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*** 192 4カ国王都での営業開始 ***

 


 カナダダやEUやオーストコアラリアからの穀物輸入は順調だった。

 このままの輸入ペースが続けば、大地の代理人であるタイ王国サイアム食料の食料取引額は膨大なものになり、遠からず世界5大穀物メジャーに並ぶものになるだろう。


 特にオーストコアラリアに於いては中部砂漠地帯の西側に雨が降り始めているそうで、周辺地域の穀物生産は好調である。

 どうやら大地が作った巨大な溜池から蒸散した水蒸気が、雨となって地表に降り注ぎ始めているらしい。

 考えてみれば、あの溜池の面積は7850平方キロもあり、世界第4位の面積を持つ湖になる。

 国際宇宙ステーションからも視認出来るような湖が、周囲の気候に影響を与えないはずは無かったのだ。



 オーストコアラリア政府からタイ王国を通じて大地にお伺いが来た。

 それは、あの溜池の水を周辺の灌漑用水として利用させて貰えないかというものだった。

 あの水が使用出来れば、かなりの広さの砂漠地帯が緑の大穀倉地帯に変るかもしれないという。

 大地は、その農地で得られる作物の優先買付権を条件に、この申し出を快諾した。


 因みに、日本政府からも外交ルートを通じて古米売却の打診が来た。

 大地の返答は、『いくらなんでも高すぎる。たとえ半額になっても高くて買わない』であった。

 日本産の農産物価格は、世界の常識から見れば異次元と言っていいほどに高い。

 農家の票欲しさに、その補助金を通じて異常なまでに優遇して来た政治のツケが回って来た結果である。



 EU各国からの穀物買い付けも順調だったが、フラフランス共和国だけは非協力的だった。

 どうやら大統領自らトップセールスによってタイ王国に原子力発電所設備を売りつけようとしていたのに、大地の揚水発電提供によって白紙にされてしまったため、マカロン大統領が拗ねているらしい。


 一方でウクララライナは食料売却に積極的だった。

 現政権の親EU政策によってロリシア連邦共和帝国と疎遠になりつつあったウクララライナは、ロリシアに売れなくなりつつある食料の販売先を探していたからである。


 そして、何と言ってもウクララライナは、小麦輸出量で世界第4位、トウモロコシの輸出量でも世界第4位の大農業国である。

 サイアム食料とウクララライナ政府の穀物購入交渉は、数量価格ともに実に円滑に進んだ。

 こうして、サイアム食料が購入した巨大倉庫には、毎日毎日膨大な量の穀物が運び込まれていったのである。

 しかも、支払いは1週間ごとに金で決済され、現地サイアムの金庫室から隣にあるウクララライナ政府の金庫室に運び込まれるという、実に堅実なものだった。



 ウクララライナのロリシアやEU諸国に対する借款は、その価値が不安定で国際的な流動性も小さいウクララライナ通貨フリブニャンではなく、ユーロ、ロリシア・ルーブル、または金でという規定があったために、ウクララライナ政府もこれを大いに喜んでいたのである。



 因みに……

 不思議なことに、この倉庫は夕方には穀物で一杯になっているにも関わらず、扉を閉ざして翌日になると、中の食料が全て消え失せていた。

 どうやら神界が持つ物質転移能力によって異世界に運び込まれているらしい。



 そして……

 ロリシア連邦共和帝国に於いて、旧KGB第1総局の流れを汲むロリシア対外情報局(SVR、ロリシア語ではCBP)の長官を兼務する、ウラジジーミル・プーチンチン大統領の命令により、膨大な人数の諜報員エージェントがウクララライナに送り込まれて来たのである。


 或る者は農産物を運ぶトラックの運転手として、また或る者はフォークリフトで食料を積み上げて行く作業員として倉庫で働き、転移能力の秘密を知ろうとする試みだったようだ。

 ウクララライナ共和国内部に於いては、旧ゾンビエト連邦時代の隠れエージェントやコネも多く残っていたために、実に多くのエージェントが浸透出来たらしい。




 或る日、プーチンチン大統領は、クレムリン宮殿の私室ダイニングで大好物のスパイシーなボルシチを食べようとしていた。

 そうして、大統領がまさにボルシチを口に入れた瞬間に、テーブルの上に突如マッパになって気を失っている男が現れたのである。


 それも、マッパ男は正座の姿勢で前屈みになり、尻を上に上げていた。

 そうしてもちろん、その尻をプーチンチン大統領に向けていたのである。


「ぶふぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!」


 大統領閣下はボルシチを盛大に吹いた。


 その場にいた護衛官によりマッパ男は直ちに拘束され、ロリシア連邦保安庁(FSB)に連行された上で取り調べを受けた。

 そうして、意識を取り戻した男の証言に基づき、指紋採取、DNA検査、果てはベラドンナ系自白剤まで使用して、厳しい尋問が続けられたのである。


 だが、いくら調べても、男は実在のロリシア対外情報庁(SVR)のエージェントであり、ウクララライナでのサイアム食糧倉庫への潜入任務に就いていた者だったのである。

 男の証言によれば、ウクララライナでのサイアム食糧倉庫での任務中、食料箱の中に隠れていたものの、夜になって扉が閉められた途端に気を失ったというのだ。

 そして、気が付いたらプーチンチン大統領の食卓の上だったという。



 この日以降、プーチンチン大統領の周囲には頻繁にマッパ男が出現するようになった。

 あるときは執務室の机の上、またある時は入浴中のバスタブの中、果てはトイレで座っているときに膝の上に現れたこともある。

 就寝しようとして、ベッドの上に女性エージェントが巨大な尻を向けたままマッパでいるのに気づいたときは、大統領の悲鳴に女性エージェントの悲鳴が重なって大騒ぎになった。



 ロリシア対外情報庁(SVR)本部のウクララライナ工作担当官は焦っていた。

 いくらサイアム食料の倉庫にエージェントを送り込んでも、全員行方不明になってしまうのである。

 もちろんロリシア対外情報庁(SVR)と連邦保安庁(FSB)は仲が悪かったために、エージェントが大統領閣下の傍らに転移させられているという情報は入って来ていない。


 プーチンチン大統領直々の命令に見事成果を上げて出世を目論んでいた野心家の担当官は、焦るあまりさらに続々とエージェントを送り込んでいったのだ。



 プーチンチン大統領の周囲に突如現れるマッパ男女が激増した。

 もう食事の時は毎回必ず現れる。

 大統領はテーブルの上に衝立を置かせて凌ごうとしたが、そのときはボルシチの皿の中に男の尻が落ちて来た。


「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!」


 熱いボルシチにナニが浸かった男は、瞬時に気絶から目覚めて叫び声を上げた。


 おかげで、プーチンチン大統領は、ボルシチに入っているソーセージがトラウマになってしまっている。


 疲れ果てた大統領は、ロリシア対外情報庁(SVR)にウクララライナでの作戦中止を命令すると同時に思い至ったのである。


(まさか…… 

 もしもこの転移の能力が倉庫外でも使えるとしたら……

 わたしですら、いつなんどきでもマッパでどこかに転移させられることもあり得るのか……)




 よかったねぇ大統領さん……

 その判断があと数日遅かったら、シスくんが傷心のトリンプ大統領さんを慰めてあげるために、あなたをマッパで彼のベッドに放り込んでいるところだったんだよ。

 そんな、日本の腐った女どもですら悲鳴を上げるようなことにならなくって、本当にヨカッタね♪




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ワイズ王国周辺4か国に於けるモンスター悪党駆除師団の戦績は超優秀だった。

 もちろん自分たちからは手を出さず、強盗未遂犯や強盗殺人未遂犯を捕獲しただけだったが、それでも街道や街内を流しているだけで入れ喰い状態である。


 特に、各国とも王都からワイズ王国にかけての貴族領では、その領兵のほぼ95%が行方不明になっており、領主や領主代行も半数以上が捕獲されている。

 同時にワイズ王国総合商会の営業活動も大成功を収めており、とうとう4カ国とも王都での支店営業が始まろうとしていた。


 さすがにこのときは、大地もワイズ王国王城に置いた執務室から4つの支店の動向を見守っている。


(ダイチさま、4カ国4つの王都支店での営業準備が整いました)


「ご苦労、貧民街のチンピラたちの組織化は終わっているな」


(はい、既に多くの住民は現地チンピラたちの誘導によって支店前に集結しつつあります。

 彼らの得意分野である暴力での圧倒と金貨10枚の報酬は、やはり大きな効力を発揮しているようですね)


「援軍の待機状況は?」


(ダンジョン村にてモンスター戦士4個大隊1000名とブリュンハルト隊の1個中隊120名が即応体制を取っておりまして、ご命令あらば直ちに出撃出来ます)


「ご苦労。

 だがまあ、そこまでは必要無いだろう。

 イザとなったら俺が出るから待機援軍の数は10分の1でいい。

 残りは通常任務に戻せ」


(はい)


「それではいつも通りに、時間になったら営業を開始せよ」


(畏まりました)




 王都での営業も、貴族領都に比べて規模が大きいだけで中味は同じだった。

 商人たちは、或る者はワイズ王国総合商会を無視し、或る者はその素晴らしい商品を喜び、また或る者は憎んだのである。



 そして……


「これは、昨日中堅商会が当家との取引を望んで特別献上してきた品々である。

 お前の商会は我が伯爵家のメイン先であるにも関わらず、なぜこうした素晴らしい品々を献上して来ないのだ」


「そ、それは……」


「言い訳は必要無い。

 よいか、明日までに献上が無ければお前の商会は出入り禁止とする」


「そ、そんな……」



 こうして冷や汗をかいて貴族邸を辞した大手商会の会頭たちは、すぐにお供を引き連れてワイズ商会の支店に赴いたのである。


 だが……


「な、なんだこの人だかりは……」


「どうやら無料の炊き出しが行われているようでございますね……

 それで王都の住民が全て集まって来ている模様です」


「ええい! この貧民共をどけろ!」


「は……」


「あー、ダメですよお客さん、列に割り込んだりしたら。

 順番は守って下さいね」


「な、なんだと!

 わしはこの王都最大のグリンフェル商会の会頭ぞ!

 そのわしになんという無礼な口を利くのだっ!」


「あれ?

 大手商会さまは昨日招待させて頂いたはずでございますが、昨日来て下さらなかったんですか?

 今日おいで下さったということは、一般の街民の方だということですよね?」


「うぐぐぐぐぐ……」


「今日から一般販売開始なのですが、おかげさまでご覧の通りの大盛況でございまして、ただいま入場制限中でございます。

 今は約2時間待ちとなっておりますので、並んでお待ちください。

 尚、場所取り行為はご遠慮願っておりまして、並んで頂いたご本人さましかご入場出来ませんので、ご承知おきくださいませ。

 ですが列の横にはベンチもございますし、あちこちに大道芸人もおりますので、それなりにお楽しみいただけるかと思います」


「ぬぐぐぐぐぐ……」



 会頭は2時間並んでようやく店内に入った。


「これとあれとそれを全部100個ずつよこせ!

 あとそれとこれもだ!」


「お買い上げ誠にありがとうございます。

 全部で金貨80枚でございますね」


「年末にグリンフェル商会まで取りに来い!」


「あの、こちらの商品はすべて現金決済でございまして、金貨と引き換えでなければお渡しすることは出来ないのですが……

 入り口にもそのように書いてございます」


「な、なんだと!

 こ、このわしにそこいらの街民のように現金で買えと言うのかっ!」


「はい、王命でございますので」


「なに!」


「こちらの商品は全てワイズ王国王城の卸売り部から仕入れたものでございまして、その際に掛け売り厳禁との王命が下っておりますれば……」


「い、今金貨を取りに帰るので、この商品は取り置いておけっ!」


「お待ち申し上げております……」



 30分後。


「おい! 取り置き商品の代金を持って来た!

 すぐに店内に入れろ!」


「申し訳ございませんお客さま。

 ただいま混雑しておりまして、店内への入場制限をさせて頂いております」


「だから先ほど店内で商品を買い、代金を取りに帰ったと言っておるだろう!」


「代金をお支払い頂いていないということは、売買契約は終了していないということでございますね」


「な、なにっ!」


「それでは改めてお並び頂いてご入場くださいませ」


「ぬぐぐぐぐぐ……」


「ただいまおよそ3時間待ちになっておりますです」


「ぬがあぁぁぁぁぁぁぁ―――っ!」





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