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194/410

*** 194 行商隊激増 ***

 


 ワイズ王国国王陛下、第3王子殿下、第2王女殿下と宰相閣下の服が完成した。

 それぞれ正装とややカジュアルな服の2着ずつである。


 国王の正装は結局モーニングコートに落ち着いた。

 上着は最高級ウールに襟の部分は黒のシルクである。

 カマーバンドも同じシルクを使用して合わせた。

 ウイングカラーシャツは真っ白なシルクでプリーツがふんだんに使用されており、縞コールパンツもやはり最高級ウールが使用されている。

 黒のボウタイ、サスペンダー、カフス&スタッド、サスペンダー、ベルト、エナメルの靴とポケットチーフは大地が地球から持ち込んだようだ。



 王女のドレスは、背中が大きく開いたマーメイドラインのドレスである。

 色は年齢を考慮して薄いピンクだが、ところどころに銀糸が入っていて煌めいていた。

 上半身はシンプルだが、長いスカート部分にはふんだんにプリーツが入っていて実に豪華に見える。

 また、あちこちに小さなスワロフ〇キービーズが付いていて歩くたびに光を反射し、最高に美しい出来栄えだった。

 首にはやはり年齢を考慮して粒が小さめの真珠のネックレス、頭には大きなピンクダイヤをあしらったティアラを付けているが、これらももちろんすべて大地が地球から持ち込んだものである。

 ピンヒールの靴はアルスでは馴染みが無かったので、普通のハイヒールを履いていた。

 手袋もドレスと揃いの薄いピンクの絹地で作られている。

 ショールは敢えてナイロン地にしたが、その代わりにアルスには存在しない半透明のものである。

 このショールには小さな銀ラメもたくさんついていた。



 王子は白いシルク地の礼装軍服姿である。

 肩の金モールがブロンドの髪と相まって実に凛々しく見える。

 首には王女のドレスと同じ材質のピンクシルクのアスコットタイを巻いていた。

 腰のサーベルの装飾は、地球の本を見ながらシスくんが行ったものである。

 もちろん白地に純金の装飾を入れたものであり、刀身は本物の日本刀を錬成で直刀にしたものを使っている。

 もうどこからどう見ても王子様だった。


 宰相が3人の立派な姿を見て涙目になった。



「それではこれらの服に『保存』と『防御』の魔法をかけようか。

 そうすればワインを零したり剣で切りつけられても、服はもちろん中の人間も守られるからな。

 ついでにどんな汚れもつかなくなるし」


「あ、ありがとうございます」




 大地は王城に淳を呼んでいた。


 淳は嬉しそうに王城を見渡し、大地の親しい仲間であると王家に紹介された後は、正装に身を固めた王族の写真を撮りまくったのである。


 最初は王城の謁見の間で、国王を囲んで王子王女が並んでいる立ち姿の写真であった。

 もちろん謁見室には光魔法で作られた球が12個も浮かび、辺りは昼の戸外よりも明るくなっている。


「王子殿下、もう少し陛下の方を向いていただけますか。

 はいありがとうございます。

 王女殿下はもう少しだけ背筋を伸ばして下さいませ。

 はいそれでいいです、恐れ入ります」


 ぱしゃ。ぱしゃ。ぱしゃ。


「それでは次に、陛下には玉座にお座りいただいて、王子殿下と王女殿下はその両脇に立っていただけますか。

 そうそう、もう少し陛下の方を向いてくださいませ」


 ぱしゃ。ぱしゃ。ぱしゃ。


「次は皆さま笑顔の写真をお撮りしましょう」


 ぱしゃ。ぱしゃ。ぱしゃ。



 こうして100枚近い写真を撮った淳は、休息の合間に大型バッテリーと変圧器込みで持ち込んだ印刷機によりA3版写真を何枚かプリントアウトした。


 王家の皆と宰相閣下はその写真を見て硬直している。

 息子と娘の晴れ姿を目にした国王は、この『しゃしん』をずっと残しておけると聞いて涙目になっていた。



 王女殿下が俄然やる気になった。

 同じような写真を王城の中庭で撮り、王女1人の姿を撮り、兄と2人の写真を撮り、父と2人の写真をプリントしてもらってはしゃいでいる。


 果ては国王陛下に買って頂いたTシャツとスカートを身に着けた写真まで撮ってもらっていた。

 スカートの下からのぞく白い足を見て(膝下だが)、国王は眩しそうな顔をし、王子殿下は慌てて目を逸らしていた……



 そうした写真の中でも、皆が気に入った3枚は、淳が地球に持ち帰って全倍サイズ(600×900)にプリントされ、額装されて届けられることだろう。

 その写真は、国王執務室の今は亡き王子と王女の母親である妾妃たちの肖像画の横に飾られるのである……


 国王陛下はそうした写真と絵を見てまた涙目になっていた……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ワイズ王国総合商会はその活動範囲を順調に広げていった。

 すでに周辺4か国の王都と主な貴族領での商売を終え、4カ国全土とさらにその周辺7カ国での営業も始まっている。


 なにしろ既に各地に支店用地は確保済であり、営業開始の数日前に建物が建ってしまうのである。

 また、商品も毎日本国の王城から運ばれた上に、販売員も警備員も転移で通勤出来るので、さほどの苦労ではなかった。



 そして……

 これらの素晴らしい商品は、全てワイズ王国が齎したものであり、またその莫大な売上金も本国に送られているということは、周辺11か国の王族貴族に知られることとなったのであった……




(ダイチさま、周辺4か国に加えてさらにその外側7カ国からのワイズ王国への行商隊が激増しております)


「やはりそうなったか。

 それで『鑑定』はしてみたか?」


(はい、半数ほどは各国の特産品を持ち、多くの護衛を連れた普通の商人でございました。

 なにしろワイズ王国総合商会の支店営業は、3日から5日ほどで終わりましたので、追加で購入したかったのでございましょう。

 まあ、護衛をつけた割には盗賊も盗賊まがいの領兵も出て来なかったので拍子抜けしておりましたが)


「ははは、モンスター軍団が頑張って駆除してくれてるからな」


(おかげで次回からは護衛が減らせるのでさらに儲かりそうだと喜んでいました。

 塩、砂糖、胡椒、羊皮紙や布地などを持ち込んで来た商人たちは、最初それらが全く売れないのでかなりがっかりしていたようですが、ワイズ王国総合商会本店に行きましたところ、あまりの商品の質と量に相当に驚いていたようでございます。

 おかげで、持ち込んだ商品を王都内の商会に捨て値で売り、その金で大量の品を仕入れて、意気揚々と帰って行きました。

 それ以外にもミルシュ商会などで、植物紙やボールペン、オールドグラスや茶や砂糖や干し柿なども大量に購入しております。

 これからは毎月ワイズ王国を訪れようかとか、この行商を本業にしようかなどと話している者もおりました)


「よしよし、目論見通りワイズ王国の豊かさが周辺国に広まっていってるか。

 それで、行商隊の残り半分はやはり間者だったのか?」


(はい。

『鑑定』でもそのように出ておりましたし、それ以外にも行動があからさまでしたのですぐにわかりました)


「どんなふうにあからさまだったんだ?」


(まずは身のこなしや言葉遣いが商人のものではなく、明らかに兵士のそれでした。

 おかげで複数の商人が隊商を組んでいる中でも明らかに浮いていましたし)


「まあそりゃそうだよな。

 利潤目的の商人と偵察要員の兵士じゃあ話は合わないわなぁ」


(それから、各地の門から直轄領地域に入ったところで皆驚くのですが……)


「もう麦もジャガイモもけっこう育って来てるからな」


(それでも他の商人は王都に向かって先を急ぐのですが、間諜たちは疲れたからと言ってその場で休み、他の商人たちがいなくなると畑に入って行きます。

 そうして村人を探し、何故冬の今麦が生えているのか必死で聞き出そうとしていますね)


「やっぱり秋撒き小麦のことを知ってる奴はいないんか」


(さらにジャガイモの葉や茎を見て、これはなんだと聞いていました)


「ははは」


(それで『悪魔の芋』は実は食べられる上に冬でも育つと聞き、心底驚いていたようです。

 それで帰り際に何株か盗んでいったのですが、如何致しましょうか。

 窃盗罪で逮捕しますか?)


「いや面白そうだからそのままにしておこう。

 そいつにマーカーをつけて、観察しておいてくれ。

 それ以外にも間諜と確認出来た奴すべてにもな」


(はい)


「それで、間諜たちは他にどんなことをしてるんだ?」


(やはり多くの商品を買って行くのですが、ほとんど全ての商品を少しずつ買っていくので、調査や模倣のための行為であることもバレバレですね)


「まあアルスには知的財産保護法なんてまだカケラも無いからなぁ。

 でも、おいそれと真似出来るようなものも無いし、構わんわ」


(ええ、干し柿の種を植えれば甘い柿が生ると思っているようでしたし)


「はははは、8年後も見てみたいもんだな。

 それじゃあ、しばらくしたらそいつらのその後も報告してくれ」


(畏まりました)




 西のニルヴァーナ王国の或る子爵領にて。


「なんだと! ワイズ王国ではこの冬の時期に麦が育っているだと!」


「はい、実は麦は秋にも種を撒いて春には収穫出来るそうなのです。

 その畑の麦の育ち方からして、あと2か月ほどで穂をつけるようになるでしょう」


「それが本当なら、我が領の税を倍、いや3倍に出来るな。

 よし、蔵にある種麦を試しに撒いてみよ!」


「はっ!」


 もちろん彼らは文字通り種を埋めずに撒いた(・・・)

 そして、秋に集まって来る鳥たちの10倍近い鳥が集まって来て、撒いた種は全て食べ尽くされてしまったのである。


 秋に種を撒いたとしても、その時期の野山には他にも種を落とす草はたくさんある。

 例えば野生の粟や稗などの草の実である。

 つまり、鳥たちもそれほど餓えてはいないのだ。

 だが冬のこの時期に餓えている鳥たちにとっては、直播きされた麦の種などボーナスステージのようなものだったのである……



 また或る子爵領では。


「なんだと! 悪魔の芋は食べられるのだと!

 しかも秋に植えて春には実が出来るというのか!」


「はい、ワイズ王国内では広大な範囲にこの芋の畑がございました」


「そうか、それが本当なら、農民共にはこの芋だけを喰わせておけばよいな。

 それで収穫した小麦は全て税として取り上げればよいのか。

 よし! 

 試しにこの芋を植えてみよ。

 1月ほど経って芋が育ったら、お前が試食してみるのだ!」


「はっ」


 だが……

 この間諜は、確かにジャガイモが食べられるということは聞いていた。

 でも、どのように(・・・・・)して育ててどうやって(・・・・・)食べるのかは聞いていなかったのである。


 そして1月後。

 実際に芋が冬でも育つことを見た子爵閣下は大いに喜んだ。

 そうして閣下は、気が逸るあまりまだ小さい芋を試食せよと命じられたのである


 その芋は、土寄せをせずにいたため、芋の上半分は露出して緑色になっていた。

 さらにまだ小さい実であったために、ソラニン合有率もたっぷりである。


 間諜であった家臣は、その芋を茹で、皮も剥かずに食べ始めた。


「ど、どうだ…… 喰えるか?」


「おお、子爵閣下、これは旨いですぞ!」


「そ、そうか、それではわしも喰うてみるとしよう。

 うむ、確かに旨いな!」


「ワイズ王国の農民どもの申すところによれば、茹でた芋に塩を振るとさらに旨いとか」


「そ、それでは試してみるか。

 お前の芋にも特別にかけてやろう」


「ありがとうございます」


「おお! 旨いな!」


「ええ、このほくほくした感じがたまりませんな!」



 そうして……

 もちろんこのあと2人は壮烈な腹痛に見舞われ、丸2日間を厠で過ごすことになるのである……





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