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*** 243 リクルート ***

 


「シス、あのフォボシアの傷痍軍人たちなんだが、『鑑定』の結果はどうだった?」


(297名全員、戦場外での殺人歴犯罪歴共に皆無でした。

 また、E階梯も平均で2.0、最高が2.8、最低でも1.6ありました)


「すごいな、犯罪歴ゼロかよ」


(思うに彼らは軍事行動以外に民との接触が認められていなかったのではないでしょうか。

 それに、属国の兵ですのでデスレル本国の指揮官たちの横暴に耐えるために、仲間内で助け合って生きて来たからこそのE階梯ではないかと)


「なるほど……」



 大地がデスレル帝国領南東部の旧フォボシア王国にて傷痍軍人互助会に麦を売った3日後、大地は再び互助会を訪れていた。

 互助会が使っている旧政府庁舎では多くの傷痍軍人が歩き回っているようだ。



「おおダイチ! よく来てくれた!」


「やあオルナンド曹長、みんなの具合はどうかな」


「驚いたよ。

 まさかとは思ったが、あの特効薬がこれほど効くとは」


「はは、薬のことは内緒にして、俺の魔法のせいにするんじゃなかったのか?」


「そうだった、いやすまん。

 まあ、俺の部屋に来てくれるか。

 部下の方たちもむさ苦しいところだが、是非中に入って寛いでくれ」



 大地たち5名が通された部屋では白湯まで出された。

 その白湯を持って来てくれた当番兵もきびきびと動いている。


「それにしても、本当に感謝しているよダイチ。

 あのままだったら俺たち全員1年以内には皆死んでいただろう」


「まあ生きているのはなによりだな」



 オルナンド曹長が大地の顔を見た。


「だが、実は困っていることがあってな。

 それでダイチが来てくれたら相談してみようかと思っていたんだ」


「どんなことだ?」


「先日も言ったが、俺たちは傷痍軍人で、みんな戦場で手足を失って戦えなくなり傷痍除隊した身だ」


「よく死ななかったな」


「いや、怪我をした者は大勢死んだよ。

 その怪我では死ななくとも、その後傷口が腐ってな」


「そうか……」


「それで、傷痍除隊の際にはごく僅かな退職金が支給され、その後も食料として麦も支給されてたんだよ」


「デスレルも多少は傷痍軍人を大切にしてたんだな」


「まあ傷痍軍人が退役後にすぐ野垂れ死ぬと、現役兵の士気に関わるからだろう。

 だが、このところの麦の不作でその麦の支給が停止されてしまうことになっちまってたんだ。

 だが俺たちもどうせすぐ遠征病で死ぬんだろうと思って、せめてそれまで腹いっぱい喰わせてやろうと、みんなの退職金をはたいて麦を買わせてもらっていたんだよ」


「そうか」


「ところがだ。

 ダイチのおかげでみんなすっかり元気になっちまった。

 朝の鍛錬を始めた奴までいる。

 おかげで喰い物が足りなくなっちまったんだ。

 いや、もちろんダイチに文句を言ってるわけじゃねぇ。

 あんたは俺たちの命の恩人だ。

 ダイチに文句なんか言ったら反乱が起きるだろう」


「畑で麦を作ったらどうなんだ?

 もしくは近くの農村に行って働かせてもらうとか」


「いや、それも考えたんだがよ。

 この国の税は、今や畑100反につき麦70石なんだよ」


「酷ぇな」


「ああ酷ぇ。

 その上不作だったもんだから、近くの村では100反に付き麦50石しか取れなかったんだ。

 おかげで農民たちが10人も奴隷として売られちまってたよ。

 その奴隷をデスレル本国の奴隷商に売ったカネで麦を買い、総督はそれでなんとか上納を果たしたそうだ」


「そうか……

 そんなことをしたら、来年の税収がますます落ちるのにな」


「まあこの国は、デスレルの属国の中でも最も端にあるからな。

 だから今の総督も爵位は低くて下級男爵なもんで、もし本国への上納税が未達だと平民に落とされちまうんだ。

 だから焦りまくってるんだろう」


「ははは」


「だから俺たちが農村で農業を手伝っても新しく畑を作っても、取れた麦は全部総督に取り上げられちまうんだ」


「それも酷ぇ話だな」


「ああ、まったくだ。

 それでな、あれだけの麦をすぐに出せたダイチのことだからよ。

 ダイチの商会や他の商会で人足は要らねぇか?

 俺たちは全員腕や脚を欠いてるけど、それでもみんな兵として鍛えていたから力仕事には自信がある。

 それに、ガキのころから軍にいるから規律も抜群だ。

 なんでもするから仕事を紹介して貰えないかな。

 あ、でも出来れば傭兵はカンベンしてもらえるか?

 俺たちゃもう殺し合いはたくさんなんだ」


「そうか……」


(ここまで思い通りの展開になるとは驚きだわ……)


(まさか、ダイチ殿はこうなることまで見越しておられたというのか……

 いつものことながら、なんという深謀遠慮だ……)


 アイスくんまたもや買いかぶり過ぎ♪



「それで稼いだカネでまたダイチから麦を買わせて貰いたいんだ。

 せっかく『遠征病』を治してもらったのに、このまま餓えて死んじまったらバカみてぇだからな」


「なんでもすると言ったのは本当か?」


「あ、ああ。殺し以外はな……」


「それなら、今俺が世話になっているワイズ王国と言う国に仕事がある」


「その国は遠いのか?」


「遠いがそれは問題にならない。

 俺の転移魔法は他人も連れて行けるからな」


「だ、だが俺たちは300人近くいるんだぞ」


「300人が3000人になっても大丈夫だ。

 それに俺の部下たちも転送の魔法というものが使える」


「……すげぇな……

 それで、俺たちはどんな仕事をすればいいんだ?」


「ワイズ王国には多くの仕事がある。

 その中でも今最も求められているのは農民だ。

 ほかにも料理人や荷車人足や商人見習いなんかの仕事もたくさんあるが」


「農民か……

 俺たちは物心ついたころから軍人だったが、まあ農業のやり方さえ教えてもらえばなんとかなるだろう」


「それでな、その国では原則として民は自分の好きな職に就くことが出来るんだが、俺はあんたたちには最初の2年だけは特別な仕事に就いて貰いたいと思っているんだ」


「特別な仕事……

 それはどんな仕事なんだ?」


「この国や周辺国を廻って農民たちにワイズ王国への避難を呼びかけて欲しい。

 加えて、避難して来た連中の面倒も見てやって欲しいんだ」


「なんと……」


「ワイズ王国では今42の村に1680反の畑があるんだが、これを取敢えず400の村の16万反に増やす計画がある。

 もう村も畑も出来ているが。

 最終的には1000の村で40万反になるはずだ」


「すげぇな……

 だから農民を増やそうとしているのか」


「そうだ。

 それに農民たちも皆『遠征病』に苦しんでいるだろう。

 ワイズ王国に移住すれば皆の病気は治してやるし、税も安いぞ」


「そうか、俺たちが病を治して貰えたように、農民たちも治して貰えるんだな……」


「そうだ」


「ところで、その仕事をした場合、俺たちの給料はいくらになるんだ?」


「危険手当込みで、月に銀貨10枚でどうだ?

 むろん住居も食事もすべて国が支給する」


「そんなに貰えるのか!」


「ああ」


「農民の税は?」


「100反につき20石だ。

 それに、最初の3年間の税は免除されるし、その間の食料は国が保証する」


「……なあ、大地を疑うわけじゃねぇんだけどよ。

 話が旨過ぎねぇか?

 そうやって農民を集めておいて、いきなり税を上げたりするとか。

 ダイチにそんなつもりは無くっても、国の上層部なんか全く信用出来ねぇぞ」



 アイシリアスが微かに微笑んだ。


(その国の最上層部である軍事・外交・内政最高顧問殿がそう仰っているんだがな……

 あ、ついでにわたしも王太子だったか。

 もしわたしが民を集めた後に税を上げるなどと言えば、父上も宰相殿も顔面蒼白になって私を廃嫡するだろうに……

 いや、気がふれたと思ってまずは幽閉かな、はは)



「さすがは互助会の指揮官殿だな。

 だからまず、10人ほどのメンバーでワイズ王国に視察に行かないか?

 それで今ある村を自分の目で見て、農民たちの声を自分の耳で聞いて判断してくれ。

 もちろん案内人はつけるが、王城内以外の行動は自由にしよう。

 それで問題があると思えばこの話は断ればいいだろうし、そのときは視察団をまたここに送り返すぞ」


「そうか……

 視察は何日ぐらいさせてもらえるんだ?」


「好きなだけだ。

 ガリル、すまんが案内人を4人ほどつけてくれないか?

 それなら交代で5人ずつ2組を案内出来るだろう。

 出来るだけ歓待してあげてやってくれ」


「了解した。

 宿舎はブリュンハルト隊宿舎の中でいいかな」


「任せるよ」


「任された」


「ということでオルナンド曹長、視察団の人選を頼む」


「わかった。

 ミルズ二等兵、軍曹たちを呼んで来てくれるか」


「はっ」



 間もなく部屋には10人の男たちが集まった。

 早速オルナンド曹長が説明を始めている。


「ということでだ。

 我らはこれよりダイチと共にワイズ王国に視察に行く。

 ザカリアス最先任軍曹」


「はっ」


「お前はここに残って互助会の指揮を執ってくれ。

 後の者は全員視察に行くぞ。

 なにしろ今後の我らの食い扶持がかかっているのだからな」


「「「 ははっ 」」」



 ということで、大地はオルナンド曹長を始めとする視察団10名を連れてワイズ王国に転移したのである。

 転移場所は、国軍宿舎の内ブリュンハルト隊に与えられていた一角だった。


「ここが視察団の皆さんの宿舎になる。

 まずはあの共同棟に行こうか」


 傷痍軍人たちはひょこひょこと歩き始めた。

 デスレル帝国属国軍では、利き手でない方の腕を失っても傷痍除隊は出来ない。

 利き手、もしくは脚を失った場合のみ除隊が許されており、この10人の男たちも、5人もが片足を失っている。


(これは仕事をしてもらうためにも治してやった方がいいな)



 共同棟に入った元軍人たちは固まっていた。


「お、おい…… 床が板張りだぞ……」

「それもまっ平でつるつるだ……」

「あ、あれはソファか……」

「ソファもテーブルも、石や日干し煉瓦じゃなくって木で出来ている……」

「それもこんなにたくさん……」


「さあみんな座ってくれ。

 飲物は紅茶でいいかな」


「紅茶?」


「この国で一般的に飲まれている茶だ」


「そ、そんな高いもの……」


(そういやあアルスでは茶は馬鹿みたいに高かったな)


「まあ気にするな。

 ストレー、人数分の茶を頼む」


(はい)


「い、今頭の中に聞こえて来た声は?」


「ここから離れたところにいる俺の部下だ。

 魔法で会話をしている」


「そ、そうか……」


「実は俺の国はここからかなり離れた場所にあってな。

 こうしていつでも連絡が取れる魔法には重宝してるんだ。

 わざわざ転移で帰らなくとも済むからな」


「そ、そそそ、そうか……」



 全員が椅子に座ったところでテーブルに紅茶が出て来た。

 もちろんミルクも砂糖もついている。


「何もないところに突然茶が……」


「なんだこのカップは……

 なんでこんなに白くて滑らかなんだ」


「それも土から作ったものだけどな」


「う、旨い……

 こんな旨い物を飲むのは初めてだよ」


「最初にそのままの茶を味わってもらった後は、そこにあるミルクと砂糖を入れてみるといい。

 また違った味が楽しめるぞ」


「さ、砂糖だと……

 そ、そんな高価なもの……」


 傷痍軍人たちは恐ろしいらしく、誰も砂糖に手を出さない。


「ストレー、すまんが砂糖入りのミルクティーを皆に1杯ずつ出してくれるか」


(畏まりました)


 因みにストレーくんの出してくれるミルクティーはミルクも砂糖の量も完璧である。

 どうやらシェフィーちゃんに教わったらしい。


 傍らではミルクティーのカップを空にしたガリルが満足そうな息を吐いていた。


「ふう、相変わらずストレー殿の淹れてくれた茶は旨いな」


(お褒めに与り恐縮であります)



 周辺国8万5000の兵を全て捕獲したのは、他ならぬ大地とその重臣であるシスくんとストレーくんである。

 ブリュンハルト隊の皆も彼らに一目置くようになっていた。



「さて、それではオルナンド曹長、ひとつ提案があるんだ」


「なんだい?」


「その手と足を治してみないか?」


「なんだと……」


「いや、視察をしたりこれから生活して行くためにも、手足は揃っていた方がいいだろ?

 だからこの際治しちゃったらどうかと思ってな」


「そんなことまで出来るのか……」


「出来るぞ。

 もちろん軍曹さんたちもどうかな?」


「ま、待ってくれ。

 ま、まずは俺の体で試してみてくれないか」


(うーん、さすがは指揮官だな。

 まず自分でリスクを背負ってみようっていうことか……)


「わかった。

 それじゃあ済まんがその義足と義手を外してくれ」


「ああ……」



「それじゃあ始めるぞ。

『治癒系光魔法Lv8』……」


 オルナンド曹長の体が光に包まれた。

 その光の中で、曹長の欠いた手足の先になにやら蠢くものが見える。

 光が収まると、そこにはやや赤味がかった手足が見事に再生されていた。


「「「「 !!!!! 」」」」



(は、初めて見た…… こ、これがダイチ殿の再生魔法か……)


(これは凄い…… 

 今までにも凄まじい魔法は見せてもらったが、これほどのことまで出来るとは……)


(さすがは神界からの使徒殿だ。

 いや、これはもう神の御業だな……)





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