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*** 187 ワイズ王国総合商会新店舗 ***

 


 或る日のダンジョン村の族長会議にて。


「族長諸君、諸君にまた頼みがある」


 族長会代表のゴレム族長が手を挙げた。


「ん? どうしたゴレム族長」


「その前に我ら族長会からもダイチさまに願いがあり申す」


「なんだ願いって?」


「これより我らにはご依頼ごとを下さられるのではなく、ご命令を頂戴出来ませんでしょうか。

 その方が遥かに気合が入り申す」


「お前ら……」


 見れば族長全員が大きく頷いている。


「よしわかった!

 我が精鋭モンスター軍団に命じる!

 これより悪党捕獲部隊200組は、4つの大隊に分かれて、ワイズ王国を取り囲む4つの国の悪党どもを掃討せよ!

 第1大隊の大隊長はゴブ太郎族長だ!」


「おう!」


「第1大隊は、西のニルヴァーナ王国の担当とし、まずワイズ王国との国境からニルヴァーナ王国王都までの地域で行動せよ!」


「ご命令、確かに頂戴仕った!」


「第2大隊の大隊長はオークル族長とし、北のキルストイ帝国内の帝都までの地域の悪党を一掃せよ!」


「承知っ!」


「第3大隊の大隊長はオーガン族長だ。

 同じく東のヒグリーズ王国の王都までの悪党を殲滅せよ!」


「ご命令確かに頂戴いたしました!」


「第4大隊の大隊長はトロルゴ族長に任せる。

 南のサズルス王国北部の悪党を全て捕獲せよ!」


「御意っ!」


「馬車の引手はブラックホース族とワイルドバッファロー族に任せる!

 ノワール族長、バッフィー族長、頼んだぞ!」


「「 畏まりました! 」」


「総司令官はゴレム師団長とする!

 各員一層奮励努力せよっ!」


「「「「 うおおおおおおおぉぉぉぉ―――っ! 」」」」


(みんなすっげぇ気合入っとる……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ワイズ王国では新しい36か所の村の準備が全て整った。

 村人と街人たちは大地に跪いて礼を言い、秋撒き小麦の種やジャガイモの種芋や柿の種を満載した荷車を曳いて各村に移住して行った。

 代官たちの指導の下、明日からでも畑に作付けを始めることだろう。


 冬の間の炊き出しは中間部の6つの中核村で行われるが、そこは最も遠い村でも3キロほどであり、歩いて30分少々で来ることが出来る。

 この時代の農民たちにとっては何ほどの距離でもない。

 6つの中核村では他の村の村人用に仮設住宅も用意されているので、炊き出しを食べて生活しながら畑に通うことも出来るだろう。


 さらに、王都内1か所とこの6つの中核村には、『診療所』が用意されたのである。

 そこでは新たに雇われた代官見習いの若者3人が24時間体制で常駐し、各村から病人や怪我人が運ばれて来ると、小屋内の『治癒系光魔法Lv5』の魔道具に付いている白い石に触れて治療をしてやるのである。

 42か所の各村々には、ダンジョン村木工所製の箱馬車も救急車として貸与された。

 馬の代わりに大人1人が引いて、病人と付き添いを診療所まで運ぶためのものであり、箱の横には白地に赤十字が書いてある。


 この時代のアルスでは、平民は「治療」という行為には縁が無かった。

 唯一貴族のみが王城の医務官による治療を受けられたのだが、それもお粗末なものだったのである。


 それが、この診療所では魔法の力によって全ての怪我や病気が治ってしまうのだ。

 村人たちはますます大地を神さま扱いし始めた。



「ダイチ殿……」


「なんだい王子」


「この診療所というものは素晴らしいものであります。

 これで王国民の多くが病や怪我などから救われることでしょう。

 ですがいくつか懸念もあるのです」


「どんな懸念だい?」


「あの魔道具は魔石の力で動くとのこと。

 確かにダイチ殿は多くの予備の魔石を用意して下さいました。

 あれだけの魔石があれば、あの魔道具は10年は使えるでしょう。

 ですが、その後ダイチ殿が他の地に行かれてしまったときには、あの貴重な魔道具が動かなくなってしまうと思いまして……」


「さすがだな、そういう長期的な視点こそ為政者には必要なものなんだ。

 だが心配は要らない。

 魔石の魔力が無くなれば、俺がまた魔力を込めに来よう」


「ありがとうございます。

 ですがいつまでもダイチ殿を頼るのも……」


「そうだな、今はまだ無理だけど、この辺り一帯の戦乱が収まったら、王子や国軍の上級将校にはダンジョンに入って鍛えて貰おうと思ってるんだ。

 まあ、10年後になるか50年後になるかはわからんが。

 そこである程度頑張れば初級魔法ぐらいは使えるようになるから、魔石に魔力を込めるのも自分たちで出来るようになるぞ」


「えっ……

 そ、そのようなことが許されているのですか?」


「それこそがダンジョンの役割だしな。

 しかも、500年前にこのアルスにダンジョンが出来た時には、ダンジョンで魔道具や魔石が得られたし、頑張れば自分で魔石に魔力を込めることも出来たんだ。

 だが、その力を使って当時の者たちが暴力集団を作って自分たちの国を造り始めたんだよ。

『俺は王だ! 俺に税を払わねば殺す!』って言ってな」


「そうだったのですか……」


「実際に奴らは建国と称して敵対勢力を殺しまくったしな。

 当時3500万人いた人口が10年で2500万人になってしまったほどだ」


「そんなに……」


「だから今の王族には、先祖の罪滅ぼしとして民のために働いて貰いたいと思っている」


「はい……」


「まあこの辺りが平定されて、戦ばっかりやりたがる阿呆な王侯貴族がいなくなったら、ダンジョンに招待してやるからさ。

 それまで少し待っていてくれ」


「はい、ありがとうございます……」




 数日後には、これらの全ての村を囲む城壁も完成していた。

 東西南北に4か所の門を持つ高さ6メートルほどのごく普通の城壁である。

 外から見れば在り来たりな城壁だが、その内側には今後戦が始まった際には大幅な改造が行われるよう既に準備は終わっていた。



 王都の南門の外、今まで雑木林があった場所に広大な店舗も完成した。

 塀に囲まれた敷地の広さはサッカー場のピッチほどもある。

 王都民向けに大地が地球から持ち込んだ商品を売る店は、敷地の3分の1ほどを占める白亜の壮麗な建物だった。

 その内部は光の魔道具で明るく照らされ、多くの商品がガラスケースに入れられて並ぶ中、たくさんのベンチや観葉植物までも置いてある。


 さらにその敷地内には、炊き出し場に加えて演芸場まであった。

 この店を訪れた王都民はもれなくサプリ飴が貰えたため、王都民のほぼ全員が毎日やって来る。

 さらに日に1度は炊き出しが行われ、その合間には演芸場で紙芝居や合唱などが行われるのである。

 商品を買う金の無い者でも、1日中十分に楽しめた。

 店の中のベンチに座り、ため息をつきながら何時間も商品を見ている女性たちの姿もある。

 もちろん王都の診療所はこの建物に併設されていた。




 王城の敷地内に、貴族向け店舗も完成した。

 無駄に広かった近衛兵用の宿舎を全て取り壊し、その跡地に転移させられて来たダンジョン商会の高級支店用の建物である。


 周辺各国からの大使を含む国内全ての貴族家に豪華な案内状が届けられ、王城の敷地内ということもあって、開店と同時に連日大勢の貴族が訪れることとなった。



 そして……


 貴族向け店舗の入り口前には2人の男が立っていた。

 1人は40歳ほどの大男であり、もう1人は16歳ほどの少年である。

 大男は城の侍従長が着ているような見事な服を着ていた。


「いらっしゃいませお客様。

 恐縮ですが、お客様1組さまにつきまして、護衛の方はおひとりまでとさせて頂いております。

 残りの護衛の方はあちらの建物でお待ちくださいませ」


「なんだと!

 わ、わしを誰だと思っている!

 ニルヴァーナ王国駐ワイズ王国大使、アグザム辺境伯爵家が嫡男マイグルス・アグザムであるぞ!

 ええい! 下賤の者頭が高い!」


「この城内に於きましては、跪下は謁見室の国王陛下に対してのみであり、それ以外の場では無用とのことであります」


「だ、誰がそのようなことを決めたというのだ!」


「王命でございます」


「なんだと!」


「加えて店内への護衛の同伴は1名様のみでお願いいたします」


「ふざけるな! わしがわしの護衛を連れていて何が悪い!」


「王命でございます」


「こっ、こここ、この無礼者め!」


「もしもどうしても複数人の護衛をお連れになりたいと仰るのであれば、誠に申し訳ございませんが、店内への入場はお断りさせて頂きますです」


「な、なんだと!!

 こ、このわしを門前払いすると言うのか!

 もう許せんっ!

 お前たちこやつらを叩っ切れっ! 不敬罪だっ!」


「「「 ははっ! 」」」


「マイルズ、この8人はお前ひとりで素手で無力化せよ。

 少尉への任官試験だ。

 もちろん殺さないようにな」


「はっ! 中佐殿っ!」


「なにをぐちゃぐちゃ言っておるかぁっ!

 者共かかれぇいっ!」


 ドガバキグシャメキボキズガバキョン。


「「「「 ぐあぁぁぁぁぁぁ―――っ! 」」」」


「なっ…………」


「よしマイルズ、よくやった。

 お前はたった今から少尉に昇格とする」


「ありがとうございますっ!」



「マイグルス・アグザム閣下。

 僭越ながらひとつ申し上げさせてくださいませ。

 護衛はもう少し強者になされた方がよろしいかと存じます。

 剣を手にした8人もの男が、成人したばかりの無手の少年にあっさり倒されてしまうとは。

 これでは護衛として役に立ちませぬばかりか御身やお国の恥となりますぞ」


「な…… な…… な……」


「それでどうなさいますか。

 こちらの護衛の皆さまは私共で大使館までお届けさせて頂きますが、閣下は店内をご利用なさいますか?」


「この野郎っ!

 国王に賠償を求めるぞっ!」


「どうぞご随意に」


「ぐぐぐぐぐぐ……」



 あまり関係の無い話ではあるが、このマイグルスは若いころから頭髪が薄かった。

 それを何とかしようとして残っている髪を長く伸ばして頭皮に貼り付けている。

 まあ現代地球でいうバーコードハゲのようなものである。

 だがそのやり方が極端すぎた。

 20年以上もかけて尻まで伸ばした頭髪を全てとぐろ型に頭皮に巻き付け、それを蜜蝋で固めていたのである。

 つまりまあ、う〇こ頭になってしまっていたのであった。


 さらに……

 この時代の男性のほとんどは髭や髯や鬚を生やしていた。

 地球でも古代にはほとんどの男性がそうしていたし、現代でも古代人と同じく闘争を好む者が多い地域では、皆ヒゲを生やしているだろう。

 つまりヒゲとは、『俺は男だ! ケンカならいつでも買ってやるぜ!』という意思表示なのである。

 故にサラリーマンは毎日ヒゲを剃って出社することを求められるのだ。

 上司や客にケンカを売ってはならないということなのであろう。


 このマイグルスも一見して立派な口髭を生やしていた。

 それも蜜蝋で固めて左右の端を上に向かって尖らせた、見事なカイゼル髭になっている。


 だが……

 実はマイグルスは髭も薄かったのである。

 そう……

 この口髭は実は全て鼻毛だったのだ!



「おい! 俺はニルヴァーナ王国駐ワイズ王国大使、アグザム辺境伯爵家が嫡男マイグルス・アグザムだ。

 大至急国王に取り次げっ!」


「少々お待ちくださいませ……」



「お待たせいたしました」


「遅いっ! ニルヴァーナ王国の大使を待たせるとは何事だっ」


「あいにく国王陛下は多忙中のため、外務最高顧問のダイチ・ホクトがお会いさせていただきます。

 こちらへどうぞ」


「早くしろっ!」



「おい! 貴様らの門番がわしの護衛に暴行を働いた!

 これは外交問題だぞ!」


「あんた誰だい?」


「な、なんだと!

 わしを知らんと言うのか!

 わしはニルヴァーナ王国駐ワイズ王国大使、アグザム辺境伯爵家が嫡男マイグルス・アグザムであるぞ!」


「本当にあんた貴族なんか?

 平民じゃないのか?」


「な、ななな、なんだとぉっ!」


「だってよ、大使だの辺境伯爵家嫡男とか言いながら、先触れも寄越さずにいきなり訪ねて来たんだぜ。

 それって平民の行動だろうによ」


「ぬがががが……」


「なあおっさん、あんまり怒ってばかりいると早死にすんぞ」


「も、もう許せんっ!

 こんな小国は我がニルヴァーナ王国軍が蹂躙してくれるわ!」


「お、宣戦布告か。

 それじゃあ宣戦布告状を持って来てるよな」


「な、なに……」


「なんだ持ってきてないのか。

 それじゃあ、この宣戦布告用紙に爵位と氏名と日付を記入してくれや。

 ああ、開戦は7日後でいいよな。

 記入してくれたら早速陛下に見せて、ウチの国も宣戦布告状を用意するからよ。

 あんたの名前で宣戦布告されたから受けて立ちますって書いてな。

 それを早馬であんたの国の国王に届けてやんよ。

 なあに、明後日には届くだろうから、戦の準備も十分出来るぞ。

 お互い次に会うときは戦場だな♪」


「な、なんだと……」


「なんだまだ記入してないんかよ。

 早く書けや」


「い、いや……」


「書かねぇんだったらとっとと帰ぇれやぁ。

 ったく手前ぇの我儘で人の仕事の邪魔すんじゃねえぞ」


「がぎぐぐぐぐ……」




「いらっしゃいませお客様。

 申し訳ございませんが、店内には護衛の方はお1人様とさせて頂いております。

 残りの護衛の方は、あちらの建物でお待ちいただけますでしょうか」


「なんだと!

 わしは、ヒグリーズ王国の大使であるモルバール・ビブロス伯爵嫡男ぞ!」


「王命でございますので」


「ぐぐぐぐぐ……

 そ、それでは特別に許してやるっ!」


「ありがとうございます。

 それではただいまご案内係をつけさせていただきます」



「なんだこの店内は!

 なぜこのように大勢の者がおるのか!」


「皆さまこの国の貴族の方々でございます」


「ええい!

 ヒグリーズ王国の大使であるモルバール・ビブロス伯爵嫡男本人がわざわざ足を運んでやったのだぞ!

 他の者はすべて追い出せ!」


「それは出来かねます」


「なんだと!」


「王命でございます」


「こ、この無礼者めっ!

 国王に直接文句を言ってやるっ!」


「どうぞご随意に」



「お待たせいたしました。

 我が国の最高外交顧問、ダイチ・ホクトがお会いさせて頂きます」



「こ、この国は無礼にも程があるぞ!」


「落ち着けやおっさん」


「なっ……」


「ツラぁひん曲げて、何をそんなにイキってるんだ?」


「な、なんだとこのガキぃ!」


「ストレス解消だったら他所でやれや。

 用件はなんだ」


「こ、この国は、案内状を送りつけてきたから店に来てやったものを、ヒグリーズ王国の大使であるモルバール・ビブロス伯爵嫡男であるわしを、他の下級貴族と一緒に案内するのかぁっ!」


「そうか、あんたひとりで店内を見たかったのかい」


「上級貴族に対する当然の礼儀であるっ!」


「そしたらさ、特別に今日の夜10時からならひとりで店内に入れてやるから、その時間に来いや」


「!!!」


「言っとくけど、今回だけだからな」


「こ、こここ、この無礼者めがぁっ!」


「用が済んだらとっとと帰ぇれや。

 俺も忙しいんだぞ」


「!!!!!!」





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