは、村ひとつ当りの平均人口は約600人ですから、3万平方メートルの自然ダンジョンを8000個相当ですね)


「そうだ。

 その分大変なのはお前とダンジョンだが大丈夫か?」


(もちろん大丈夫ですよ)


「それにしてもいつも思うんだが、お前たちは休暇があったり旨い物を喰えたりするけど、ダンジョンはいつも働かせてばっかりだよな。

 例えばダンジョンの分位体を創ってやるとかして、報いてやることって出来るかな」


(あの、そもそもイタイ子ちゃんはダンジョンコアの分位体ですから、ダンジョンそのものと言っていいです)


「そういやそうだったか……」


(それに、ダンジョンにとっての喜びとは、大勢のヒューマノイドがダンジョンの中に居てくれて、モンスターと戦ってもくれることなんです。

 つい2年前まではどちらもゼロでした。


 それが今では、40万を超えるヒューマノイドが常時ダンジョンの中に居て、ダイチさまが毎日2000を超えるモンスターと10回も戦っていらっしゃいます。

 おかげで1000憶を超えるダンジョンポイントもありますし。


 ですから、ダンジョンにとって、今は毎日が盆や正月やクリスマスやお誕生日なんですよ。

 ですから、ご指示頂いた避難用ダンジョン作成も喜ぶと思います)


「そうだったのか……」


(毎日が盆や正月やクリスマスやお誕生日……

 た、確かに楽しそうだな……)


「それでも何か希望があったら言うように伝えてくれ」


(はい)


「それじゃあご苦労だがダンジョン内部なんかの準備をしておいてくれるか。

 高原の越冬施設追加については、俺が行って説明して来るわ」


(畏まりました)




 大地は高原に戻り、首脳陣との面談に臨んだ。


「お待たせして申し訳ない。

 越冬施設内の建物以外に滞在する際の費用についてだったな」


「それで費えは如何ほどになりましょうかの……」


「実は我が国には俺が決めた法がいくつかあるんだ。

 そのうちのひとつは、以前説明したように、我が国は決して他国を侵略しないというものなんだがな。

 もうひとつ重大な法として、『人の命に関わることで利益を追求しない』という法もあるんだ」


「と、仰られますと?」


「今年の越冬地の滞在費は全て無料とさせてもらう」


「「「「 !!!! 」」」」


「それだけではなく、あの越冬場をあと3つほど造ろう。

 総攬把殿の政務庁の東と北と西に造ってもいいかな?」


「ま、まさかそんな……」


「いや、ヒトや羊をあまり狭いところに詰め込んで生活させると、ストレスっていうものが酷いんだ。

 そのせいでヒトには争いごとが増えるし、羊はヘタをすれば死んでしまうからな。

 俺の越冬場でそんなことが起きるのは耐えられん」


「し、しかしですな……」


「まあ今年は開店大サービスだ。

 その代わり来年の冬は料金を払ってくれ。

 各越冬場にある中央棟の食堂は有料にするが、分限者の大攬把さんや中攬把さんたちは、そこで若い連中にメシでも振舞ってやって欲しい」


「それはもちろんですが……

 いくらなんでも無料などとは……」


「そんなことよりも、今晩あと3つの避難施設を造るが構わんよな」


「もちろんです……」


「それから高原全域に集合をかけるのは早いほどいいな。

 万が一にも雪が降り始めてからでは手遅れになってしまう」


「そうですな。

 幸いにも今この地には多くの大攬把殿や中攬把たちが集まっておりますので、明日からでも本拠地に使いを送って、各氏族の全員にこの避難施設に集まるように伝えさせましょう。

 そのときには、近隣の者たちはすぐにも集まって来るでしょうが、施設に入らせて貰っても構わんですかの」


「もちろんだ。

 全員が入居するにはかなりの時間がかかるだろうからな。

 その際には若い連中を中心に仕事を頼みたい」


「仕事…… ですかの?」


「羊の食料であるサイレージを作るために、草を刈って集めて貰いたいんだが、これには大勢の人手が必要になるだろう。

 避難所に来た若い男たちや女たち、総攬把殿の下におられるご婦人や子供たち全員を雇いたい。

 給金は日に銅貨25枚を払おう」


「羊のための草を集めるのは我らの仕事でしょうに……」


「いや、その給金があれば、冬の間に菓子パンなんかも買えるだろう。

 せっかく俺の施設で越冬して貰うんだから、楽しく過ごしてもらわないとな」


「何から何まで忝い……」


「それからあといくつか提案がある」


「お聞かせください」


「まずはここにおられる大攬把殿たちが、配下の者たちを本拠地に帰して、今からすぐに氏族全員がこの越冬場に集まるよう触れを出して欲しいが、同時に俺の部下にその男たちの帰る方向を見させて、ここから12の方角に道路を造りたいんだ。

 構わないかな」


「『どうろ』…… ですか?」


「そうだ。

 幅10メートルほどに地面を平らに均して歩きやすくした場所だ。

 将来荷車を走らせるのにも便利だろうからな。

 その道路の途中には宿泊所も造ろうか。

 移動の途中でいちいちゲルを張るよりも、建物があった方が楽だろう。

 もちろん水場もつけるぞ」


「それは皆の移動が楽になりそうですな……」


「それから、俺の仕事を補佐する者たちを200人ほど連れて来たいんだが、構わないかな」


「ダイチ殿の配下の方ならばもちろん構いませぬ」



「それでは仕事を始めよう。

 まずは大攬把の皆さんは氏族の全員をここに集めることに注力して欲しい」


「「「 応! 」」」


「また、俺は明日寡婦さんたちや子供たちを集めて仕事の説明をするが、ドルジン総攬把殿は一緒に来てくれるかな。

 配下の者に指示を出し終わった攬把殿たちも、子供たちの暮らしぶりを視察して貰えるとありがたい」


「畏まりましたですじゃ」





「シス、12の氏族の男たちにマーカーをつけて追跡してくれ。

 それで大攬把の本拠地を特定したら、その付近からこの総攬把本部までの道路建設も頼む。

 その道路はなるべく平らになるようにして、沿道には20キロおきに宿泊所も建設しておいてくれ」


(宿泊所の規格はどういたしましょうか)


「そうだな、ヒト用も羊用も60メートル級ドームにしようか。

 住むわけじゃあないんだから壁は要らないだろうが、念のためヒト用には移動可能なパーテーションもつけてやろう。

 水場とトイレと竈と、あとオンドルもつけてな」


(はい)


「ストレー、宿泊所が出来たら薪をたっぷり出しておいてくれ」


(畏まりました)


「それから牧草集め用の拠点も造ろうか。

 この本部から100キロほど離れていて、道路からなるべく離れた場所12か所に40メートル級ヒト用ドームを頼む。

 そこには本部から通えるように転移の輪を置いておこうか。

 刈った草を入れるための傾斜路付きのミニサイロも必要だな。

 ストレーは、そのサイロにある程度草が溜まったら収納してサイレージを作っておいてくれ。

 ヨーグルト作りは寡婦さんたちに頼もう」


(はい)


「それじゃあ俺は地球に戻って各種道具を注文して来るよ」


(( いってらっしゃいませ ))




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌日、大地はアイス王太子とワイズ総合商会の古参の従業員や総督隊に加えて、ダンジョン国からの応援も200人ほど連れて高原に転移した。

 さすがにかつて高原の民と戦った互助会隊は連れて来ていない。

 まあ、いつかはわだかまりも無くなることだろう。


 尚、従業員や応援要員は時間停止ダンジョンで大地を攻撃させてレベルを8以上まで上げさせ、『異言語理解Lv3』を取得している。



 ダンジョン商会高原支店の大食堂では、テーブルが全て収納され、ドルジン総攬把と数人の大攬把たち、加えて300人の寡婦たちと700人の子供たちが全員揃っていた。



「ドルジン総攬把殿、大攬把殿方、それからみんな、こちらが平原の国で俺やアイス王太子殿のために働いてくれているひとたちだ。

 よろしく頼む」


「「「 よろしくお願い致します! 」」」


「こちらこそよろしくお願い致しまする」



「それではまず、組織を作ろうか。

 寡婦さんたちの中にリーダーはいるのかな」


 40歳ほどに見える女性が手を挙げた。

 どうやら最年長者らしく、あのパンを焼いたときの手伝いをしてくれたメンバーのひとりだった。


「ミヤンダルと申します……」


「よろしくミヤンダルさん。

 これからみなさんには仕事を頼みたいと思っている。

 まず、300人の女性たちを50人ずつ6つの班に分けて、班長も決めてくれ。

 これらの班には交代で総督隊の連絡係もつける」


「はい」


「そのうちの第1班は、主に5歳までの子を預かる託児施設で働いてもらいたい。

 第2班と第3班はこのグループ全体の食事を作る仕事を頼む。

 これらはまあ、今までとあまり変わらない仕事だろうから特に問題は無いだろう」


「ええ」


「それから第4班は、これから作る学校という施設で子供たちの面倒を見て貰う」


「『がっこう』…… ですか?」


「そうだ、子供たちに読み書きや計算を教える場所だ。

 読み書きは主にこの大陸の共通語を教えることになるだろう。

 この高原ではほとんど字を使っていないようだからな。


 それから第5班と第6班は、この高原商会の食堂で出す新しい料理を作る研修をして欲しい。

 たぶん、今まで見たことの無い料理方法なので、最初は少し戸惑うかもしれないが、すぐに慣れるから大丈夫だ。


 最初は羊たちのエサになるサイレージを作るために、ヨーグルトが大量に必要になる。

 また、柔らかいパンを焼くためにバターも必要になるから、これらを作って欲しい。

 ドルジン殿、当面の間貴殿の羊の乳を使っても構わんかな」


「もちろんですじゃ。

 すべてここにいる者や高原の民のために使われるのですからの。

 どうぞお好きなようにお使い下され」


「ありがとう。

 もちろん俺の商会が営業を始めたら、羊乳は相応の値で買わせてもらう。


 それでは皆が働く際の条件を伝える。

 まず、どの班の人も5日働いたら必ず交代で1日休んでもらい、1日は子供たちと同じ学校に行って読み書きを勉強してもらいたい。


 つまり班員が50名いると言っても、いつも14人ほどは休みか学校に行っているということになるわけだ。


 この休みと学校に行く順番は各班長が班員と相談して決めてくれ。

 休みの日には仕事はせずに各人が好きなことをして過ごして欲しい。

 1日中寝ていてもかまわん。

 ただし、仕事はしないこと。


 それから、1日の労働時間は絶対に8時間までだ。

 原則として、午前中は8時から12時まで、昼休息1時間を挟んで午後は1時から5時までの勤務時間にする。

 小さい子たちの世話は、3交代制ぐらいにしてくれ。

 料理当番は朝6時ぐらいからの仕事になるだろうが、10時には片付けなどの仕事を終えていったん休むように。


 夕食の用意は午後3時から7時までだ。

 これも仕込みなどの都合があれば交代で当番制にして欲しい。

 要はひとりひとりの働く時間を日に8時間までにして欲しいということだ」


「「「 ………… 」」」


「また、給金は休みの日も含めて日に銅貨25枚が支払われる」


「「「 ……え?…… 」」」


「俺のダンジョン商会では菓子パンは1個銅貨4枚で売り出すから、1日働くと6個は買えるな。

 それ以外にも、そのうち服も売り出すからそれも買えるようになるだろう。

 また、20日働けば銀貨5枚になるから子羊が1頭買えるぞ。

 給金を貯めて羊をたくさん買って独立してもいいだろうな」


「あ、あの…… おカネが頂けるんですか?」

「そ、そのおカネで食べ物や服が買えるんですか?」


「もちろんだ」


「そ、そんな……

 子供たちや私たち自身の食事を作ったりもするのに……」


「だが交代で食堂の料理も作ってもらうからな。

 その食堂で料理が売れたら、それは俺の利益になる。

 その中から給金を払うのは当然だ」


「は、はい……」


(はは、ご婦人たちがみんな涙目になってるよ。

 今までは総攬把殿に養ってもらっていて肩身が狭い思いをしていたんだろう。

 それが、自分たちが働いたカネで暮らしていけるかもしれないとわかったんで嬉しいんだろうな。


 これなら一生懸命働いてくれそうだ……)




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