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*** 168 密偵たち ***

 


 しばらくの後、控室では……


「お、貴殿は1番か、わたしも1番だ」


「貴様は何番だったか」


「は、はい、3番でした」


「そうか、やはりそうだったか……」


「どういうことだ?」


「俺も貴殿も子爵家出身だろ。だから1番なんだよ。

 でも、こやつは騎士爵家の者だから3番なんだろうな」


「はははは、なあんだ、やっぱり爵位で階級を決めてたのか」


 男は太った体を揺すって笑った。


「この部屋に伯爵家の者はいないから、俺たちが最高位の階級だな♪」




「名を名乗れ」


「はい、ユルゲンノートです」


「ふむ……」


(この平民めが…… 

 貴族たる俺に無礼な口を利きおって……

 第2王子殿下が即位されたら真っ先に処刑してやる……)


(そうか、『第2王子が潜入させた暗殺者』と表示されたか……)


「お前はこの仮階級章を首から下げて控室に戻れ」


「はい」


(なんだこの階級は…… 『P1』とはどういう意味だ?)




「これで全員の面接が終了した。

 仮階級章は1番から4番までが40名と、P1からP4までの者が15名だな。

 1番から4番までの者はここに残れ。

 右側には、Pと表示された部屋がある。

 仮階級章にPの文字がある者はその部屋に移動せよ」




(シス、国王と宰相と第3王子は『Pの部屋』の隣室に来ていてくれてるか?)


(はい)



 Pの部屋にて。


「おめでとう諸君、諸君は国軍の入隊面接に合格した。

 この後速やかに紋章官に申し出て、貴族籍を抹消するように」


「「「「 ………(くっ)……… 」」」」


「それでは『真実の声Lv5』……」



(シス、陛下たちに入室してもらってくれ)


(はい)



「陛下、この者たちには今、『真実の声』という魔法をかけている。

 この状態であれば、聞かれたことに対して嘘を答えることは出来ず、必ず本当のことを言う。

 それでは試してみよう。

 おい、最前列左側のお前、お前は第1王子の密偵だろう。

 任務内容を言え」


「はい…… わたしは第1王子殿下の密偵で、任務は殿下が簒奪の兵を挙げると同時に国王を弑することです……」


「「「 …………… 」」」


「他にはなにか任務は無いのか」


「近衛や国軍の配備状況や、国王が城外に出て視察を行うときには、その日程と経路を報告することになっています……」


「簒奪開始は誰から知らされるのか。

 また、視察の日程やコースは誰に伝えるのか」


「父であるウイルキンス辺境男爵です」


「「「 ………… 」」」


「次、お前は第2王子の密偵だな。

 その任務は何か」


「第2王子殿下からの命令があり次第、厨房の料理人と侍女を脅して、料理に毒を入れさせることです……」


「「「 ………… 」」」



「お前は第1王女の密偵だな。任務は何か」


「王都の父から連絡あり次第、第2王女と第3王子を暗殺することであります……」


「次っ!」

 ・

 ・

 ・



「ということでだ。

 こいつらは全員王子や王女たちが送り込んでいた密偵だったんだよ」


「「「 ………… 」」」



「だから平民落ちも受け入れたんだろう。

 簒奪が成功したら貴族家を興させてやるとか言われてるんだろうな」


「な、なんということだ……」


「ということで、こいつらは15人の小隊として別にしよう」


「処刑されないのですか?」


「そんなことをしたら、王子王女たちが焦ってすぐに挙兵するぞ。

 もう少し準備をしたいから、こいつらはそのまま泳がせておこう。

 虚偽情報も流せるだろうし」


「「「 ………… 」」」


「バルガス中佐」


「はっ」


「こいつらをまとめて訓練小隊にしてくれ。

 あまり強くならないように」


「どのような訓練がよろしいでしょうか」


「そうだな、まずは長距離走からか。

 あれは体が動くようになる代わりに、筋肉が減って力が落ちるからな。

 心肺持久力はついても戦闘力はつかないだろう。

 それから掃除洗濯や馬の世話の指導なんかもいいか。

 王が戦場に出るときには、侍従や侍女は連れて行けず、お前たちが王の従卒となるのだから、そのための訓練だとか言って。

 ついでに、王の近習候補生なんだから努力せよとか言ってやればいいだろう。

 そうすれば暗殺のチャンスが得られると思って、文句も言わずに従うだろうな。

 要は飼い殺しだ」


「はっ」


「「「 ………… 」」」



「陛下、殿下、宰相さん、安心してくれ。

 この間者たちは、俺が魔法を解けば元通りになって、俺の質問に正直に答えたことも忘れているだろう」


「「「 …………………… 」」」


「それじゃあ俺たちは別室に行こうか。

『真実の声』解除。

 バルガス隊長、後は任せた」


「はっ」




「ということで陛下、殿下、宰相さん、第1王子たちはけっこう本気みたいだぞ」


「確かに……

 先ほどの密偵たちの貴族家も、王子王女たちの領地周辺の家ばかりだったの……

 自分が王位に就いたときの陞爵を餌に味方につけたか……」


「まあ今は俺やうちの精鋭たちがいるからな。

 あのバルガス隊長や他の教官たちも、1人で100人は楽に相手を出来る強者だし、それに加えて俺もいるから安心だ。

 そうだな、準備が整ったら正式にアイシリアス王子の立太子を発表しようか。

 そうしたら激怒した第1王子たちが一斉に攻め込んで来るだろう。

 悪党どもを纏めて捕縛出来るからちょうどいいわ。

 ついでに後ろ盾になってる近隣の大国も攻め込んで来てくれたら最高だな」


「「「 ………… 」」」



「それで陛下、宰相さん、その準備についていくつか相談があるんだが……」


「是非聞かせてくだされ」


「まずは…………だ。

 次に…………をして欲しい。

 そうしたら俺は…………と、…………を行おう」


「なんと…… そのようなことが出来るのですか……」


「ああ出来る。もう何度もやってることだしな」


「「「 ………… 」」」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「全員揃っているな。

 貴様ら喜べ。

 貴様たちは全員国軍再入隊試験に合格した。

 この後、紋章官殿に貴族籍離脱を申請した時点で正式に国軍に入隊が認められ、新兵中隊として組織される」


「あー、俺の階級章のこのPってどういう意味なんだ?」


「馬鹿者おぉぉっ!」


「ひっ!」


「上官に質問が出来るのは、上官が質問の許可を出した時のみだ!

 その際にはまず挙手して質問の許可を得よっ!

 許可を得た後ならば起立して質問をしてよい。

 加えて、上官に話すときには常に敬語を使え!」


「……(くっ、平民風情が)……」


「返事はどうした!」


「は、はい」


「違う! 『はい上官殿!』だ! 言えっ!」


「は、はい上官殿……」


(く、くそっ……

 なんで子爵家3男のこの俺が平民ごときに……

 覚えてろよ、第1王女殿下が即位されて俺が男爵位を賜ったら、キサマは真っ先に処刑してやる……)


「よし、質問を許す」


「あの……」


「馬鹿者ぉっ!

 上官に口を利くときの最初の発声は『上官殿!』だ! 言えっ!」


「は、はい上官殿……

 この階級のPとはどういう意味なのでしょうか……」


「俺はPの意味を貴様らに伝える権限を与えられておらん。

 だが喜べ。

 階級章にPの表示がある者は、新兵中隊P小隊として配属され、将来王族の周囲に配属されて、戦時には護衛を務めることになるだろう」


((( おお! こ、これで国王暗殺のチャンスが…… )))


「総員、この説明会が終わった後は紋章官殿の下へ行き、貴族籍を放棄して来い。

 その後は国軍の支給品を受け取り、割り当てられた宿舎に行って作業服と作業靴に着替えよ。

 本日は特別休暇を与えるので身辺整理をして来い。

 特別休暇なので王城外への外出も許される。

 その際に、今着ている服は処分して来るように。


 その後も6日間の勤務につき1日の休暇が与えられるが、通常休暇日には王城外への外出は許可されておらん。

 また、王城内宿舎への私物の持ち込みは厳禁とする。

 わかったか」


「「「 …………… 」」」


「返事はどうしたぁっ!」


「「「 は、はい! 」」」


「馬鹿者ぉっ!

『はい上官殿』だ! 言えっ!」


「「「 は、はい上官殿…… 」」」


「よし、他の者質問を許す」


「あの……」


「お前は馬鹿かぁっ!

 挙手をして許可を待てと言ったろうが!」


「…………」


「返事はどうしたぁっ!」


「は、はい上官殿……」


 何本かの手が挙がった。


「よしお前、質問を許可する」


「あの…… じ、上官殿……

 従僕は何人までよろしいので……」


「お前たちに従僕は許可されておらん。

 下級兵の従卒を持つことは出来るが、それは将官級以上の階級からだ。

 つまり、第30階級からだ」


「えっ……

 わ、私の階級章にはP1と書いてあるのですが、これは最上位の階級ではないのですか?」


「入隊してすぐの新兵がそのような階級になるはずがないのがわからんか?

 Pの後の数字は確かに階級を表しているが、数字が小さいほど階級は低いのだ。

 つまり貴様はこの国軍で最低の階級ということになる」


「!!」


「数字が1の者の階級は第1階級になり、階級名は訓練生見習いだ。

 数字が2の者は第2階級になるが、階級名はやはり訓練生見習いになる。

 数字が3の者は第3階級で階級名は訓練生、数字が4の者は第4階級で階級名はやはり訓練生になる。

 つまり、ここにいる全員は兵士ですらない。

 早く兵士扱いされたければ、第5階級以上に昇格して2等兵になれ。

 指揮官になれるのは第12階級の士官になってからだ」


「「「「 !!!! 」」」」


「他に質問は!」


 また手が挙がった。


「よしお前、質問を許す」


「じ、上官殿……

 あ、あの…… 何故我々が最も下の階級なんでしょうか……」


「そんなこともわからんか。

 何故ならお前たちが弱いからだ。

 弱すぎて兵士にすら出来ん。

 訓練を重ねて兵士に成れたあとは、指揮能力を涵養し、我ら教導隊指揮官が認めた場合のみ士官に成れる」


「「「「 ………… 」」」」



「解散後は直ちに紋章官殿の部屋に行き、貴族籍を放棄して来い。

 今日外出は許可されているが外泊は認められていない。

 門限は夜の鐘が鳴るまでだ。

 それまでに帰らなかった者は国軍内刑務所に収監する。

 訓練は明朝より開始される。

 起床は5時半だ」


「「「「 ……………… 」」」」


「返事はどうしたぁっ!」


「「「「 は、はい上官殿…… 」」」」



(へへへへ、それでも俺は右手骨折の大怪我をしているからな。

 これが完治するまで3か月は休めるだろう。

 まあ、ほとんどの奴が怪我してるから、訓練とか出来ないわな)



「それではダイチ殿、お願いいたします」


「ジョシュア少佐ご苦労。

 それでは治療を始めようか。

『治癒系光魔法Lv5』……」


 その場の全員が光に包まれた。


「「「「 !!!! 」」」」



「ダイチ殿ありがとうございました。

 よし、これで全員の怪我が完治したな。

 言っておくが、訓練でどれほどの怪我を負っても、この魔法ですぐに治る。

 まあ、痛みは残るが。

 従って、国軍には傷病休暇というものは無い」


「「「「 !!!!!!! 」」」」


「以上で解散するが、速やかに紋章官殿の執務室に行き、まずは貴族籍を離脱し、その後は割り当てられた宿舎に向かえ!」


「「「「 ……………… 」」」」


「返事はどうしたぁっ!」


「「「「 は、はい、上官殿…… 」」」」







多少書き溜め出来ましたので、8月より週5日更新にさせて頂きます。

(月水木土日夜20:00更新、火金はおヤスミ)

よろしく!



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