*** 16 タマちゃんがまた泣いちゃった ***
「街の役人は、半信半疑ながらも試したことだろう。
そうして30分経つ間に、水場の魔道具の下端が内臓魔力で伸びて地下の水道に繋がるんだ。
きっと10時間の間は大量に水が出たことだろうね」
「もし町役人や町長がおカネを払わずにコーノスケを追い返したりしたらどうなるんにゃ……」
「夜の間に水場のところに立看板を出現させればいいんだ。
『この水場は、街が代金を支払わなかったために使用停止処分を受けました。
ダンジョン1階にある代金箱に、街の名前を告げながら金貨を20枚入れると使用可能になります』って書いたヤツを」
「うにゃにゃ―――っ!」
「その後、この街の領主は残りのナンバーの魔道具や魔石をゲットするために、大勢をダンジョンに送り込んで来ただろう。
そうしてじいちゃんは、貯まったダンジョンポイントを使って地下の水路ダンジョンを伸ばして、他の街でも同じことをしていったんだよ。
その後は、例えばイルミアの街のひとが魔石を探してダンジョンに入っていたら、その隣のタルミアの街用の水場の魔道具を手に入れたりするわけだ。
そうすると、そのひとや領主は隣のタルミアに魔道具や魔石を売りに行くだろうね。
そうすればタルミアの街の人もダンジョンに来るようになるから、またダンジョンポイントが貯まるわけだ。
そうそう、そのうちじいちゃんはダンジョンの1階にはモンスターが出ないようにしたんじゃないかな。
そうして1階には、水場やトイレや宿屋や料理屋を作ったと思うんだ。
そうすれば挑戦者たちもずっとダンジョンの中にいてくれて、ダンジョンポイントももっと溜まるし。
そうだね、ダンジョン内のモンスター村に畑を作らせて、そこで収穫した野菜なんかを料理屋で提供したかもしれない」
「うにゃにゃにゃにゃ―――っ!」
(タマちゃんがずいぶんと驚いてるからここまでは正解かな……)
「そのうち、そのダンジョン1階には挑戦者ギルドも出来たかもしれない。
遠くの街用の『水場の魔道具』を挑戦者から買い取ってやるための。
もちろんその魔道具を遠くの街に売りに行くキャラバンも出来ただろうから、商業ギルドも出来たかもしれないね。
そうそう、じいちゃんのことだから、そうしたキャラバンのために街道沿いにもたくさん水場を作ってやったんじゃないだろうか。
そうしてダンジョンを訪れる冒険者が雪だるま式に膨らんで、それで得たダンジョンポイントで水道も伸ばしてダンジョンそのものも拡張して……
ひょっとしたらダンジョンの支店も出したかもしれないなぁ。
遠くの街のひとでもダンジョンに入れるように。
そうか、ダンジョン内では『転移の魔道具』が使えるし、空間魔法で遠くの部屋も繋げられるかもしれないから、各地に入り口だけ作ってやればいいかも。
そして、水場から得た水で、南大陸では農業生産が飛躍的に伸びて人口も拡大していったんだと思う。
なにしろ水さえあれば南大陸では戦争も起きないし、農業もいくらでも拡大出来たんだから。
それで50年も経つうちには、大陸中に『水場の魔道具』とともに豊かな暮らしが普及して行ったと思うんだ。
きっと『水道管』の総延長も何万キロ、いや何十万キロにもなっていたことだろうね。
あ、あれっ……
た、タマちゃんどうしたのっ!」
タマちゃんは大粒の涙をぽろぽろ零しながら泣いていた。
「うにゃぁ――――っ!
ま、まるでコーノスケと過ごした80年間の話そのものだったにゃぁっ!
だから、コーノスケとの暮らしを思い出したのにゃぁっ!」
「そ、そうだったんだ……
それじゃあ俺のアイデアで合格かな?」
「……1か所だけ違ったにゃ……」
「えっ……」
「最初の街の小役人が、手柄を自分のものにしようとしてコーノスケに金貨を払わずに追い返したんにゃ。
でもコーノスケは罰として金貨20枚じゃあなくって10枚で許してやってたにゃ……」
「ははは、じいちゃんは優しいからなぁ」
「にゃっ!
それからにゃ、最初に得た金貨を地球に持ち帰って売ったおカネで塩や醤油や味噌を買って、ダンジョン内の食堂の料理に使ったんにゃよ。
そうしたら美味しいって評判になって大繁盛したんにゃ。
いろんな街の領主たちや金持ちが、ダンジョン村に長期滞在して料理を楽しんだ後に、金貨を払って地球の調味料を買って帰ってたにゃ。
コーノスケはまたその金貨を地球で売って、お菓子もいっぱい買って帰ってきたんにゃ……
それをぜんぶモンスター村で振舞ったんで、コーノスケはモンスターたちにも大人気にゃったんにゃよ……」
「じいちゃんらしいよ」
「それからにゃ……
途中からは、もうコーノスケも街々を訪れて『水場の魔道具』とダンジョンを宣伝することはしなくなったんにゃ。
そんなことしなくても、噂が噂を呼んだし『水場の魔道具』と魔石を売るキャラバンが広めてくれてたから」
「うん」
「それで30年も経って大陸中に水場が行き渡ると、ダンジョンの周りの街のみんなが不思議がったんにゃ。
『あの最初に水場の魔道具を教えてくれたひとは誰だったんだろう』って……
それでいつの間にかコーノスケは『水の神さま』だったっていうことになって、『水神さま』って呼ばれるようになったんにゃ。
それでみんなでコーノスケの顔を思い出しながら似顔絵を描いたんにゃよ。
今では南大陸で使われてる貨幣のほとんどにはコーノスケの顔が描かれてるし、街ごとに『水神さまの祠』があってコーノスケの像が祀られてるんにゃ……」
「すげぇなじいちゃん! ついに神さま扱いか!」
「まあそれだけの恩恵を施して来たっていうことにゃ」
「そうか…… そうだね……
それじゃあ俺は、これから第7巻の【南大陸ダンジョン繁盛記】を読んでみるよ。
答え合わせだね」
「うにゃ、それがいいにゃ」
大地はヒモで縛って封印していた第7巻を持って、時間停止収納庫に籠った。
うんうん、やっぱり俺の思った通りだ。
でもやっぱりいろんな苦労もあったんだなぁ。
『住民が全般に穏健な南大陸とはいえ、中には盗賊団もいる。
ダンジョンが順調に行き始めた初期の頃、比較的大きな盗賊団がやって来て、ダンジョンの入り口一帯を封鎖した。
自分たちだけが中に入ってドロップ品を独占し、外の街々に高額で売りつけようと試みたようだ。
わたしは、わたしと戦ってレベルを上げて強くなっていたモンスターをダンジョンに大量投入した。
もちろんダンジョンに入った盗賊たちはすぐに死んでいったが、そのリポップ先を新たに作った『犯罪者収用部屋』にしたのである。
ダンジョンに部下を送り込んだ盗賊団の首領は困惑した。
中に入った部下たちが1人も出てこないのだ。
『ひょっとしたらダンジョンには他にも出入口があり、お宝をゲットした部下たちはそこから出て逃亡し、お宝を売りさばきに行っているのではないか』
そう考えた首領や幹部たちもダンジョンに入っていき、間もなく盗賊団の構成員を全員捕えることが出来たのである。
『鑑定』のスキルがレベル8になっていたわたしは、彼らのE階梯だけでなく殺人数も知ることが出来た。
E階梯が比較的高く、殺人数が0だった者は複数人で部屋に入れ、交代で太陽光のある大部屋にも入れてやった。
その大部屋には畑や種子も用意してやったのである。
また、生活態度に改善が見られた者は、3年から5年で解放もしてやった。
だが、首領や幹部たちはE階梯も殺人数も酷いものだったため、生きて行くのに最低限の食料のみを与え、死ぬまで独房で暮らしてもらったのである。
まあ終身刑ということだ。
こうして壊滅させた盗賊団の数は最初の20年間で248に上り、図らずも南大陸の治安をさらに改善することとなったのである』
なるほどなぁ。
リポップ先を刑務所にすれば犯罪者も捕まえられたんだ。
やるなじいちゃん……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
祖父の手記を全て読み終えた大地は、タマちゃんと向かい合った。
「それでさ。
俺もこれでようやく自信がついたんで、アルスでのダンジョンマスターの仕事を引き受けようと思うんだ」
「よかったにゃあ」
「でも、南大陸ダンジョンをそのまま引き継いでもあんまり意味は無いよね。
もう十分幸せな大陸になってるんだから。
だから俺、中央大陸のダンジョンマスターにしてもらおうと思うんだよ」
「ダイチのことだからそう言うと思ってたにゃ。
でもタイヘンにゃよ。
相手は水じゃなくって武装強盗もどきのヒューマノイドなんにゃから」
「そのことなんだけど、実はじいちゃんの手記を読んでいるうちに、いい方法を思いついたんだ。
もちろんいろいろ検討しなきゃなんないことは残ってるんだけど、それでも中央大陸に平和と幸福を齎すことが出来るかもしれないんだよ」
「それでもきっと苦難の道にゃ」
「うん、だからタマちゃんにも苦労をかけると思うんだけど、いいかな?」
「しょうがないにゃあ。助けてあげるにゃぁ♪」
「ありがとう。とっても心強いよ」
「その方法はすぐに実行することが出来るのかにゃ?」
「うん、まだ構想中だし、神界の許可を得ないといけないこともあるし。
もう少し検討して固まってから話すよ」
「楽しみにしてるにゃ。
それでも中央大陸は難敵にゃから、もっと準備をしておいた方がいいにゃあ」
「そうだね。でもどんな準備があるかな?」
「そうだにゃ、普通はダンジョンマスターとして赴任するときには、準備金として神界から2万ポイントのダンジョンポイントが貰えるんにゃ」
「うん、それでモンスターやダンジョンの階層を増やしたりするんだよね」
「にゃから、その初期ポイントを10万ポイントぐらいにして貰えないか頼んでみるといいにゃ」
「そんなにくれるかなぁ」
「言ってみるだけならタダにゃ」
「はぁ。他にどんな準備があるかな」
「じっくり考えてみるにゃよ。
あちしにもいくつかアイデアがあるし」
「うん、じゃあ思いついたものを書き出して行こう」