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*** 160 大陸間交易 ***

 


「やあミンナさん、ヘンナさん、急に訪ねて来て済まない」


「いえ、ダイチさんでしたらいつでも大歓迎です」


「あ、ソファセットが新しくなってますね」


「ええ、タイの国王陛下から援助していただいたお金で買わせて頂きました」


「そうですか、お2人の生活が豊かになれば陛下もお喜びになられるでしょうね。

 ところで今日お邪魔したのは、お2人にご相談があったからなんですよ」


「ちょうどよかった。

 わたしたちもダイチさんにご相談があったんです」


「どんなことでしょう」


「あの、この北大陸のヒューマノイドたちが、ダイチさんになにかお礼をしたいと言っているんです」


「なにしろ病気を治して下さっただけでなく、あんなに美味しい食べ物もたくさん下さったわけですし、安全な生活環境まで……」


「そうですか。

 わたしのご相談は、実はこの北大陸沿岸で昆布を獲らせて頂けないかっていうものだったんですよ」


「昆布…… ですか……」


(はは、西欧人は昆布やワカメは食べないっていうからな)


「ところで、この大陸のヒューマノイドたちは、昆布って食べているんでしょうか?」


「いえ、彼らも食べていないと思います」


「それではですね、もしよかったら彼らに昆布を獲って来てもらえないものでしょうか。

 シスでも獲れるんですけど、多めに獲ったり乾燥させるのはかなり負担になるんです」


「それは大地さんへのお礼になるんでしょうか?」


「もし獲って貰えれば大いに助かりますね。

 今中央大陸のヒト族の間で壊血病が蔓延してるんですけど、冬場のビタミンC補給には昆布が最適なんです」


「なるほど。

 それでは、北大陸の海棲ヒューマノイドたちに1人10本昆布を獲って来るように言いましょう。

 ダイチさんへのお礼になると言えば、みんな張り切って獲って来てくれますよ」


(270万人が10本ずつ……

 それって2700万本かよ……)


「い、いえいえ、そんなに獲ったら昆布がなくなっちゃいますよ。

 家族ごとに1本で十分ですって。

 それでですね、昆布って2年草なんです。

 1年目は短くて柔らかいんですけど、2年目は大きくて固くなるんです。

 この2年目のものだけをお願いしたいんですが」


「わかりました、そのように種族会に伝えておきますね」


「それから、申し訳ないんですけど、獲った昆布のうち半分は、2週間ほど浜に並べて干し昆布にしておいていただけますか。

 あと、包丁や鋸も渡しますから、生昆布も干し昆布も30センチほどに切って、時間停止倉庫に入れておいて頂けるとありがたいです」


「はい」


「ところで、ヒューマノイドたちが欲しがっているものって何かありませんか?」


「彼らは何よりも病気の治療と食料と安全で温かい地を得ましたからね。

 これ以上の待遇は望み過ぎだと考えているようですよ」


「それは言ってみればわたしの本業でしたからね。

 今回昆布漁をしてもらう見返りもなにか渡したいんですけど。

 なにか彼らが喜ぶものはありませんか?」


「そうですか……

 それでは彼らは砂糖を喜ぶと思います」


「ほう」


「なにしろこの北大陸には甘い作物がありませんからね。

 初めて甘いものを食べたヒューマノイドたちは、皆涙を流さんばかりに喜んでいるんですよ」


(やっぱり甘いものは人を幸せな気分にさせるんだな……)


「わかりました。

 それでは昆布の代金は砂糖でお支払いするということで」


「あ、ありがとうございます」


「ストレー、お前の倉庫に今砂糖はどのぐらいあるんだ?」


(たくさんございます)


「お前の言うたくさんは、本当にとんでもなくたくさんだからな。

 だいたい何トンぐらいあるんだ?」


(5000トンほどでございましょうか……)


「やっぱり……」


「ご、5000トン……」


(ジュンさまからお聞きしたのですが、日本とタイの製糖会社が過去最高益を更新したとのことでした)


(マジかよ!)


「そ、それじゃあさ、その中から1000トン分を北大陸ダンジョンの時間停止倉庫に移しておいてくれ。

 ついでに小麦粉も1万トンほど」


(はい)


「す、すごい……」


「はは、それだけあればみんなも甘いお菓子が食べられるでしょう」


「本当にありがとうございます……」



「ところでダイチさん、インドド共和国に続いてオーストコアラリアでも救援活動をされたんですよね」


「ええ」


「あの……

 それでですね、オーストコアラリアでアスラさまという天部の御使いさまの写真が撮られて写真誌に載っていたんですけど……

 ダイチさんに似ているのに、25歳ぐらいに見える姿だったんです」


「はは、あれはわたしが身バレしないように、天使さまが授けて下さった『変身』の魔法で姿を変えたものなんです。

 天使さまによれば、わたしが25歳になった時の姿だそうですね」


「あ、あの…… 

 もしよかったら、ここで『変身』してみていただけませんでしょうか……」


「いいですよ」


 大地の体が淡く光り、その光が収まるとアスラ第1形態になった大地が現れた。


「「 まあ♡ 」」


 ミンナとヘンナがふらふらと立ち上がって大地の左右に座り、その腕を抱いた。


「ステキ♡」


「カッコいい……」



(あのあのあの、う、腕がなにか柔らかいモノに挟まれてるんですけどっ!

 北欧の女性は積極的って聞いてたけど、ほ、本当だったんだっ!

 い、いかん!

 ヘンナさんがどんなヘンナ・パンツを穿いてるか気になってしまったぁっ!

 色即是空、空即是色……)



(ねえタマ姉ちゃん、ミンナとヘンナの目がハート形になってるにゃよ……)


(にゃはははは、ダイチはモテるからにゃあ……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 さんざんに『試された大地』はようやく中央大陸ダンジョンに戻って来た。



(ダイチさま、南大陸のダンジョンマスターさまが、アルス統轄マスターのダイチさまにご挨拶にみえられたいと仰っていますが……)


「おおシスくん、いつでもいいと言ってくれ」


(どちらでご面談されますか?)


「そうだな、ストレーの中にある俺の小屋の応接室にしようか」


(それでは5分後に転移されて来られるそうでございます)




「やあ、初めまして。

 俺が統轄マスターの大地です」


「南大陸ダンジョンマスターで、イタタリア共和国出身のサバノです。

 よろしくお願いいたします」


(ふーん、俺と同じ歳ぐらいか……

 肩に乗ってるのはやっぱりインフェルノ・キャット族だな……)


「初めまして、わたくしはそちらのタマお姉さまの妹でミウミウと申します。

 姉がいつもお世話になっておりますにゃ」


「にゃはは、ミウミウも元気そうだにゃ」


「タマお姉さまも……」


(この子とっても丁寧でお嬢様みたい……

 首のリボンもなんかセンスいいし……

 ほんとにタマちゃんの妹なのかな……)


(にゃんか言ったかにゃ?)


(い、いえいえなにも……)


(そうかにゃ)



「さあサバノさん、そちらに座ってくれ。

 ストレー、紅茶を」


(はい)


「いや、俺も一度南大陸ダンジョンには行ってみたいと思ってたんだけど、北大陸の件とかで少し忙しかったんだ。

 申し訳ない」


「いえ……

 あの『北大陸の奇跡』には感動しました。

 あのような解決方法があったとは……

 それに、中央大陸でも赫々たる実績を積み上げられて、統轄マスターに御昇格為されたとのこと。

 おめでとうございます」


「ま、まあ仲間たちが優秀だったからな」


「それに加えて、地球でもあの『タイの奇跡』、『インドドの奇跡』、『オーストコアラリアの奇跡』を成し遂げられて……

 本当に凄まじい業績でいらっしゃいます」


「それも仲間たちが優秀だったからだな」


(( えへへへへ…… ))


「と、ところで、ダイチさんのファミリーネームは本当に『ホクト』さんなのでしょうか……」


「そうだけど?」


「ということは、あの伝説のダンジョンマスターであらせられるコーノスケさまとは……」


「幸之助は俺の祖父なんだ。

 俺が7歳の時に両親が亡くなったものだから、それからずっと俺を育ててくれてたんだよ」


「やはりE階梯や能力とは遺伝するものなのでしょうか?」


「いや、偶然じゃないかな」


「あ、申し遅れました。

 わたしのファミリーネームはミッソーニです」


(サバノ・ミッソーニ…… サバの味噌煮……

 なぜだ……

 なぜダンジョンマスターの名前は日本人から見てヘンなのが多いんだ……)


「あ、あの高級アパレルブランドとは関係があるんですか?」


「いえ、あの有名ブランドの創立者とは同じファミリーネームですが、遠い親戚であるだけで、私の家は至って普通の家です」


(もしミッソー〇の創設者のファーストネームが『サバノ』だったら、日本では全く売れなかったかも……)



「と、ところで南大陸は順調ですか?」


「はい、先代ダンジョンマスターのコーノスケさんのおかげで、もはや水飢饉は無くなりましたし、農業生産も順調です。

 そのせいで、争いごとも激減したままです」


「それはよかったです」


「ですが……

 誠に贅沢な悩みなんですが、実はいくつか困りごともありまして……

 今日お邪魔させて頂いたのも、そのことをご相談させていただけないかと……」


「どんな問題ですか?」


「まず、人口が増えたことで少なからぬ失業者が出て来てしまっているんです。

 人口の増加に職の増加が追い付いていないことが原因なんですけど。

 でもまあこれは我々南大陸の問題ですから、そのうち公共事業でも行って何とかするつもりです」


「なるほど」


「最も困っているのは、コーノスケさんがお亡くなりになられたことで、穀物粥の供給が途絶えてしまったことなんです。

 南大陸の穀物を使って似たようなものを作る試みは行っているのですが、いかんせん南大陸では麦が採れないんですよ」


「そうか、麦ってある程度寒冷な地でないと採れないか……」


「そしてなにより、あのミソとショーユとコンブが無いんです。

 子供のころからあの味に慣れてしまったヒューマノイドたちから、なんとかしてくれと泣きつかれておりまして……」


「なるほどわかりました。

 近いうちに、小麦と味噌と醤油と昆布を届けさせましょう」


「よ、よろしいのですか?」


「南大陸に穀物粥を広めたのはわたしの祖父ですからね」


「そ、それで、代金は金貨でよろしいでしょうか」


「いえ、因みに南大陸ではサトウキビの生産は盛んですか?」


「ええ、なにしろ強靭な植物ですから。水さえあれば育ちますし。

 黒糖の生産も盛んですけど、もはや砂糖産業も飽和状態ですね」


「やはりそうでしたか。

 それでは、穀物粥と調味料の代金は砂糖で払っていただけませんか?」


「えっ……」


「いや、中央大陸や北大陸のヒューマノイドも甘いものは大好きなんですけど、残念ながら北大陸ではもちろん、中央大陸にもサトウキビはほとんど無いようなんです。

 ですから、南大陸で製糖産業を大幅に拡充していただいて、穀物粥の材料の代金は砂糖でお支払い願えませんか。

 それに、そうすれば失業者も吸収出来ますよね」


「それは実にありがたいお話です……」


「ついでに、パイナップルやバナナやマンゴーなんかの熱帯果物はありますか?

 あと、カカオ豆なんかも」


「は、はい、ありますけど……」


「それでは、それらの作物の果樹園も作って作物を売って下さい。

 我々には時間停止の収納庫がありますし、転移能力もありますから、大陸間交易も楽でいいですよね♪」


「は、はい。それではヒューマノイドたちに早速準備させます」


「わたしの方も穀物粥の素と調味料セットを準備しましょう。

 そうそう、お互いのダンジョンに交易用の時間停止倉庫を作っておきましょうか」


「はい、ありがとうございます……」





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