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*** 250 総督就任 ***

 


 大地の熱弁は続いていた。


「わたしと仲間たちは、これからデスレル帝国を解体し、周囲一帯を争いの無い地にするよう行動します。

 ですが、その前に弱者たちを保護する権限を与えて頂きたいのです」


「弱者の保護…… ですか……」


「はい、まずは何と言っても奴隷たちです。

 デスレル本国の皇族貴族たちの奴隷、軍の奴隷と奴隷兵、各村の孤児奴隷、そして奴隷商にいる奴隷たちです。

 加えて収奪によって困窮している弱者たちも保護したいと思います。

 さらに、ヒト族の横暴により苦しんでいる大森林の獣人種族たちもです。

 彼らを即座に『収納』して助け出し、ダンジョン国にて保護するご許可を頂戴出来ませんでしょうか。


 もちろんそうした行為は拉致・誘拐との境界があいまいな行動です。

 場合によっては奴隷所有者の財産権侵害と見做されるかもしれません。

 ですが、こうしている間にも奴隷や困窮者たちは衰弱して死んで行っているでしょう」


「……………」



「ですから、どうかわたしに奴隷や困窮者の強制保護権限を頂戴出来ませんでしょうか。

 彼らが健康を取り戻した後は、ダンジョン国で暮らして行きたいか、元の地に戻りたいかのヒアリングも必ず行いますので」


「わかりました。

 それでは今からアルスを含む宙域を管理されている神さま方に連絡を取ります。

 面談のご了承を頂戴出来たら私と一緒に来てください。

 ダイチさんの口からもう一度直接神さまたちに説明していただけますか」


「畏まりました」



(天使ツバサ、アルス統轄ダンジョンマスターダイチよ。

 その必要は無い。

 今からわしらがそこに行こう)


「「「 !!! 」」」


 その場にいつもの神さまたちが5柱現れた。

 ツバサと大地は弾かれたように席を立つ。


「いや、そなたたちは座っていなさい。

 わしらはこうして浮いておるので構わん」


「か、神さま方、このようなところにお越しくださいまして誠にありがとうございます……」


「はは、先ほどのツバサの言葉ではないが、これもわしらの任務の内じゃ。

 気にするでない」


「はい……」



 神さまたちが一斉に大地の目を見た。

 大地はそれを静かに見返している。


 中央に浮かんでいる神が、左右の神々を振り返った。

 左右の神々は微笑みながら全員頷いている。


 代表と思われる神が口を開いた。


「話は全て聞かせてもらった。

 アルス統轄ダンジョンマスターダイチよ。

 たった今より、アルスを神界要管理惑星とし、そなたをアルス総督に任ずる」


「え?」


「つまり、単にダンジョンを管理する管理者ではなく、アルスという惑星全体を統轄管理する管理者じゃ。

 いわば総督よ」


「ええっ!」


「この地位が一般のヒューマノイドに与えられるのは珍しいことではあるが、初めてではない。

 そもそもそなたのE階梯と実績は、とっくに天使威を与えられて天使族に昇格しているほどのものになっておるからの」


「えええっ!」


「じゃが、天使族になれば、今までのようにアルスのヒューマノイドに直接影響を及ぼすことが出来なくなる。

 よって、我らはそなたの任務が一段落したところで天使威を授けようと思うていたのじゃ。

 まあ、惑星総督への昇格はその前段階と考えてくれ」


「……………………」


「それで肝心な惑星総督の権能じゃが……

 もちろんそなたの要請した権能は全て含まれておる。

 奴隷や困窮者の転移と保護などであれば好きなだけ行うがよい」


 神さまたちが微笑んだ。


「そなたも知っての通り、『総督』とは横暴な者だからの。

 かなりのことは許されるぞ」


「は、はぁ……」


「例えば、奴隷狩りや殺人を行おうとしておる者を警告無しに逮捕勾留することも出来るようになるの。

 もちろん正当防衛行為である必要も無い」


「!」


「そのために、シスとテミスとストレーの能力をさらに上げておこうか。

 シスとテミスはハイパーAIにバージョンアップさせ、ストレーはレベル12として攻撃魔法以外の全ての魔法能力を与えよう」


「あ、ありがとうございます……」


「あの者たちの働きも見事であったからの。

 もちろん、そなたならその権能に溺れて自分の利益を追求したりはせんだろうという我々の判断もある。

 それになによりも、神界はダンジョン制度史に於いて既に伝説になりつつあるそなたの行動を今後も楽しみにしておるのじゃ」


「ご、ご期待に沿えるよう努力致します……」


「そうそうツバサよ」


「は、はい!」


「そなたは、この伝説のダンジョンマスターをリクルートした上に、十分なサポートを与えて来た功績により、中級天使へ昇格じゃ」


「あ、ありがとうございます……」


「それからタマよ」


「にゃいっ!!!」


「そなたもダイチをサポートした功績により、天使見習いへの昇格基準を満たした」


「あ、あにょ……

 も、もしよろしければ、その昇格は待って頂けませんでしょうかにゃ……」


「はは、これからもダイチを助けたいと申すか」


「はいですにゃ……」


「わかった、それではダイチの任務に目途が立ち、大地が天使族に昇格する際には一緒に天使見習いになるがよい」


「あ、ありがとうございますにゃ……」


「それではダイチよ。

 これからもそなたの活躍を楽しみにしておるぞ……」


 神さまたちが微笑みながら消えていった。



 ツバサさまとタマちゃんが大きく息を吐いている。


「あ、ツバサさま、ご昇格おめでとうございます♪」


「中級天使になると、管理するヒューマノイド居住惑星が一気に500になるから大変なの……」


「そ、それは大変そうですね」


「でももちろん各惑星には担当の初級天使がいますし、ダイチさんのサポートは今まで通り確りやりますから!」


「ありがとうございます。

 ところでご昇格祝いはなにがいいですか?」


「そ、それは今度ゆっくり考えさせてください!」


(『子種』とか言ったらまだマズイわよね……

 たぶん今のこの場面も神界報道部のライブカメラに映ってるわ……)



「ダイチもおめでとうにゃ♪」


「そうなの?

 惑星総督になるって、そんなにおめでたいことなの?」


「そうにゃ♪

 神界が一般ヒューマノイドを惑星総督に任命したのは確か500万年ぶりにゃ♪」


「げげげげげげ……」


「その方は昇格を繰り返して今は中級神にまでなってるにゃね♪」


「うげげげげげげ……」


「うふふ、惑星総督なら神界の加護で寿命は5000年を超えるわ。

 それにもし天使族になったら、2人とも寿命は10万年を超えるものね♪

 だから神族になるのも夢じゃないわよ♪」


「うーげげげげげげげげげ……」


「神族ににゃったら、地球とおにゃじぐらいの寿命になるにゃ♪」


「どげげげげげげげげげげげげげげ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 神界の神さまたち:


「ふっふっふっふ、これで我らもまた神界報道部のダイチライブカメラに映されたよの……」


「今やあのサイトは全銀河の神界認定惑星に公開され、その視聴者数は5京人を越えておるからのう」


「ダイチの昇格シーンならば、歴代最高の視聴率は間違いなかろうて♪」




 翌日。


「み、皆の衆、昨日のダイチ昇格シーンの視聴率は歴代2位だったそうじゃ!」


「「「 !!! 」」」


「ま、まだ上がいたのか……」


「し、して、歴代1位はどのようなシーンだったのだ?」


「そ、それが……

 ダイチがあのアライグマの仔100匹に囲まれてぺろぺろ舐められていたシーンだったそうじゃ……」


「わ、我らはアライグマに負けたのかっ!!!」


「「「「 ……とほほほほほほほ…… 」」」」




 いろいろと残念な神さまたちであった……




 それにしても大地くん。

 よもやその行動がライブカメラで配信されていたとは……

 まるで地獄谷野猿公苑のサルたちみたいだね♪




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「ところでタマちゃん」


「にゃ?」


「俺ってアルスでは老化も成長も10分の1になってるんだよね」


「そうにゃ」


「それで総督になって5000年の寿命を貰えたとして、成長はどうなるの?」


「ある程度大人ににゃったところで申告すれば、そのままずっと変わらずにいられるにゃよ」


「そうか、それなら肉体年齢が25歳ぐらいになったら成長を止めようかな」


「あちしは、ワーキャット形態がボンキュボンににゃったらそこで止めるにゃ♪」


(食べ過ぎでボンボンボンにならないといいけど……)


「にゃんか言ったかにゃ?」


「い、いいえなんにも!」



「そういえばダイチ、ダイチが昇格してアルスの惑星総督ににゃったことをダンジョン国で発表してもいいかにゃ」


「それはもちろん構わないけど……」


「明日はダンジョン国の祝日にして、盛大な祝賀会でも開くかにゃ♪」


「いや、祝賀会とかは自粛しようね。

 アルスが神界管理惑星になってしまったっていうことは、それだけアルスの状況が良くないっていうことだからさ」


「それもそうだったにゃ……

 ワイズ王国やあの将軍たちには知らせるのかにゃ?」


「うん、俺が神界からの使徒だって知ってる人には伝えようと思うんだ。

 これからも協力してもらわなきゃならないからね」


「にゃ」



 その日の晩、大地はストレーくんの時間停止収納庫に体感時間で1週間籠り、今後の計画案を起草したのである。




 翌朝、ダンジョン国では全国民に対し、シスくんから念話による一斉アナウンスが行われた。


(ダンジョン国のみなさんおはようございます。

 この念話放送は、国民のみなさま全てに一斉にお届けさせて頂いています。

 朝のお忙しいところ恐縮ですが、どうかお手を止めてお聞きくださいませ)


 ダンジョン国の国民20万は、何事かと思って手を止めた。


(昨日神界はこの惑星アルスを神界による直接管理惑星に認定し、同時に我らがダイチさまを惑星総督に任命されました。

 これは神界の天使さまに準ずる地位になります)


 大歓声が沸き起こった。

 この国での大地の人気は大変なものがある。


(ダイチさまにおかれてはたいへんな栄誉ではありますが、この任命は取りも直さずアルスの状況がそれだけ良くないということも意味します。

 よって、祝賀行事などは行われません。

 アルスの全ての地域で紛争が収まり、みなが安心して暮らして行けるようになったとき、改めて盛大な祝賀会が開かれるでしょう。

 みなさまにはそれまで一層のご努力をお願い申し上げます)


「「「「 うおぉぉぉぉぉぉ―――っ!!! 」」」」




 朝8時からのダンジョン国最高幹部会にて。


「ということでみんな、なんか俺は惑星総督になるんだと」


「それ自体は実にめでたい話じゃが、確かにそれだけアルスの状況が良くないということでもあるのう」


「そうなんだよ。

 だからこれからもみんなには苦労をかけると思うがよろしくな」


「「「 お任せください! 」」」



「それで総督になったことで、いくつか出来るようになったと言うか、神界から許されるようになったことがあるんだ。

 まずは飢餓や暴力で危機に瀕している住民の保護を、本人の同意無しで行えるようになった。

 もちろん魔法で治療して食事も摂らせたあとは、元居た場所に帰りたいか、それともこのままダンジョン国に避難したままでいるかを本人に選択させるが」


「じゃが、それでは各地で神隠しのような現象が頻発することになろう。

 実際には神隠しではなく『神の使徒隠し』じゃろうが。

 大騒ぎにならんか?」


「治療と食事を行う場所は、ストレーの時間停止倉庫内に作る新たな施設にする。

 そこで治療と体力回復に体感時間で10日ほどかかるとしても、本人が帰りたいと言った場合には消えた直後の瞬間に元の場所に戻れるようにしよう」


「なるほどのう」


「それから、暴力で他人を従わせる行為を行おうとする者がいた場合、これには戦争や盗賊行為も含まれるが、容疑者を警告無しで逮捕出来るようにもなった。

 ということでシス、今ダンジョンポイントはいくら残っている?」


「おおよそ2000憶ダンジョンポイントです」


「それからこの中央大陸は、調査のために街道や街や村を外部ダンジョンにしていたよな。

 既に外部ダンジョンにした部分の面積は?」


「およそ1000万平方キロですね」


「そうか、それなら十分足りるな。

 それでは今から、この中央大陸を全て外部ダンジョンにしてくれ」


「「「 !!!!!! 」」」


「の、残りの大陸面積は約8000万平方キロになりますので、コストはおおよそ400憶ダンジョンポイントになりますが、よ、よろしいですか?」


「もちろんだ。

 むしろそうするために、あれだけの鍛錬をしてダンジョンポイントを貯めて来ていたんだからな。

 ようやく使うときが来たよ」


((( そ、そうだったのか…… )))



「マスターダイチは最初からそのつもりでいたのかえ……」


「そうだ」


「だから外部ダンジョンなどというものを作る権能を神界に要請していたのじゃな……」


「もちろんそうだ。

 ダンジョン内の様子が全て分かり、俺が魔法を使うのも自由になるなら、この大陸を全てダンジョンにしてしまえば平定するのが楽になるだろうからな。

 はは、これで『中央大陸』が『中央ダンジョン大陸』になるか」


「「「 …………… 」」」





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