*** 23 フサフサ ***
その日は、家まで送って行くという佐伯の申し出を謝辞し、大地はタマちゃんと一緒に『転移』で自宅に戻った。
その消えた跡を見ながら、5人はずっと手を合わせていたらしい。
須藤達の年代にとっては、その『転移で消える』という行為は『天の御業』を意味していたし、淳にとっては憧れの『異世界魔法』を意味していたからである。
余談だが……
翌朝髪の毛がフサフサになった淳は、感激に身を震わせながら床屋に行った。
一見さんの客を迎えたその床屋は、鏡を見ながら静かに涙を流し続ける男に大困惑しながら散髪したという……
(ねえタマちゃん……)
(にゃ)
(助役さんなんだけど、ツバサさまは4人ぐらいって言ってたよね)
(うにゃ)
(若い助役さんが淳さん一人だと大変だろうから、そのうち助役さんも増やしていかなきゃって思うんだけど……)
(当然だにゃ。助役を選ぶのも任務の内にゃ)
(でもさ、俺大人の知り合いがほとんどいないんだよ。
同年代の知り合いはそれなりにいるけど、みんな未成年だし。
どうしたらいいかな)
(淳に頼んでよさげな人を紹介してもらったらどうかにゃ?
それであちしらがそれとなく面接して、E階梯もチェックした上で決めたらいいにゃ)
(そうか、それじゃあ今度淳さんに頼んでおくよ)
(うにゃ、それがいいにゃ♪)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
食料の調達体制が整ったことで、大地の収納部屋での修練は捗り始めた。
また、1月も下旬が近づくと中学校の同級生たちが学校を休むようになってきたようだ。
もちろん私立高校などの受験準備のためだったが、大地は担任の教師に聞いてみた。
「あの、2月20日の県立高校受験日まで、僕も休んで構いませんかね?」
「ん? ああ、北斗の実力であれば入試には何の問題も無いだろうがな。
出席日数も十分足りてるし。
だがまあ週に2日ぐらいは学校に顔を出せよ」
「はい、そうします」
こうして大地はますます修練に時間を取れるようになっていったのである。
地球時間で3日後、須藤邸を訪れた大地はびっくりした。
どうみても4人は10歳以上若返って見えたし、淳はフサフサになっていたからである。
全員の顔が歓喜に輝いていた。
収納部屋での暮らしも順調だった。
小屋の内部は空間魔法で拡張され、食料収納庫には優に3000食を超える食料が備蓄されている。
それもほとんどが料亭や仕出し料理屋などが用意した超高級弁当だった。
イタリアンやフレンチの詰め合わせ弁当もあったし、ビタミン補給のためのフルーツ盛り合わせも大量にある。
しかも、食べやすいように全て切り分けられていた。
(これ、どう見ても1食3000円以上するようなお弁当なんですけど……
こんな贅沢していていいんだろうか……)
だが、ここでの生活は淳には贅沢とは映っていないようだった。
なにしろ身体強化などの肉体強化系スキルを纏った大地の鍛錬は凄まじい。
300キロはあろうかというバーベルを軽々と動かし、ジャンプすればその高さは2メートル近い。
砂浜での50メートルダッシュでもそのタイムは5秒を切っていた。
(どうも同じレベルでも、身体強化系のスキルの方が魔法系よりも能力アップの幅が大きいような……
まあ地球での能力の延長である身体強化系よりも、魔法系の方がレアなんだから当然か……)
これは大地と淳の共通意見だった。
2人は食事の合間などに意見を交わして、より効率的な修練を考えている。
淳は大地の身体鍛錬を驚愕しながら眺め、魔法訓練は涙を流しながら喰い入るように見つめ、大地が気絶している間は、幸之助の手記をそれこそ眼光紙背に徹する勢いで読んでいた。
大地にアルス中央大陸への対処方法を一緒に考えてくれと依頼されてのことである。
また、鍛錬の合間に受験勉強もした大地は驚愕した。
(なんだこれ……
どんな問題もすらすら解けるぞ……
ああそうか、英国数理社理解のレベルを3まで取得してたからか。
しかも『暗記』のおかげで教科書も丸々全部覚えてるし。
あ、でも暗記を使いすぎるとまずいかも……)
「ねえタマちゃん、『暗記』って使いすぎると、脳の記憶容量が無くなっちゃったりしないかな?」
「大丈夫にゃ」
「そ、そうなの?」
「地球のヒト族の脳の平均的な記憶容量は約1ペタバイトあるにゃ」
「えっ……」
「これは1024テラバイトのことで、書類にすると4段式キャビネット2000万個分に収めた書類と同じ容量にゃ。
一生かけてもそれだけの文書は読めにゃいから安心するにゃ」
「そ、そうだったんだ。
それじゃあじいちゃんの手記を『暗記』のスキルで丸暗記するぐらいだったら……」
「うにゃ、なんの問題もないにゃぁ」
また或る日のこと。
「そういえばタマちゃん、俺の持ってるゴールドを使って淳さんにもスキルを取って貰うことって出来るのかな?」
「あれはダイチの持ってるゴールドだから無理にゃよ。
魔法の中には仲間の能力を上げてやるバフ系の魔法もあるにゃけど、あくまで時間内の魔法にゃからスキルを取得したとは言えにゃいし」
「そうか……」
「でもアルスに行ったら淳もダンジョンに挑戦したらいいにゃよ。
100回ぐらい死ねば魔法の10個ぐらいは使えるようになるはずにゃ」
「は、はいっ! 死にますっ!
100回と言わず1000回でも1万回でも死にますっ!」
「「………………」」
淳も肉体鍛錬を始めた。
異世界に行った後は、なるべく早くスキルや魔法を使えるようになるためである。
その情熱は大地に勝るとも劣らないものだった……
こうして大地は助役たちの助けによっていくらでも収納部屋に籠っていられるようになったのである。
体感時間で1か月ほど過ごしたあとは地球に戻って時間を潰し、中学校やジムに通う。
そんな生活を過ごすうちに、大地は或る日ジムの師範に呼び止められた。
「ねえダイチちゃん、なんかこのごろ急に強くなってないかしら?」
師範はもともと日系3世で、日本語は喋れなかった。
だが、アメリカで海軍特殊部隊の訓練教官をしていたときに日本人女性と知り合って結婚し、奥さんの希望で海軍を退役して日本に来てジムを開いていた。
そのために、どうしても言葉遣いが『女言葉』になってしまっていたのである。
これは日本人女性と結婚した外国人全てに言えることで、彼にオネエの気は全く無い。
もともと男言葉と女言葉がある日本語は世界でも珍しい言語であり、ほとんどの外国人にとっては理解出来ない概念だった。
よってガールフレンドの喋る言葉を『標準語』とカン違いした彼らは、自然と女言葉を覚えていったのである。
因みに身長195センチ、体重140キロ、体脂肪率5%の筋肉ダルマである師範をオネエとからかう者はひとりもいない。
まあ本人は完全に日本に慣れて来たおかげで、自分の言葉遣いと肉体のギャップにショックを受ける日本人の反応を見て楽しんでいるフシもあるのだが。
「はあそうですか」
「そうね、ここ1か月ほどで見違えるように強くなってるわ。
なにかあったの?」
「い、いえ特には……」
「そう、まあ格闘技に限らずスポーツの世界には結構あることなんだけどね。
真面目に練習していた選手が、あるとき突然大きく進化するって。
でも困ったわ。
受験が終わったらまたみんなのスパーリングパートナーをお願いしようと思ってたんだけど、これじゃあみんなが壊されちゃうわね。
ねえ、本当にプロの試合に出る気は無いの?
今のあなただったらランカーは間違いないわよ」
師範はまだアメリカ国籍のために日本の修斗での日本ランカーにはなっていないが、一度ヘビー級の日本チャンプに乞われてエキジビションマッチを行い、相手をKOした経験を持っている。
「はあ、ちょっとやらなきゃなんないことが出来たんで、試合用に調整する時間が取れないんです」
「そう、残念だわ。
それじゃあ受験が終わったら、アタシとガチでスパーをしてみない?
今度このジムで段位認定制度を作ろうと思ってるんだけど、アタシがあなたの段位を測ってあげるから」
「ええ、ぜひお願いします」
大地は剣道の師範にも同じようなことを言われた。
「君は本当に試合や段位認定試験には出ないのかね」
「はい、いまのところ」
「ふう、高校で剣道部に所属せねばインターハイには出られんが、通常の剣道全国大会ならば道場の推薦があれば出場出来るぞ。
最近急に力をつけた君の実力からすれば、中学生の部はもちろん、高校生の部でもかなりの確率で優勝するだろう。
また、段位試験を受ければもはや5段から6段の実力がある」
「お言葉はありがたいのですが……」
「ふむ、それでは気が変わったらいつでも言って来なさい」
「はい、どうもありがとうございます」
師範は剣道7段だった。
その師範が言ってくれたのだから間違いは無いだろう。
大地は思っていた。
(あ、そうか……
ダンジョンの外でも魔法やスキルが使えるようにしてもらったけど……
その「外」には地球も含まれるわけだ。
なるほど。
それにこれ、肉体強化系や攻撃系のパッシブスキルを発動して鍛錬していると、スキルの効果時間が切れてからでもけっこう残ってるな。
そうじゃなかったら、最近のこの異様な実力アップが説明出来ないや……
ということは、これは俺の実力じゃあないんだから、少し自重しないと……)
地球で1週間が経過し、時間停止収納部屋での体感時間が1年を過ぎて、大地の総合レベルが18に達したころ。
大地は剣道場やジムに行く前に自分に各種『デバフ』の魔法をかけるようになった。
地球人最強となった今、騒がれないためには仕方のないことである。
同時にスキルや魔法もレベル5までの取得が可能になったため、タマちゃんにも勧められて今持っているスキルも魔法もレベル5まで上げた。
今の大地のステータスは以下の通りである。
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名 前:北斗大地
出 身:地球
種 族:ヒト族
年 齢:15歳 男性
適 職:ダンジョンマスター
職 業:特命全権ダンジョンマスター(アルス中央大陸ダンジョン)
総合レベル:18
体 力:30(30)
魔 力:90(90)
攻 撃:45
防 御:15
敏 捷:25
器 用:20
運 :50
加 護
即死回避 帰還
ギフト
ジャッジメント
取得スキル&魔法総数 : 96 (388,800G)
スキル(身体系)
アクティブ
体術Lv5 剣術Lv5 棒術Lv5 投擲術Lv5
騎馬術Lv5 回避Lv5 縮地Lv5
命中率アップLv5 ロックオンLv5
身体硬化Lv5 柔軟Lv5 受け流しLv5
時間加速Lv5
パッシブ
身体強化Lv5 防御Lv5
敏捷強化Lv5 動体視力強化Lv5 臭覚強化Lv5
視覚強化Lv5 聴覚強化Lv5 夜目Lv5
スキル(耐性系:すべてパッシブ)
物理攻撃耐性Lv5 精神耐性Lv5 痛覚耐性Lv5
麻痺耐性Lv5 呪術耐性Lv5 毒耐性Lv5
石化耐性Lv5 腐食耐性Lv5
スキル(その他)
アクティブ
鑑定Lv5 気配遮断Lv5
索敵Lv5 消音Lv5
武器製作Lv5 防具製作Lv5
道具製作Lv5 薬製作Lv5 錬金Lv5
修復Lv5 料理Lv5 演技Lv5
隠形Lv5 手加減Lv5 地図作成Lv5
描画Lv5 解析Lv5 測量Lv5
威圧Lv5 遮音Lv5 虚偽看過Lv5
暗記Lv5 短期記憶消去Lv5
認識阻害Lv5 コピーLv5
国語理解Lv5 英語理解Lv5 数学理解Lv5
社会科理解Lv5 理科理解Lv5
栄養学理解Lv5(MAX) 医学理解Lv5(MAX)
診断 Lv5(MAX)
薬学理解Lv5(MAX) 植物学理解Lv5(MAX)
昆虫学理解Lv5(MAX) モンスター学理解Lv5(MAX)
パッシブ
気配察知Lv5 危険察知Lv5
異言語理解Lv5 罠感知Lv5
対敵デバフ(パッシブ)
時間遅延Lv5 スロウLv5 恐怖心付与Lv5
エキストラスキル
物理防御力アップLv5 物理攻撃力アップLv5
魔法防御力アップLv5 魔法攻撃力アップLv5
経験値獲得アップLv5 敏捷アップLv5
器用アップLv5 成長促進Lv5
魔力消費半減Lv5 回復促進Lv5
魔法
火魔法Lv5 風魔法Lv5 水魔法Lv5
氷魔法Lv5 土魔法Lv5 光魔法Lv5
空間魔法Lv5 雷魔法Lv5 飛行魔法Lv5
補助魔法Lv5 重力魔法Lv5
睡眠魔法Lv5
保有ダンジョンポイント
11,999,611,200
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