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*** 222 初等科授業 ***

 


 翌日の初等科上級課の教室にて。

 教室内の生徒たちは、ほとんどが12歳から15歳ぐらいの少年少女だった。


「みなさん、今日はゲゼルシャフト王国とゲマインシャフト王国からの留学生の方々がお見えになっています。

 一緒にお勉強しましょう」


「「「「 はい! 」」」」


「それでは最初は算術の授業からですね。

 今から先生が問題を言いますから、答えがわかった人はノートに書いて下さい。

 足し算と引き算と掛け算と割り算と括弧しか使いませんから安心してください」


「「「「 はい先生! 」」」」


(((( よし! 掛け算と割り算までしか使わないのか!

 それなら将校教育課程の高等算術の授業でさんざんやったから大丈夫だ! ))))



「それでは問題です。


 3と4と7と8の4つの数と、足す引く掛ける割るの算術記号と括弧記号を使って、答えが1から10までの数になるような式を作ってください。

 例えば0を作るとすると、

(4-3)-(8-7)=0になりますね。

 同じようにして、1から10までの数を作る式を10個書いて下さい。

 制限時間は20分です」


「「「「 はい! 」」」」


 かりかりかりかりかりかり……


 少年少女たちは盛んに手を動かし始めている。


 だが、留学生たちは……


(な、なんだこの問題は……)

(答えを出すのではなく式を作れだと……)

(な、なんとか1と2は作れたが、それ以外がまったくわからん……)


 先生は生徒たちの机の間を歩きまわって、それぞれの解答を見ていた。



「それでは20分経ちましたので、手を止めてください。

 皆さんの中で10を作れたひとはいますか?」


 10本ほどの手が挙がった。


「よく出来ましたね♪

 この問題は9までは簡単に作れるんですけど、10を作るのはとっても難しいんですよ」


(ううううっ……)

(9までは簡単だというのか……)

(お、俺2までしか作れなかった……)



「それでは次はカルタ室に移動して、みんなで文章カルタをしましょう」


「「「「 はい♪ 」」」」


(((( ???? ))))



 カルタ室の机はかなり大きなものだった。

 その机の上には2センチ角ほどの板にアルファベットが書かれたものが無数に置いてある。


「それでは今から先生が文を読み上げます。

 その文をよく聞いて、アルファベットのカルタをそれと同じ内容になるように並べてください。

 出来上がったひとは手を挙げてくださいね。

 それでは読みますよ。

『今日は天気がいいので、畑に行って小麦の種を植えようと思います』」


 ぱちぱちぱちぱちぱち……


 途端に子供たちが猛然と板を並べ始めた。


(えっ?)(えっ?)(えっ?)(えっ?)(えっ?)(えっ?)


 だが、留学生たちの手はほとんど動いていない。


 カルタを並べ終えた子供たちは、次々に手を挙げ始めた。


 教師はまた室内を歩き回って子供たちの答えを見ている。


「ケンゾくん、ここはqではなくpですよ」


「あっ、また間違えちゃった!」


「うふふ、今度は気をつけてくださいね」


「はい!」


 そして……

 10枚ほどしかカルタを並べられていない留学生たちは、小さくなっていたのであった……




 昼休み。


「あの、ワイコフ大尉さん」


「はい」


「あの留学生の方々なんですけど……

 このままだとちょっとお気の毒というか萎縮されてしまわれるかと……」


「やはり先生もそう思われましたか。

 小官もそのように考えておったところです。

 わかりました、彼らは午後からは中級課に連れていくことにしましょう」



 そして中級課クラスでは。

 教室にいたのは9歳から11歳ぐらいまでの子供たちだった……



「それでは今から先生が問題を言いますから、答えがわかったひとは手を挙げてくださいね♪」


「「「 はぁ~い♪ 」」」


「それでは問題です。

 1から60までの60個の数字を全部足すと、いくつになるでしょうか?」


(お、おい……指の数が足りん。お前の指を貸してくれ)

(お、俺だって指が足りん。足の指も使え!)


「はい先生!」「出来ました!」

「僕も出来た!」「わたしも!」


「それではみなさん、一緒に答えを言いましょう♪」


「「「「 1830でーす! 」」」」


「はいよく出来ましたね」


(なっ……)

(な、なぜそんなに早く……)

(こ、こ奴ら指が1830本もあるのか!) 

 ↑んなわけあるかーっ!



「次は1から100までの数を全部足してみましょう♪」


(((( なっ…… )))



「はい先生!」「出来ました!」

「僕も出来た!」「わたしも!」


「それではみなさん、一緒に答えを言いましょう♪」


「「「「 5050でーす! 」」」」


「はいよく出来ましたね♪」


(なんだと……)

(こ、こ奴ら指が5000本以上……) 

 ↑そこから離れろ! どういうバケモンだそりゃ!



「次はカルタ室に行って文字カルタをしましょう♪」


「「「「 はぁーい♪ 」」」」


「それではこのワイズ王国の周りの国の名を知っているだけ並べてください」


 ぱちりぱちりぱちりぱちり……



「さあみなさん、いくつの国の名前を並べられましたか?」


「僕18個」

「あたし23個!」

「僕は29個!」

「あたしは34個並べられました!」


「34個より多い人はいますか?

 いませんね。

 それでは優勝はサユリーちゃんです!」


「「「「 わー♪ 」」」」

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち……



(お、おい、お前いくつ並べられた?)

(お、俺5カ国……)

(俺は6カ国だ……)

(く、国の名はわかっても綴りがわからん……)




 そしてその日の夕方……


「あの、ワイコフ大尉さん……

 あの留学生の方々なんですけど、まだちょっと中級課は早いかもしれません」


「小官もそう思っていました。

 明日からは初級課に連れて行きましょう」



 翌日。

 初級課教室には6歳から8歳ぐらいまでの小さな子供たちがいた。

 留学生たちは、教室の後ろの方で子供たちと同じぐらい小さくなっている。


「今日は留学生のお兄さんたちと一緒にお勉強しましょうねー♪

 みんな歓迎の拍手―っ!」


「「「「 わー♪ 」」」」

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち……


 これぞ好意から発したにも関わらず、その傷口に塩を塗る行為である。



「それでは最初は掛け算をみんなで暗唱しましょう♪」


「「「「 はぁーい♪ 」」」」


「まずは2の段を9までです」


「「「「 2・1が2、2・2が4、2・3が6…… 」」」」


(おおっ!)

(こ、これなら!)

(掛け算の暗唱は将校教育課程で高等算術の時間にさんざんやったからな!)


「次は3の段を9まで、その後も9の段まで続けて暗唱して下さい」


「「「「 3・1が3、3・2が6……9・9が81! 」」」」


 留学生たちも、ドヤ顔になりながら大きな声を出して子供たちと唱和していた。



「はーいみなさん、よく出来ましたね。

 それじゃあ次は10の段から15の段までを暗唱しましょう」


「「「「 はぁーい♪ 」」」」


(((( ………(えっ?)……… ))))


「「「「 10・1が10、10・2が20、10・3が30……

 15・18が270、15・19が285、15・20が300! 」」」」


「「「「 ……………………………… 」」」」


「みなさんよくできました!

 それでは次は16の段から20の段までを暗唱しましょう♪」


「「「「 はぁーい♪ 」」」」


「「「「 ……………………………… 」」」」




 その日の昼休み。


「あの、ワイコフ大尉さん……

 あの留学生の方々なんですけど……」


「やはり初級課でも厳しそうですね。

 わかりました。

 ダイチ閣下に申し上げて、『留学生課』を作ることに致しましょう……」


 かくしてワイコフ大尉の温情により、留学生一同は救われたのであった……


 頑張れ留学生っ!




 また或る日のこと。


 ワイコフ大尉は50人の留学生たちとともに校庭を歩いていた。

 そこへ7歳ぐらいの女の子が走って来て、地面に躓いて転びそうになったのである。


「きゃあっ!」


 ワイコフ大尉とその女の子の距離は優に10メートルはあっただろう。

 だが、次の瞬間、大尉はその子を抱きとめていたのである。


「大丈夫か? 怪我は無いか?」


「う、うんだいじょうぶ…… せんせいありがとう♡」


 女の子は笑顔で手を振ると、今度は慎重に歩いて行った。

 大袈裟に地面を踏みしめるように歩いている姿が微笑ましい。



「あの、大尉殿……」


「ん?」


「今、大尉殿のお姿が良く見えなかったのですが……」

「ま、まるで転移したかのようでした」

「あれは魔法だったのですか?」


「いや、俺は転移魔法は使えん」


「そ、それではいったいどうやって……」


「まあ、鍛えたらあれぐらいのスピードで動けるようになるんだ」


「鍛えたら、ですか……」


「俺も一応ダイチ閣下の直属兵の1人だから、それなりには鍛えているんだ」


「あ、あの……

 もしよろしければ、今度私共と手合わせをして頂ければと……」


「そうだな、座学ばかりだと体も鈍るな。

 手合わせ希望者は何人いるんだ?」


 その場の50人全員が手を挙げた。

 さすがは脳筋系軍事国家の若者たちである。


「そうか、それじゃあ明日は全員で王城内の国軍鍛錬場に行こうか」



 そして翌日の国軍鍛錬場では。


「よーし、全員防具を着けて銅剣も持ったな!」


「あの…… 大尉殿、この銅剣、刃引きをしていない真剣なんですけど……」


「ん? その方が緊張感があっていいだろう。

 だが同士討ちには気をつけろよ」


「はぁ。

 それで大尉殿の武器は……」


「俺はこの『しんがーど』と、『おーぷんふぃんがーぐろーぶ』だけでいい」


「はぁ……」


「それでは50人全員で俺と対峙せよ。

 合図とともに一斉にかかって来い」


「「「「 !!!!! 」」」」


「た、大尉殿、い、いくらなんでもそれは……」


「俺も少しは鍛錬しないとな」


「「「「 ……………… 」」」」



 ワイコフ大尉と留学生50人の周囲は、担架を持った国軍の兵士たち100人が取り囲んでいた。

 留学生たちは鶴翼の陣形をとりつつ小声で会話をしている。


(なあ、なんで担架の数が50個なんだろうな……)

(さあ、あまり考えたくないことだな……)

(そ、それもそうだな……)


(ほう、こやつら鶴翼の陣形を取るか……

 数に劣る敵に対峙して包囲殲滅を狙うときの常套手段だな……

 さすがよく鍛えられておるわい……)



 教導士官がひとり前に出て来た。


「双方準備はいいな! それでは模擬戦始めっ!」


 その瞬間にワイコフ大尉が消えた。

 いや単に高速移動しているだけだったのだが、教導士官たち以外には誰の目にも見えなかったのである。

 辺りには留学生たちの叫び声と悲鳴が聞こえるだけだった……


 1分後。

 その場には50人の留学生が全員倒れていた。

 中央には少しだけ息を乱したワイコフ大尉が立っている。

 大尉は油断なく留学生たちを睥睨していた。


「止めっ!」


 教導士官の合図で周囲の国軍兵が一斉に駆けつけて来た。

 異様に手慣れた様子で負傷者を担架に乗せて救護小屋に運び込んでいる。


 かろうじて意識のあった数名の留学生たちは、担架で運んでもらいながら会話をしていた。


(なあ…… ワイズ王国って…… 恐ろしいところだな……)


(そうだな……

 あの将軍閣下がこの国と平和条約を結んでくださっていて、本当に良かった……)


(同感だ……)



 頑張れ留学生っ!




 全員の治療が終わった後に、ワイコフ大尉は留学生たちと雑談しながら学校に帰ろうとしていた。


「ところでお前たち、何があってもあのダイチ校長閣下には模擬戦など挑むなよ」


「あ、あの、教官殿……

 あの方もお強いんですか?」


「強いも何もな。

 俺たちブリュンハルト隊は250人いるんだが、あのお方様にはその250人全員で挑んでも1分もたんだろう。

 あのお方が本気になれば3秒で全滅だな」


「「「「 !!!!!!!!! 」」」」



 が、頑張れ留学生……





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