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*** 165 近衛壊滅 ***

 


 練兵場に作られたスタジアムの中には近衛兵120名が集まり、不揃いな列を作っていた。


(整列も出来ないんかよ……)


 周囲の観客席には300人を超える国軍兵士たちが集まっていた。

 平民に見下ろされる形になった近衛たちは、もうそれだけで額に青筋を立てている者もいる。



 貴賓席の国王が立ち上がった。


「これより、近衛兵全員からの申し入れによる、近衛兵対ダイチ・ホクト殿の決闘を行う。

 双方遺恨無きよう正々堂々と戦え」


「「「「 ははぁっ! 」」」」


 国王が着席すると、宰相が書状を読み上げた。


「決闘の条件を確認する。

 決闘は、近衛30名の大隊とダイチ殿の対決である」


 観客席からどよめきが起きた。


「決闘の決着はどちらかが死亡、降参したときのみである。

 審判による行動不能判定は行われない。

 ダイチ殿が敗北した場合には、勝利した大隊30名全員に300枚ずつの金貨が与えられる」


 観客席のどよめきが大きくなった。

 国王の座る貴賓席の前の大きなテーブルには、3万6000枚の金貨が堆く積み上げられており、燦然と輝いている。

 金貨を見る近衛たちの目は貪欲さに濁っていた。

 中には涎を垂らしている者までいる。


 無理もない。

 金貨300枚(≒3億円)と言えば、裕福な領地持ち子爵家の資産に匹敵する。

 つまりは、職を辞しても一生遊んで暮らせるだけの金額であった。

 この国では出来ないが、他国であれば平民が爵位を贖えるだけの金額でもある。



「また、近衛大隊30名が敗北した場合は、その惰弱さを罪とし、近衛の職を解任する。

 辞任ではなく解任であるため、退職金も年金も支払われることは無い。

 国が貸与した馬匹武器防具を返却の上、速やかに王城より退去するように」


 また観客席がどよめいた。


「尚、武器の使用は自由であるが、ダイチ殿の申し出により、相手を宙に浮かせる念動魔法と攻撃魔法は封印される。

 これらを使用した場合にはダイチ殿の敗北となる。

 以上の条件につき、双方異議はあるや」


 沈黙が広がった。



「それでは第1大隊はこの場に残り、第2、第3、第4大隊は闘技場外に一旦退出せよ」


 第2大隊以下の近衛たちが忌々し気に退出して行った。

 第1大隊に大地が殺された場合には賞金を手に入れられないからであろう。



 相変わらず平民服を着たままの大地は第1大隊の近衛兵たちと対峙した。


(シス、録画してるな)


(はい)



「わはははは、平民の小僧ごときがよくも逃げずに来たものだ。

 今日こそは貴族たる近衛の力を見せつけてやろうではないか!」


「能書きはいいからよ、早くかかって来いやおっさん」


「何だとおっ! 死ね小僧っ!

 者共かかれぇっ!」


(やれやれ、近衛の中でも下っ端っぽい奴から先に来たか。

 隊長は後ろで踏ん反り返ってるだけかよ……)


 バキッ! 「うぎゃぁぁぁーっ!」


 大地のハイキックが剣を振り上げた近衛の腕を粉砕した。


 バキンッ! 「ひぎゃぁぁぁーっ!」

 ボキンッ! 「どぎゃぁぁぁーっ!」

 ベキンッ! 「うぎゃぁぁぁーっ!」

 ドゴンッ! 「あぎゃぁぁぁーっ!」

 ・

 ・

 ・


 3分後、その場には腕を骨折した男たちが29人転がっていた。

 観客席は声も無い。


 大地はそのうちの1人に近寄って鼻を殴りつけた。


 ブシャッ! 「あうぎゃぁぁぁ――っ!」


「こ、この卑怯者めがぁっ!

 無抵抗の者を殴りつけるとは何事だぁっ!」


「あ゛?

 こいつらまだ降参してないだろ。

 っていうこたぁ、まだ戦う気があるんだよな。

 さっき宰相さんが死ぬか降参するまでが決闘だって言ったろ。

 それとも何か?

 降参してないから近衛を馘になることは無いとでも思ってるんかぁ?」


「「「「「 …………… 」」」」」



 ドギャッ! 「どうぎゃぁぁぁ――っ!」

 ボグンッ! 「ひぃぎゃぁぁぁ―――っ!」


「おらおら、早く参ったって言わねぇと、体中の骨が粉々になるぞぉっ!」


「ま…… ま い っ た ……」



「次はお前ぇだ」


 メキッ! 「ひぎゃぁぁぁ――っ!」


 大地の前蹴りが鼻に入って鼻軟骨が粉砕された。


「みゃ、みゃいった……」


「お前ぇ、まさか『みゃいった』とは言ったが『参った』とは言ってねぇとかヌカすつもりかぁ?」


 ボギンッ! 「おうぎゃぁぁぁ―――っ!」


「ま ま ま ま い っ た ……」


「よし! これで2匹馘だな。

 次はお前ぇだ!」


 どごんっ! 「ぴぎゃぁぁぁ―――!」 ばたっ。


(この野郎…… 気絶したふりしてやがんな……)


 べぎっ! 「はぅぎゃぁぁぁ―――!」


「こ、こここ、この卑怯者ぉぉ―――っ!

 気絶してるものを更に攻撃するとはっ!」


「おい大隊長、お前ぇ莫迦だろ」


「なっ……」


「戦場じゃあなぁ、死んだフリして敵兵を油断させて殺そうとすることなんざぁ当たり前ぇなんだよ!

 だから、死体だろうが何だろうが、必ず剣で刺して本当に死んでるかどうか確認するだろうがよ!」


「!!!」


「あーあ、戦場に出たことも無く、踏ん反り返ってるだけの奴は、やっぱ常識無ぇわ」


「…………」


「それに、こいつぁ気絶したフリしやがってたんだ。

 やっぱり後で『俺は降参していない』とかフザケたことヌカすつもりなんだよ!

 いってぇどっちが卑怯者なんだぁ?」


 ドガッ! 「おごぉぉぉ―――っ!」


「オラオラ! 参ったはどうした!」


「ま、ま い っ た……」


 次っ!


 ドガバキメキッ! 「ぎゃぁぁぁ―――っ! 参ったぁぁぁ―――っ!」

 ズガバキボキッ! 「ぐぁぁぁぁ―――っ! 参ったぁぁぁ―――っ!」

 ドゴボキバキッ! 「ほんぎゃぁぁぁ―――っ! 参ったぁぁぁ―――っ!」


 大地は、さらに5分ほどをかけ、全員に『参った』と言わせていった。

 因みにほぼ全員が鼻軟骨を粉砕されて、鼻筋が45度横を向くか潰されて鼻がまっ平にされてしまっている。



「さて大隊長さんよ……

 とうとうお前ぇだけになっちまったなぁ……」


「く、来るなこの平民風情が……

 こ、高貴な身分のこのわしに近寄るなぁっ!」


「その平民風情にこれからボコボコにされる気分はどぉだぁ?」


「ま、参った…… 参りましたぁっ!」


「なんだとこのチンカス野郎……

 仕方ねぇ、これで第1大隊は終わりだな……」


「莫迦めぇっ!」


 大隊長が手に持った剣を大地に投げつけた。

 大地はその切っ先を指で掴んで止める。


「ここまで腐ってたか……」


「ひっ……

 わ、わしはもう降参してただろうがっ!

 そ、そのわしを攻撃するのかぁっ!」


「あー、やっぱ壮烈に莫迦だわお前……

 おっと手が滑っちまった」


 大隊長の鼻が地面に落ちた。


「うひぃぃぃぃぃぃぃ――――っ!」



「さて、これで全員降参だな。

 おーい、国軍の兵士諸君、この軟弱者たちをこの練兵場の隅に片付けてくれないかぁ」


「「「 はっ! 」」」



「さて執事さん、第2大隊を呼んで来てくれるかな」


「は、はい!」


(ダイチさま、第2大隊の近衛たちが武器庫から槍を持ち出して来ております)


(槍か…… 使ったことも無ぇ武器を持ち出しやがって……)



 近衛兵は騎乗して戦う場合には馬上槍を持つが、これは剣では相手に届かないためである。

 地上の白兵戦では、槍は主に対騎兵用に本陣の防御として使われるが、これは通常専門の槍兵部隊が行い、近衛が地上で槍を持つ機会はほとんど無い。



「うわはははは!

 この平民がぁ、貴族たる近衛の武を受けてみよぉっ!」


(あー、大将は後ろで床几に踏ん反り返ってるわー。

 その横に立ってるのは腰巾着の副将かぁ。

 あはは、7人1列になって4段構えの方陣組んでら。

 そのへっぴり腰でファランクスのつもりかよ。

 しかも、もう全員が長い槍を俺に向けて倒してるぜ。

 槍ってぇのはまず相手を叩くのに使うもんなのにな。

 やっぱこいつら莫迦だわー。

 それじゃあ遠慮無く、縮地でファランクスの弱点である後方に回らせて頂きますかね)


 観客の目にも見えぬ速度で方陣の後ろに回った大地は、近衛の1人を蹴り倒して槍を奪った。

 その槍に『硬化』の魔法を掛けると、最後列の近衛の頭を上から叩いて昏倒させていく。


 このように後方から急襲を受けた場合のファランクスの対処方法は、指揮官の号令で一斉に後ろを向いてそちら側に槍を倒すことだが、その指揮官は床几に座って硬直しているだけだった。


 近衛たちは、ようやく大地が後方にいることに気づき、のろのろと槍を後ろに回し始めた。

 もちろん大地は縮地で前方に回り、今度は最前列の兵を殴って昏倒させていく。

 1分ほどもかけてこれを4回繰り返すと、その場には28人の兵が横たわっていた。


 大地はさらに前方に飛び、副将を殴ってやはり昏倒させた。



「さて、残りはお前だけになったな。

 それじゃあ、お貴族サマの強さを見せて貰おうじゃねぇか」


「ひ、ひぃ……」


 ドガバキグシャメキョ!


「うんぎゃぁぁ―――っ!」


「おいおい、また気絶したフリかよ」


 ドカ!


「あぎゃ!」


「早く降参しないと、お前の顔が倍ぐらいに腫れちまうぞぉ」


「こ、この平民風情目が……

 き、貴族たるわしを殴るとは……

 し、ししし、処刑してやる……」


「だったら早ぇとこ俺を殺してみろやぁっ!」


 ボキベキブキョベシドガバグン!


「あんぎゃぁぁぁ―――っ!

 ま、まいりましたぁ―――っ!

 ゆ、許してぇ―――っ!」


「はい1匹終了っと。

 それじゃあ寝てる奴らを起こさないとな」


「おい」 ドカ! 


「ぎゃっ!」


「早く降参しないとお前の鼻が無くなるぞ」


「……………」


 ズリュ。


「ひぎゃぁぁぁ―――っ! は、鼻ぎゃ―――っ!」


「次は耳だな」


「ま、まいりましたぁぁぁ―――っ!」



「よし次っ! おいコラ! 寝たフリしてんじゃねぇ!」


「……………」


 ズリュ。


「は、ははは、鼻がぁっ!」


「次は目玉をくり抜くか」


「ま、まいったぁ!」



「あー、なんかそこいら中に鼻が落ちてるわー。

 早くまいったしねぇと、全員の鼻が落ちるぞー」


「「「「「 まいりましたーっ! 」」」」」


「これで第2大隊も片付いたな。次呼んでくれ」


「は、はい……」



(ダイチさま、第3大隊は半数ほどが弓矢を持ち出しています)


(なんだと……

 シス、観客席に結界を張れ。

 そうだな、矢を弾かずに刺さるようなのを頼む。

 それからグラウンドの隅に転がってる近衛たちにも結界を張ってくれ)


(はい!)



 もちろん近衛は通常弓など使わない。

 まるで猟師のような武器を使うのはプライドが許さないのである。

 その弓をこの場で使うとは、よほどに金貨が欲しかったのだろう。



「皆の者、矢を射よっ!

 その後は直ちに突撃だっ!」


(な、なんというヘタクソな腕だ……

 まともに飛んでる来る矢が無ぇじゃねぇか……

 しかも、そのうちの何本かは貴賓席前の結界に刺さってるぞおい!)


 国王やその王を庇う護衛の額には青筋が立っている。



 大地は縮地で飛び、先ほど硬化をかけた槍で弓を持つ近衛たちの腕の骨を砕いていった。


「「「「「 ぐぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」」」


 更に縮地で飛んだ大地は、走り始めていた後方の近衛たちを各個撃破で全て叩きのめしていく。


「「「「「 どぎゃぁぁぁ―――っ! 」」」」」


 後は同じ簡単なお仕事である。

 第3大隊は強情な者が多かったせいか、また鼻が20個も落ちた後に全員が降参した。


「これで第3大隊も片付いたな。

 第4大隊を呼んでくれ」



(ダイチさま、第4大隊はなんと全員が騎乗しております)


(よっぽど金貨が欲しいんだろな……

 貴族って見栄張るから意外とビンボーなんかね……

 あー、全身鎧まで着込んでるよ……)



「よーし者共、一斉に突撃してあの愚民を踏みにじれぇぃっ!」



(『威圧Lv4』……)


 走り出していた30頭の馬が全頭棹立ちになった。

 全ての馬が本能的恐怖から乗り手を振り落とし、大地から逃げてゆく。


 もちろん、全身鎧などを着込んでいれば、落馬の際に受け身を取ることなどは出来ない。

 まあ、鎧を着ていなくとも受け身が取れたかは怪しいものだったが……


「「「「 うぐぐぐぐぐぐ………… 」」」」


「あーあ、馬もまともに乗れねぇんかよ。

 この惰弱兵めが!」



 落馬の後も槍を手放さなかった者も数名いたが、大地が篭手ごと腕を踏み砕くとすぐに抵抗を止めた。


 落馬の痛みに皆気弱になっていたらしく、今回落ちた鼻は10個しか無かった……





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