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*** 239 模範村建設 ***

 


 ゲゼルシャフト国王とゲマインシャフト国王が大量の小麦を持った荷駄隊と共に帰国して数日後、大地は準備が整ったとの連絡を受けてゲゼルシャフト王国第1砦に転移した。

 アイシリアス王太子と村の農業指導役となる留学生たちも同行している。


 既にそこにはアマーゲ公爵とケーニッヒ侯爵に加えて、国王陛下たちまでいた。

 それ以外には数名の護衛と将軍たちの幕僚、そして8つの村の村長候補である士官たちもいる。


 全員が100人乗りの大型円盤に乗り込んで出発した。

 円盤に乗るのが2度目3度目の連中は嬉々として楽しんでいたが、初めて乗る士官たちは手摺を砕けんばかりに握りしめている。


 円盤は間もなく第1予定地上空に到着した。

 ここはアマーゲ公爵の領地内であり、領都にも12キロほどと近かったが、川からは10キロも離れている丘陵地帯である。

 8メートル井戸を掘ってみても水の出ない土地で、もちろん畑も無く人も住んでいない。


(こんな見晴らしのいい土地に誰も住んでいないとはな……)



「それでは村を作り始めてもよろしいでしょうか」


「よろしくお願い致す」


「シス、ストレー、始めてくれ」


(( はい! ))



 眼下の土地、2キロ四方の木が消え失せた。


「「「 !!!! 」」」」


 その中にいた動物たちが慌てて森の中に逃げてゆく。

 お詫びにストレーくんが森の中に食料を置いていた。


 その土地には多少の起伏があったが、地面がうねうねと動いて平滑になってゆき、同時に深さ3メートルほどまで岩や石や土も消えて行った。

 その中にどこからともなく現れた砂利が敷き詰められ、その上に地球のダムを浚渫して得られた養分豊富な土に、こっそり少量の化学肥料も混ぜられたものが分厚く敷かれて行く。


 外周部には高さ3メートルほどの壁も作られた。

 森の害獣避けである。



 その土地の中央部は土が一段高く積まれて固められ、まずは村の建物が作られ始めた。

 各種作業を行うための広場の周りには大きな倉庫が3つ建てられており、それぞれ、生活物資保存用、農具用、収穫物保存用の倉庫になる。

 物資用倉庫の内外には薪が大量に積んであり、中には鎌や鍬や桶や柄杓などもたくさん置いてあった。


 倉庫以外にも、集会場を兼ねた大食堂、調理場、大浴場、学校、麦干場、柿干場、村役場、診療所、託児所、雑貨店(当初ワイズ総合商会経営)が作られ、その周囲には村人用の住居が建っていった。

 建物は、いずれもシスくんによって既に土魔法で作られており、ストレーくんの収納庫に保管されていたものである。


 住居は、家族向けの3LD(120平米)の集合住宅(3階建て)500戸である。

 これら住居には窓に2枚の蓋がついていた。

 1枚は雨戸としての木の板だが、もう1枚は木枠に網(地球産)を張った網戸仕様である。

 これならば夏の夜も涼しく過ごせるだろう。


 尚、家族向け住宅地の一角には小屋があり、ここには転送の魔道具が設置されていて、哺乳瓶入りのミルクが得られるようにもなっている。

 だがまあ、この村でお腹いっぱい食べることの出来る母親であれば、乳もたっぷりと出るだろうが。


 それ以外にも見学者用短期滞在施設(1LD、60平米)が200戸あり、全ての住宅には『クリーンの魔道具』のついたトイレと水道、灯りの魔道具、暖房の魔道具などが完備されていた。

 もちろん住居群は屋根付きの渡り廊下で食堂や大浴場と繋がっている。


 この村の周囲には、防風林として柿や栗などの木が大森林から持ち込まれて植えられていた。

 村の北側には直径60メートル、高さ20メートルほどの丘が作られ、その上部には村用溜池がある。

 この溜池の水は、50キロ離れた地に作られた大型の溜池の水をストレーくん配下の収納の魔道具が吸い込み、対になった魔道具で水を吹き出させて溜めているものである。


 この村用溜池からは大きな水道管が3方向に出て、途中の分岐を通じて畑の間を碁盤目のように通る農業用水路になっているが、村の周囲の壁際には溝があり、流れて行った農業用水は回収されて川に戻されている。

 その壁と排水路の間にはクレソンや菜の花の種も撒かれていた。


 主水道管の一部は上部が開いており、そこには小さな水車を持った水車小屋も造られていて、中には製粉用の石臼もあった。


 風呂や厨房などから出る生活排水は、いったん浄化槽に溜められてから『クリーンの魔道具』で浄化され、川に戻されることになっている。



 水路の間の耕作地はシスくんのサービスで既に耕されていた。

 ところどころには堆肥や腐葉土が置かれており、後は灰と一緒に畑に混ぜ込んで畝を作ればよいだろう。


 畑10反に付き1か所、小さな農具倉庫とトイレも造られており、畑の間を通って村に行く道は、幅4メートルの土を固めたものである。

 村の農具倉庫にはダンジョン国製荷車が20台も置いてあった。


 もちろんこの村もやはり通常の2倍のマナが湧き出るようになっている。



 留学生たちにとっては2度目の光景であるが、他の全員はたったの30分ほどで、1000反もの畑を持つ巨大な村が出来て行く光景を痺れたように見つめていた。



「それでは最初の村でもありますし、皆さんに視察して頂きましょうか」


 円盤が村の中央広場にゆっくりと下降すると、全員が降車した。

 そしてそれぞれが各施設の見学を始めたのである。

 真っ先に農具小屋に入って行った留学生たちは、農具が全てワイズ王国と同じものだったので安心しているようだ。



 大地は両陛下と両将軍を案内していた。

 その間にも食堂奥の厨房には転移の輪が設置され、ダンジョン国からヒト族のご婦人部隊がやって来て、皆に味噌ラーメン(野菜たっぷり)を振舞う準備を始めている。

 彼女たちは、この村への入植が始まったあとは、当面の間交代で料理指導を行うことになっていた。


 因みに、シェフィーちゃんが調合したラーメンの味噌ダレは超絶品である。

 地球では静田物産が味噌蔵と醤油蔵を4つほど買収し、大規模な設備投資を行って大増産体制が出来つつあった。



 両陛下と両閣下は村の設備に大喜びしてくれている。

 アマーゲ閣下は、引退したらここに住んで農業をしたいとまで言っていた。


 一通りの見学が終わると、大地は食堂で皆に味噌ラーメンを振舞った。

 留学生たちにとっては慣れ親しんだ味であるが、初めて口にする者はあまりの旨さに硬直している。



「それでは留学生と村長候補生の皆さんは、ここに残って村の視察を続けて下さい。

 夕方には迎えに来ますので。

 何か質問はありますか?」


 村長候補生8人の手が挙がった。


「どうぞ」


「ダイチ閣下、入植してからもあの『みそらあめん』は食べられるのでありましょうか!」


「食べられます。

 その他に醤油ラーメンやトンコツラーメンもあります」


「「「 おお! 」」」


「閣下、あの『らあめん』はおいくらなのでしょうか!」


「この村は軍に所属し、村人も軍人のままです。

 従って、出る食事は軍の食堂と同じく全て無料であり、さらに週に一度、1人2杯までエールも出ます」


「「「 おおおお! 」」」


「閣下、この村以外の村でもあの『みそらあめん』は食べられるのでしょうか!」


「もちろんです」


 皆が笑顔でガッツポーズをした。


「他に質問はありますか?」


 皆が顔を見合わせている。

 最先任士官が答えた。


「いえ、もう十分であります!」


(質問はラーメンについてだけかよ……)



 大地がふと見ると国王陛下たちが小さく手を挙げていた。


「どうされましたか陛下」


「あ、あの…… 

 わたしたちが視察に来た時も『みそらあめん』は食べていいですか?」


(あんたらもかよ!)


「まあ、ここは陛下方の国ですからねえ。

 もちろん構いませんよ」


 満面の笑みを浮かべた両陛下たちがハイタッチをしていた……



 内心呆れかえっている大地は、村長候補者と留学生たちをその場に残し、円盤に乗って次の候補地に向かった。

 眼下を見れば、村から主要街道へ5キロほど幅員5メートルの立派な道路が伸びている。

 もちろんシスくんが作ったもので、ついでに合流点から公爵領都までの街道も舗装されていた。

 そのうちに、この道路を通って村を見学する者たちを運ぶ乗合馬車が運行されるだろう。


 その後はアマーゲ公爵領であと1か所、ゲゼルシャフト王国国王直轄領の2か所、ゲマインシャフト王国の国王直轄領の2か所、ケーニッヒ侯爵領の2か所で模範村建設予定地を視察して行った。

 これらの場所では、立ち木の収納と整地だけが行われている。

 村づくりは夜の間にシスくんが行ってくれるだろう。


 尚、両陛下は自身の直轄領にそれぞれ4か所の村建設候補地を計画していた。

 もちろん大地にチェックしてもらって実際の建設地を決めて貰おうと思っていたからである。

 だが、そのうち1か所は問答無用で決定された。

 もちろん王城から最も近い場所であった……



 午後遅い時間になると、大地は最初の村から村長候補者と留学生たちを回収し、ついでに両国間に出来た城壁の視察にも連れていったのである。


 両国の国境沿いには、幅200メートルの間隔を置いて、高さ20メートルの城壁が聳え立っていた。

 もちろんその内側には深さ20メートルの堀がある難攻不落設計である。

 その通路上空を飛ぶ円盤上では、全員が言葉を失っていた。

 皆が軍人であるだけに、この城壁を抜くのが如何に不可能事かよくわかったのだろう。


 この通路には20キロおきに直径400メートルほどの広場もあり、そこには水場と土魔法で作られた宿舎が並んでいた。

 商隊たちに配慮した親切設備である。



 円盤はゲマインシャフト王国の第1砦付近に着陸した。

 そこからは、城壁と堀の下を通る隧道を歩いてゲゼルシャフト王国側に移動する。

 隧道の高さは10メートル、幅は20メートルもあり、内部は光の魔道具で明るく照らされていた。

 これならば両国間の通行に支障は無いだろう。



 アマーゲ将軍とケーニッヒ将軍が大地に近づいて来た。


「ときにダイチ殿、ちと気になっていることがあるのだが……」


「なんでしょうか?」


「あの『もはん村』の兵たちの宿舎なのだが……

 あの広さと設備はどう見ても大家族向けだが、村長候補の上級士官を除いてほとんどの兵はまだ独り身なのだ」


「故に、あの宿舎では兵には些か贅沢ではないかと思うのです。

 ですから、これより作って頂く『もはん村』では、宿舎の大きさは半分でもいいのではないでしょうか……」


「はは、そのようなことでしたか。

 ですが、あの村に住んで新農法という軍務に就くのであれば、兵たちには全国から嫁入り希望の若い女性が殺到すると思われます」


「「 !!!! 」」


「ですから、すぐに彼らも大家族を持つようになるので、あれでちょうどいいのではないでしょうか」


(こ、この男は……

 そ、そこまで見越して村を作っていたというのか……)



 視察は終了し、解散となった。

 その後はシスくんが陛下たちと護衛たちを王城へ、ケーニッヒ閣下と4名の村長候補をゲマインシャフト王国第1砦へ、そして留学生たちをワイズ王国の農業・健康学校に転移させてくれている。




 その日の晩、村長候補の士官たちは軍の宿舎で大勢の部下たちから質問攻めにあっていた。


「大尉殿、新しく出来るという『もはんむら』の状況は如何でありましたか?」

「壁は無くとも仕方ないですが、せめて屋根のある小屋はあったのですか?」

「やはり当初は軍用天幕暮らしですか?」

「水場まで10キロもあるというのは本当ですか?」

「最初の作物が実るまで飢えて死にそうになりそうですか?」

「もしも我らのところにヨメが来てくれるなどという奇跡が起きたとして、子が出来ても生きていけるでしょうか?」

「そのうちに入植志願者の申し込みが始まるそうですが、やはり志願しない方がいいのでしょうか?」



「いいかお前たち、心してよく聞け。

 お前たちは貴族の本邸よりも豪華な家に住んでみたいと思ったことはあるか?」


「「「 ? 」」」


「週に2回も温かい湯に浸かれるという、貴族でも出来ない贅沢をしてみたいと思ったことはあるか?」


「「「 ?? 」」」


「木の床の上で木の家具に囲まれて、柔らかいマットまで有る木のベッドで3枚もの毛布に包まれて寝たいと思ったことはあるか?」


「「「 ??? 」」」


「貴族家当主よりも、いや国王陛下が召し上がっておられるものよりも旨い物を喰いたいと思ったことはあるか?」


「「「 ???? 」」」


「独身のお前たちが、結婚したらここに一緒に住めると言っただけで、若い女性たちが大挙してお前たちに群がって来るような村に住んでみたいと思ったことはあるか?」


「?」「?」「?」「?」「?」「?」「?」「?」「?」「?」……


「もし1度でもそう思ったことがあるのなら……

 入植志願兵の募集が始まったら、命懸けで吶喊して応募せよ!!!」


「「「「 !!!!! 」」」」





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