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*** 208 神さまたちと天使さま ***

 


「それでは両閣下、お国にお帰りの際にはこの『通信の魔道具』をお持ち帰りください。

 砦に御帰還された後に、ここの白い石に触れながら話をしていただければ、わたくしの部下がご対応させて頂きます。

 シス、お二方にご挨拶を」


(初めまして。

 ダイチさまの臣下でシスと申す者でございます。

 よろしくお願い申し上げます)


「い、今頭の中に聞こえて来た声は……」


「ダンジョン国にいる私の部下の声です。

 念話の魔法でご連絡させて頂きました。

 もちろんこのシスは、わたくしともいつでも会話が出来ますので、わたしと国との連絡体制は万全です」


「なんとまあ……」


「砦の倉庫の準備が整いましたらご連絡ください、薬をお届けに参りますので」


「いや、それは貴殿にご負担をかけることになる。

 我らが荷駄隊をよこすことにしよう」


「いえ、まったく負担ではありません。

 わたしは『転移』の魔法が使えますので、どんなに遠方でも一瞬で移動出来ますし、アイテムボックスも持っていますから」


「「 !!! 」」


「あ、あの初代デスレル帝が持っていたという『あいてむぼっくす』か!」


「その上『てんい』の魔法まで……」



「それにしてもだ。

 これほどまでのご恩義に、我らは如何にして報いたらいいものなのかの……」


「それでは不躾なお願いなのですが、御二方ともこのワイズ王国とダンジョン国との間で平和条約を締結して頂けませんでしょうか。

 もちろん完全に対等な立場での条約です」


「それは我らの国とこのワイズ王国、ダンジョン国との条約ということですか?」


「いえ、お二方との条約というかお約束で充分でしょう」


「了解した。

 このグスタフ・フォン・アマーゲ、このワイズ王国やダンジョン国とは決して戦わないと誓おう。

 また、両国有事の際には、国軍は無理でも手勢を率いて援軍に駆け付けることも併せて誓う」


「わたくしルドルフ・フォン・ケーニッヒも、このワイズ王国やダンジョン国とは決して戦わず、有事の際には手勢を率いて援軍に参りますことをお誓い申し上げます」



 因みに、この2人の手勢とは公爵領や侯爵領の領軍なのだが、2人とも1000人を超える領軍を持っている。

 つまり国軍500人のワイズ王国軍の倍ずついるのである。

 しかも、実戦を繰り返して来たこの精鋭領軍は超強かった。



「アマーゲ公爵閣下、ケーニッヒ侯爵閣下、誠にありがとうございます。

 このわたくしウンゲラルト・フォン・ワイズも、お二方の国に決して刃を向けないと誓わせて頂きます。

 もっとも、恥ずかしながら我が国には援軍に向かえるような手勢もいないのですが」


「もちろん我がダンジョン国もお二方の国は決して攻めませんし、危機に陥った際には救援に駆け付けましょう」


 その場の全員が微笑んだ。



「しかしダイチ殿、この国が危機を迎えるのは存外早いのではないかな」


「左様、昨日の午餐会の様子を見るに、この国の第1王子、第2王子、第1王女は、それぞれ後ろ盾になっている国の力も借りて、すぐにでも挙兵するのではないでしょうか。

 それに、これはわたくしの印象なのですが、ダイチ殿は昨日の午餐会で敢えて彼らを徴発して、その反乱を煽っているかのように見受けられたのですが」


「ははは、さすがですね。

 実は元々あの午餐会を開催したのも、彼らに早く挙兵して貰うためのものだったのですよ」


「ダイチ殿。

 そのようなことを為された目的と、貴殿の最終的な目的もお教え願えないだろうか……」


「もちろんです。

 もはや我々は平和条約を結んだ者同士ですから、全て包み隠さずお伝えさせて頂きましょう。

 まず、わたしの最終目標は、この大陸を平定することです」


「平定とな……

 それは全ての国を支配下に置かれるという意味かな……」


「いえ、大陸全土から戦を無くし、民を飢えさせないことです。

 その際に、それらの国を誰が統治していても構いません。

 ただし『統治』です。『収奪』ではありません。

 何もせずに、単に王族貴族の子孫だというだけで民から収奪を試みる者は、盗賊と同じと見做して捕縛します」


「それをこの大陸全土で為すと仰られるか……」


「ええ、この大陸全てです」


「ダイチ殿がそのような大望を抱かれた理由をお聞きしてもよろしいかな……」


「もちろんです。

 実はわたしはここアルスではなく、まったく別の地球という世界の住人だったんです。

 それで、地球やアルスやその他にも多くの世界の知的生命体を創造した神さまや天使さまに、このアルスを平定して戦を無くすように頼まれたんです」


(にゃあダイチ、ダイチ)


(あ、タマちゃん)


(ツバサさまがそこに行って下さるそうにゃよ。

 あ、神さまたちも行って下さるってにゃ♪)


(それなら、こんな狭い執務室じゃあなくって宴会場の大広間の方がいいかな)


(にゃ、そう伝えておくにゃ)



「みなさん、わたしにアルスの平定を依頼された神さまたちが来て下さるそうです」


「「「「 !!! 」」」」


「ですから、昨日の午餐会の会場までご足労願えませんでしょうか」




 午餐会会場は、シスくんとストレーくんの手ですっかり片付けられていた。


 そして、一行が会場に入ると同時に、正面一帯がまた強烈な光に満たされたのである。


(あー、神さま5人も来とる……

 ツバサさまはその後ろだな。

 あーあー、みんな5メートル近い大きさで宙に浮いとるわー。

 後光も眩しいわー)



『ワイズ国王、アイシリアス王子、シュナイドレ宰相、アマーゲ公爵、ケーニッヒ侯爵……

 我らが使徒ダイチにアルス中央大陸の平定を依頼した神界の神である』


「「「 う、うはははぁぁぁ―――っ! 」」」


 さすがは神さまたちである。

 その姿は神威に満ちており、神であることを疑う余地は全く無かった。



 神々は続けて口を開いた。


『我らはこのアルス中央大陸が戦乱と暴虐に塗れておることに心を痛めておった。

 じゃが、残念ながら我ら神や天使は直接その管理下の世界に力を及ぼすことは出来ぬ』


『そこで、素晴らしき素質を持つこの男ダイチに依頼し、地球という世界よりこのアルスの地に来て貰ったのじゃ。

 その際に、この地を平定するための道具として、ダンジョンやその他いくつかの恩恵を与えておる』


『我らが使徒ダイチは、それらのツールを見事なまでに使いこなし、来訪以来たったの1年で既に中央大陸18万人もの人々に幸福を与えた。

 さらに北大陸では300万もの人々を救いおった。

 この業績は、神界の歴史にも残る快挙となろう』


『じゃが、神界よりの依頼ということで、遺憾ながら使徒ダイチには多くの制約がある。

 その制約の最たるものは、他人を殺められないことと、自ら先んじて他国や他人を攻撃することが出来ないということである』


『そのために、優れた財物を用意して周辺国の強欲を煽るなどという迂遠な方法を強いることになってしまっておる。

 だが、それも昨日のようにその方らの協力によって、見事に効果を発揮しつつあるようだ』


『この上は、今後とも皆にこの使徒ダイチの協力者となって貰うことを神々として期待している。

 頼むぞよ』



「「「「 う、うはははぁぁぁ―――っ! 」」」」



 神さまたちは微笑みながら静かに消えて行った。


 その場の男たちは、あまりのことに皆落涙している。

 宰相閣下は号泣状態だった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 神界の神さまたち:


「これでようやく我らも参加出来たのう♪」


「うむ、多少なりとも使徒ダイチの手助けが出来たであろう♪」


「これで安心したわい♪」




 ツバサさま:


「わ、わたしのセリフがががが……」




 大地:


「まあ説明する手間が省けた分だけはヨカッタかな♪」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 感激冷めやらぬ一行は大地の執務室に戻った。


「これで納得させて頂き申した。

 なぜダイチ殿があれほどまでに魔法を使えるのか。

 なぜ18万もの人口を擁する国を作られたか。

 なぜこの国にここまで肩入れさせているのか。

 すべてはこの辺り一帯を平定されていくことが目的であらせられたのですな」


「いやいやアマーゲ公爵閣下。

 わたしのような若造にそこまでご丁寧な言い方は必要ではありません。

 どうかいつものようにお願い申し上げます」


「なるほど、必要なのは任務の遂行のみであり、権威などは取るに足らないものであると……」


「はい」


「さすがですな……」


「ということでひとつお願いがあるのですが」


「承りましょう」


「わたしが神界からの使徒であるということは、ご内密にしていただけませんでしょうか」


「ふむ、それは神界の掟のようなものなのですかの」


「まあ、掟とまでは言いませんが、その方がわたしの任務遂行に利すると考えています」


「承知仕った。

 使徒殿、い、いやダイチ殿のご許可あるまでわたしはダイチ殿のご任務については決して口にしないと誓おう」


「わたくしも誓わせていただきます」


「加えて、不躾なお願いではあるのですが、これからもいろいろとご教授を頂けませんでしょうか」


「それも承知した。

 わたしが出来る事であれば出来うる限りお役に立ちたいと思う」


「それではさっそく、いくつかの懸念点についてご指摘させて頂いてもよろしいでしょうか」


「はいケーニッヒ侯爵閣下、ぜひ歴戦の軍人ならではの視点からご教授ください」


「たぶん周辺4か国は、1か月以内にはこの国に攻め込んでまいりましょう。

 まずはその際の防衛計画をお聞かせ願いたい」


「最も防衛したかった農民と街民は、既にすべて直轄領の中に集めていますし、その直轄領も城壁で囲み終わっていますので安全です」


「だがダイチ殿よ。

 あの城壁や門では500ほどの兵が攻め寄せて来ればすぐに抜かれてしまうぞ。

 それに掘も浅いしのう」


 大地が微かに微笑んだ。


「実はあれは、如何にも攻めやすそうに見せかけた罠なんです」


「なんと……」


「あの城壁の堀は、外側にある浅いものはダミーで、本物の堀は内側にあるんです。

 今はわざと土で覆って隠してありますが。

 そうですね、深さは20メートルほどで壁面は滑らかな石で出来ていますので、超えることはまず不可能でしょう」


「で、ですが、その土を取り除くのは大変な手間でしょうに……」


「そうですね、なにしろ全長100キロ近い城壁の内側の堀は、今全て土で埋めてありますから。

 ですが、我々には魔法の力がありますので。

 ストレー、あの堀を埋めてある土を全て収納するのにどれぐらいの時間がかかる?」


(1分も頂ければ十分かと)


「い、今頭の中に聞こえた声も……」


「はい、私の部下でストレーといいます。

 彼は『収納』の魔法が得意でして」


「たったの1分で長さ100キロもの堀を埋めた土を……」


「農民と街民を全て避難させ、この城壁と堀が完成したからこそ、昨日のような餌撒きを始めたんですよ」


「なるほど……

 それで、王子王女が外周部の王族領に戻り、4カ国が国境沿いに兵を集めたら、その堀を埋めてある土を取り除くと……」


「はい。

 それからですね、その堀に降りた敵兵は、やはり全てストレーが『収納』していきます。

 そうして、罪状に応じて我が国の牢に収監していくことになるでしょう」


「敵兵全てをですか……」


「ええ、実は今までにもそうやって我らを攻撃して来た罪人を多数収監しています。

 我が国の人口は最近18万人を超えたところですが、それ以外にも牢には2万人の囚人を収容しているんです」


「2万人も……」


「彼らの内、戦場以外での殺人歴がある者はほとんど終身刑になります。

 それ以外の罪の者は、罪の重さや牢内での生活態度に応じて開放してやることもあるでしょう」


「重罪犯は死刑には……

 そうか、貴殿は神界から殺人を禁じられていたのだな」


「ですがそれでは囚人を喰わせるための食料が些かもったいないですな」


「ええ、ですから、わたしはまず食料を充分に備蓄しておく必要があったんです。

 それでわたしの国の農業生産を引き上げると同時に、わたしの母世界でもいくらかの仕事をして食料を溜めました。

 あのストレーの収納庫の中では時間が停止しているために、食料も腐らないんです。

 そうして十分な食料が溜まったので、わたしはこのワイズ王国に来て周辺国の平定のための活動を始めたんですよ」


「よろしければお聞かせください。

 貴殿は今どれほどの食料を備蓄されておられるのですか?」


「そうですね、今現在で300万石ほどになりましょうか」


「さ、300万石……」


「わたしの母世界からの食料輸入は毎日続いていますから、半年後には1000万石を超えることになると思います」


「そんなに食料を買い付けて、使徒殿の母世界は食料不足になりませんか?」


「いえ、豊作の農産物しか買い付けていませんので大丈夫と思われます。

 このアルスを救おうとして地球に飢饉を齎してしまっては意味がありませんからね。

 それに地球は農業の技術が進んでいる上に、人口が80億ほどいますので、もともと農業生産は多かったんですよ」


「は、80億……」


「ええ、ですから、アルス中央大陸を平定して戦を無くした後は、今の人口2500万人を、少なくとも10倍の2億5000万にすることがわたしの目標です」


「ですがそれには長い時間が……」


「そうそう、申し遅れていました。

 先ほど神さま方がわたしにいくつかの恩恵を施して下さったと仰られていましたよね。

 その中には、わたしの寿命を延ばして下さったという恩恵もあるんです。

 今多分わたしの寿命は400年から500年近くになっているでしょう」


「「「「 !!!!! 」」」」


「はは、まったく神さまたちは人使いが荒いですよね。

 400年も働かせようというのですから。

 ですから、今の私の姿は16歳ほどに見えるはずですが、生活年齢は26歳を超えたところなんです」


「なんと……

 見た目の歳の割に落ち着いておられるように見えたのはそのせいだったのですか……」





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