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*** 196 試食会 ***

 


 大地は地球に戻った際に静田物産を訪れた。


「静田さん、またお願いがあって参りました」


「光栄でございます」


「アルスの或る国で貴族や大使を集めて、今日から50日後に午餐会をすることになりましてね。

 その際に、パーティー料理をお願いしたいと思うんですがよろしいですか?」


「もちろんでございますよ。

 子会社の青嵐グランドホテルのシェフたちに用意させましょう。

 なにしろ時間停止の収納庫がありますから、一度に料理を作らなくとも済むのは助かります」


「ありがとうございます。

 それで、まずはその国の王族と城の料理人や侍従たちに試食をして貰いたいと思いましてね。

 全部で40人ほどなのですが、試食用の料理も用意して頂けませんでしょうか。

 なにしろ食習慣が違いすぎるものですから、まったく食べられないものもあるかもしれませんし」


「フレンチ、イタリアン、チャイニーズ、日本料理のどれにいたしましょうか」


「出来れば全ての種類でなるべく多くの品でお願いします。

 試食用ですから少しずつで構いません。

 特にアルスでジャガイモとトマトを普及させようと思っていますので、簡単な各種ジャガイモ料理とトマト料理のセットもお願いします。

 出来ればジャガイモの形は見せないように。

 あ、これは任務の内に入りますので予算は無制限ですが、酒はそれほど高いものでなくていいです。

 なんせ彼らはまだ素朴な赤ワインとエールしか飲んだことがありませんから。

 それと生花などのパーティー会場の飾りもお願いします」


「それはそれは…… その場にお邪魔出来ないのが残念です」


「もしよろしければ静田さんも試食会におみえになりませんか?

 佐伯さんと須藤さんにも声をかけてみましょう」


「あ、ありがとうございます!

 みなさんもお喜びになられるでしょうなぁ……」


「ところでその午餐会に出るために、私もスーツが欲しいんですけど、どこかいいお店はご存じありませんか?」


「そうですな……

 大地さまのご体格ではやはり仕立てるしかないでしょう」


 因みにこの時の大地の体形は、身長185センチ、体重98キロ、胸囲130センチである。

 いくらなんでも既製品は無理だろう。


「わたしの馴染みのテーラーはあるのですが……

 やはり少々古臭いものになってしまいますからな。

 この後は何かご都合がありますでしょうか」


「いえ、特にありませんが……」


「それではいっそのこと、これから銀座に行って仕立てて来ませんか。

 よろしければご一緒させてくださいませ」


「ありがとうございます……」



 こうしてその日、大地は静田を伴って静田物産東京支店に転移し、ジョルジオ・ア〇マーニで、タキシードとスーツ、加えてややカジュアルなジャケットとパンツを作り、併せてシャツも靴もベルトも全て揃えることになったのである。


 大地が服の生地を決め、採寸する様子は静田がにこにこしながら見守っていた。

 ちょっと涙目にもなっている。

 どうやら若かりし頃、大地の祖父幸之助に初めてスーツを誂えてもらったときのことを思い出していたようだ。

 一式200万円に届こうかという代金は、もちろん全て静田が払ってくれた。


 ついでに、そのとき店にいたイタリア人の役員が、大地のあまりにも素晴らしい体格とイケメンぶりに感激して、専属のモデルにならないかと勧誘して来たのだが、大地はもちろんこれを断っている。



 そして……

 後にこの話を聞いた佐伯と須藤が激しく迫ってきたために、大地はミッ〇ーニとドルチェ・ガッ〇ーナでも3着ずつ揃えることになってしまったのであった……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「シス、王城の北側の岩地を平らに均して、ダンジョン国から迎賓館を転移させて来てくれるか。

 あとすまないが、あのロココ装飾はそのままで、パーティー会場に相応しい改造も頼みたいんだ」


(お任せくださいませ)


「それから、迎賓館の周囲には7カ国分の客用宿舎も頼む。

 今ある王城周辺の堀には橋を架けて、迎賓館の周りにも同じような堀も作っておいてくれ」


(畏まりました)




 地球料理試食会当日。


 迎賓館3階のメインパーティールームに、試食会メンバー全員の姿が揃った。


 その場には感激した表情の須藤、佐伯、静田の姿もある。

 須藤と静田もモーニングの正装であったが、佐伯弁護士はなんと紋付き袴姿であった。


 実はダンジョン村の一室では同じものが饗されることになっていて、タマちゃんを始め、シスくん、ストレーくん、テミスちゃん、イタイ子の分位体と良子が揃っている。




 国王たちはこの迎賓館は2度目だが、王女殿下だけは口を開けてロココの間を見回していた。

 季節は真冬だったが、会場は結界が施された中で熱の魔道具によって十分に暖められている。

 あちこちに地球産の生花が飾られ、会場中央のテーブルの上には大きな氷の彫刻まであった。


 侍女や侍従は必死の思いで口を閉じて、周囲を見回さないようにしているようだが、王城の料理人たちは顎や目玉が落ちそうになっていた。



「ウンゲラルト・フォン・ワイズ国王陛下、アイシリアス第3王子殿下、エルメリア第2王女殿下、ビルトレン・シュナイドレ宰相閣下、こちらの3人はわたしが地球でお世話になっているひとたちです」


 佐伯たちがいるために、少し口調を改めている大地が3人を紹介した。


「ワイズ王国にようこそおいでくださった。

 こちらのダイチ殿には我らも実にお世話になっております」


 佐伯が代表して口を開いた。


「ウンゲラルト・フォン・ワイズ国王陛下、並びに王子殿下、王女殿下、宰相閣下、お招き誠にありがとうございます。

 わたくしは佐伯、こちらは須藤、こちらは静田と申します。

 我らがあるじの大地北斗ともどもよろしくお願い申し上げまする」


(佐伯さん、あるじとか言っちゃってるよ。

 まあ雰囲気に合わせてくれたのかな……)


(さすがはダイチ殿の家臣たちだ……

 なんと重厚な人物たちであることよ……

 この中のどの人物でも一国の宰相が務まるに違いなかろうて……)



「それではみなさん座ってくれるかな。

 試食会を始めよう」


 会場に弦楽四重奏の妙なる調べが流れ始めた。


「だ、ダイチ殿、こ、この音は……」


 皆も辺りを見回して、音源がどこにあるのか探していた。


「宰相閣下、これは『音楽の魔道具』で、別の場所で録音されたものを再現しているのですよ」


(まあ魔道具っていうよりは単なるオーディオセットだけど)


「す、素晴らしい魔道具ですなぁ……」



 主賓たちは巨大な丸テーブルについた。

 シスくんが作った総大理石製の逸品であり、各々の前には漆塗りの大型ランチョンボードが置いてある。

 側面には全て細かい彫刻が施されているそのテーブルは、地球で買ったらいくらするのか想像もつかない。

 まあ、重量が2トンもあるテーブルは持ち運ぶことすら困難だろうが。


 椅子もまた豪華なものだった。

 淳の木工所が作ったアルス黒檀製の椅子であり、目に見えない部分も含めて表面には全て彫刻が施されている。

 座面と背中部分のクッションにはペルシャ織の刺繍付きの物が使われていた。



 侍女、侍従、料理人たちは小さめのテーブルの前に困惑しながら立ち尽くしている。

 テーブルの上のランチョンボードはやや小さく、椅子もややシンプルなだけで主賓席とほとんど変わらないものだった。


 このアルスでは木材加工品がほとんど無いため、彼らの中で木製の椅子などというものに座ったことがあるのは、侍従長以外には数名しかいない。



「侍従さん、侍女さん、料理人さん、気にせず座ってくれ。

 今日は試食会なんだから、招待客になったつもりでいいんだぞ」


「皆の者、ダイチ殿もこう仰っておられる。

 気にせず座りなさい」


 皆は恐る恐る椅子に腰を降ろした。



「それでは早速料理の試食会を始めさせてもらおうか。

 最初に断わっておくが、皆が見たことの無い料理がたくさん出てくることと思う。

 どうしても食べられそうになければ、無理して食べないで欲しい」


(シス、そっちも食事をするのに済まんが、みんなの給仕をよろしくな)


(給仕は本体が行いますので大丈夫です♪)



「それから、パーティー当日の手伝いはみんなにお願いするとして、今日の給仕は俺が全て魔法で行うからあんまり驚かないでくれ。

 それじゃあまず食前酒からだな。

 乾杯の音頭は国王陛下にお願いしよう」


 皆の前にグラスに入ったシャンパーニュが出て来た。

 侍従侍女、料理人たちは、突然酒が出現したことに驚いているが、宰相閣下は酒そのものに驚いていた。


「こ、これは…… なぜ泡が……」


「宰相閣下、それはシャンパーニュっていって、そういう酒なんだよ。

 今日の酒は皆があまり酔わないように少し少なめにしてあるからな。

 それでは陛下、よろしく」


「いや今日は『ちきゅう』の料理が食べられるとあって、実に楽しみにしておったのだ。

 ここ最近の姫の快癒といい、民の健康といい、商取引の大成功といい、ダイチ殿には感謝の言葉しかない。

 その上地球の料理まで頂けるのだ。

 今日は大いに試食して、楽しもうではないか。

 それでは乾杯!」


「「「「 乾杯! 」」」」



 因みにここアルスでは特に飲酒許可年齢というものはない。

 慣習的に12歳以下の子供に酒を飲ませないことはあるが、それももちろん罰則などは無く、15歳の成人年齢が近いとなれば、王子も王女も特に問題だとは思っていない様子である。

 まあこのアルスには薄いエールかワインしかないのでそうなっているのだろうが……




「こ、こここ、これはぁっ!」


「宰相閣下、気に入ってくれたかな」


「こ、この爽やかな口当たり、口の中で弾ける泡、それでいて強い酒精。

 色といい味といい、素晴らしい酒ですのぅ……」


「うむ、宰相の言う通りだ。

 これほどの酒は誰も味わったことが無かろう。

 それに実に美しい透明なグラスであるの。

 これはこの酒の色を楽しむためでもあるのだな」


「そうか、それじゃあ乾杯用の酒として、このシャンパーニュは合格かな」


「もちろんだ。

 客もさぞかし喜ぶことだろう」



 ダンジョン村では良子が悩んでいた。

 目の前の皆は子ども姿だが、タマちゃんは153歳であり、イタイ子に至っては500歳である。

 また、シスくんとストレーくんとテミスちゃんの分位体も神界が創造した生命体であり、全員が『状態異常耐性』を持っている。

 飲酒の影響は不明だった。


「みなさん、一口味見するだけですよ。

 全部飲んではいけませんからね」


「「「「 はぁーい♪ 」」」」




「それじゃあ次は、オードブルを出しながらドワーフエールを出してみようか」


 テーブルの上にいくつもの大きな皿が出て来た。

 その上には色とりどりのオードブルが並んでいる。

 大き目のグラスに注がれたドワーフエールが出て来たのを見て、宰相が嬉しそうな顔になった。



「ダイチ殿、この料理は……」


「殿下、これらはメインの食事の前に軽く食べながら酒のつまみにするものでな。

 まあ、酒無しでも十分に旨い物だけど。

 まずはシュリンプカクテルから試してもらおうか」


 中に赤いソースが入ったカクテルグラスの縁に、茹でた赤いエビが2尾かかっているものが各人の前に移動した。


「『しゅりんぷ……かくてる』ですか……」


「そうだ、それは海の中にいるシュリンプというものを茹でて殻を剥いたものだ。

 そのしっぽの部分を手で持って、グラスの中にあるソースをつけて食べてみてくれ」


「は、はい……

 あ、お、美味しい……」


「気に入ってくれたかな」


「ええ、初めて食べましたがとても美味しいです……」


 アルスの皆はエビの味が気に入ったようだ。

 一方で地球の3人はドワーフエールが気に入ったらしい……





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