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188/410

*** 188 商品輸出 ***

 


「いらっしゃいませお客様。

 申し訳ございませんが、店内では護衛の方はお1人様とさせて頂いております。

 残りの護衛の方は、あちらの建物でお待ちいただけますでしょうか」


「なんだと!

 わしは、キルストイ帝国の大使であるメサイアス・ミシュングール伯爵嫡男ぞ!」


「王命でございますので」


「ぐぐぐぐぐ……

 そ、それでは特別に許してやるっ!」



(な、なんだこの商品は……

 み、見たことも無いものばかりだ。

 あ、あれは金属の髪飾りだと!

 あれは鏡か!

 あれは羊毛製品らしいが……

 そうか、あれは手に嵌めるものであれは首に巻く物か。

 冬の防寒着であるな。

 寒い我が国では大いに売れるだろうが、いったいどのようにしたら羊毛をあのように加工出来るのであろうか……

 それにあの服の数々も素晴らしいではないか。

 半数が羊毛製品らしいが、なぜにあのような鮮やかな色がついているのであろう……


 そうだ。

 ここでこれらの商品を仕入れて我が領の毛織物職人に渡せば、その秘密がわかるかもしれん。

 また、領都の商人に任せれば、王都で売って大儲け出来そうだの。

 さすれば来たるべきワイズ王国への侵攻に備えて、領軍のさらなる軍備増強が出来ようて……

 そうか、この冬には侵攻が始まるかもしれんから、支払いは来年末にすれば踏み倒せるな……

 ぐふふふふふ……)



 メサイアス・ミシュングール伯爵嫡男は下品な笑みを浮かべた


「ここにはどれほどの商品があるのか」


「おおよそ1万点ほどでございます」


「よし、わしが全て買ってやるのでありがたく思え。

 品は直ちにキルストイ帝国の大使館に届けよ」


「ありがとうございます。

 すべての商品が金貨1枚でのご提供になりますので、総額で金貨1万枚(≒100億円)になります」


「うむ、来年末に我がキルストイ帝国のミシュングール伯爵邸まで取りに来い。

 金貨を下賜してやる」


「いえ、こちらの品は全て店内での現金決済でございますので、今金貨1万枚をお支払いくださいませ」


「なんだと!

 げ、現金決済だと!

 そ、そんな平民のようなことが出来るか!」


「王命でございます」


「なんだとぉっ!」


「王命でございます」


「お、王に直接抗議してやるっ!」




「我が国の最高外務顧問、ダイチ・ホクトがお会いさせて頂きます」



「ふーん、あんた商品をツケで買いたいんか」


「あ、当たり前だ! 上級貴族が平民のように現金での買い物など出来るか!

 ただちにあれらの商品を献上させよ!

 代金は年末に下賜してやる!」


「なあ、それはキルストイ帝国の要求なのか?

 それともミシュングール伯爵家嫡男としての要求なのか?」


「両方に決まっておろう!」


「それじゃあさ、あんたの国では羊を飼育しているよな。

 それを1(つがい)につき金貨1枚で買ってやるから100(つがい)ほど連れて来いや。

 そうしたら100個の商品を渡してやるからそれでチャラにしようぜ」


「何を言うか!

 我が国の羊は門外不出であるっ!」


「あれ?

 国が国に何かを要求したら、要求された国はその見返りに別の物を要求するもんだぞ」


「な、なに……」


「それが外交ってぇもんだろうが。

 あんた大使のくせに、そんなことも知らなかったんか?」


「な、なんだとぉっ!」


「貴族の常識もいいけどよ、外交の常識も勉強して来いや」


「あぎぐぐぐぐぐぐ……」




「ふーん、ってことはあんたはあの商品をツケで買いたいって言うんだな」


「あ、当たり前だ!

 平民のように現金払いで買えなどとは、サズルス王国大使でありボヘンバール侯爵家嫡男であるわしに対する最大限の侮辱であるっ!

 そもそも上級貴族家にはまず商品を献上するのだ。

 それに対して金貨を下賜してやるのが当然であろう!」


「そしたらさ、あんたの国の南側で綿花を栽培してるよな。

 その綿花の種を5トンばかり俺に『献上』しろや。

 そしたら300点までの商品のツケ買いの権利を『下賜』してやんよ」


「なんだとぉぉぉっ!」


「欲しい品は取っておいてやるから、早く綿花の種を持って来いやぁ」


「め、綿花が門外不出であるのは王命ぞっ!」


「だったらしょうがねぇか。

 こっちも王命だからな。

 どうしてもツケで買いたかったら、そっちの王さんを説得して来いや」


「な、なななななな……」


「ったくよう、大使が相手国になにか要求したら、見返りの要求が来るのは当たり前だろうに。

 そんなことも知らねぇボンボンだから、いいトシこいて未だに爵位を譲ってもらえねぇんだよ。

 もっと社会勉強して来いやぁ」


「あぎぐぐぐぐぐ……」




 大地の執務室の壁にかかったタペストリーの向こう側では、国王と第3王子と宰相が聞き耳を立てていた。


 国王陛下は顔面を紅潮させて爆笑しそうになるのを必死で堪えていたが、王子と宰相は顔面蒼白になっている。


(それにしても……

 絶対強者とは肝の座り方も尋常ではないのだな……)


 第3王子は自分の震える手を見ながらそう思っていたのである……




 いや、たぶん違うぞ。

 大地くんはなんの努力もせず、実力も無く、ただ生まれだけで威張り散らす貴族DQNが単に嫌いなだけだと思うぞ……




 因みに……

 なぜ貴族は特別扱いを望むのだろうか。

 現代地球でも何故エラいさんは特別扱いを欲するのだろうか。


 見るからに高そうな服を着て大勢の護衛(お供)を連れて歩きたがり、買い物は売り場と店員を独占し、カネはあるくせにツケで買いたがる。

 何故そうした特別扱いを望むのか。


 これについては興味深い仮説がある。

 それは、彼らエラいさんと彼らが下層階級と見做している者たちとの肉体的な差異が全く無いせいだというのだ。

 つまり、特別な服を着て特別な扱いを受けなければ、自分が特別な人物であると確認出来ないのである。


 したがって、古代社会でも現代でも、もしも一般人とエラいさんの間に肉体的な差異があれば、このように上位者(だと自分では思っている者)が特別扱いを強要する社会にはならなかったという仮説である。


 例えば平民はヒト族のままだが貴族になるとツノが生えて来るとか、上級貴族になるとツノの数が増えるとかいう差異である。

 王族はツノだらけになってハリネズミ状態であるとかならば、皆安心出来るだろう。


 地球でも役員になるとシッポが生えて来るとか、議員になるとそのシッポがヤタラにデカくなって2メートル級になるとか、そういう肉体的差異が発生すれば、エラいさんは安心して威張らなくなるに違いない。

 そのときにはズラシッポも大いに売れるようになって、新しい産業も興っていいことづくめであろう。



 また、古代から近世までの貴族の存在意義レゾンデートルは、王室や皇室の藩屏であるというものだった。

 つまり、王族や皇族のちやほや要員であり幇間である。

 それを当然と見做す心理が、自分も平民たちから同じヨイショを受けたいという願望に変化してしまうのかもしれない。


 これに関しては現代の会社組織でも同じことが言える。

 実際に仕事を行って組織に利益を齎す役割を持つのは、せいぜい課長か次長あたりまでである。

 それ以上の部長や役員は、すべからく社長や会長の幇間要員であるために、自分が日々上位者に対して行っているのと同様な尊敬行動やヨイショを、つい部下にも求めてしまうことと推察される。

 部下が自分を尊敬し、尊重することこそが健全な組織の維持に繋がると勘違いしている管理職の如何に多いことか。


 これは、ヒエラルキーの発達した類人猿から進化したヒト族の宿痾といえよう。

 下位のサルの上位のサルに対するヨイショ行動の種類は実に豊富である。


 多分、サル以外の動物から進化したヒューマノイド社会に於いては、こうした周囲にヨイショを求める行動は見られないのではないか……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「テミス、悪党捕獲部隊の様子はどうなってる?」


「ダイチさまの『ご命令』が効いたのか、どの部隊もすさまじい勢いで悪党たちを捕獲し続けています。

 盗賊はもちろん、各街の商業ギルド員、傭兵ギルド員、衛兵、領兵、盗賊に成り下がった村人、教唆犯の貴族家当主など、荷を狙って襲って来た者たちを、片っ端からストレーさんの倉庫に『転送』していますね。

 転送先は完全時間停止倉庫ですので、罪状認定と牢獄への収用は後でゆっくり行わさせて頂きます」


「そうか、みんな頑張ってくれてるか」


「はい」


「それじゃあそろそろ商品の輸出を始めるとするかね」





<現在のダンジョン村の人口>

 12万3144人


<犯罪者収容数>

 1万5832人(内元貴族家当主351人)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 大地は、王城に借りた部屋に、新たに発足した『ワイズ王国総合商会』の主要メンバーを集めた。


「それでは諸君、準備が整ったので周辺4か国への商品輸出を始めよう」


「「「 はい! 」」」


「最初は練習として、ワイズ王国と国境を接する西のニルヴァーナ王国のアグザム辺境伯爵領都から始めようか。

 販売員は10名で充分だ。

 護衛はうちの精鋭が5人つくし、炊き出し要員は俺の国から連れて来るしな。

 初回だから俺も同行しよう。

 現地で販売する予定の商品は用意してあるか?」


「既に準備を終えております」


「それを魔法で現地支店に転送してから俺たちも転移しようか」


「は、はい……」




「こ、ここは……」


「ん? ニルヴァーナ王国のアグザム辺境伯爵領都にあるうちの支店だぞ。

 さあ商品の陳列を始めてくれ。

 ジョシュア少佐はこの40通の招待状を持って商業ギルドに行って、この領都の大手商会に届けるよう依頼して来てくれるか。


 明日は商会用の特別販売会だが、明後日からは街民への一般販売にするぞ。

 ついでに炊き出しもするし、サプリ飴も配ろう。

 ジョシュア少佐は帰りに奴隷商を全て廻り、奴隷全員を購入して来て欲しい。

 教会にいる子供や乳幼児たちもな」


「はっ!」


「護衛は1人俺について来てくれ。

 貧民街に行ってみよう」




「おーい、この貧民街のボスはどこにいるんだぁ?」


「なんだ手前ぇは!」


「あー、お前ぇみてぇなチンピラには用は無ぇからよ、早くボスのところに案内しろやぁ」


「なんだとこのガキぃっ!

 死にてぇのかっ! おらぁっ!」


 ドガ。


「ぐげぇぇぇ!」


「早くボスを呼んで来いって」


「こ、この野郎……」


「はいはい、仲間がいるならもっと呼んで来た方がいいぞぉ」


「うるせえっ!

 お、お前ぇたち、こいつをブチのめせ!」


「「「 へいっ! 」」」


 ドガドガドガ。


「「「 ぐげぇぇぇ! 」」」



 そんなことを3回ほど繰り返していると、ガタイのいい大男が子分を引き連れてやって来た。


「貴様、命が要らんようだな……」


「お、ようやくボスの登場かよ。

 それにしてもお前ぇの子分たちは弱ぇなぁ」


「お前ぇたち! こいつをブチ殺せっ!!」


「「「「 へいっ! 」」」」


 ドガドガドガドガドガドガドガドガドガ。


「「「「 どげぇぇぇぇぇぇ! 」」」」



「あぐうぅぅぅぅ……」


「おいボス、お前ぇに仕事を依頼したい」


「し、仕事だと……」


「そうだ、仕事だ。

 俺は明日から新しく出来た店で商売を始めるが、同時に明日から3日間無料の炊き出しも行う」


「あ、あの真っ白で馬鹿みてぇにデケぇ店か……」


「そうだ。

 お前たちはこの貧民街の全員をその店に連れて来い。

 そこでそいつらにメシを喰わせてやる」


「な、なんだと……」


「もちろんお前たちも喰い放題だ。

 だがいいか、孤児も年寄りも病人も怪我人も全員だ。

 お前たちなら全員知っているだろうからな。

 貧民街が終わったら、平民街にいる奴らの中でも貧しい奴らは全員連れて来い」


「……………」


「タダで働けたぁ言わねぇ。

 ここに金貨が3枚ある」


「!!!」


「こんだけありゃあ、お前ぇと子分たちの3日間の日当としては十分だろ」


「あ、ああ……」


「それから、隣のフォルム男爵領とミズラン子爵領の貧民街のボスは知ってるか」


「どっちも俺の兄弟ぇ分だ……」


「どちらの街にも俺の店の支店がある。

 今から気の利いた子分を使いに出して、5日後からこの街と同じことを始めるから、民たちを集めろと言え。

 この金貨6枚は3枚ずつそいつらに渡せ」


「ま、マジかよ……」


「お前ぇもさっき俺が手加減していたのはわかっただろう。

 だが、俺を裏切ってムカつかせたら、手加減は無ぇ……」


「わ、わかった……」




「どうだいマスラン大尉、要領はわかったかな」


「はい」


「もし手加減を失敗して重傷を負わせたら、ストレーの倉庫に転移させるように。

 シスが治してくれるだろう」


「畏まりました」





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