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*** 26 どパニック ***

 


「それじゃあ改めて聞こうか。

 まずはそこの君、君はラビット族かな?」


「はっ、ホーン・ラビット族の族長であります」


「君はこのダンジョンが挑戦者で賑わうようになるために、どんな努力をして来たの?」


「は? 

 あのその…… 我らは挑戦者たちと戦うことが任務でありましてその……

 挑戦者を呼び込む努力などは全く……」


「それじゃあ君、ええっと、バット君かな?」


「はい、ケイブバット族の族長であります」


「君はどんな努力をして来たのかな?」


「あ、あの……

 やはり我らの任務は挑戦者と戦うことでありまして……

 挑戦者が来ないことには努力のしようもございませんでした」


「うーん、ひょっとしてみんな同じなのかな?」


 モンスターたちが困ったようにお互いを見やっている。



「それじゃあイタイ子は?」


「そ、そのようなもの……

 生きて行くのに精一杯で、努力なぞしている暇もなかったわい!」



「それじゃあさ、みんな今ここでよく考えてみようよ。

『何の努力もしていなかった』っていう点で、今までのダンジョンマスターと君たちとの違いってなんだい?」


「「「「「「「「 …………………… 」」」」」」」」



「やっ、奴らは神界から与えられたダンジョンポイントを独り占めしておったのじゃぞ!」


「ああ、それは確かに罪だね」


「ほ、ほらみろ!」


「でもさ、きちんと維持費を払って、みんなを飢えさせなかったダンマスも、君は『なんにもしていない』と言って軽蔑してたんだろ?」


「あぅ……」



「それじゃあもうひとつみんなに考えてもらおう。

 神界がこのダンジョンに与えた役割は、単に『ダンジョンとして栄えろ』だけじゃあないんだよ。

『金属資源に乏しいこのアルスに、努力と引き換えにドロップ品の資源や能力を与えてアルスそのものを繁栄させろ』っていうことなんだ。

 ダンジョンが栄えるのはそのための手段に過ぎないんだよ。

 このことについて、みんなはどんな努力をしてきたのかな?」


「「「「「「「「 …………………… 」」」」」」」」


「ち、挑戦者が来なければ努力のしようもないわい……」



「それからね、実は神界はもうひとつの任務をこのアルス中央大陸ダンジョンに与えてるんだ。

 それは、ドロップ品によってこれ以上戦火を拡大させないこと。

 同時に戦火も減らして、この大陸に平和をもたらすことなんだ」


「む、無理じゃ!

 挑戦者が1人も来ないダンジョンに、そのようなことが出来る分けが無いっ!」


「そうかな。

 誰か意見があるひとはいるかい?」


「あ、あの……

 オラたちが外に出て行って、戦なんぞしている奴らをぶち殺すのはどうでしょうか……

 ダンジョンの外はマナが少なくって苦しいだども、食料を用意して50年もかければ……」


 何人かの族長たちが頷いている。



「なあ、それって外の戦争ばっかりしている連中と何が違うんだい?」


「「「「「「 !!!!!! 」」」」」」


「それにさ、ダンジョンに挑んだ挑戦者たちが君らに殺されるのは仕方が無いよ。

 だってその危険を承知でお宝を狙ってダンジョンに挑んだんだから。


 でもさ、君たちが外に出て殺そうとする連中は、君たちがいなければ死ななくて済んだかもしれないんだぜ。


 君の意見は、単に戦をするクニがひとつ増えるだけのことなんじゃないか?」


「「「「「「 ……………… 」」」」」」




「ねえタマちゃん、仮にタマちゃんの一族が神界に命じられてこの大陸のヒューマノイドを滅ぼすとしたら、どれぐらいかかるのかな?」


「そうにゃあ、レベル10の火魔法『インフェルノ・メテオ』を撃てる大人が300人はいるから、半日あれば人口の9割は殺せるにゃあ。

 山岳地帯や森の中にいた1割は生き延びるかもしれにゃいけど、隕石落下の爆風で吹き上げられたチリが太陽光線を遮るから、この惑星は氷河期に入るにゃ。

 だから放っておいても数年で絶滅にゃあ」



「「「「「 ……………… 」」」」」



「でもそうなると他の大陸も……」


「そうにゃ。

 20年もすれば、地表が全て氷で覆われて、この星の生命はほとんど絶滅にゃ」


(地球の恐竜絶滅みたい……)



「中央大陸だけに限るとしたら?」


「そのときはレベル8の分裂型火魔法、通称クラスター魔法で絨毯爆撃することににゃるから、1か月ぐらいはかかるかにゃ。

 たぶん、大陸中が火の海になって、すぐに地表は生物のいない世界になるにゃよ」


「「「「「「 …………………… 」」」」」」



「ということでだ。

 神界は、別に君たちを使わなくても、その気になればすぐにでもこの大陸のクニグニを滅ぼせるんだよ。

 でも神界は直接生命を殺すことはしないんだ。

 だからもし君たちが外に出て周りのクニを滅ぼそうとしたりしたら、先に神界が君たちを滅ぼすだろうね」


「「「「「「 ………………………… 」」」」」」



「それじゃあ他に意見のあるひとはいるかい?」


「「「「「「 ……………………………… 」」」」」」



「どうやらいないようだね。

 ということで、君たちは任務を達成するために考えることも、努力することも放棄していたことになるんだ。

 つまり、君たちが軽蔑していた過去のダンジョンマスターとまったく同じだったということなんだよ」


「さ、先にも言った通り、やつらの中には神界から賜ったダンジョンポイントを独り占めしていた者もいたのじゃぞ!」


「おんなじことだよ。

 君たちだってダンジョンポイントで得られるダンジョン内のマナで生きてたんだろ。

 地球出身のダンジョンマスターはマナなんか必要としないんだぜ」


「あぅ……」



「最後にもうひとつ聞こう。

 過去のダンジョンマスターの中には、あまりにも怠惰であった罪で罰せられた者もたくさんいたそうだけど……

 なんで君たちダンジョンコアやダンジョンモンスターは誰も罰せられなかったんだと思う?」


「そ、それは……」


「それはね、もちろん『責任』があるかないかだけの違いなんだ。

 もしも君たちがこの世界に召喚されたときに、『ダンジョンを栄えさせろ』『栄えさせることによって、この大陸に繁栄と平和を齎せ』っていうことを任務として与えられていたなら、今頃全員が処罰されていなくなってたんじゃないか?」


「あぅぅぅぅぅ……」


((((( ま、マジか…… )))))



「だけど俺は違うんだ。

 神界の神さまに別にじられたんだ。

『このダンジョンを栄えさせよ』『栄えさせることによって、この大陸に繁栄と平和をもたらせ』って……

 そのためにての限を与えられたんだ。

 だから『特命全権ダンジョンマスター』なんだぜ……」



 大地は立ち上がった。

 同時に『威圧Lv5』を発動する。


 また後方の女性や子供たちから悲鳴が上がった。

 前列のモンスターたちも仰け反りながら脂汗を流している。


 そして大地は底冷えのするような声で宣言したのだ。



「故に俺は命懸けで任務を果たそうとするし、その任務遂行を邪魔するものは一切の容赦なく全て排除する。


 それでキサマラ……

 俺の前でまだ戦闘形態を解いていないということは、まだ俺に『敵対』の意志を有しているということだな……

 それでは全員を殺してダンジョンコアも砕き、また別の場所にダンジョンを造るとしよう」








 どパニックになった。




 全てのモンスターがその場でパニくりながら『通常形態』に戻ろうとしている。

 あまりにも慌てたせいで、或る者は上半身が『通常形態』で下半身が『戦闘形態』になり、また或る者はその逆と、混乱も広がっている。


 そうして数分が経過すると、全てのモンスターが通常形態に戻ってその場に平伏した。

 いや…… 若いゴブリンが1体だけ、戦闘形態のまま立ち尽くしている。

 全員の視線がそやつに注がれた。



「あああ…… あ、あのあのあのあの……

 ひ、久しぶりに戦闘形態になったもんで……

 戻り方がわかんなくなっちまったんです…… てへっ♡」


 ゴブリン族の族長がそやつをぶん殴った。


 そいつは見事に飛んで行って、ダンジョン入り口のある岩山に激突して伸びた。




「諸君らの意志は確認させてもらった。

 俺に敵対しないのなら、俺も君たちをスタッフとして尊重しよう。

 それではこの場はいったん解散し、各種族の族長は最下層のコアルームに集合してくれ」



 モンスターたちはぞろぞろとダンジョンに戻って行った。





 大地は改めて周囲を見渡した。


 ダンジョン入り口のある岩山は、この場から100メートルほどの高さがある。

 なぜか一木一草も生えていない。

 反対側に目を転じると、そこはなだらかな下り斜面が100メートルほど続き、幅20メートルほどの川に至っていた。

 川まではやはり草もほとんど生えていなかったが、さすがに川の両側には丈の高い草が茂っている。

 そして川の向こう側は見渡す限りの大森林だった。



(太陽の位置から見て、俺はたぶん今東側を向いているな)



 北に目を転じても、南を向いても大森林が続いている。

 村らしきものも街らしきものも全く見えない。


(神界はなんでこんな辺境の地にダンジョンを造ったのかねぇ……)





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