*** 17 神さま登場 ***
「まずは、俺がダンジョン内でモンスターと戦って死んでも、リポップ出来るようにしてもらうことだよね。
俺も強くなっておかないと、ダンジョンの外に出て街を回れないから」
「街を回るつもりなのかにゃ?」
「うん、ダンジョンに誘致するひとたちのことがわからないと、ダンジョン経営も出来ないからね」
「さすがはダイチにゃ。
そのリポップの願いは、コーノスケで既に前例があるから叶えられると思うにゃ」
「それはよかった。
次は、そうした市場調査のために俺がダンジョンの外に出ても、スキルや魔法能力をそのまま使えるようにして貰えないかっていうことだな。
ダンジョンの外で死んだらそれまでなんだから、ダンジョン内でいくら鍛えても、外に出てその能力を失ったら意味無いし」
「それもダンジョン経営のためにゃからたぶん大丈夫かと思うにゃけど、まあお願いしてみるにゃあ」
「次は最初に貰えるダンジョンポイントを増額して貰えないかっていうことか。
これはまぁ、言うだけ言ってみよう」
「うにゃ。
それからにゃ、万が一にもダイチが死んだりしないように、あちしは神界に『即死無効』の加護か腕輪をおにぇがいしようと思ってるんにゃ」
「『即死無効』…… そんなのもあるんだ」
「この加護と『帰還の腕輪』があれば、即死級の攻撃を受けてもすぐに復活して安全地帯に戻れるんにゃ」
「それなら安心だね。
それじゃあそれも頼んでみよう。
それでツバサさまに返事をしたいから、都合を聞いてみてくれない?」
「うにゃ、今念話で聞いてみるにゃ。
あ………… ツバサさますぐ来るってにゃ」
「えっ」
収納庫に白い渦が現れ、その中から猫型天使が現れた。
相変わらず揺れている。ナニがとは言わないが。
「とうとう決心して下さったのねダイチさん!」
「ええ、お待たせして済みませんでした。
私ごとき力不足とは思いますが、ぜひダンジョンマスターとして働かせてください」
「ありがとう♪ アルス担当天使として嬉しいわ」
(なぜだ……
なぜおっぱいが嬉しそうに左右に揺れてるんだ……
アレは犬のしっぽみたいに機嫌によって動くもんなのか???)
「そ、それでですね、ダンジョンマスターになるに当たっていくつかお願いがあるんです」
「なんでも言って頂戴。
わたしに許された権限の範囲内なら出来る限り協力するから」
「それではですね…… まずは……」
大地のお願いを一通り聞いていた天使は真剣な表情になった。
「まずは中央大陸のダンジョンマスターになりたいとのこと。
これには心から感謝します。
実は神界としてもお願いしたいと考えていましたから。
ダイチさんになら任せられます。
それからダンジョンマスターのリポップ機能についても認めます。
コーノスケさんの前例もあることですし。
さらに、あなたがダンジョンで得た能力をそのまま外部で使えるようにする件についても構いません。
何と言っても元々の機能がそうでしたからね。
『帰還の腕輪』についてもわたしが持っているものを差し上げます」
「ありがとうございます」
「ですが……
最初のダンジョンポイントを増額することについては、わたくしの権限外なのですよ。
それから『即死無効』の加護を与えられるのは、神さまだけなのです」
おっぱいがへにょんと垂れ下がった。
(そうなのか? やっぱりそうなのか?)
「そうでしたか……」
「ですから少々お時間をください。
すぐに上司の初級神さまに連絡して許可が貰えるかどうか聞いてみますから」
そのときまた部屋に白い渦が発生し、中から白く光る初老の男性が現れた。
こちらも背に翼を持っているが、ツバサさまよりは大分大きい翼だった。
「し、初級神さま……」
「ああ、かまわんかまわん、そのままでよろしい。
虚礼廃止じゃ。皆跪かんでもよろしい。
どれ、わしも座らせてもらうとするか……」
タマちゃんがワーキャット形態になってお茶を淹れに行った。
「ふむ、そなたがあのコーノスケの孫のダイチか……
コーノスケのことは本当に残念だった。
大功労者であり、ダンジョンマスター界の英雄でもあったコーノスケの魂に安らぎがあらんことを……」
神さまが強く光った。
その光が収まると、大地に顔を向けて微笑んだ。
「地球の椅子は素晴らしい座り心地じゃの。
神界の椅子は硬くていかん。
それではちょっと失礼するぞ」
大地は微かにナニカが体を通り抜けていくように感じた。
(あ、これひょっとして俺今『鑑定』を受けているのかな……)
「ほう! 素晴らしい素質じゃ!
資格も完全に満たしておる。
さすがはあの英雄コーノスケが育てた人物じゃ。
これは大いに期待出来そうじゃのう」
「…………」
「先日神界ではコーノスケに勲章を授与することが決定された。
追叙になってしまったのは残念じゃが……」
「ありがとうございます。祖父もきっと喜ぶことでしょう」
「ダイチよ。
わしら神族や配下の天使族たちは、確かに多くの権能を持っている。
じゃが、決定的に足りなんだのがヒューマノイドの行動心理に関する理解だったのじゃ。
なんせ、誰もヒューマノイドとして生きたことも下界で暮らしたことも無かったからの」
「はい……」
「じゃから我々はヒューマノイドからダンジョンマスターを選出し、彼の者の知恵と併せて困難を極める星々を救おうとしたのじゃ。
あの英雄の薫陶を受けた孫であり、かつこれほどまでの資質を持つそなたには大いに期待したい。
ぜひ神界の汚点と言われるあのアルス中央大陸を救うてやって欲しいのじゃ」
(神界も一応アルス中央ダンジョンが自分たちの失敗だったということは認識してるんだな……)
「しかしだ。
そなたは本当に中央大陸の悲惨な状況を改善出来ると思うか?」
初老の神は大地を真剣な目で見据えた。
「ええ、祖父が行った南大陸ダンジョンによる処方のことを知った後は、中央大陸への処方箋が漠然と頭に浮かんで来ています。
もちろんこれからいろいろと検証して行く必要がありますが、その前にまず私自身がダンジョンの外に出て調査を行っても死なないように、体を鍛えねばなりませんし」
「ふむ、ならばまだその処方箋の中身は聞かずにおこう。
そなた自身の中でまだ可能性でしかないものを吟味しても仕方あるまい。
じゃがいくつか答えて貰いたいことがある」
「はい……」
「そなたの予想で構わん。
そなた自身の手で大量殺戮を行う可能性はあるのか?」
「いいえ」
「意図的ではないにせよ、結果的に住民の大量死が起こることは有りうるか?」
「いいえ。
もちろん予期せぬ障害でそのようなことも起きうるかもしれませんが、細心の注意を払って全力で回避します」
「よかろう。
全てそなたに任せることとする」
「ありがとうございます。
それでは念のため確認させてください。
まず、わたしがダンジョン内でモンスターと戦い殺された際に、モンスターと同様リポップされて生き返るという設定変更は許可されるのでしょうか」
「うむ、さきほどツバサが答えたように、その設定変更はコーノスケによって前例が作られておる。
もちろん認めよう。
ただし、自身が戦いに敗れて死んだ際に、ダンジョンが得られるダンジョンポイントは通常のレベル×100ポイントではなく10分の1になるがの」
「ありがとうございます。
それではダンジョンに挑んだ挑戦者が、ダンジョン内で私の配下のモンスターに殺された際にもリポップされるという設定変更は許可されますでしょうか?」
「それも許可しよう。
南大陸では既にそうなっておることだしの。
それにしても中央大陸でもその措置が必要なのかの」
「はい、非常に重要な変更内容だと思います」
「ふむ……」
神さまはソファに背を預け、しばらく黙考していた。
「ところでダンジョン挑戦者がわたしの管理するモンスターに挑んで殺された場合、それはわたしの殺人にカウントされるのでしょうか?」
「殺人には当たらぬ。
そもそもヒューマノイドが野生動物やモンスターに出会った際に闘争を行うのは自然の摂理である。
しかも、リポップされるのなら結果的に殺されたことにはならん」
「安心しました。
これで処方箋の最大の障害が取り除かれたように思います」
「それではそなたには全権を与え、『特命全権ダンジョンマスター』とする」
(あ、ツバサさまがけっこう驚いてる。
っていうことはこれってけっこう特別なことなんだな……
ついでにおっぱいが5割ばかり膨らんでるけど、あれって驚いた猫がしっぽを膨らませるようなもんなのか???)
「つ、謹んで拝命させて頂きます」
「さらに、アルスを含む宙域の管理担当神であるわしも協力は惜しまん。
まずは『即死無効』と『帰還』の加護についてじゃが……
腕輪よりもそなたに直接授けよう」
大地の体が白く光った。
「あ、ありがとうございます」
(さすがは神さまだ。
さっきの俺たちとツバサさまの会話も聞いてたんだな。
いや……
そもそも俺とタマちゃんの会話も行動も知っていたのかも知らん……)
タマちゃんが湯のみに入れた茶を持って来て神さまの前に置いた。
「おおおお、これは地球の茶か。
それではさっそく頂くとしよう。
うむ、旨いっ!
タマよ、そなたの茶の淹れ方もかなりのもんじゃな」
「ありがとうございます……」