*** 170 国軍兵たちへの説明会 ***
「総員食事を終えたな。
これより予定を変更して、宿舎内の検査を行う。
軍規に違反して持ち込まれた私物は全て没収する」
「「「「 !!! 」」」
「それでは各小隊長の引率で出発せよ!」
「ヨハン訓練生見習い、これはなんだ!」
「上官殿…… 私服であります……」
「これは!」
「ぎ、銀貨の入った袋であります……」
「なぜ王城内の生活でカネが必要なのだ!」
「そ、そそそ、それは、厨房や侍従にカネを渡して酒を手に入れようと……」
「訓練生と訓練生見習いに飲酒は認められておらん!
飲酒を許可されるのは兵になってからだ!」
「………」
「これら私物は全て没収する」
「!!!」
「安心しろ。
貴様が除隊するか不名誉除隊になったときには返してやる」
(よ、夜中に抜け出すときに門番に渡す賂が……
し、仕方ない、こっそり抜け出すか……)
新米兵士諸君……
シスくんが見張ってるのに抜け出せるわけないんだよ……
すぐに営倉に転移させられるからね♪
「ワイサル訓練生見習い、これは何か!」
「じ、上官殿…… 私服と酒であります……」
「全て没収だ!
なぜ貴様は軍支給の白い下履きを穿かずに、このような色物を穿こうとするのだ!」
「そ、それは……
子供みたいでカッコ悪いなと……」
「馬鹿者ぉ!
特に下着はシャツも下履きも支給品の白物を着用せよっ!」
「……はい、上官殿……」
因みに、現代日本に於いても、防衛大学や防衛医大の入学要綱の中に、注意事項として、『着用する下着は全て綿製の白物とする』という項目がある。
これを見て、アリエネーと思って入学や受験を諦める高校生が大勢いるそうだ。
だねどね、高校生諸君……
これは、訓練中に怪我を負った場合に、救護員がすぐに出血個所を発見出来るように、というものすごく真っ当な理由があるのだよ。
赤や黒のシャツやパンツなんか着てたら、出血してるかどうかもわからないでしょ。
たぶん、消防大学校や警察学校なんかにもそういうルールがあるだろうね……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでは、午後の訓練は各小隊に分かれて行う」
「P小隊集合!
今より馬房に行って、馬の世話の訓練を行う!」
((( ……(えっ?)…… )))
「じ、上官殿…… 質問を許して頂けませんでしょうか……」
「特別に許す!」
「う、馬の世話は馬丁の下男がするのではないのですか?」
「貴様らは将来王族の身辺警護につく可能性がある!
陛下や王族各位が戦場に出陣なされた際に、非戦闘員である馬丁を連れて行くことはない。
馬丁を防衛するのは戦力配置の無駄であり、何よりも糧食の無駄でもある!
従って、有事の際には身辺警護の国軍兵士が馬の世話を行うことになり、そのための訓練が必要である!」
「「「「 ………… 」」」」
「それでは馬房まで駆け足!」
「まずは馬を全頭馬房から出してそこの柵に繋げ」
「「「「 ……… 」」」」
「返事はどうしたぁっ!」
「「「「 は、はい、上官殿っ! 」」」」
「次は馬房内の掃除だ!
汚れた藁と馬糞を籠に入れて担ぎ、馬糞捨て場に捨てて来い!」
「「「「 !!!!! 」」」」
「返事はどうしたぁっ!」
「「「「 は、はい、上官殿っ! 」」」」
「もたもたするなよ、馬は80頭もいるんだぞ。
7時までに作業が終わらなければ貴様らは夕食抜きになる!」
「「「「 !!!!! 」」」」
「く、臭ぇ……」
「は、鼻が曲がりそうだ……」
「お前の鼻、実際に曲がってるしなw」
「う、うるせぇ!」
「無駄口を叩くなぁっ!」
「「「 は、はい、上官殿! 」」」
「馬糞捨てが終わったら、馬房の床を洗え。
「床を洗い終わったら、新しい藁を倉庫から担いできて敷き詰めろ!」
「藁を敷き詰め終わったら、その桶に水を汲んで来て馬を洗ってやれ。
そのたわしで丁寧に洗うんだぞ!」
「馬を洗い終わったら、そこの布で馬を拭いてやれ!」
「拭き終わったら飼葉と水を汲んで来て馬房に入れ、馬を馬房に収容せよ!」
「それが終わったら、馬を拭いた布を洗い、物干しにかけて乾かせ!」
「貴様らが体を洗っていいのは、それらの作業が全て終わってからだ!」
(((( …………………… ))))
「この訓練は、貴様らが習熟するまで毎日行うからな!」
「「「「 !!!!!!!! 」」」」
数日後の朝。
「馬鹿者ぉっ!
P小隊全員何故作業服が汚れておるかぁっ!」
「じ、上官殿…… 従僕がいないので洗濯する者がいないのです……」
「貴様らは真正の馬鹿者よの。
なぜ自分たちで洗わんのだ!」
「「「「 !!!! 」」」」
「じ、上官殿……
自分は洗濯などしたことがありません……」
「行ったことが無いのなら、行って覚えろっ!」
「じ、上官殿…… し、消灯時間が厳しく、洗濯している時間が……」
「起床時間前に起きて洗えっ!
汚れた服の着用は重大なる軍規違反であるっ!
不名誉除隊になりたいのかぁ!」
「「「「 !!!!!!! 」」」」
嗚呼、哀れ暗殺者たちよ……
バレテーることも、飼い殺しにされてることも知らずに……
でもさ、なんといってもキミタチ裏切り者だよね。
普通なら死刑が当たり前なんだよぉ。
まあ、そのうちいつか馬丁として働き口が見つかるといいね♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数日後、王城内大講堂にて。
「衛兵隊、王都警備隊、並びに国軍の諸君。
わたしの名は大地、国王陛下に任命された軍の最高顧問である。
諸君らには、任務で多忙にもかかわらず、ここしばらく交代で王城に集まってもらい、面接を行ってきた。
これは全てワイズ王国の軍制を改革するためのものである」
(くっ、こんな若造が軍の最高顧問だと……
陛下も何を考えておられるやら……
国軍総司令官たるわしに相談も無く……)
「本日もその総員の半数に集まってもらっているが、これより軍制改革の内容を説明する。
まずはワイズ王国の兵は全て国軍に一本化する。
つまり、近衛も王都警備隊も衛兵隊も全て国軍兵となり、階級構造も統一される。
また、その任務は、通常時には『訓練』『王城警備』『王都門警備』『駐屯地勤務』となり、これらは勤務場所を3か月ほどで交代して行くことになるだろう。
全ては国軍管理局から出る辞令によって配置が決定される。
もちろん有事には全員が敵に当たる兵及び下士官、士官になる」
(ふははは。
ということは、全員が国軍総司令官たるわしの部下になるのか。
昇進を望む部下たちからの付け届けが倍になるの。
それならばこの生意気な若造の言い分も許してやるとしよう)
「次に階級について説明する。
先ほども言ったが、国軍の階級は、『訓練生』『兵』『下士官』『士官』に分類される。
その上に『将官』が存在するが、この将官は今のところ最高軍事顧問である俺だけになる」
(くっ、生意気な小僧め……)
「そして、下士官以下の階級については、全てその者の『レベル』によって決定されるだろう。
この『レベル』とは『強さ』と言い換えてもいい。
つまり、下士官以下に必要とされるのは『強さ』のみである。
昇進して俸給を上げたければ、単に強くなればいい。
そして、兵の中で最も強い者、すなわち下士官が士官に昇進するには『強さ』以外にも『指揮能力』が必要になる。
これについては、ここにいる俺の直属の部下である8人の教導隊士官によって、下士官に対し指揮方法の指導が行われるだろう。
言うまでも無いが、この士官たちは実に強い上に、指揮の経験も豊富である」
(ふん、国軍の将であったわたしはもっと指揮の経験が豊富だぞ。
指揮官には『強さ』など不要であろうに……)
「念のため言っておく。
勤務時間中、もしくは任務中の上官の命令は絶対である。
もしこれに反した場合には、軍法裁判の後に投獄などの処罰に加えて軍籍剥奪などの刑罰もありうる。
もちろん上官も、部下に対して軍の任務に関係の無い命令を下した場合には同様に処罰される」
(ふん、本当に生意気な小僧よの。
部下に洗濯や掃除などの雑事を命じるのは上官の特権であろうに。
下級兵や新兵など上官の奴隷も同じであろうが……)
「それでは今から教導隊士官が第1階級と第2階級の者の名前を読み上げる。
名を呼ばれた者はこの部屋を出て、隣の『1、2』と書かれた部屋に移動せよ」
(くっ、子爵家の遠縁に当たるこのワシに命令するとは……
いつか思い知らせてやろうぞ!)
名を呼ばれるに従って、その場にいた240名のうちの80名ほどが席を立ち、隣室に向かった。
「おお、お前も第1階級であったか」
「司令官閣下も第1階級でいらっしゃいましたか」
「はは、あの生意気な小僧も、わしらの将としての実績は無視出来なかったのだろうの。
なにしろわしは子爵家の遠縁であり、お前は男爵家の遠縁だからの」
「仰る通りでございますな……」
「さて、第1階級並びに第2階級の者、着席して静粛にせよ」
((( くっ…… )))
「わたしは国軍教導隊隊長のバルガスである。
最初に諸君らの『階級名』を伝える。
第1階級と第2階級の者の階級名は『訓練生見習い』である」
「「「 ……(は?)…… 」」」
「つまり、新国軍における最低の階級とその1つ上の階級だな」
「な、ななな、なんだとこの若造!」
「馬鹿者ぉぉっ!!!」
「ひっ!」
「貴様には発言を許しておらん!
質問は上官が質問を許可した後に、挙手して指名された後に初めて許される!
それまでは黙って聞け!」
(((( …………… ))))
「貴様らが努力して『強さ』を上げた場合には階級が上がり、第3階級や第4階級の『訓練生』になれるだろう。
だが、この訓練生見習いと訓練生は兵ですらない。
兵になるために訓練を行う者である!」
(((( …………………… )))
「兵と見做されるのは第5階級から第7階級までであり、第8階級から第11階級までは下士官になる。
指揮官たる士官は第12階級からになり、その上の将官は第30階級からになっている。
つまり、貴様らが指揮官になるためには、あと10階級か11階級強くならねばならない。
励め!」
「な、なんだと!」
「馬鹿者ぉ―――っ!」
因みに『拡声』のスキルを習得しているブリュンハルト隊の士官たちの怒鳴り声は、迫力満点である……
「ひぃっ!」
「貴様には発言を許してはおらん!
だがまあ、初回の説明でもあることだ。
特別に発言を許す!」
「な、なぜ指揮官に『強さ』が必要なのじゃ!
指揮官に必要なのは威厳と指揮能力であろう!」
「ひとつ言っておく。
上官に対して発言するときには、最初の発声は『上官殿!』だ!
言えっ!」
「な、なんだとこの無礼者め!
わしは国軍の将軍ぞ!」
「教導隊員、この馬鹿者を捕縛の上、営倉にブチ込め。
罪状は『上官反抗罪』だ」
「「 はっ! 」」
「な、なんだと……」
太った老人はあっという間に縛り上げられて運ばれていった。
多少抵抗もしようとしたようだが、レベル差が20近くもあるために、それも虚しかったようだ……