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*** 266 褒賞 ***

 


 或る日の幹部会にて。


「みんなの協力もあって、デスレル帝国を潰すことが出来た。

 ありがとう」


「みんにゃダイチの言う通り動いていただけだけどにゃ」


「そうじゃのう、妾たちは言われた通り働いておっただけだの」


「だが、それでもみんなの働きも大きかったんだ。

 そこは誇ってくれ。

 それでな、まあまだまだこの大陸をまともにするには時間がかかりそうだけど、ずっと働きっぱなしだと疲れちゃうだろう。

 だからここらでみんなに報奨を渡したいし、休暇も取ってもらいたいと思うんだよ」


「休暇なぞ取ってよいのかの?」


「まあ分位体たちは構わないぞ。

 なにかあっても本体たちが働いてくれるからな」


「それもそうじゃの。

 ならば妾はまた地球に行きたいのう」


「そうか、イタイ子はそれでいいとして、他のみんなはどうだ?」


「よ、よろしければわたしもまた地球に行きたいです……」


「わ、わたしも……」「僕も……」


「シェフィーはどうだ?」


「あの、わたしも地球に行ってよろしいのでしょうか……」


「もちろんだ。

 それにシェフィーには地球でいろいろなものを食べて来てもらいたいしな」


「ありがとうございます……」


「あちしも行くにゃ♪

 また最高級猫缶を大量に買い込んで来て、ジージやミウミウにも分けてやるにゃよ♪」


「それは喜ぶだろうね。

 ということで良子さん。

 すみませんが、またみんなを地球に連れて行ってやっていただけませんでしょうか。

 それで、向こうでは静田旅行社に正式に依頼して、1か月ぐらいのツアーを組んでやっていただけますか。

 それなら良子さんも楽でしょうから。

 予算はいくらかかっても構いません」


「それでは須藤や静田さんや佐伯さんもお誘いしてよろしいでしょうか」


「もちろんですよ」


 良子は嬉しそうに微笑んだ。


「みなさんさぞかし喜ばれることと思います」


「淳さんとスラさんはなにがいいですか?」


「うーん、僕はアルスにいること自体がご褒美だからねぇ」


「そう仰らずに」


「それじゃあさ、地球でおもちゃや本なんかを買い込んで来てもいいかな?

 あと映写会権付で映画のDVDも買って来たいんだ。

 子供たちに見せてやりたくって」


「電源はどうしますかね」


「ソーラー発電機の大型のやつでどうだろう」


「それならいっそのこと、ダンジョン国前の川の下流にダムを作って、水力発電設備も買いましょうか」


「さすがに結構なお金がかかるよ」


「全部合わせて300億円ぐらいまでだったら構いませんよ」


「ははは、すごいね」


「なにしろダンジョン国のみんなのためですからね。

 子供たちが喜べば、働いてくれてる大人たちも喜んでくれるのではないでしょうか」


「それもそうだね。

 みんなへの報奨も含まれているわけか」



 因みに……

 淳が買って来たアニメ映画がダンジョン国で放映されたとき。

 あの乗り物の形をしたネコが出て来た場面では、観客の猫人族のしっぽが皆盛大に膨らんでいたらしい……

 シャツにバスの窓の絵描いて、得意げに四つ足で歩き回っている猫人族が激増したとのことである……



「スラさんはなにがいいですか?」


「あの……

 それでは来年の春に3週間ほど休暇を頂戴出来ませんでしょうか。

 結婚式をしたいと思いまして……」


「おお! それはおめでとうございます!」


「「「「 おめでとうございます! 」」」」


「それではスラさん、お祝いは何がいいですか?」


「あ、あの……

 住居については陛下が王宮内に大きな家を建てて下さるそうですし、収入についても国家上級公務員として十分なものを頂けるようになりましたので……

 これも全てダイチさまのおかげですので特には……」


「それでも何かご希望はありませんか?」


「そ、それでは恐縮ですが……

 彼女もこのダンジョン国に来たがっているのです。

 それでご了解を頂戴出来ないものかと……」


「ねえタマちゃん、確かアルスに来られるのって助役だけだったよね。

 まだ助役の枠は2人分余裕があるし、スラさんの奥さんにも助役になってもらえれば大丈夫かな?」


「にゃ、助役4人までっていうのは普通のダンジョンマスターの話にゃ。

 ダイチはもう総督なんにゃから、助役ぐらい100人雇っても大丈夫だにゃぁ」


「そ、そうだったのか……

 それじゃあスラさん、婚約者さんに助役になってくれるかどうかお願いしてみていただけませんか」


「ありがとうございます。

 彼女は王宮で私の仕事を手伝ってくれると言っていますので、特に問題は無いと思います」


「そうでしたか。

 それはありがたいことです」


「いえ、まあ或る種王族の責務ですから」



「ガリルとブリュンハルト隊も、交代で長期休暇を取ってくれな。

 それから褒賞は何がいい? なんでもいいぞ」


「それじゃあ、隊員の家族たちがワイズ総合商会に来たがっていたんだけど、構わないかな」


「もちろんだよ。

 そうだな、金貨500枚を渡すから、みんなに渡して買い物に使ってくれ」


「いいのかい?」


「もちろんだ。

 みんなそれだけの働きはしてくれたからな。

 でもそれだけじゃあちょっと足りないなぁ。

 他にはなんかないかな?」


「それじゃあみんなに希望を聞いてみるよ」


「よろしく」




 翌日。


「やあダイチ」


「おはようガリル」


「ブリュンハルト隊の皆から『褒賞』の希望を聞いて来たよ」


「どんな希望だったんだ?」


「まずは隊の名称を今までの『ブリュンハルト隊』から『ダイチ総督隊』にさせて欲しいそうだ。

 構わないかな」


「そりゃもちろん構わんが……

 ブリュンハルトの名が無くなるのは少し寂しくないか?」


「みんなもそれを気にしてたんで、『ブリュン』っていう家名をつけてやることにしたんだ。

 バルガス中佐は、バルガス・ブリュンで、ジョシュア少佐はジョシュア・ブリュンだ。

 勝手に決めたが構わないよな」


「それももちろん構わないが……」


「実はブリュンっていうのはブリュンハルト商会を立ち上げた祖父の名前なんだ。

 それで男爵位を賜るときに家名をブリュンにしようと思ったんだが、モントレー閣下がもう少し貴族らしい家名にした方がいいと仰られてな。

 それで『一族』を意味するハルトっていう言葉をつけてブリュンハルトっていう家名にしていたんだ。

 バルガスやジョシュアみたいな古株は、ブリュン爺さんに買われて大事に育てられた者たちだからな。

 ブリュンって言う家名をつけてもらえるって聞いて、涙を流して喜んでいたよ」


「なるほどなぁ」


(明治時代に日本人全員が苗字を持った時に、村中のひとが旧領主の名字や地名を苗字にしたのとおんなじか……)


「それで隊の名前を『ダイチ総督隊』にしてもいいかな」


「それも構わんが……

 でもそんな褒賞でいいのか?」


 ガリルが微笑んだ。


「俺たちには実に素晴らしい仕事がある。

 大勢の避難民に感謝され、家族は安全な場所で暮らし、実に旨いメシを好きなだけ喰い、休暇まで貰えているんだ。

 これ以上の褒賞は想像も出来ないんだよ」


「そうか……

 ありがたい話だな」


「ただひとつだけみんなが困っていることがあるんだ」


「なんだ困ってることって」


「それは我らの人数が250人と少ないことなんだ。

 ダンジョン国に避難して来たヒト族の若者の内、E階梯1.5以上の者を探して見習いとして鍛えてはいるが、そもそも元のE階梯が高い者が少なかっただろう。

 今孤児院で育っている子供たちが成人して志願してくれれば、E階梯が高い者も大勢見習い隊員に出来るかもしれんが、それにはあと何年もかかるだろうし」


「そうだな……」


「でもダイチの任務はこれからさらに拡大して行くだろ。

 大陸東部や西部の国を平定して行くんだからな。

 だから、もう一つ直属部隊を作ったらどうだろうか。

 あの互助会の連中はE階梯も高いようだし、何よりも実によく働いていたからな」


「そうか。

 それじゃあ彼らに志願するかどうか聞いてみるか。

 それで志願者をダンジョン内特別鍛錬室で鍛えてやる際に、総督隊から教導教官の派遣もお願い出来るか?」


「はは、それは我ら『ダイチ総督隊』の任務の内だな……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 旧デスレル本国の北部がほとんど更地にされ、シスくんの手によって宿舎付きの初等学校が造られ始めた。

 これは、旧デスレル属国からの避難民のうち、体力が回復した者たちを送り込んで読み書きを教えるための施設である。


 この学校には、1施設当たり500人が暮らせる宿舎と食堂に加えて100人が学べる教室が6室作られており、運動場やプールもついている。

 こうした学校施設が実に800か所も造られていた。




 各教室の正面スクリーンには大人っぽく変化したテミスちゃんの姿が写っていたが、まだこのアルスの民にとっては、実体なのか映像なのかはよく分からないようだ。



「まず皆さんがワイズ王国に『避難』されて来て『遠征病』が治り、十分な食事によって健康な状態を取り戻されたことをお喜び申し上げます。


 さて、皆さんにはこれから選択をして頂きます。

 その選択とは、『元の村に帰られる』か、それとも『ワイズ王国に移住する』かという選択になります」


 手が挙がった。


「どうぞ」


「あー、今のままではいけないのか?」


「今のままとは、ワイズ王国から食事を供給され、何もしないで暮らしていくということですね」


「そうだ」


 スクリーンのテミスちゃんが微笑んだ。


「それは許されません。

 もし何もされない方がいらっしゃったとすれば、その方にワイズ王国への移住を認めるわけにはいかないので、元居た村に帰って頂きます」


「そのときに食料は貰えるのか?」


「いいえ。

 あなた方に避難を勧めたのは、あなた方が『遠征病』に苦しみ、飢餓状態にあったための人道的配慮でした。

 皆さんが健康になられた後はそのような配慮は行われません」


「な、なんでダメなんだよ……」


「何故ならワイズ王国の国民には3つの義務があるからです。

 まずは『勤労の義務』です。

 国民はなんらかの形で皆働かねばなりません。

 ただし、その勤労時間は週7日の内6日間で48時間までという制限がありますが。

 ということで、今のまま国から与えられる食事だけ食べて働かないということは、国民の義務に違反するので認められないのです。

 お分かりいただけましたか?」


「あ、ああ……」



「2つ目の義務は『教育の義務』です。

 これは最低でも読み書きと簡単な計算が出来るようになるという義務でして、この義務には、15歳未満の子供たちを学校に通わせるということも含まれます。

 3つ目の義務は『納税の義務』です。

 まず農民の方の納税義務ですが、ワイズ王国での納税額は畑1反に付き麦やその他野菜などの作物で2斗になっています」


 どよめきが起きた。


「たったそれだけでいいのか!」


「はい。

 そして、納税後に残った穀物や野菜は全て農民の方々のものになります。

 この余剰分は農具などを購入した代金の返済に充てられた後は、村長の差配と代官の監督の下、農村の皆さんで分配して頂くことになります」


 村長やその一族らしき連中がほくそ笑んでいる。

 多くは村長一族の物としようと考えているのだろう。



「な、なあ。

 兵に取られることはあるんだろ?」


「いえ、ありません。

 ワイズ王国は、周囲4か国に加えてデスレル帝国とその属国群の全ての将兵と犯罪者を捕えました。

 しかも犠牲者はひとりもいませんので、まあ控えめに言ってもこの大陸最強の国家と言っていいでしょう。

 しかも軍団全員で本気で戦ったわけでもありませんし。

 それほどの強さを持つ国に於いて、訓練もしていない徴集兵などは邪魔にしかなりませんから」


「「「「 ………… 」」」」





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