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*** 180 ワイズ王国総合商会 ***

 


 6人の商会長とそのお付きの者たちは、次の間の商品陳列室に入ったところで大硬直した。


 まず最初の驚きは、その場にワイズ国王、ウンゲラルト・フォン・ワイズその人が座っていたことである。

 その隣にはアイシリアス第3王子もいた。

 後ろにはあのミグルスが護衛として立っている。



 6人の大商会会頭とその随員は弾かれたように跪いて頭を垂れた。


「皆の者、気にするでない。

 この場は非公式なものある。

 余も王子も居ないものと考えよ」


「「「「 うはははぁぁぁ―――っ! 」」」」


「さあ、皆立ちあがってダイチ殿の商品をとくと見るがよい」


「やあ陛下、来てくれたのかい」


「ダイチ殿、まずはエルメリア姫に下さられた妙薬の御礼を言わせて欲しい。

 おかげでメリア姫もすっかり回復し、城内の庭を歩けるようにまでになっている」


「それはなによりだ」


「姫は胚芽を混ぜたパンも少しずつではあるが食せるようになって来た。

 野菜にはまだ苦労しているが、『じゅーす』ならば砂糖を入れてやればなんとか飲めるようにもなって来ている。

 さらに姫はダイチ殿が届けて下さった柿とリンゴが大いに気に入ったようでな。

 朝晩食しておるようだ」


「それならもう2度と『遠征病』や『貴族病』に罹ることもないだろう」


「ありがたい話だ。

 しかも貴殿は農民や街民にもあの妙薬を振舞って下さった。

 代官たちや王都警備隊の報告によれば、あれらの病に罹っていた者が全て快癒しているとのことだ。

 民に代わって王として礼を言わせて欲しい。

 ありがとう……」


 国王が頭を下げた。

 いくら非公式の場であるとはいえ、一国の王が頭を下げるのは尋常ではない。

 商会長たちはまた硬直した。

 サリニコフ会頭の長男は完全に白目になっている。



「いやまああまり気にしないでくれ。

 それにしても、このような倉庫に来てくれたんだな」


「うむ、宰相がため息ばかりついているものでな。

 どうやらダイチ殿の商品を孫たちに買ってやりたいらしいのだが、言い出せなくて困惑していたようなのだ。

 それで興味を持って来てみれば、なるほど素晴らしい品々だ。

 さすがはダイチ殿だの」



「はは、俺も商売だからな。

 それから宰相さん、後で貴族用価格を決めるから、好きなだけ買ってくれな」


「あ、ありがとうございます……」



「さて皆の者、ダイチ殿の商品を存分に見分せよ」


 会頭たちは、王の言葉に従い周囲の商品を見渡した。


「「「「 こ、こここ、これはぁっ!!! 」」」」


 そこには1万点を超える商品が陳列されていた。

 全員が侍女と同じようにふらふらと商品に近づいて行き、痺れたように見入っている。


「こ、こここ、これはなんでございましょうか!」


「なにって…… 髪飾りだけど……」


「き、金属製の髪飾り…… 

 そ、それもこのように美しい花があしらってある……

 しかもこんなにたくさんの種類が……」


「こういうのって、たくさん置いておくとなんか豪華に見えるだろ」


「い、いえひとつでも十分に豪華ですが。

 こ、これは……」


「それはシュシュって言ってな。

 女性が長い髪を纏めておくものなんだ」


「このように鮮やかな色のものがこんなにたくさん……

 そ、それにこれは首飾り……

 宝石のような物までついていて……」


「単なるガラス玉だけどな」


「それでもとんでもない価値でございます……」


「まあそれなりに綺麗か」


「こ、これは……」


「それはブラシだな。

 女性の髪を梳かすと艶が出て綺麗になるんだ」


「木や馬の毛で作られたものではないのですか……」


「そうだ、それはプラスチックっていうもので出来てるんだ」

(むしろ木や馬の毛で出来てる物の方が高いけどな、はは)


「なんと色とりどりで美しいことでしょうか……」


「このタオルというか手ぬぐいはどうだい。

 これもたくさんの色があって綺麗だろ」


「い、いったい何色の手ぬぐいが……」


「全部で18色かな」


「なんと美しく、そしてなんと柔らかいのでしょう……」


(こうやって、同じものでも色を変えてたくさん並べておくと綺麗に見えてよく売れるって、ユニシロがよく使う手だよな……)



「こ、これはまさか鏡っ!」


「安物だからちょっと小さいけど綺麗だろ」


「や、安物などとはとんでもない!

 こ、これはひとつ銀貨20枚でも売れますぞ!」


(ふーん、今度もっと仕入れて来ようか……)


「こ、これは……」


「それは手袋だ。

 これもたくさんの色や模様があって綺麗だし、それを手に嵌めてると冬でも暖かいぞ。

 あ、その手袋は小さく見えるけどよく伸びるから大人でも使えるぞ」


「…………」


「それからその細長い袋みたいなもんは靴下って言ってな。

 家の中なんかで足に履いてると暖かいんだ。

 それからそっちは帽子だ。

 これも頭を覆えるから冬の戸外なんかでは暖かいぞ。

 模様のついてる物もあって綺麗だし」


「…………………」


「これはマフラーって言ってな。

 寒いときに首に巻く物なんだよ」


「なんという…… なんという美しい色でしょうか……」



(ふーん、色物が珍しいのか。

 そう言えば王都の中流階級っぽい奴もくすんだ色の服しか来てないし、染色技術が発達してないんだな……)



「この食器はどうだい」


「茶器と同じ真っ白な食器でございますか……

 どうやら土を焼いたもののようですが、いったいどのように焼けばこのように滑らかになるのでしょう……」


「それからこの服も見てくれ。

 古着だけどけっこう綺麗だろ」


「な、なんですかこの素晴らしい服の数々は!!!

 こ、こんなに綺麗な色もついていて……」


「これなら客も喜んで買ってくれるんじゃないか?」


「「「「 はい……… 」」」」



 特にサリニコフ会頭は、衣料品の前で立ち尽くしていた。


(なんと素晴らしい布地だ……

 これは羊毛だな。

 これは綿か……

 この布地は何で作られているのかまったくわからんが……

 それにしても、なんという滑らかな生地なのだろう……

 織りムラもなく、完全に平滑な布か……

 しかもこの鮮やかな色の数々。

 いったい何を使ってどのように染めたのであろうか……)



 他の商会の者たちも、全ての商品に見入っている。

 特にタオルと食器と鏡は注目の的だった。



「それではモデルに登場して貰おうか」


 その場に、多くの商品を身に着けた侍女たちが現れた。


 Tシャツを着た上から襟付きのシャツを着て、さらにはフリースのパーカーも羽織っている。

 首には色ガラスの球のついたネックレス、手には手袋、足には靴下、頭には毛糸の帽子、そして首にはマフラーを巻いていた。


「どうだい、暖かそうな格好だろ」


 侍女たちは、頬を赤らめて嬉しそうに、そして誇らしげに立っていた。

 さすがは侍女たちで、立ち姿も美しく、実にサマになっている。


 商会長たちは、やはり硬直しつつも侍女たちの装いをガン見していた。

 国王は、そんな様子をにこにこしながら見ている。

 ミルシュ会頭は驚く仲間たちを見てドヤ顔になっていた。



「みんなも商品を手に取って身に着けてみて構わんぞ」


 大商会の12人の男たちがおずおずと商品を手に取った。

 最初は驚きの目で見ていたものが、徐々に商人の目になって来ているようだ。



「さて、俺はこれらの商品を全て国に卸そうと思っている。

 諸君はそれを仕入れて売ってくれ。

 卸値は全て同じ価格にするつもりだ。

 小売値を諸君に任せたとして、いくらでなら売る自信があるか教えて欲しい」


「そうですな、この髪飾りなら銀貨10枚(≒10万円)、『たおる』も銀貨10枚ですかな」


「いや、『たおる』は、この18色をセットにして金貨2枚(≒200万円)で売れるだろう」


「この小さな鏡は1つ銀貨20枚(≒20万円)だな」


「もう少し大きなものがあれば銀貨50枚(≒50万円)でも売れるか……」


「あの部屋の隅の巨大な鏡なら、金貨10枚で売れるかもしらん」



「この食器もひとつ銀貨20枚では売れそうだ」


「いや、銀貨50枚と言っても買って行く貴族はいるだろう。

 なにしろ、こんな食器は他にどこにも無いのだから」


「この衣料品はいくらで売ればいいのか見当もつかん……」


「なにしろ見たことも無い極上の品ばかりだからのう」


「ひとつ金貨1枚と言われても、文句も言えんか……」


「孫たちのためだったら、わしはひとつ金貨1枚と言われても買ってしまうだろうの……」


 6人の大商人たちが皆頷いていた。




「よし、商品の相場の方はよくわかった、ありがとう。

 それでは、この商品を諸君が国から仕入れ、民や貴族や他国に売る際の条件を伝える。

 まずは、諸君ら6大商会はこれら商品を売るための合弁会社を作って欲しい」


「『ごうべんがいしゃ』ですかの?」


「そうだ、皆が少しずつ出資して人も派遣し、これらの商品を売るためだけの商会を作るんだ。

 当然利益は6等分することになるだろう。

 そうだな、『ワイズ王国総合商会』とでも名付けるか。

 そうして、売り上げの中から人件費などの諸経費を引いた純利益の半分を国に納めて欲しい」


「「「「 ………… 」」」」


「場合によっては中堅商会も参加させてやっても構わないが、出資額は10分の1にしてやる代わりに利益分配も10分の1だ。

 それから、現在、王都近郊の農村に6つの村に分かれて、この国の42ある村と10の街に暮らす民約6000人が集まって来ている。

 この6つの村の雑貨屋に農民や街民たちに売る商品を卸してやって欲しい。

 卸値と売値は俺が決める。

 また、ここ王都で平民に売る際にも、小売値は俺が決める。

 諸君らが小売値を決めていいのは貴族向けと他国向けだけだ。

 ここまではいいかな」


「「「「 ……………… 」」」」


「以上、諸君らには不利になるようなことばかり言ったが、これから諸君らに有利なことを伝えよう。

 まず、王都周辺6つの村と王都の平民向け店舗、それから貴族向け店舗は全て俺が用意する。

 諸君らは売り子を派遣してくれるだけでいい」


「「「「 !! 」」」」


「それから農民向け、王都内平民向けはもちろん、貴族向けも全て店舗内での現金決済にする。

 もしそれで文句を言う貴族がいたら、『王命である』と言えばいい。

『文句があるなら王に言え』ということだな。

 陛下、それでいいかな」


「もちろんだ」


「そうすれば悪徳貴族も代金を踏み倒すことは出来ないだろう。

 それから、王族や上級貴族が売り場を独占して商品を選ぶことも禁止する。

 そんなことを許したら売り上げが落ちるからな。

 これも文句を言うやつがいたら、王命であると答えるように」


「「「「 ……………… 」」」」


「また、他国に売りに行く際には、俺の配下の精鋭兵を護衛につける。

 言っておくが、奴らは強いぞ。

 10人いれば他国の兵が500人で襲って来ても易々と撃退出来るだろう」


「「「「 !!!! 」」」」


「また、この国の周辺4か国の貴族領都110か所には、既に俺の商会の支店を用意してある。

 どうやらこの辺りの国では、ワイズ王国も含めて土地の購入は認められず借地権だけのようだが、どの支店も土地の借り賃を3年分前払いしてあるので心配は要らない」


「「「「 …………… 」」」」


「それでは肝心の卸値と、農村向け国内平民向けの希望小売価格を言おう。

 ワイズ王国総合商会への国からの卸値は、どの商品も銅貨6枚だ」


「「「「 !!!!!!!! 」」」」


「ど、銅貨……」

「ぎ、銀貨の間違いではないのですか……」


「いいや銅貨だ。

 それを諸君らは6つの村の雑貨店に銅貨8枚で卸してやって欲しい。

 農民や街民への小売値は銅貨10枚だ。

 王都内での平民向けの店では、どれも銅貨20枚で売ってやってくれ。

 だが、貴族向けの店や他国の店では、小売値は諸君に任せる。

 いくらで売ってもいいぞ。

 せいぜい高い値をつけて、貴族連中や他国の大商会から金貨を吸い上げてやれ。

 そこから仕入れ値と人件費と輸送費を引いた残りの半分が諸君らの利益になる」


 会頭たちの目がギラついた。


「あの…… 貴族たちがその侍女や侍従を派遣するか街民や中小商会などに依頼して、安い平民用の店で大量に代理購入しようとしたらどうしましょうか」


「その行為は禁じるという触れを王城から出す。

 その禁を犯した貴族は名前を公表し、また、貴族家に勤める者は平民用店入店禁止、貴族家に協力した民や中小商会は王都追放処分だ」


「「「「 …………… 」」」」



 商会会頭たちは知らなかったが、シスくんにより全貴族家の一族や侍女侍従などの捕捉は終わっている。

 王都の全員と言っても、たった500人ほどしかいないのでその作業も容易だった。





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